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岸田首相は麻生氏に距離を置かれた…岸田派解散がもたらした「泥沼の政治闘争」

プレジデントオンライン / 2024年2月6日 11時15分

自民党両院議員総会に臨む(右から)岸田文雄首相(同党総裁)、麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長(=2024年1月26日午前、国会内) - 写真=時事通信フォト

■大山鳴動して小ネズミ3匹だった

自民党派閥による政治資金規正法違反事件で、検察当局は安倍派幹部7人について立件を見送った。党内には安倍派幹部らの説明責任と党による政治処分を求める声が高まっている。その一方で岸田派解散、それに続く安倍、二階、森山3派の解散が、派閥存続を決めている麻生、茂木両派への解散圧力となって、茂木派は分裂の危機に直面している。

東京地検特捜部は1月19日、安倍、二階、岸田3派の会計責任者らを政治資金規正法違反で在宅起訴、略式起訴するなど、この時点で8人を立件する一方、安倍派幹部7人について、会計責任者との共謀はなかったとして立件を見送った。安倍派からのキックバック(還流)された4800万円を政治資金収支報告書に記載しなかったとして1月7日に逮捕した池田佳隆衆院議員(57)と秘書(45)は26日の通常国会開幕日に起訴している。

特捜部の結論は、国会議員3人、会計責任者ら7人の計10人の立件だった。大山鳴動して大ネズミ1匹くらいは期待されたが、小ネズミ3匹だった。

■国会議員の立件は4000万円超が目安

パーティー収入などの不記載額は、5年間で安倍派が6億7500万円、二階派が2億6400万円、岸田派は3年間で3000万円だった。3派の総額は9億7000万円に上る。

安倍派の会計責任者(76)、二階派の元会計責任者(69)は在宅起訴、岸田派の元会計責任者(80)は略式起訴された。

安倍派のほかの国会議員では、大野泰正参院議員(64)と秘書(60)を5100万円の不記載で在宅起訴し、谷川弥一衆院議員(82)と秘書(47)を4300万円の不記載で略式起訴(26日付で罰金100万円と30万円、公民権停止各3年の略式命令)した。議員の立件は4000万円超が検察内部の目安だったといわれている。

不記載は議員がかなり具体的に秘書に指示しないと共謀の立件に至らないが、これらのケースは、議員本人が派閥事務局から現金で還流を受け、収支報告書に記載させないという意図が明確だったから立件できたのだろう。

池田議員は党の除名処分を受けたが、議員を続けている。大野議員は離党し、容疑は法廷で争う。谷川議員は離党し、議員辞職したため、4月に衆院長崎3区で補選が行われる。

二階派では、ほかに二階俊博元幹事長の秘書(55)が、派閥から得た3500万円を記載しなかったとして略式起訴された。

■特捜部の標的は事務総長経験者だった

特捜部にとって、安倍派の政治資金収支報告書への不記載や虚偽記入に派閥幹部がどう関与していたかが最大の焦点だった。だが、座長の塩谷立元文部科学相、歴代事務総長の下村博文元政調会長、松野博一前官房長官、西村康稔前経済産業相、高木毅前国会対策委員長、5人衆のメンバーでもある世耕弘成前参院幹事長、萩生田光一前政調会長の幹部7人については、立件できなかった。

1月6日の産経新聞などによると、22年4月に安倍派会長だった安倍晋三元首相がパーティー収入の一部を還流する慣例は止めたいと提案、5月のパーティーでは還流を廃止したが、7月の安倍氏銃殺事件の後、塩谷、下村、西村、世耕の4氏の協議で還流の継続が決まった。事務総長だった西村氏が議論を主導し、還流分を安倍派と所属議員双方の収支報告書に記載しない慣例を改め、還流された議員の団体の収支報告書に個人のパーティー収入として記載する方法も提案したという。

東京地検次席検事は19日の記者会見で、派閥幹部を立件しなかった理由を「証拠上、各会派の収支報告書の作成は会派事務局が専ら行っていた。派閥の幹部が、還付(キックバック)した分をどう記載していたかまで把握していたとは認められず、虚偽記入の共謀を認めるのは困難と判断した」と説明した。

特捜部が設置されている東京地方検察庁九段庁舎
特捜部が設置されている東京地方検察庁九段庁舎(画像=Abasaa/PD-self/Wikimedia Commons)

■岸田内閣存続のための岸田派解散

永田町で大きな動きが出てきたのが、特捜部の結論と前後しての1月18、19日だった。

18日の朝日新聞が、特捜部は岸田派の元会計責任者を政治資金規正法違反で立件する方針だとスクープした。岸田首相には、岸田派関係者が立件されることは想定外だった。

首相は18日午前、首相官邸でのぶら下がりで「事務的なミスと積み重ねであると報告を受けている」と釈明したが、間もなくして、派として問題を起こした以上、ケジメをつけるとして、岸田派解散を決断する。

まず林芳正官房長官(岸田派座長)に相談し、木原誠二幹事長代理、村井英樹首相補佐官に伝え、午後から根本匠事務総長、宮沢洋一税調会長ら岸田派幹部10人程度を次々と首相動静に載らないように官邸に呼び込み、「攻めの意味から解散しようではないか」と提案した。以前から検討してきたと説明し、「守旧派になりたくない」とも語ったという。

夕方には、田村憲久元厚生労働相、平井卓也元デジタル相を呼び、さらには首相動静に載る形で、上川陽子外相、盛山正仁文部科学相にも解散の意向を伝えている。

首相と岸田派幹部との面会は、いずれも林座長が同席した。自分が部外者だとの認識から、3者面談となったらしい。幹部全員が「首相の判断に従う」と応じたという。

同日夜のぶら下がりで、首相は「岸田派解散検討」という時事通信の速報の真偽を問われ、「解散することを検討している。政治の信頼回復に資するものであるならば、考えなければならない」と述べ、岸田内閣存続のための岸田派解散を表明した。

■首相は麻生氏との関係修復に動くが

麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長は寝耳に水だった。麻生氏はその夜、茂木氏からの電話で岸田派解散との報道を聞く。茂木氏からは「うちだけ置いて行かないでほしい」と泣きつかれたという。麻生氏は直後に岸田首相に電話し、「これは何なのだ。自分たちは自分たちで考える」と怒りをぶつけたという。

首相にすれば、反対されるから伝えなかったというより、派閥の元会計責任者の立件に動転し、能登半島地震への対応もあって、麻生氏に気を配る余裕がなかったのが実情だ。

首相は、麻生氏との関係修復に動く。21日夜、麻生氏をホテルオークラの日本料理店に招いて会談し、事前に連絡しなかったことを詫びた。麻生氏は自派の存続を伝え、「能登半島地震対策が含まれる予算の成立に向け、協力していこう」と述べ、矛を収めた。麻生氏は翌日、周辺に「もう怒らない。それが副総裁としてのたしなみだ」と呟く。

麻生氏の本意は、予算成立、4月の首相訪米までは首相を支えるが、その後は9月の総裁選対応を含めて距離を置くということだ。

麻生氏が28日、福岡県内で講演し、上川陽子外相について「そんなに美しい方とは言わない」と容姿に言及して物議を醸したが、「堂々と英語で話す」「新しいスター」などと持ち上げたのは、総裁選に向けて選択肢としてのカードを用意する狙いがある。

麻生太郎副総裁
麻生太郎副総裁(画像=財務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■宏池会(岸田派)の解散は5回目

岸田派は1957年に池田勇人元首相が「宏池会」として創設し、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一の各首相を輩出した名門だが、実は派閥が批判されると、解消しながら、政策集団、政策グループとして復活してきた。宏池会も63年、77年、80年、94年と4回解散し、今回5回目だ。94年11月には政治不信の高まりの中、河野洋平総裁が党改革の目玉として「派閥解消」を決め、各派も事務所を閉鎖したが、1年後の95年9月の総裁選での多数派工作が復活し、「政策集団」として再生している。

今回も9月の総裁選、年内にもある衆院選に備え、「派閥」もどきが復活する可能性がある。首相は18日、岸田派幹部の1人が「1回解散すればいい。そしてまた集まればいい」と言うと、「そうだな。解散するけれど、ご縁を大事にしよう。派閥として集まらなければいいのだから」と応じている。

■自民党は派閥を通じて党内世論を集約

安倍派は19日夜、党本部で臨時総会を開き、派閥を解散する方針を決めた。塩谷氏や5人衆はこれで幕引きを図ろうと、その後の記者会見などで「不記載の状況は知らなかった」「秘書に任せきりだった」と責任逃れに走り、議員辞職や離党は考えていないと居直った。

西田昌司参院議員は総会後、「我々は知らなかった、というのは普通の組織ではあり得ない」と記者団に述べ、幹部が責任を取るよう求めた。福田達夫元総務会長は記者団に「派閥ではなく新しいガバナンスの形で集団を作っていく」と明らかにした。福田氏ら中堅・若手30人は総会に先立って安倍派の解散と幹部の責任を求める決議文を塩谷氏に提出していた。安倍派は解散前に瓦解(がかい)していたのだ。

二階派は19日午後、緊急議員総会で解散を決めたが、二階氏は今後の政治活動について「人は自然に集まってくるものだ。自然体で、常識の範囲でやっていきたい」と述べ、近い将来の「派閥」復活を示唆した。

森山派は25日に解散を決定した。関係者によると、次の選挙は「裏金」のお詫び、言い訳で始まるが、無派閥なら守旧派と見られないことが理由だという。森山氏には、菅、二階両氏との連携関係もあっての選択だろう。

安倍派は当面、そのままの形では復活できないが、岸田、二階、森山3派は早晩、「政策集団」として復活するのではないか。

自民党は派閥の連合体だ。自民党政権は派閥の合従連衡で形成されてきた。派閥の効能は、カネ(集配)、選挙(応援、新人発掘)、人事(閣僚や党役員、国会の委員長)、情報交換(国会情勢など)だった。自民党は派閥を通じて統治し、党内世論を集約し、政治を前に進めてきた。メディアが自民党の動きを追ううえで、担当記者を派閥ごとに割り振っているのも、こうした背景がある。

東京都千代田区の自由民主党本社
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■「夜遊びと裏金はどちらが悪い?」

政治責任を取ろうとしない安倍派幹部への批判が強まったのは、23日の党の政治刷新本部の中間とりまとめ案に「政治責任に結論」と明記され、何らかのけじめが必要との認識が党内に広がったためだ。

自民党は党の品位を汚す行為を処分対象にしている。21年1月、新型コロナウイルス緊急事態宣言中に深夜、東京・銀座のクラブで飲食したとして、松本純元国家公安委員長(麻生派)ら3人が党紀委員会で離党勧告処分を受け、離党した例もある。党内に「夜遊びと裏金はどちらが悪い?」との声も上がる。

茂木氏が23日の記者会見で「当事者が、政治責任についても、結論を得ていく必要がある」と述べ、その後、塩谷氏に電話で「幹部として政治責任をどうするか、よく相談して考えたらどうか」と暗に離党を求めたのも、党内の空気を伝えたものだった。

だが、茂木氏の言動が25日の読売新聞に報じられると、安倍派から「監督責任を取れというなら、岸田、二階両派も同じではないか」などと猛反発を招く。政治責任を盾に政治闘争を仕掛けてきた、と受け止めたからだ。安倍派に影響力を持つ森喜朗元首相が25日、麻生、茂木両氏を訪ね、「本当に処分するのか」と問うたことで、茂木氏は引き下がらざるを得ず、「策に溺れた」ともいわれている。

茂木敏充幹事長
茂木敏充幹事長(画像=エストニア外務省/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

安倍派は31日、政治資金収支報告書20~22年分の訂正を総務省に届け出た。パーティー収入は3年間で4億3500万円、収入総額は4億5300万円が記載漏れだった。これに関連し、同派の小森卓郎総務政務官と加藤竜祥国土交通政務官が不記載を認めて辞任した。

安倍派は同日、所属議員らの95団体への寄付額の追加が5年分で6億7600万円に上ると明らかにした。特捜部は、同派の不記載について5年間で6億7500万円と認定している。

安倍派幹部らの処分については、党執行部による聴き取り調査を経て、政治刷新本部などで引き続き協議されるが、夜遊びよりも党の品位を汚しているのは間違いない。

■小渕優子氏の覚悟と青木一彦氏の思い

政治闘争は、茂木派にも飛び火している。

小渕優子選挙対策委員長が25日、茂木氏と面会し、茂木派を退会する意向を伝えた。小渕氏は「政治家として覚悟を持ってけじめとして判断した」と記者団に語ったが、茂木氏が派閥離脱しないことを疑問視していたという。

翌26日には青木幹雄元官房長官の長男で参院議員の青木一彦副幹事長が、茂木派退会の意向を記者団に示し、「(21年9月に)前会長の竹下亘元総務会長が亡くなり、派閥が茂木派に代わった時からずっと心の中では思っていた」と語った。青木幹雄氏は、21年10月に幹事長だった茂木氏が一部衆院議員と諮って会長の座を簒奪したとして、最期まで許さなかったが、一彦氏にもその思いがある。

青木氏に同調する立場から、関口昌一参院議員会長、石井準一参院国対委員長、福岡資麿参院政審会長も離脱を表明し、31日に退会した。衆院では船田元衆院議員総会長のほか、小渕氏に近い古川禎久元法相、西銘恒三郎幹事長代理も同日、退会届を提出した。茂木派は退会者が8人に上り、さらに混乱が続くと見込まれている。

茂木氏は、安倍派を敵に回しただけでなく、足元の茂木派も事実上分裂し、総裁選レースで後れを取ったといえるだろう。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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