原作には「クズ人間」しか出てこない…ハリポタ原作厨ニシダが語る「映画と原作小説の決定的な違い」
プレジデントオンライン / 2024年2月2日 16時50分
■ファンタジーなんだけどリアリティ色が強い
――『ハリー・ポッター』シリーズと他の作品との違いについて教えてください。
【ニシダ】世界観の構築のレベルがケタ違いだと思います。僕たちが生きている現実世界の裏側に、本当にああいう魔法世界があるのかもしれないと思えるほど細かく作り込まれていると思います。
例えば、作品に登場する魔法生物や、魔法省やグリンゴッツ銀行などの組織には、非常に細かい設定があり、ファンタジーなんだけどリアリティ色が強い。
登場人物のキャラクターも表面的な関係を描くだけじゃなくてドロドロした裏側の心理も描かれているので、その世界観にのめり込みました。
『ロード・オブ・ザ・リング』など他の名作といわれるファンタジーは面白くても、僕たちが生きている世界とは全く別物、という印象を受けるものが多い。その点、ハリー・ポッターは、もしかしたら魔法の世界はあるんじゃないかと、今でも信じられる。
これは小説を読んでいる人ならわかるんですが、ハーマイオニーを「栗色でボサボサな髪の前歯がやや大きい女の子」と書かたり、スネイプ先生を「育ちすぎたコウモリのよう」と表現するなど、登場人物の容姿を独特の表現でくさす意地悪な文章の書き方は、個人的に好みでしたね。
■病的なくらいの作り込み
――ハリー・ポッターは小説だと7冊もある長編です。
【ニシダ】それでも前作を通じて、設定の破綻などはありません。『ハリー・ポッター魔法生物大図鑑』(静山社)といった設定資料集が出版されているんですが、それを読むと病的なくらいの作り込みぶりがわかります。
僕は小説でいうと、最終巻となる第7作の『ハリー・ポッターと死の秘宝』が一番好きです。それは、第1作から広げに広げていた風呂敷が全部回収された、という印象だったからです。
細かいエピソードやサイドストーリーを決して置きざりにしていない。それも作り込みの成せるワザかな、と思います。
第4作の『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』も忘れがたいです。ここから、上下巻シリーズになりますので、読むのにハードルを感じるかもしれません。
ですがこの辺りから、ある意味どうでもいいと思えるような学校の授業の内容とかクィディッチ(シリーズ内で描かれるスポーツ)のシーン、登場人物の恋愛要素などが詳細に描かれていきます。
メインストーリーを進めるうえでは必要ないシーンなんですが、そこを漏らさず描くことで、作品世界のリアリティが豊かになっていると感じます。しかも、そうした小さなエピソードがどれも面白い。小説の魅力ですね。
■大人が読むに耐えられるつくり
――原作小説は大人が読んでも楽しめるのでしょうか。
【ニシダ】もし今はじめてハリー・ポッターの小説と出会ったとしてもハマると思います。もちろん児童文学ではあるので子供っぽい言葉遣いなどはあるけど、内容のヘビーさや世界観の作り込みは十分に大人の読書に耐えるものです。
僕にとって読書の楽しみを教えてくれた作品なんですよ。今は純文学が好きでそういったものばかり読んでいるんですが、あの一冊を読み終えた達成感も、小学生ながら深夜まで夜更かしして読み耽った経験も、他とは比べられない。
■ダンブルドア校長も原作ではあまり性格は良くない
――シリーズで最も魅力的だと思うキャラクターは誰ですか?
【ニシダ】難しいですね……。というのも正直、シリーズに登場する人物は全員、ある程度クズだと思うんですよ。
主人公・ハリーの父のジェームズ・ポッターは、学生時代、同級生だったスネイプ(後にホグワーツの教師)をえげつないほどいじめていたし、とはいえ、そのスネイプにもいじめられてしかるべしな理由もあります。ハリー自身も、他人に意地悪をしてほくそ笑んだり、ただの正義感の強い人間じゃないです。完璧な善人とはいえない。
だから誰が好きかと聞かれると、全員そんな好きではないですね。
聖人のようなイメージのあるホグワーツのダンブルドア校長も、あんまり性格良くないし、すぐにハリーがいる寮(グリフィンドール)を贔屓する。
強いて言えば、マクゴナガル先生ですかね。普段は厳格な教師なのに、クィディッチのことになると熱くなって課題を無くすみたいな人間らしさがあります。公と私のバランスが嫌な感じじゃなくて、チャーミングです。
■ハリーの父・ジェームズの蛮行
――主人公のハリー・ポッターは小説ではどう描かれているのでしょうか?
【ニシダ】とにかくハリーの父親のジェームズがよくない。
同級生を下着姿にして木に吊るすなんてイジメは、今だったら教育委員会が動くレベルです。ジェームズの父親(ハリーの祖父)は「直毛薬」で特許をとって財産を築いた人物です。ジェームズは裕福な家庭の子、ボンボンなんですよ。その恵まれた環境ゆえの傲慢さというか、海外のスクールカーストのトップにいるやつの嫌な感じのキャラ、としても描かれています。
その血が影響しているかはわからないですが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』では、大人になったハリーが描かれますが、とにかく自分の子どもに対しての接し方が良くない。
魔法学校に入った息子がスリザリン寮に入ることになったことに対して、僕の意訳ですけど、「あ〜、もううちの子じゃありません、お前なんか産むんじゃなかった」的なことを言うんですよ。
ハリーは幼少期に両親を亡くしていたこともあって、子どもとの接し方がわからなかったということなんでしょうか。
逆に、ハリーのライバルだったマルフォイはすごいいい親父になっていて、ハリーのことを「お前良くないよ」と諭しています。
ジェームズのせい、とまでは言わないですけど、もしジェームズがもう少しいいやつだったら、魔法世界はもう少し丸く収まっていたんじゃないでしょうか。その辺も映画だとちょっとだけしか描かれていないんですよね。
■善と悪の単純な二項対立ではない
――そんなキャラクターにした著者の狙いはなんでしょうか?
【ニシダ】著者のJ・K・ローリングさんが物語の世界に入り込みすぎたんじゃないでしょうか。
描こうと思えば、もっとみんないい奴として描けたと思うんですよ。ローリングさんはあんまり本が売れていない時代も長く、鬱(うつ)になった時期もあったと聞きます。その中で、心の鬱屈した部分や人の嫌な面もたくさん見てきたと思うんですよ。
その結果、ただの空想世界における単純化した善と悪、という二項対立にならなかったのではないかと思います。
ハリー・ポッターの世界で、ハリーの両親の死に関わった悪の魔法使い・ヴォルデモートは絶対悪ですが、それ以外の敵はそうでもないですしね。もちろん主人公側も同じです。
■映画は小説の2割程度しか描かれていない
【ニシダ】映画では2~3時間の中に収めなければいけないので、そういった善でも悪でもないグレーな部分は描ききれなかったのだと思います。
短い時間で観客にストーリーを理解させるには、登場人物を善と悪、どちらの陣営に所属しているか、明確にしなければいけない。これの弊害は、スネイプ先生の立ち位置や心の動きがよくわかんなくなるんですよ。
小説では、スネイプは影の主人公だと思っているんです。悪側にいたけど愛した人を守るために二重スパイとして危険な橋を渡ったり、自らダンブルドアに手をかけなければいけなくなったり、とにかく善と悪を行き来するので、身を削りまくっています。
スネイプ先生の他にも、原作での魅力的なキャラクターが、映画ではちゃんと描かれない。映画だけをざっくり捉えると、主人公ハリーが巨悪・ヴォルデモートを倒す話になるんですが、それでは原作での世界観の細かさ、奥深さに気づけないし、人間の感情の動きや葛藤、生い立ちからわかる人間ドラマも正確に捉えられないんですよ。
映画は小説の2割程度しか描かれていないと言えます。映画だけ見て小説を読まないのはかなりもったいない、いや映画だけで済ますのはよくないんですよ。
小説はとても面白いので、絶対読んでほしいです。これだけ小説の愛を語っていますが、僕にお金が入るわけではないので!
(後編に続く)
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1994年7月24日生まれ、山口県宇部市出身。2014年、サーヤとともにお笑いコンビ「ラランド」を結成。著書に『不器用で』(KADOKAWA)がある。
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(お笑い芸人 ラランド ニシダ)
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