最良の官僚は最悪の政治家である…泉房穂氏が「今の日本に本当の意味での政治家はいない」と断言するワケ
プレジデントオンライン / 2024年2月9日 13時15分
※本稿は、泉房穂『10代からの政治塾 子どもも大人も学べる「日本の未来」の作り方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■官僚と政治家の役割の決定的な違い
官僚とは、ざっくり言ってしまえば、中央省庁に勤務する国家公務員のこと。中央省庁とは、内閣府や総務省、財務省、法務省などの各省庁、つまり国の主要な行政機関のことです。
彼らはそこに所属して、法案や予算案などのさまざまな政策を作り、それを実施できるよう調整しています。言わば、政治のプロフェッショナルとも言える存在です。
では、政治家とは何が違うのか? それはもう、明確に違います。政治家と官僚は、役者と裏方のようなものです。政治家が方針決定をし、それを実現するために、官僚が実務をこなします。
例えば、Aさんという政治家が、環境省の環境大臣に抜擢されたとします。そこでAさんは、「環境のために、レジ袋を有料化する」という政策を打ち出します。すると、環境省の官僚たちが、その政策がうまく機能するように、予算を組んだり、細かいルールを作ったりして、Aさんを全面的にバックアップします。そのようにして、政治家と官僚がうまく協力し合うことで、行政がスムーズに行われるしくみになっているのです。
……と、これは理想のお話。
■政治家は方針転換をする、官僚は現状維持をする
実際のところ、政治家と官僚の関係性を説明しようと思ったら、それだけで本を1冊書けてしまうほど複雑なものです。どちらも政治を生業にしている点では同じですが、そのスタンスは真逆と言っていいほど違います。
私の考えでは、政治家は方針転換をするもの、官僚は現状維持をするものだと思っています。そんな真逆の両者が一緒に仕事をしようと思っても、「もうちょっとこっちの言うことを聞け!」という感じで、どう転んでもケンカになってしまうわけです。
■景気が良い時代は現状維持の官僚スタイルで問題なかった
19〜20世紀のドイツの社会学者で、マックス・ウェーバーという人がいます。官僚というものを本格的に研究した人で、こんな言葉を残しています。
「最良の官僚は、最悪の政治家である」
これ、ホンマにその通りやと私は思っています。官僚という人たちは、「今の状態をキープしよう」という現状維持は得意ですが、「今の状態を何とかしよう」という方針転換が苦手です。「今までのやり方は正しい」という前例主義がベースにあって、昔のやり方をなかなか変えようとしません。
もっとも、官僚は政治家と違い、省庁という大きな組織に属しているので、組織を守るためにそういう姿勢になるのも理解できなくはありません。かつての日本なら、現状維持もアリでした。
かつての日本とは、例えば、昭和の高度経済成長期(1955年からの約20年)の頃。あの時代は景気もよく、放っておいてもどんどん経済が上向いていったので、現状維持の官僚スタイルで問題なかったと言えます。
でも、今の日本はどうでしょう。君もニュースで耳にしたことがあるかもしれませんが、景気は悪く、税金は上がる一方で、国民の暮らしは最悪の状態です。
日本は先進国にもかかわらず、30年以上も給料が上がっていない、極めて貧しい国に成り下がっています。こういう時代に求められているのは、現状維持の官僚ではありません。方針転換ができる大胆な政治家です。
そもそも、政治家は、国民の投票で選ばれた人たち。対して官僚は、国家試験に合格して職に就いた国家公務員です。政治を執るのは官僚ではなく、国民の願いを背負った政治家であるべきなのです。
なのに現状は、やたらとその方針に口を出してくるエラそうな官僚ばかり。さらに最悪なのは、そんな官僚にペコペコして、現状維持に徹してしまっている政治家が多いという現実です。これだけは必ず覚えておいてください。政治を執るのは官僚ではない。政治家なのです。
■市長とは「方針」「予算」「人事」を理解し実行する人
では具体的に、市長の仕事とはどんなものなのでしょうか。私が思う市長とは、以下の3つの権限をきちんと理解し、実行していく人のことです。
(2)「予算」を決める
(3)「人事」を行う
(1)の「方針」とは、どんな街を、どんな社会を作りたいかをイメージして、その方針を定めること。子どもにやさしい街を作るのか、歴史あるお城や街並みの魅力を伝えて、観光地として栄える街を目指すのか。政治家として、市民が幸せに暮らしていくためには、どんな街づくりが求められているのかを考えます。
![書類にサインするイメージ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/e/1200wm/img_9e75351430dc55160197f51950640c3e581805.jpg)
■求められる人材を見極めて正しい場所に配置する
方針が決まれば、それを実現するため(2)の「予算(お金の使い道)」について考えます。子どものいる家族に補助金を出すにも、観光地のお城を修復するにも、すべてお金が必要です。そのお金は、市民の税金によってまかなわれていることをしっかりと意識して、予算の配分を決めていきます。
それぞれの予算が決まれば、それを正しく使ってくれる(3)の「人事(人の配置)」をします。例えば、街に児童相談所を作りたいと思ったら、子どもに詳しい専門家がいれば心強いでしょう。観光地として街を盛り上げたいなら、訪日外国人にも対応できる人が必要になります。求められる人材を見極めて、正しい場所に配置するのも、市長の仕事です。
市長がすべきことはこの3つ。とてもシンプルです。
■3つのテーマを理解している政治家はごくわずかしかいない
君がもし部活やサークルに所属していたら、基本的な構造は同じはず。
まず、全国大会を目指す強豪チームを作るのか、和気あいあいとみんなで楽しむ集まりにするのか、部活の方針を決める。それに伴い、必要であれば部費を徴収する。さらに、役割分担を決める。リーダーは誰か、レギュラーは、補欠は、掃除当番は誰にするか。そういう組織の成り立ちがそのまま、政治にも反映されています。
![泉房穂『10代からの政治塾 子どもも大人も学べる「日本の未来」の作り方』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/9/1200wm/img_79121a85b8b79ec1214eab7583aa9946242639.jpg)
「方針」「予算」「人事」という大きな3つのテーマにたずさわり、それぞれを決める権利があるのは、市長や総理大臣といったトップの政治家に限られています。
市長という仕事はやりがいがあると言ったのは、そういう理由もあるんです。同時に、市長や総理大臣に限らず、政治家であれば必ず理解しておくべきポイントでもあります。「方針」「予算」「人事」の3つのうち、どれか一つでもブレると、街やそこに住む人の暮らしを変えることはできません。もちろん、国もです。
では、今の政治家は果たして、この3つを正しく理解できているのでしょうか?
残念ながら、理解している政治家はごくわずかです。市長に関しては、「自分にこの3つを動かす大きな力がある」と自覚している人自体がほとんどいません。大げさな物言いではなく、今の日本に、本当の意味での政治家はいないと言ってもいい。「政治家とは方針転換ができる人」だと述べましたが、まさに市長こそが、方針転換をするべき人で、その権利を持っている人です。
もし君が将来、市長を志すことがあれば、その力を存分に活かせるような市長になってください。
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前明石市長
1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。2023年4月、任期満了に伴い退任。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。
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(前明石市長 泉 房穂)
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