1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

IQ200~135の優秀な生徒1528人を35年間追跡調査した結果…「知能指数」と「人生の成功」についての意外な結論

プレジデントオンライン / 2024年2月14日 14時15分

「IQの高さ」はほぼ生まれつき決まっている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/NataliaDeriabina

人生で成功するにはどんな能力が必要なのか。サイエンスライターの鈴木祐さんは「スタンフォード大学はIQが高い1528人の生徒を35年間にわたって追跡調査したことがある。その結果、知能と成功は相関関係にはない、という結論が得られている」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、鈴木祐『天才性が見つかる 才能の地図』(きずな出版)の一部を再編集したものです。

■「成功に欠かせない能力」は本当に必要なのか

【猫師匠】「自信さえあれば人生はうまくいく」とか「成功にはポジティブ思考が欠かせない」といったフレーズを、自己啓発やビジネス書などで一度は目にしたことがあるだろう。

【弟子】そうですねぇ。そのせいで、「僕は自信がないからだめなんだ」とか「もっとポジティブにならないと」とか考えて、落ち込んじゃうことがあります。

【猫師匠】具体例をあげていこう。世の中で「成功に欠かせない能力」としてよく言われるのは、次のようなものだ。

①IQの高さ

②自信の大きさ

③ポジティブ思考

④コツコツやり抜く力

⑤大量の練習

【弟子】えっ、どれも超大事そうじゃないですか⁉

さすがに「これさえあれば絶対に成功できる能力」みたいなものがあるとは思ってませんけど、社会で活躍するためには役立つんじゃないですか?

■「IQの高さ」はほぼ生まれつき決まっている

【猫師匠】そんなことはない。ここに挙げた能力を持っていても、世の中で高いパフォーマンスを発揮できるかどうかはまったく予測できないんだ。

【弟子】ホントですかぁ? 納得できないなぁ。

【猫師匠】それでは、まずは「IQ」の重要性からチェックしていこう。言うまでもないが、IQは人間の知能を表す指標のことで、この数字が高いかどうかは、ほぼ生まれつき決まってしまう。

■スタンフォード大学が調査した「IQと成功の関係」

【弟子】要はIQが高いと頭が良いってことですよね。知能が高いのなら、さすがに人生に成功しやすいのでは?

【猫師匠】「人生の成功」の定義があいまいだから、話をわかりやすくするために、「保有する資産」か「社会的な地位」で考えていこうか。

ざっくり、この2つを手にした人は、人生に成功したものと考えても、大きな問題はないだろう。人生においては個人の幸福も大事だけど、計測が難しいからね。

【弟子】そうですね。資産と地位で判断すれば、少なくとも特定の世界で評価されていると言えそうです。

【猫師匠】IQと人生の成功については、1920年代に、スタンフォード大学の心理学者ルイス・ターマンが大規模な調査をしている。ターマンはアメリカの学校から1528人の優秀な生徒を集め、全員を35年にわたって追いかけて、どんな人物になるのかを確かめたんだ(※1)

※1 心理学の分野で最も古く、最も長く続いている縦断研究のひとつである。才能ある子どもの成人期までの発達と特徴を調べたもので、このデータからは、5冊の本や数十本の論文が生まれている。

生徒たちのIQは135から200のあいだで、170を超える子どもも77人いた。

■「IQが高い子ども」はほとんど成功しなかった

【弟子】一般人のIQは90から100ぐらいだから、かなりの頭脳集団ですね。これは期待できそうですが……。

【猫師匠】残念ながら、研究に参加した子どもたちで、大人になってからも天才的な才能を示す者はいなかった。

「IQが高い子ども」はほとんど成功しなかった(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/pinstock
「IQが高い子ども」はほとんど成功しなかった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/pinstock

なかには教授や医師、経営者になった者もいたが、全体的には地味な職業についた者が多く、研究チームも「知能と成功は相関関係にはない。この研究対象からはノーベル賞受賞者も、ピューリッツァー賞の受賞者も、ピカソのようなアートの成功者も生まれなかった」と報告している。

■むしろ「優秀ではない子ども」のほうが成功した

【弟子】頭が良い人を1500人以上集めても、そんな感じなんですか。

【猫師匠】ちなみに、この研究への参加を断られた子どもたちのなかからは、逆に大人になってからノーベル賞を受賞した人間と、世界的な音楽家になった人間が、それぞれ2人ずつ出ているよ(※2)

※2 ウィリアム・ショックレーと、ルイス・アルバレス。それぞれ、1956年と1968年にノーベル物理学賞を受賞した。

【弟子】それは切ないですねぇ。でも、これは世界的なレベルの成功者を調べたものですよね? そこまでいかないまでも、もっと身近な成功なら予測できるのでは?

■CEOのIQは平均レベルだった

【猫師匠】もちろん、IQの高さは、それなりに人生に影響をおよぼすことがわかっている。ある研究では、生まれつきIQが高い人は、物理学者、エンジニア、神経外科医などの職業で活躍しやすかった。そのおかげで、IQが高い人は年収も高く、ポイントが1つ上がるごとに、平均で約2万5000円から6万円ぐらい年収が上がる(※3)

※3 ボストン大学による調査では、米国のベビーブーマー7403人を大量に追跡し、IQテストのスコアが1ポイント上がるごとに、年収がどのように変わるのかを確かめた。すると、IQと年収には一定の相関が見られたものの、現在の総資産額については、IQが平均より下の人でも、IQテストの点数が高い人と同じぐらいの裕福さである事実が認められた。IQが高い人は金銭的なリスクを取りやすく、クレジットカードの過剰な使用や、ギャンブルによる自己破産などで経済的に困窮するケースが多いのだと思われる。

【弟子】やっぱりIQが高い人が有利じゃないですか!

【猫師匠】そう思うだろうが、だからといって、平凡なIQの人が不利だという結論にはならない。

CEOのIQは平均レベルだった(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/FangXiaNuo
CEOのIQは平均レベルだった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/FangXiaNuo

2万6000人のCEOを調べたデータでは、彼らは他の労働者の平均12倍を稼いでいたにもかかわらず、IQについては平均レベルの人が多かった。なかには、平均を下回るCEOも珍しくはなかったんだ(※4)

※4 ニューサウスウェールズ大学などの調査では、2万6000人のCEOを、6000人以上の弁護士、9000人の医師、4万人のエンジニア、9000人の大卒の金融専門家と比較。その結果、「トップエグゼクティブは、私たちが思っているほど賢くはない。私たちが調査したCEOは、いかなる種類の『認知エリート』にも属していなかった」と結論づけている。

■「IQの高さが活きる職業」は限られている

【弟子】あ、IQが低いからといって、稼げなくなるわけじゃないんだ。

【猫師匠】結局のところ、IQの高さは複雑なスキルが必要な職業では活きるが、それ以外の仕事では、知能のメリットをうまく使えないと考えられる。

【弟子】頭の良さが活きる職業は限定的なんだ、と。

「IQの高さが活きる職業」は限られている(※写真はイメージです)
写真=iStock.com/Thapana Onphalai
「IQの高さが活きる職業」は限られている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Thapana Onphalai

【猫師匠】さらに、別の大規模な研究では、IQと両親の経済状況で、どれぐらい将来の収入を予測できるかを調べたものもある。つまり、IQが高くて両親が裕福な子どもは、大人になってどれぐらい金持ちになれるかを調べたわけだ(※5)

※5 ちなみに、この研究では、IQは、両親の裕福さよりも3倍高い「ベータ値」を示している。そのため、どの家庭に生まれるかよりは、生まれつきの頭の良さがずっと重要かもしれないとは言える。

【弟子】どちらの条件もそろっていたら、かなりの高収入になれそうな気がしますが。

■「IQが高くて両親が裕福な子ども」が有利とは限らない

【猫師匠】そう思うよね。ところが、実際には「両親の裕福さ」と「子ども時代のIQ」という2つの要素を合わせても、将来の年収の約14%しか説明できなかった。

【弟子】生まれつき頭が良くて家庭に恵まれていても、それぐらいのものなんですか。

【猫師匠】そうだね。すべてをひっくるめれば、IQで未来の成功を説明できるとはとても言えない。だから、知能が低い人は自分がハンデを負っているとは思わないほうがいいし、知能の高い人も自分が優位に立っているとは思わないほうがいい。

■学歴と収入はほぼ無関係だった

【弟子】IQで将来の成功を判断するのは難しいんですね……。

【猫師匠】いまのところ、IQの予測力がもっとも高いのは「学歴」だね。IQが高い人ほど、良い大学に入れる確率はかなり大きいよ。

【弟子】へー、それはちょっと良さそうですが。

【猫師匠】人生の成功を学歴で判断する人なら、それでもいいけどね。ただし、名古屋大学などの調査によれば、卒業した大学がいかに有名校だったとしても、その後の人生で高収入を得られるかどうかとは、ほぼ関係がなかったと報告されている(※6)

良い大学や高校に入ったところで、未来のパフォーマンスへの影響はほぼないようだ。

※6 名古屋大学などの研究では、一卵性双生児が違う大学に進んだ場合に、その後の年収にどのような違いが出るのかを調査。その結果、どの大学に進学したときでも、両者のあいだに賃金の差はほとんど見られなかった。

■「自分のIQを自慢する者は敗者だ」

【弟子】言われてみれば、学校の勉強と仕事の内容は別物ですからねぇ。

鈴木祐『天才性が見つかる 才能の地図』(きずな出版)
鈴木祐『天才性が見つかる 才能の地図』(きずな出版)

【猫師匠】学歴でキャリアのパフォーマンスを予想できないなら、名門校に入れたからといって、その先がどうなるかは誰にも判断できない。君は、良い大学に入るために、人生を送っているわけじゃないだろう?

【弟子】そうですね。卒業したあとも人生は続きますから。

【猫師匠】結局のところ、IQの高さは、私たちの未来を決定づけるものではない。

科学の研究ツールとしては大きな意味があるが、個人が使うものさしとしては、かなりお粗末なものと言っていいだろう。物理学者のスティーヴン・ホーキングは「自分のIQを自慢する者は敗者だ」と言ったけど、まさにそのとおりだ。

【弟子】もうIQを気にするのは止めます!

----------

鈴木 祐(すずき・ゆう)
サイエンスライター
1976年生まれ。慶応義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。著書に『運の方程式』(アスコム)、『YOUR TIME ユア・タイム』(河出書房新社)、『進化論マーケティング 』(すばる舎)、『最高の体調』『科学的な適職』(クロスメディア・パブリッシング)、『ヤバい集中力』(SBクリエイティブ)、『不老長寿メソッド』(かんき出版)他ベストセラー多数。

----------

(サイエンスライター 鈴木 祐)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください