「横断歩道の白線」をまたげなくなったら要注意…最新研究で判明した「認知症になりやすい歩き方」
プレジデントオンライン / 2024年2月10日 12時15分
※本稿は、大谷義夫『1日1万歩を続けなさい』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■ウォーキングこそ「最強の運動」である
生きているといろいろなことが起こりますよね。
それを乗り越えるには体調管理が重要なことは言うまでもありません。
そのためには運動が必要。
でも「運動は体にいい」と頭ではわかっておきながら、忙しくて時間がないとおっしゃる方は多いと思います。
私は論文マニアなので、このたびさまざまな論文を読んでみたのですが、その結果、ウォーキングが最強の運動であることに気がつきました。
ウォーキングは、風邪(※1)やメタボ(※2)、生活習慣病(※2)のみならず、ストレスや不眠、うつ(※3、4、5)、不安、さらには自律神経に関連した更年期の不調(※6)、認知症の予防(※7、8)や認知機能の改善(※9)といった脳の領域、さらにはがん(※10)や感染症(※11)といった内科の病気にも効果があり、死亡率を下げる(※12)こともわかりました。
これは忙しさで後回しにするにはあまりにも惜しい運動です。
その他、中でも私が最も驚いたのは「ウォーキングは創造性を豊かにする」ということです(※13)。
私の小学校時代からの親友も、朝のウォーキングで仕事のアイデアを出せるようになったと言っていますが、ウォーキングを始めれば体や心の不調が改善するのみならず、さまざまなアイデアが頭に浮かび創造性が増すことを実感いただけると確信します。
■「1日1万歩」を目指すべき理由
ただそういう私も数年前までは、ウォーキングを軽視していたかもしれません。
高齢者はウォーキングが負荷的にも適切かもしれませんが、私はまだまだフィットネスで泳いで、筋トレすべきと考えていたのです。
暗闇ボクシングにはまったときも激しい運動が快感で、楽しくフィットネスを続けていました。
しかしコロナ禍を契機にウォーキングに変更すると、それ以上に楽しく充実したウォーキングライフが待っていました。
しかも、それまで行っていた糖質制限をやめたにもかかわらず3kg痩せることができたのです。
論文を読むと1日1万歩で死亡率がおよそ最大に下がることから、ウォーキングは「1日1万歩」を目指していただきたいと思うのですが、まずは「とにかく始める」「できるだけ毎日続ける」をお願いしたいと思います。
休日にはウォーキングシューズを用意して、一気に頑張っていただくのもいいのですが、ウォーキングはできるだけ毎日続けることが大事。
こだわり過ぎも不要です。
私も平日は革靴やサンダル、診療着であるスクラブを着て、「朝2000歩」「昼3000歩」「診療後2000歩」「夕食後4000歩」の細切れウォーキングを続けています。
■運動をサボると毎日300キロカロリーが体にたまる
1万歩はゆっくり歩くと100分、早く歩くと70分。
これを一度にやろうとするとかなりの「時間」、かなりの「運動」になってきます。
今はどんな人も忙しいので「まるまる1時間半の運動時間」はそう簡単に取れるものではありません。
![ウォーキングする人たちのイメージ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/c/1200wm/img_fc075fb65208c91cddf393eeaac0f5a4822638.jpg)
強制的に歩こうと月額8000円もするジムに入会しても、行かなくなる人は多いでしょう。
そしてこういう方は歩かなければ運動時間が「ゼロ」になってしまいます。
成人男性が1日に摂取するカロリーは2200キロカロリー、対して平均消費カロリーは1900キロカロリー。
ですから歩くことなど運動をさぼると、日々、300キロカロリーが体にたまってしまいます。
300キロカロリーの目安は、ごはんならお茶碗2膳、食パンなら2枚分のカロリーですが、食事の量はそのままに運動しない日が続いてしまうと、これが体重増加を招き、やがては病気につながります。
だからこそ余分な300キロカロリーを消費する1万歩のウォーキングが重要になるというわけです。
■「1万歩」は小分けにしても十分に効果がある
ただここで最初に誰もが感じる疑問は「1万歩はまとめて歩かないといけないのか?」ということだと思います。
たとえば、
朝、通勤時に3000歩
昼、ランチで2000歩
仕事の移動で2000歩
夕方、帰宅時に3000歩
これでも1万歩の効果はあるものなのか。
結論からお伝えすると、1万歩を小分けにしてもウォーキングの効果はあります。
以前、有酸素運動は20分以上しないと効果が出ないと言われた時代がありましたが、細切れの運動も十分に有効であることがわかってきているのです(※14、15)。
小まめな掃除をすることで、年末の大掃除がいらなくなるように、小まめなウォーキングをすることで、一気に運動しなくてもすむ体制を組む。
それができるのもウォーキングの魅力です。
これなら続けられる気がしてきませんか?
■ウォーキングは認知症予防に「効く」
厚生労働省によると、65歳以上の認知症患者は約600万人(2020年)。
2025年には、高齢者の5人に1人は認知症になると言われています。
認知症は決して他人事ではなく、その点からも次の調査は大変参考になるものです。
東北大学は65歳以上の男女約6900名を対象に、自分が普段どれくらい歩いているかを「1日30分未満/30~60分/60分以上」から選んでもらい、約6年間、追跡調査を行いました(※16)。
すると「歩行時間60分以上」を続けた人たちは、「30分未満」だった人より認知症リスクが28%も低かったことがわかりました。
認知症には大きく分けて4種類あり、その多くはアルツハイマー型認知症(約70%)と脳血管性認知症(約20%)に分かれます(※17)。
一番多い「アルツハイマー型」は、遺伝と環境によるものがありますが、その発症は生活習慣や食生活、睡眠に関係すると言われています。
一方、「脳血管性認知症」も脳梗塞などを防ぐべく、生活習慣病にならない食事と運動が重要です。
つまりいずれにしても認知症予防には生活習慣病予防が大切。
その意味からもウォーキングはおすすめです。
私たち内科医も、状況によっては認知症のスクリーニングテストである「長谷川式簡易知能評価スケール」で検査を行い、問題があれば物忘れ外来をご紹介することもありますが、なによりまずは毎日しっかり歩くことで生活習慣病を予防し、夜ぐっすり眠るようにする。
それが認知症予防にも長寿にも「効く」のです。
■「認知症になりやすい歩き方」とは
国立環境研究所の谷口優氏は、東京都健康長寿医療センター研究所での研究(※18、19)で、群馬県と新潟県の70歳以上の男女670名の歩幅を測定し、男女別に「歩幅が狭い・普通・広い」人に分類しました。
![大谷義夫『1日1万歩を続けなさい』(ダイヤモンド社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/4/1200wm/img_74a9081fc6eb00c88b14e3b84b782638221378.jpg)
歩幅は体格によって異なりますが、この調査で「広い」としたのは、男性は70センチ以上、女性は65センチ以上。
およそ3年後再調査をしたところ、歩幅が狭い人は広い人に比べて認知機能低下のリスクが3倍以上になっていたことがわかりました。
そこで谷口氏は、歩くときは歩幅65センチ以上で歩くことをすすめています。
街ではいわゆるちょこちょこ歩き(歩幅が狭く小股でちょこちょこ歩く歩き方)を目にすることがありますが、谷口氏の研究によるとこの歩き方は認知症になりやすい歩き方だと言えるかもしれません。
そこで歩くときは歩幅65センチを意識したいところですが、歩きながらメジャーを持って歩幅を測るというのは現実的ではありません。
そんなとき参考にしたいのが「横断歩道」。
横断歩道は白線の幅も白線間の幅も45センチになっているので、図表1を参考にまずは「横断歩道の白線をまたげなくなったら要注意」と考えて、自分の歩幅を一度、チェックしてください。
さらには歩幅65センチ以上を目指して「白線の幅+半分」くらいの幅を目安に歩いてみるのはいかがでしょうか。
![【図表】横断歩道で歩幅をチェック](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/3/1200wm/img_93140a3a3e7f230d75d767f354ca2e8c469987.jpg)
ただこれは、実際にやってみるとなかなかどうして難しい!
そういう人はいきなりではなく少しずつ歩幅を伸ばすとよさそうです。
歩幅が伸びれば適度な負荷がかかるとともに、認知症予防にもなって効果的です。
【参考文献】
※1 Nieman DC, et al. The Effects of Moderate Exercise Training on Natural Killer Cells and Acute Upper Respiratory Tract Infections. Int J Sports Med. 1990 Dec;11(6):467-73. doi: 10.1055/s-2007-1024839.
※2 Peddie MC, et al. Breaking prolonged sitting reduces postprandial glycemia in healthy, normal-weight adults: a randomized crossover trial. Am J Clin Nutr. 2013 Aug;98(2):358-66. doi: 10.3945/ajcn.112.051763. Epub 2013 Jun 26.
※3 Ikenouchi-Sugita A, et al. The Effects of a Walking Intervention on Depressive Feelings and Social Adaptation in Healthy Workers. J UOEH 2013; 35: 1-8
※4 1日1万歩のウオーキング~不安・抑うつが改善の可能性. Medical Tribune 2014; 47(8): 10-10. 1日1万歩で心も健康に! 不安やうつ症状が改善―東京大|あなたの健康百科|Medical Tribune (medical-tribune.co.jp)
※5 Taneichi S, et al. Is the Walking Campaign Effective for Depressive Symptoms? Open Journal of Psychiatry, 2014, 4, 405-409 Published Online October 2014 in SciRes. http://www.scirp.org/journal/ojpsych http://dx.doi.org/10.4236/ojpsych.2014.44047.
※6 Brown WJ, et al. Prospective study of physical activity and depressive symptoms in middle-aged women. Am J Prev Med. 2005 Nov;29(4):265-72. doi: 10.1016/j.amepre.2005.06.009.
※7 東京医科歯科大学、千葉大学 報道発表 Press Release No: 260-20-51. 20210310walk.pdf (chiba-u.ac.jp)
※8 Tani Y, et al. Neighborhood Sidewalk Environment and Incidence of Dementia in Older Japanese Adults. Am J Epidemiol. 2021 Jul 1;190(7):1270-1280.doi: 10.1093/aje/kwab043.
※9 Blumenthal JA, et al. Lifestyle and Neurocognition in Older Adults With Cognitive Impairment. Neurology. 2019 Jan 15;92(3):e212-e223. doi: 10.1212/WNL.0000000000006784. Epub 2018 Dec 19.PMID: 30568005.
※10 Moore SC, et al. Association of Leisure-Time Physical Activity With Risk of 26 Types of Cancer in 1.44 Million Adults. JAMA Intern Med. 2016 Jun 1;176(6):816-25. doi:10.1001/jamainternmed.2016.1548.
※11 Sallis R, et al. Physical inactivity is associated with a higher risk for severe COVID-19 outcomes: a study in 48 440 adult patients. Br J Sports Med 2021 Oct;55(19):1099-1105. doi: 10.1136/bjsports-2021-104080. Epub 2021 Apr 13.
※12 Sheehan CM, et al. Associations of Exercise Types with All-Cause Mortality among U.S. Adults. Med Sci Sports Exerc. 2020 Dec;52(12):2554-2562.doi: 10.1249/MSS.0000000000002406.
※13 Oppezzo M, et al. Give Your Ideas Some Legs: The Positive Effect of Walking on Creative Thinking. J Exp Psychol Learn Mem Cogn 2014 Jul;40(4):1142-52. doi: 10.1037/a0036577. Epub 2014 Apr 21.
※14 Dunn AL et al. Comparison of lifestyle and structured interventions to increase physical activity and cardiorespiratory fitness: a randomized trial. JAMA. 1999 Jan 27;281(4):327-34. doi: 10.1001/jama.281.4.327.
※15 DIPIETRO L, et al. Three 15-min bouts of moderate postmeal walking significantly improves 24-h glycemic control in older people at risk for impaired glucose tolerance. Diabetes Care. 2013 Oct;36(10):3262-8. doi: 10.2337/dc13-0084. Epub 2013 Jun 11.
※16 Tomata Y, et al. Changes in time spent walking and the risk of incident dementia in older Japanese people: the Ohsaki Cohort 2006 Study. Age Ageing. 2017 Sep 1;46(5):857-860. doi: 10.1093/ageing/afx078.
※17 認知症予防・支援マニュアル. tp0501-1h_0001.pdf (mhlw.go.jp)
※18 Taniguchi Y, et al. A prospective study of gait performance and subsequent cognitive decline in a general population of older Japanese. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2012 Jun;67(7):796-803.doi: 10.1093/gerona/glr243. Epub 2012 Mar 2.
※19 歩幅を広げて認知症を予防 狭いと高まる発症リスク(国立環境研究所 谷口優主任研究員)|医療ニュース トピックス|時事メディカル|時事通信の医療ニュースサイト (jiji.com)
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池袋大谷クリニック院長、呼吸器内科医・医学博士
1963年東京都生まれ。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。1989年群馬大学医学部卒業。九段坂病院内科医長、東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米国ミシガン大学留学などを経て、2009年に池袋大谷クリニックを開院。全国屈指の患者数を誇る呼吸器内科のスペシャリストとして、テレビ等でも情報発信を行う。著書に『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(日経BP)など多数。趣味はウォーキング。
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(池袋大谷クリニック院長、呼吸器内科医・医学博士 大谷 義夫)
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