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「1キロ食べても胃がまったくもたれない」和牛の門外漢だった僕をビジネスに駆り立てた驚きの感動体験

プレジデントオンライン / 2024年2月13日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mikhail Spaskov

全世界25店舗を展開し、今後さらに10都市での店舗拡大を視野に入れる「WAGYUMAFIA」。レストランのみならず、日本の和牛を世界に知らしめるプロジェクトとして事業を推進する代表の浜田寿人さんは「僕自身もともとは和牛ビジネスの門外漢。でも、そういう人間だからできる新しい発想や売り方がある」という──。(第2回/全5回)

※本稿は、浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■世の中の大多数は「イメージ」で否定するだけ

和牛に関しては、もともと僕は門外漢でした。レストランをやっていたので、多少の知識はありましたが、和牛の流通について詳しく理解していたわけでもありません。

だから、「和牛を扱うなんて、無理に決まっている」という声をよく耳にしました。しかし、ではそう言う人は何か和牛ビジネスのチャレンジをして、ダメだったから言っているのかというと、実はそんなことはないのです。

なんとなくのイメージで語っていることが多い。しかし、ちょっと努力すれば、いろいろなものがはっきり見えてきたのでした。

それこそ、世間が漠然と思っているようなネガティブなカラクリは、簡単に見破れると思っています。

■「門外漢」だからこそできることがある

当時の僕はレストラン事業を通して食材を触ることは少しありましたが、今みたいにキッチンに立って調理するというシェフ役ではありませんでした。コンセプトとメニューイメージを考える、ありがちなレストランオーナーの端くれでした。

当時の僕は一次産業も詳しくないし、肉にも詳しくなかった。ずっと携わってきたのは、メディアだったり、エンターテインメントの世界だったりしました。

でも、門外漢だからこそ、こういう人間だからできる新しい発想や売り方というのがある、と思うのです。自分なりのアプローチの方法でいいのです。

■「だから素人なんだよな」

僕が改めて思い出していたのは、カフェグルーヴで映画の配給を手がけていたときのことでした。

小さく始めた事業でしたから、海外で映画を買い付けるにも、予算がない。それこそ、500万円しか出せなかった。しかし、500万円で買える映画なんて、ほとんどありません。

そんなとき、出会った映画がありました。『約束の旅路』。制作はフランスの大手映画会社。

しかし、舞台はエチオピア、イスラエル、最後にパリと出てきて、何映画なのかもわからない。俳優の一人は、イスラエルでは有名な女優だといいますが、日本ではまったく無名。しかも、テーマはユダヤ教を扱った宗教もの。

「舞台がよくわからない。主人公を日本人が知らない。テーマは日本に馴染みがない。こんなの買ったら自殺行為だ。絶対に当たらないし、無理だよ。だから素人なんだよな」

そんなふうに、日本の映画関係者の間では言われていました。でも、僕は買う決断をするのです。なぜか。僕自身が感動したからです。観終わったあとに、一人試写室で号泣しました。なかなか席を立てなかったぐらい、素晴らしい映画でした。

■素人だったから、突破口が開けた

ただし、買い付け最低価格は2000万円の提示。手の届く金額ではありません。

「500万円しか予算がない」と僕は言いました。「こんなに素晴らしい映画はない、やっぱり映画は素晴らしい」という言葉を添えて。

プロデューサーから僕に直接、電話がかかってきたのは、日本に帰国してしばらくしてからのことでした。

「あなたのことを徹底的に調べさせてもらった。純粋な映画人じゃないね、君は。だったら、500万円で構わない。やろう」

僕が配給したこの映画は、日本で大ヒットしました。そして、その映画を売ってくれたフランス人、ニコラとは今でも盟友です。

■一人称のマーケティングは強い

さまざまにマーケティングが駆使される時代です。大きな組織なら、そういうことをどんどんやっていけばいいのかもしれません。しかし、小さく始めるときに、そんなことは予算もないしできません。

浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)
浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)

しかも、マーケティングが絶対的に正しいのかといえば、必ずしもそんなことはない。先の映画でいえば、さまざまなリサーチを経て、絶対やらないほうがいい、という結論は出ていたのです。

プロモーションもそれまで当たり前とされていたやり方をすべて変えて、インターネットでのプロモーションと口コミマーケティングをメインにしました。そして映画は、業界人の予想を大きく裏切り、大ヒットしたのです。

僕が改めて思うのは、一人称のマーケティングは強い、ということです。

映画に限らず、自分自身が「これは素晴らしい」と思えるものは、どこかにきっと同じ考えを持ってくれている人がいるはずなのです。それを直感的に大事にすればいいのです。

■素人発想を失うと必ず失敗する

振り返ってみると、自分自身が配給した映画も、当たったものは、自分が好きな映画ばかりでした。

逆に、外してしまったのは、「ちょっと売れている俳優が出ているハリウッド映画もやってみたいな」「あの作品があたっているから、この系統はあたるんじゃないか?」などと映画業界人感を出して、素人発想を忘れ、余計なことを考えてしまったときでした。

自分が映画を観て、これは絶対に行ける、と感じたものをやればいい。事業も同じ。一人称のマーケティングでいいと思うのです。素人発想で考えていい。

■最高級和牛の衝撃

実際、最高級の和牛を初めて食べたときの衝撃を、今でも覚えています。

映画の配給をしていた頃、僕が手掛けた食のドキュメンタリー映画『フード・インク』の予告編をご覧になったある方から連絡をいただきました。その人は、宮崎県で最高級の和牛を育てている、尾崎牛の生産者・尾崎宗春さんでした。そして、彼のもとを訪れる機会を偶然、得たのです。

尾崎牛は、宮崎県で肥育から販売までを尾崎さんご本人が手掛ける、子牛から育てたブランド牛の名前です。尾崎さんはアメリカで畜産を学び、その後宮崎に戻り、宮崎牛ブランドでナンバー1を取り、晴れて自社の牧場で独自に配合した飼料によって、自分の名前を冠した最高級の和牛を育てていました。

牛肉商の名前を冠したブランド和牛は、国内では尾崎さんが先駆けです。今はWAGYUMAFIAでもメインの和牛として扱っているのがこの尾崎牛です。

■尾崎牛1キロをなんなく平らげてしまった…

尾崎牛を食べるまで、和牛はフォアグラのように強制的に給餌して、無理矢理に霜降り(サシ)を作っているのだろうと僕は思っていました。

尾崎さんに会ったとき、「霜降りの焼肉はときおり食べますが、和牛はどうにも重くて。お腹が痛くなることもあります」と言ったら、こう返されました。

「まだ和牛素人だね。本当にいい和牛はまったく違う。それを知らないだけだからしょうがない。今日は一人1キロ用意したから、食べていきなさい」

1キロも食べられない、と思いましたが、尾崎さんは厩舎隣にある自宅の庭で、自らが一から調理し尾崎牛でいろいろな料理を作ってくれたのでした。

尾崎さんのお話を伺って食べる尾崎牛の料理の数々。ついにはなんと全部、平らげてしまった自分がいたのです。

■和牛のイメージが一変

このとき、僕の和牛のイメージはガラッと変わりました。

それまでにいろいろな牛肉を食べてきましたが、こんなにおいしい牛肉は初めてでした。「なるほど、これが和牛というカテゴリーなのか」と改めて思ったのです。

ハート型の肉
写真=iStock.com/Grafissimo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Grafissimo

■人生で初めての体験

尾崎牛を食べた翌日の朝、起きてびっくりしたのは、まったく胃がもたれていなかったことです。

あれだけのサシが入った和牛を食べて、とてもクリーンな感覚。それは人生で初めての感動体験でした。

アメリカから帰る飛行機で僕の中に浮かんでいたのは、あの和牛のおいしさでした。これこそが、僕なりの一人称のマーケティングでした。

そしてこの直感は、結果的に正しかったことが後にわかるのです。

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浜田 寿人(はまだ・ひさと)
WAGYUMAFIA JAPAN 代表取締役、WAGYUMAFIAエグゼクティブシェフ
1977年生まれ。米国留学の後、20歳でソニー本社最年少入社。カフェグルーヴを22歳で立ち上げる。映画メディアCINEMACAFEを創立し、会員制フレンチレストランのプロデュースを経て、ハリウッドの食ドキュメンタリー映画『フード・インク』の買付・配給を契機に和牛の世界へ。2014年より和牛の本格輸出を開始。2016年に友人の堀江貴文とともにWAGYUMAFIAを立ち上げ、ワールドツアーを世界100都市にて敢行する。WAGYUMAFIAの活動を通して、「世界で勝てる日本の食ビジネス、日本の高級商材は他にもたくさんある」と、日本に眠る未来の和牛のようなウルトラ・ニッチを発見し、育成、応援することをライフワークとしている。また、才能溢れる若手シェフなどの海外展開へのアドバイスなども積極的に行っている。

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(WAGYUMAFIA JAPAN 代表取締役、WAGYUMAFIAエグゼクティブシェフ 浜田 寿人)

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