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「今回はついていけない」最後の役員が去りたった一人で始めた和牛ビジネスが、世界的ブランドに育つまで

プレジデントオンライン / 2024年2月8日 9時15分

WAGYUMAFIA代表の浜田寿人さん - 画像提供=WAGYUMAFIA

最高級の和牛料理で国内外の食通からVIPまで幅広い人々を魅了し、現在では全世界25店舗を展開する「WAGYUMAFIA」。もともとはメディア事業を手掛けていたエグゼクティブシェフの浜田寿人さんが、和牛の可能性に魅せられ、たった一人でスタートさせたプロジェクトがすべての始まりだった。浜田さんは「数ある日本の誇れる商品、食品、サービスを、小さく始めて、とことんニッチを攻めていけば、日本を飛び越えて世界でも十分勝つことができる」という──。(第1回/全5回)

※本稿は、浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■小さく始めよ、一人でやれ

香港、サウジアラビア、アメリカ、イギリス……。僕の和牛ビジネスは、すでに世界に広がっています。

世界中の有名シェフや有名ホテル関係者などから、「WAGYUMAFIAを出店してほしい」「ポップアップイベントをやってほしい」「コラボレーションしたい」「パフォーマンスが見たい」「和牛を扱いたい」といった問い合わせを数多くもらっています。

僕は7年前に和牛のビジネスをたった一人で始めました。今は大きなオフィスを構えてスタッフも100人を超えていますが、それまでずっとオフィスはなく、自宅のリビングや近所のスターバックスが仕事場で、iPhoneが仕事道具でした。

今は、一人で始められるのです。一人で小さく始めればいいのです。

■本当に「ワクワク」しているか?

20代で映画関連のメディアを自ら立ち上げた僕は「カフェグルーヴ」という会社を作り、事業をさまざまに広げていきました。映画の配給事業もその1つでした。

また、ウェブの知識をベースにeコマースの会社「VIVA JAPAN」をスタートさせたり、映画関係者を招きたいからとレストラン事業を始めたり。

PRやブランディングのスキルを買われて、大手広告代理店から受託の仕事も受けていました。その他にも、シャンパンや葉巻を輸入するほか、細々としたビジネスをたくさんやっていました。会社もいくつか立ち上げました。

ベンチャーキャピタルからも数億円の投資をもらい、事業はとても順調でした。しかし、あるとき、思うことがありました。本当にワクワクする仕事、納得する仕事ができているのか──自分で疑問に感じたのです。

■売り上げを捨てる決断

僕は、1つの決断をしました。売り上げがどんどん大きくなっていた、受託の仕事やPRの仕事をやめることにしたのです。

たしかに大きな売り上げをもたらしてくれていましたが、自分たちが最終決定できない、そして自分たちの名前やブランドが前面に出ない仕事はやめようと決断したのです。

自分たちで配給する映画は、納得したものを買い付けていました。しかし、請け負いでPRだけをやる場合には、必ずしも納得したものを扱っていたわけではありませんでした。ミーティングやらお付き合いやらでも、多大な時間を取られていました。

映画を観て、これは本当に観るべき映画なのか、と疑問に思っていたとしても、お金をもらっていたら、どうにかPRするしかない。美辞麗句を並べてプロモーションすることになるわけですが、自分の中には納得感はありませんでした。本心ではもうやりたくなかったのです。

■「心を殺してしまうような仕事はしたくない」

僕が改めて思ったのは、こういうことでした。

「お金は儲かるかもしれないけれど、心を殺してしまうような仕事はしたくない。社会的に意義があることをやりたい」

受託やPRの仕事を継続したいというスタッフの独立と同時に、僕は事業から撤退しました。僕にとっては正しい選択でした。

ただ、受託の仕事は会社の利益の大部分を稼いでいました。会社は苦しくなりました。やがて、会社はどん底の状況に陥りました。34歳のときのことです。

■「和牛」の圧倒的存在感

僕はもうひとつ、VIVA JAPANという会社も作っていました。日本の秀逸なプロダクトを輸出するeコマースの会社でした。ここで縁あって一部、扱うことになったのが、和牛の輸出でした。

浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)
浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)

当時、ジャパン・パッシング(JAPAN PASSING)という言葉がありました。

中国が経済成長して、韓国も輸出が伸び、「もう日本はパスしよう、いらないよね」と言われ始めた時代。海外の映画関係者からも「日本のステータスが落ちている」とはっきり言われていました。

だからこそ、世界に通用するメイド・イン・ジャパンを広めることには、きっと大きな意義があると思ったのです。

その後、アメリカに出張することになり、改めて痛感したのが、和牛の圧倒的な存在感でした。VIVA JAPANの事業について話をすると、外国人が食いついてきたのは和牛の話でした。

■全員から反対された「和牛ビジネス」

アメリカから帰るユナイテッド航空機のエコノミーの窓側の席で、僕は思案していました。これから、どうするべきなのか。

カフェグルーヴが厳しくなっている中で、VIVA JAPANを売却する、という選択肢もありました。しかし、13時間のフライトで僕が決断したのは、和牛一本に絞ることでした。

和牛の輸出は参入障壁が高く、誰でもできるわけではありません。さらに高付加価値の商品で、差別化ができて、メイド・イン・ジャパンを象徴できる。本気でやれば海外に日本をアピールできる。そんなアイテムは和牛以外にないと思ったのです。

しかし、会社に残っていたのは、多くがIT系の人材です。和牛をやりたいという僕の声に、耳を傾ける社員はいませんでした。役員会でも、全員に反対されました。

最後に残った一番長い付き合いのあった役員も、「今回は申し訳ないけど、ついていけない」と僕の下を去りました。それまで苦労をかけた多くの主要メンバーから「こいつ、ついに終わったな」という目で最後に見られたのを覚えています。

■ついに、たった一人に……

一人で始めた、というより一人で始めるしかなかった、と言うべきかもしれません。そこから会社は資金繰りも厳しくなり、取引先への支払いや給料の支払いが遅延し、最終的にはスタッフ全員が辞めていきました。

結局、メディア事業もレストランもやめて、カフェグルーヴは民事再生法の適用を申請しました。その後、会社を清算します。

周囲からは、VIVA JAPANも整理して、自己破産し、一度借金をクリアにしてからゼロスタートすることを強く勧められましたが、もう一度復活することを誓って、会社を残しました。

これは、この会社と僕に出資してくれた人に本当に失礼だという思いが強かったからです。

■小さく、一人で始めることに、今ほど適している時代はない

ここから、自分の借金を整理しながら、和牛ビジネスを模索する日々を始めることになります。しかし、やってみて感じたのが、一人の良さでした。気づいたのは、人がいないと仕事はできない、と思い込んでいた自分の姿でした。

オフィスが必要なくなり、固定費は一気に減りました。かつては300万円近くをオフィス賃料に毎月支払っていたのです。iPhoneさえあれば、オフィスなどなくても、いろいろなことができることに改めて気づきました。

昔みたいに各種機材もサーバー構築費用もいらない。小さなスマホ1つでいい。お金がかからないのです。それこそ、最低限の生活費さえあればいい。

小さく、一人で始めることに、今ほど適している時代はないと改めて思いました。

■誰もが最初は一人

そして僕は、20代で起業したばかりの頃のことを思い出していました。映画メディア「シネマカフェ」を作ったものの、当時は誰も知らない存在。

それでも僕は、家にあったカメラを片手にドン・キホーテで脚立を買い、取材のためにトム・クルーズの最新映画の記者会見場に向かいました。

「君、誰?」と受付で咎められ、入れてもらえないところから、僕の仕事は始まっていたのでした。こういうチャレンジ・スピリットを、しばらく忘れていたことに気づきました。

そう、あのときと同じく、すべて一人で全部やればいいのです。できる限りプロの手は借りない。YouTubeなり、いろいろなメディアにノウハウが転がっている時代なので、そこから勉強して自分でやる。一人だから、助けてくれる人もたくさん出てくる。かつてもそうでした。

iPhone11を持つ実業家
写真=iStock.com/Remains
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Remains

■すべてが可能で、圧倒的なスピードも手にできる

今やお金をたくさん集めて起業できる時代。でも、お金をかけないやり方を語る人はほとんどいません。

小さく、一人で始める方法を語る人が少ない。儲からない、と言われている領域も、一人で超低コストで始められたなら、さて、どうか。

一人でやろうと考えれば、すべてのことが可能で、圧倒的なスピードも手にする。大きな可能性が見えてくるのです。

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浜田 寿人(はまだ・ひさと)
WAGYUMAFIA JAPAN 代表取締役、WAGYUMAFIAエグゼクティブシェフ
1977年生まれ。米国留学の後、20歳でソニー本社最年少入社。カフェグルーヴを22歳で立ち上げる。映画メディアCINEMACAFEを創立し、会員制フレンチレストランのプロデュースを経て、ハリウッドの食ドキュメンタリー映画『フード・インク』の買付・配給を契機に和牛の世界へ。2014年より和牛の本格輸出を開始。2016年に友人の堀江貴文とともにWAGYUMAFIAを立ち上げ、ワールドツアーを世界100都市にて敢行する。WAGYUMAFIAの活動を通して、「世界で勝てる日本の食ビジネス、日本の高級商材は他にもたくさんある」と、日本に眠る未来の和牛のようなウルトラ・ニッチを発見し、育成、応援することをライフワークとしている。また、才能溢れる若手シェフなどの海外展開へのアドバイスなども積極的に行っている。

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(WAGYUMAFIA JAPAN 代表取締役、WAGYUMAFIAエグゼクティブシェフ 浜田 寿人)

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