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レクサスをバカにするヨーロッパ人が神戸ビーフには一目置く…世界を狙える日本のニッチカテゴリーの探し方

プレジデントオンライン / 2024年2月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vladimir Mironov

新しいビジネスで新参者が成功する条件は何か。「WAGYUMAFIA」代表の浜田寿人さんは「異分野から和牛ビジネスの世界に飛び込んだ際、初めから海外を意識し、和牛の価値を世界に売り込むことを『センターピン』に定めたのが成功のカギだった。日本発で、世界を狙えるニッチカテゴリーは、和牛以外にもまだたくさんあるはずだ」という――。(第3回/全5回)

※本稿は、浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■ニッチなマーケットの可能性

門外漢の僕が和牛ビジネスに参入するにあたり、非常に大事だと痛感したのは、センターピンをどこに定めるか、ということでした。

情報収集を進めると、いろいろなことがわかってきました。当時、海外での和牛ビジネスは始まったばかりで、まだ誰も儲かっていないということ。そして、海外で和牛を高く売る、外国人に高く買ってもらう、食べてもらうことはできていなかった、ということでした。

もちろん、その仮説は最初から持っていました。価値ある日本の和牛を世界に売りに行く。肉の巨大ビジネスはたくさんありますが、和牛という極めてセグメントされたニッチなマーケットでは、ビジネスはまだまだ活性化していない印象がありました。

だからこそ、たくさんの人に会い、いろいろな現場を見せてもらうことで、どうしてそうなっているのかを見つけに行ったのです。

■「海外を意識するしかない」

準備の段階で確信したのは、「海外を意識するしかない」ということでした。

「海外に和牛を売る。しかも、海外で一番高く売る。外国人に一番食べてもらえる。そういう存在になろう」

これを、僕の和牛ビジネスのセンターピンに据えよう、と。

とくに、その当時、値段の高い和牛が苦戦しているという実情がありました。世界各地の牛と比較すると和牛は高すぎて売れない、と考えていたのかもしれません。高い和牛を売るノウハウが不足していたのかもしれません。いずれにしても、高い和牛は売れていなかったし、食べてもらえていなかった。

しかし、視点を変えると、海外では高額な高級素材は決して珍しいものではありません。

世界のトップレストランでは、イタリアアルバ産の白トリュフ、ロシアのベルーガキャビア、フランスブルゴーニュのワイン、ロマネ・コンティなどびっくりするような値段のものがありますが、これは仕入れ値そのものがそもそも高いのです。

ところが、最高級の和牛である神戸ビーフでもそこまでにはなっていなかった。

ワインのロマネ・コンティは15年前、僕が映画ビジネスをしてプロモーション用にと買ったときは1本25万円でした。それが今は軽く200万円を超えています。

■「神戸ビーフ」というキラーワード

実際に動いてみてびっくりしたのは、とりわけプライドが高くて自国のものが一番と思いがちなヨーロッパの友人たちが、神戸ビーフだけはブランドとして一目置いていたことです。

レクサスが入ってきたときも、「たかだか大衆車のトヨタだろ? ポルシェやフェラーリにはなれないよ」と日本車にはまったく関心を示さない彼らだったのに、「神戸ビーフ」という言葉を出した瞬間に、「神戸ビーフはすごいブランドだろ、一度は食べてみたいんだよ」という反応が返ってきたのです。

これは驚くべきことでした。あのプライドの高いヨーロッパ人が、外国製品を褒めるなどということは、まずないのです。改めて、神戸ビーフのブランド力と潜在力を認識しました。

可能性があるのに、できていない。ここにビジネスチャンスがある。高い肉をもっと高く海外で売り、外国人に食べてもらえれば、生産者はじめ和牛を扱っている人に喜んでもらえる──。

■「和牛調理のプロ」になる決意をする

安い和牛を大量に売りさばく仕事は、僕ではなく大企業にもできます。ただし、神戸ビーフをフェラーリのように丁寧に売っていくことは大手ではなく僕しかできない。それは、和牛の未来にとっても、絶対にいいことだという確信がありました。

そうなると、必要な学びはまた変わっていきます。僕は、単に肉を売るのではなく、自分で肉を切れるような状態になっていないといけない、と考えるようになっていきました。

教えてもらってある程度切れるようになってからは、部位を決め、とことん切るようにしました。例えば腕のトウガラシという部位に集中して、200本くらい切る練習をしました。部位的にはフィレに形状的にも似ているけれど、価格がとても安い部位です。これを自分で買ってきて、自分で切って、自分で焼いて、自分で食べるということを繰り返したのです。

すると、切り方によって味が違うことがわかりました。繊維の場所、切る角度などで、味はまったく変わるのです。また調理方法でもその存在感が変わる。そして、牛一頭一頭それぞれ味は微妙に変わる。

そのことをパッと見て、瞬時に判断できるようになるには、自分でとにかくやってみるしかないのです。それが、和牛のシェフになる、和牛の調理のプロになるということです。

■すべては和牛を高く売るため

なぜこんなことをしたのか。それはすべて、和牛を高く売るためです。

僕は、直接、海外のレストランのシェフたちにアプローチをすることを考えていました。それを世界展開の足がかりにする。日本で和牛を食べてもらうきっかけにする。

浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)
浜田寿人『ウルトラ・ニッチ』(ダイヤモンド社)

彼らにセールストークをするときに、その場で自分で切って焼いて試せるのと、それができないのとでは、説得力に大きな差が生まれることはご想像いただけるでしょう。

第一に、和牛という食材を調理したことがないシェフを口説かないといけません。ヨーロッパの牛のように調理されては、和牛の良さは引き出せないからです。

もちろん、もともと料理好きだったとはいえ、いきなり専門料理のプロフェッショナルになることはできません。また、精肉のプロフェッショナルにもなれない。しかし、少しでもそこに近づくよう、コツコツと努力することはできる。その努力を、シェフたち、あるいは海外の精肉業者も間違いなく評価してくれると思ったのです。

肉を理解して、自分で切れるようになり、自分なりの調理方法が生まれたことが、独特の「浜田語」で話す説明とも相まって、自分の料理として五感に訴える姿に変わります。

これが、後の「WAGYUMAFIA」で大きく生きてくることになります。和牛のシェフとしての他にないパフォーマンスが高い評価を得られるようになっていったからです。

■生産者に喜ばれる「買い方」とは

次に、和牛の買い方、売り方にも注意をしなければいけないと思いました。第2回(「1キロ食べても胃がまったくもたれない」和牛の門外漢だった僕をビジネスに駆り立てた驚きの感動体験)で、尾崎牛の生産者・尾崎宗春さんの話をしましたが、そのとき展開していたのは、パーツ(部位の塊)で買うビジネスでした。しかし、パーツで売ってください、ということになると売り手も売りにくいのです。

なぜなら、パーツには限りがあるから。たとえば、人気のフィレ肉は、一頭から4~6キロ程度しか取れない。フィレ肉だけ売ろうとして100本とか用意しようとしても不可能です。なぜなら人気部位なので、売る方はフィレ肉単体で売りたくないからです。

フィレ肉を欲しいときは肉屋とのよほどの関係性がない限りは、ロインと呼ばれるサーロインとリブロースのセットでの販売を余儀なくされます。そうすると、どうやって他の部位を売り切ればいいか、ということになってしまう。

僕は、後発として新規参入する立場です。であるなら、何をすべきか、何が求められているのか。相手に喜ばれる買い方をすることです。

■丸ごと買って、海外に売る、自分で店を展開して提供する

それは、一頭丸ごと買うこと。これなら、売り手にとっても売りやすいし、何よりもジョーカーのカードのように一番強い買い方でもあります。

その方法は、利益率を高めていくうえでも有効になると思っていました。パーツを右から左に流しているだけでは利幅は極めて薄いのです。しかも、ちっとも面白くない。いわゆる従来の卸事業には、すでにプレーヤーは山のようにいるのです。

では、どのようにして利益率を高めるのか。それが、一頭丸ごと買うことでした。プライムパーツ(サーロイン、リブロース、フィレ)は高い金額で海外に輸出する、そして残されたセカンダリーのパーツの係数値(各パーツの値付け)を変更することで、高い和牛でも利益を残せると確信したのです。

また、一頭単位で買うことで、他社よりも購買力を増すことができます。生産者も一次卸もパーツ購入ではなくて、一頭丸ごと買う業者のほうが商売としては楽だから、最優先権利をもらえます。

そして最終的には、僕は、自分で店を展開して提供するという道を選択することになりました。

■グローバルを狙え、ニッチ世界一を狙え

起業にもいろいろな種類があると思いますが、誰もが1兆円ビジネスを目指す必要があるわけではない。僕自身、そこには向いていないし、そうしたいとも思いませんでした。自分がやるべきはそこではない、と思っています。

これからは規模の経済を追う流れは弱まり、よりパーソナルな方向へと移行していきます。そこにフォーカスしていけば、ビジネスチャンスは大きく広がっていくと思うのです。

目指すべきは、ニッチカテゴリーで世界一になることです。例えば、コーヒーの世界でバリスタチャンピオンシップの世界一になる。ソムリエで世界一になる。わかりやすく世界で通用するコンテンツで、世界一、つまり世界で一人だけという称号を目指すのです。

■「日本発の世界を狙えるニッチカテゴリー」を探せ

僕が和牛というカテゴリーを選んだのは、大きな特徴が3つあると感じたからです。①参入障壁が非常に高い、②高付加価値である。そして、③模倣されない。

牛という食材は宗教上の理由がない限り、世界の多くの国で食されている。おまけに日本発の牛ですから、これからニッチカテゴリーでの世界一に十分に近づけると思ったのです。

日本発の世界を狙えるニッチカテゴリーは、和牛以外にもいろいろあるのではないかと思っています。

的
写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

■国内ではレッドオーシャンでも、海外ではブルーオーシャン

国内ではすでに競争の激しい市場=レッドオーシャンでも、海外を見渡せば完全なブルーオーシャン=競争相手のいない未開拓の市場、という商品はないか。ぜひ、チェックしてみてほしいのです。そして、グローバルを、世界一を狙ってほしいのです。

高級和牛も、日本国内では需要と供給のバランスの中で、価格コントロールが入ってしまっています。このままでは、新しい市場が形成できない限りレッドオーシャンのままでしょう。

しかし、市場を海外まで広げて見てみると、とんでもないファンがいたり、その購買市場が広がっていたりする。

新規参入が難しそうなイメージのあるところにこそ、グローバルニッチの大きな可能性を秘めた産業があるかもしれないのです。

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浜田 寿人(はまだ・ひさと)
WAGYUMAFIA JAPAN 代表取締役、WAGYUMAFIAエグゼクティブシェフ
1977年生まれ。米国留学の後、20歳でソニー本社最年少入社。カフェグルーヴを22歳で立ち上げる。映画メディアCINEMACAFEを創立し、会員制フレンチレストランのプロデュースを経て、ハリウッドの食ドキュメンタリー映画『フード・インク』の買付・配給を契機に和牛の世界へ。2014年より和牛の本格輸出を開始。2016年に友人の堀江貴文とともにWAGYUMAFIAを立ち上げ、ワールドツアーを世界100都市にて敢行する。WAGYUMAFIAの活動を通して、「世界で勝てる日本の食ビジネス、日本の高級商材は他にもたくさんある」と、日本に眠る未来の和牛のようなウルトラ・ニッチを発見し、育成、応援することをライフワークとしている。また、才能溢れる若手シェフなどの海外展開へのアドバイスなども積極的に行っている。

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(WAGYUMAFIA JAPAN 代表取締役、WAGYUMAFIAエグゼクティブシェフ 浜田 寿人)

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