1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

同行者は「街並みが美しい」としか言えなかった…渋沢栄一が江戸末期の欧州視察で語った「さすがの感想」

プレジデントオンライン / 2024年2月16日 6時15分

斜め上の意見だけでは会議はまとまらない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/howtogoto

本当に頭のいい人はどこが違うのか。教育学者の齋藤孝さんは「頭がいいといわれる人は、問題をより大きな問題の一部として捉え、ほかの要素とのつながりを考えることを習慣化している。その具体例は江戸末期に欧州を視察した渋沢栄一の感想にあらわれている」という――。

※本稿は、齋藤孝『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■「無難な会議」はなぜダメなのか

議論をしていると、とにかく波風を立てないように無難にまとめようとする人がいます。

会議で、司会者によってはひたすら秩序を保ちつつ、平穏無事に1時間の会議を終えようとします。

しかし、そこからは新しい発想は生まれません。

議論や会議は、「秩序(コスモス)」と「混沌(こんとん)(カオス)」がほどよく行ったり来たりする状態が理想です。

コスモスだけに終始してしまうと、議論はそこに小さく収まってしまって、新しいアイデアは生まれてきません。

まとまりかけたコスモスに、大胆な角度から予期せぬ意見を放り込むと、ある種の混乱が起きて会議はカオス化します。

■カオスからコスモスにもっていく

見たことがない発想が生まれるのは、そういうときなのです。

予定調和で終わらせないというのが大事なポイントです。

一方、そういった斜め上の意見だけで1時間話し合っても、会議は永久にまとまりません。尖った意見の数々を練り上げながらコスモス化していく。この作業を繰り返すうちに、参加者のアイデアが混ぜ合わさったような、重層的に折り重なった結論が導き出され、結果として会議は充実したものとなるわけです。

これは、普段の会話でもそうですし、講演会で聴衆の前で話すようなときも同じです。

たとえば、本の話をするとき、ひたすらその内容のすばらしさを説くというやり方でもいいのですが、あえて「本は絶滅する運命にある」とか「電子情報の一部となっていく」などと言い出してカオスを起こし、「それでもなぜ人は紙の本に魅せられるのか」とコスモスにもっていくと、奥行きと幅ができ、おもしろい展開が生まれることも多いです。

■「頭がいい人」は情報を整理できる

頭がいい人は、会話をしていても会議をしていても、必要な情報とそうでない情報を正しく振り分けることができます。

AからEまで5つの議題候補があったとき、本来の順序が「AからEへ」であっても、「今回は時間がないからCから議論に入ろう。AとBはタブレットで共有して、各々で時間のあるときに見ておいてもらおう」という具合に、AとBの説明をその日の会議から切り捨てる決断ができます。

取引先と打ち合わせに行って戻ってきた営業担当者が、上司に報告をする際、「社屋がリフォームされていました」「先方には会えました」「ちなみに10分待たされました」などとダラダラと話したあとに、「前回の打ち合わせとの齟齬(そご)があり、大変ご立腹でした」などと最後に言いだしたら、上司は「それを先に言え!」と怒りだすでしょう。

■A4ペラ1でも十分

情報の整理が苦手で優先順位がつけられないため、話が無駄に具体的なだけで、本質がまったく理解できていないのです。

そういう人は、情報の取捨選択ができていないから、頭に浮かんだ言葉を全部話してしまうのです。

また、場合によっては数分ですべてを伝えなければならないときもあります。そういうときは時間を逆算して、限られた時間で何と何を伝えるべきか、手持ちの情報からセレクトし、話を要約して手短に伝える必要があります。

資料をつくるときも同じです。A4判という紙幅には本1冊分の情報は載りません。

正しく取捨選択すると、いわゆるペラ1の形でもまとまった資料ができるのです。

A4サイズの紙
写真=iStock.com/fongfong2
A4ペラ1でも十分(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/fongfong2

■「最初にやるべきこと」を決める

「矢印思考法」は、「システムシンキング」という概念を具体化した方法のひとつです。

これは、ピーター・M・センゲ氏の『学習する組織』(英治出版)で世に広がった考え方で、物事全体を俯瞰(ふかん)しながら、そこにある要因と要因の因果関係を正確に把握するという思考法です。

同書の中でも、因果関係を図にして全体を構造化する手法が紹介されています。

たとえば、新入社員が「問題がたくさん発生して、どこから手をつけていいかわからない!」と悩んでいるケースがあるとします。

その場合、まずは「問題」をとりまく全体像を広く見ながら、複数ある「問題」の重要度、関係性、優先順位などを序列化し、それにより「最初にやるべきこと」を決断します。

それができれば、その人はシステムシンキングの思考法が身についているということになります。

■渋沢栄一がヨーロッパ視察で得た感想

これと正反対なのが、いわゆる「木を見て森を見ず」というタイプの人。

物事を断片化したピースとしてしか捉えることができませんから、いつも目の前の情報に振り回され、いつまでたっても問題の本質にたどりつけないのです。

NHKの大河ドラマ『青天を衝け』で注目された渋沢栄一は、システムシンキングができていた典型的な人物の一人です。

彼は江戸末期に幕臣として欧州を視察しますが、ほかの人たちが「橋が立派だ」「街並みが美しい」と、いわば「森」を見ずに「木」だけを見て感動していた中、ただ1人「株式会社の概念」「銀行という金融システム」といったように、ヨーロッパ社会の全体像をシステムとして捉えていたのでした。

パリの街
写真=iStock.com/Eva-Katalin
「木を見て森を見ず」では本質にたどりつけない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Eva-Katalin

頭がいいといわれる人は、問題をより大きな問題の一部として捉え、ほかの要素とのつながりを考えることを習慣化しているのです。

■「事実の羅列」ではダメ

質問されたことに対し、抽象的な答えしか返せない人は少なくありません。

あるいは、本質からズレた、あまり関係ない答えをして、それに気づいていない人もいます。

頭がいいといわれる人は、問いに対して「具体的かつ本質的」な答えを常に心がけています。

本質とは「的を射ている」ということ。目指すところはまさにそこです。

たとえば、AさんがBさんに「昨日の休日は何をしていたの」と聞いたとしたら、Bさんは「午前中はジムに行って筋トレしたよ」とか、「夜はナイターを観に行ったよ」と答えればいいところを、朝7時に起きて洗濯をして、そのあとで布団を干して……などと、味のない事実の羅列をひたすらしてくれるかもしれません。

しかし、これは具体的なだけで本質ではないわけです。

■田中角栄のスピーチが心をつかむ理由

あるいは、ゴルフ好きな方に「ゴルフのどんなところに魅力を感じていますか」と聞いているのに、「ゴルフは僕の人生だからさ」と返されても、質問者が知りたい答えにはなっていません。

その答えはその人にとっては本質なのかもしれませんが、具体性がまったくないのです。

また、「スライダーを打つにはどうしたらいいでしょうか」と相談されて、コーチが「とにかく根性だ! 気合でいけ!」としか答えられなければ、そこには具体性も本質性も両方ないということになってしまいます。

この、「本質性」と「具体性」の概念を4分割したのが図表1です。

【図表1】「本質性」と「具体性」
出所=『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』

理想はいうまでもなく、具体的かつ本質的であること。

齋藤孝『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』(宝島社)
齋藤孝『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』(宝島社)

すなわち、図の右上のゾーンにいくほど理想的ということになります。

これを実践できた典型の1人が、元総理大臣の田中角栄氏です。

彼は聴衆の求めているテーマを的を射るように選び出し(本質的)、感覚的なように見えてしっかりと数字や事例を並べ(具体的)、そうしたスピーチで人々の心をわしづかみにしたのです。

普段の自分の会話や文章が、この図のどのあたりにあるのか、落とし込んで分析してみるのもいいでしょう。

----------

齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。

----------

(明治大学文学部教授 齋藤 孝)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください