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人口が多い京都府が鳥取県より人手が足りなくなるワケ…これから働き手不足が深刻化する都道府県ワースト3

プレジデントオンライン / 2024年2月7日 9時15分

出典=リクルートワークス研究所、2023、「未来予測2040」

リクルートワークス研究所は、2040年に生活維持サービスに必要な担い手がどれだけ不足するかを、都道府県別にシミュレーションした。その結果は、31道府県で充足率が75%以下になるという衝撃的なものだった。なぜ、京都府や新潟県のように、一定の経済規模があり、観光や製造業などの“外向けの産業”がある府県で人手不足が深刻化するのか――。

※本稿は、古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■2040年に生産年齢人口の割合は54%になる

少子高齢化が急速に進む日本。少子高齢化は、年金や社会保障、医療制度などさまざまな問題を引き起こすという議論がなされて久しいが、それにより私たちの暮らしにはどのような影響があるのだろうか。

「少子高齢化で大変だ」とは言われるが何が大変になったのか、実際に肌で感じることはそれほど多くないのではないか。

では、少子高齢化の社会への影響は、どのような局面からはじまるのか――。

2020年に58.7%だった生産年齢人口比率は、2035年には56.4%、2040年には53.9%まで低下する。生産年齢人口の割合が50%少々の社会では何が起こるのか。「座して待つと何が起こるのか」という将来像を明確にすべく、私たちは労働の需要と供給の観点からシミュレーションをおこなった。

その結果が図表1だ。これは、シミュレーションモデルに基づいて推計した、2040年までの日本全体での労働需要、労働供給、労働需給ギャップ(供給不足)を可視化したものである。図のグレーの線が労働需要、ピンクの線が労働供給、棒グラフが供給不足をそれぞれ表している。

■2040年に働き手が1100万人不足する

2040年までの労働需給シミュレーション全体の動きとしては、労働需要がほぼ横ばい、微増の状況に対し、労働供給が大きく減少している。つまり、労働需要側はほとんど横ばいのような曲線を描いているのにもかかわらず、大きな“労働供給の制約”が発生している。結果として、労働供給の不足は2030年に341万人余、2040年に1100万人余となっていく。

まず、労働需要については将来にわたって増加しているが、その傾きは緩やかであり、労働供給が減少する傾きに比べると横ばいに近い状態になっている。後述するが、労働需要の推計式は政府が発表した将来の名目GDP予想を前提としており、高い経済成長率を見込んでいない。ほとんどゼロ成長と言える。

しかし、経済成長はほとんどしないものの、人手を要するサービスへの依存度が高い高齢者人口の割合が高まることにより、労働需要は減少局面には入らない。高齢層がとくに医療、介護をはじめ物流業、小売業に対して強い労働需要を持つことを背景に、またそうした業種が労働集約型であるために、こうした業種・職種に従事する労働力の消費量が中心となって、労働需要全体が今後も高止まりする可能性が想定される。

次に労働供給であるが、こちらは労働需要とは異なり急な傾きで減少していく。今後数年は踊り場状態にあり、2027年頃から急激に減少する局面に入る。これも詳細は後述するが、労働供給の値は、シミュレーションモデルで推計した将来の労働力率に将来人口推計を乗じる方法によって計算している。図のとおり、将来にわたって労働供給の値は徐々に低下していき、需給ギャップは大きくなっていく。

■近畿地方の働き手が丸ごと消滅

このように労働供給が減少していくことによって発生する労働供給制約という問題は、成長産業に労働力が移動できない、人手が足りなくて忙しいというレベルの不足ではない。2030年の労働供給不足の数は341万人余で、現在の中国地方の就業者数(中国地方の就業者数は2022年7~9月期平均で384万人)の規模に近い。

さらに、2040年の労働供給不足の数は1100万人と、およそ現在の近畿地方全域の就業者数が丸ごと消滅する規模(同1104万人)に匹敵する。結果的に、運搬職や建設職、介護、医療などの生活維持にかかわるサービスにおいて、サービスの質を維持することが難しいレベルでの労働供給制約が生じるのである。ひとえに2040年に1100万人の働き手が不足するといっても、当然、職種や地域によって深刻さの度合いは異なる。

そこで本稿では、私たちの生活を支える「生活維持サービス」に注目して、その将来を労働力の面から予測。私たちの生活を支える職種に注目することで、2040年の生活の状態を浮き彫りにする。

そのために、「都道府県×職種別」の労働需給シミュレーションを実施した。その結果を見ていこう。

■都市圏の需給ギャップは大きくない

日本全体で2030年に341万人余、2040年に1100万人余の労働供給が不足することを先に述べた。しかし、都道府県によって産業構造が異なれば、人々が働く産業や職種も当然異なる。そこで本稿では、生活維持サービスの充足率を、都道府県別にシミュレーションした結果を説明する。

生活維持サービスに分類される7職種の値を合計したかたちで都道府県別に状況を示していく。

まずは図表2を見ていただきたい。これは今回、分析対象にした生活維持サービスの充足率を日本地図上にプロットしたものである。色が薄い地域ほど充足率が高く需給ギャップが解消されており、人手不足感が小さい。逆に、色が濃い地域では需給ギャップが大きくなっている。

【図表2】2040年の生活維持サービスの充足率
出典=リクルートワークス研究所

本データのポイントは、都市圏と地方圏で需給ギャップの傾向が異なることである。埼玉、東京、千葉、神奈川、大阪、福岡といった都市圏では、ほかのエリアに比べて需給ギャップがあまり発生していない。

また、2030年時点では宮城県でも需給ギャップがあまり大きくないようである。この背景には人口の流入がある。総務省統計局による「住民基本台帳人口移動報告2020年(令和2年)結果」を見ると、前述の都市圏では人口流入が多くあった。

このように、人が集まれば集まるほど、その地域には労働需要が新たに創出される。そうなれば、その需要を支えるための労働供給も増えていく。こうした流れで、都市圏では比較的需給ギャップが大きくならないのであろう。

一方、地方圏で需給ギャップが大きくなっているのは都市圏と異なる動きであり、一定の労働需要がありながらもそこに追い付いていないのである。

■生活維持サービスの充足率が最も低いのは新潟県

日本地図上にプロットした2040年の生活維持サービスの充足率と2030年の数値を表にした図表3も、あわせてご覧いただきたい。

生活維持サービスの労働力の充足率が最も低いのは新潟県であり、なんと58.0%である。6割を切っており、生活維持サービスに必要な担い手が半分ちょっとしか存在しない計算となる。同様に京都府も58.6%と極めて低い水準だ。

【図表3】生活維持サービスの充足率の推移
出典=リクルートワークス研究所

新潟県と京都府について共通して言えるのは、「一定の経済規模があり、観光や製造業などの“外向けの産業”がありながら、住民の生活維持サービスにも人材を供給しなくてはならない」という難しさだ。ともに現在の人口規模も200万人を超えており、GDP(県内総生産)も8~10兆円前後と経済規模もある。

また、新幹線など交通の便がいいこともあり、近年ではインバウンド需要やモノづくりの需要(外向けの産業)も高い。もちろん、経済成長につながるような外向けの産業の需要が高まっていることは決して悪いことではない。しかし、労働供給制約下において十分な働き手・担い手を輩出できなければ、二兎を追うのは難しくなってしまう。魅力的な職場となるかもしれない外向けの産業があることで、地域の生活維持サービスの担い手が吸い取られてしまうのだ。

■31道府県で充足率が75%以下に

この構造は、一定の経済規模があり外向けの産業が期待できるほかの地域でも共通する今後の課題となっていく(たとえば、4番目に充足率が低い長野県〈60.1%〉、5番目に低い兵庫県〈62.9%〉についても共通する状況がある)。担い手の数が減るが、二兎を追わなければならないいくつかの地方が、課題が最も顕在化する地域となる。

また、3番目に生活維持サービスの充足率が低いのは岩手県で、59.1%と新潟県、京都府と並んで6割を切っており非常に厳しい状況である。ただ、人口規模は現在100万人台前半であり経済規模も全国で真ん中あたり(2022年で29位)である。

もちろん外向けの産業と生活維持サービスの二兎を追う必要もあるが、担い手側の生産年齢人口の減少や近隣への流出といった課題が大きい地方と言えるだろう。

いずれにせよ、生活維持サービスの充足率が75%を切っている地方は31道府県におよんでおり、これは4人必要な仕事を3人で取り組まなければならない水準だ。これほど広範囲で労働供給制約による生活維持サービスの提供が不十分で、困難な状況が生まれると考えると恐ろしくもある。逆に、充足率が90%を超えている都府県は6つしかないのだ。

■人口約67万人の島根県の需給ギャップが小さいワケ

特徴的なエリアとして島根県(充足率89.1%)を挙げたい。

地方圏では確かに労働需給ギャップが大きいと述べたが、島根県は総人口が約67万人、東京の1400万人と比べると20倍以上の違いがあるのに、充足率が89.1%と需給ギャップは比較的小さい。島根県については「人口が流入している都市圏」とは別の事情が発生していると考えられる。それは、いったいなぜだろうか。

本シミュレーションでは先述のとおり、全国の労働需給を計算したあとに国勢調査のデータを用いて都道府県や職種別に按分(比例配分)する方法を用いており、都道府県単位での政策や文化などを個別に反映しているものではない。そのため、もちろん仮説ではあるが、ここでは島根県で働く「女性の状況」について取り上げたい。

島根県による「しまね女性活躍推進プラン」では島根県の女性の現状が整理されており、そこでは働く女性の割合が全国1位であること、子育て世代の女性の有業率が全国1位であることが国勢調査をベースに報告されている。

家事や育児、介護などの負担が女性に偏っているのではないかという指摘もあるため、労働供給の不足が少ないことだけですべての状況がいいと言い切ることは難しいが、地方部における労働供給制約の問題をうまく解決する事例になる可能性がある。現在の小さな芽が、将来には大きな違いとなって現れるかもしれないのだ。

■「座して待つと起こる未来」は変えられる

もちろん、2040年の未来において、今回構築したモデルの前提となる社会や労働の状況が現在と同じかと言えば、そうではないだろうし、そうあってはならない。性別や年齢など関係なく誰もが活躍できる世の中をつくることなしに、今後の日本での生活維持サービスは成り立たないのだ。ただこの点は、さまざまな仮定をもとに未来を予測する、シミュレーションが持つ制約の一つとも言える。

逆に言えば、社会や労働のシステム自体にアプローチすることで、労働供給制約という問題に立ち向かうことができるという事実を示すものでもある。人口動態に基づくシミュレーション結果は間違いなく「座して待つと起こる未来」ではあるが、変えることができるのだ。

古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)
古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)

私たちにできることは、「座して待てば」起こってしまう労働供給制約社会の未来に対して、社会や労働のあり方をどう変えられるかということである。

どのようにすればより多くの人が労働に参加できるようになるか。参加できないとしたら壁は何か。労働供給が“パツパツな”状態から、私たちはどのような手を打てるのか。データがあれば、数字があれば、私たちは議論をはじめることができる。

シミュレーションの結果に、ただ悲観したり諦観したりするのではなく、予測される未来を数字で直視することで、今から具体的な一歩を踏み出せば、私たちは将来を変えることが可能なのだ。

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古屋 星斗(ふるや・しょうと)
リクルートワークス研究所主任研究員
1986年岐阜県生まれ。リクルートワークス研究所主任研究員、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。2011年一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻修了。同年、経済産業省に入省。産業人材政策、投資ファンド創設、福島の復興・避難者の生活支援、「未来投資戦略」策定に携わる。2017年4月より現職。労働市場について分析するとともに、学生・若手社会人の就業や価値観の変化を検証し、次世代社会のキャリア形成を研究する。

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(リクルートワークス研究所主任研究員 古屋 星斗)

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