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公立中学校は教育熱の低い家の子ばかりで学力レベルが…そんな動機で中学受験を子に課す親が泣きを見るワケ

プレジデントオンライン / 2024年2月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA

2月は中学受験を志す多くの小学生が通う塾の「新年度開講の月」にあたる。『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験 最強と最凶の分かれ道』(祥伝社新書)を上梓した中学受験塾経営者の矢野耕平さんは「このタイミングで塾通いを始めるという家庭も多いが、最近、入塾の動機に関して“危険”なものもあり、家庭でよく考えるべき」という――。

■「なぜ、わが子の中学受験を始めるのですか?」

2024年2月1日にスタートした東京都や神奈川県の国私立・公立中高一貫校の入試が終わった。2月は、中学受験塾にとって「新年度開講」のタイミングでもある。この時期からわが子が塾通いを始めるという家庭も多いだろう。

中学受験を始める動機として、保護者から耳にするのは次の2点である。

① 「地元の公立中学校は、『教育熱』の低い家庭の子供たちが集まるので、全体的に学力レベルが低いようだ。わが子はそんなところで学ばせたくはない」
② 「幼稚園から家族ぐるみで付き合いのあるAさんのお嬢さんが○○塾に通い始めて中学受験をするらしいので、ウチもそれにならって○○塾に通おうと考えています」

結論から申し上げると、この2点は中学受験をスタートする動機としては“危険”である。それは一体どうしてだろうか。順番にその理路を説明していきたい。

■「公立サゲ」の中学受験はわが子の首をしめる危険性

地元の公立中学校への不信感から中学受験を選択する家庭は存外に多い。

だが、「教育熱の低い家庭の子供たちが公立中学校に集まる」は本当なのだろうか。

1都3県(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)ベースでみると、小学校6年生全体の中で2月1日午前中に私立中学校を受験する子供(首都圏の私立中学受験者総数の近似値とされる)は約15%である。残りの約85%の子供たちは地元の公立中学校へ進学する。これをもって「中学受験ブーム」と称される中学受験は「特殊」な世界であるといえる。

ただし、東京都千代田区・中央区・港区・文京区・渋谷区・品川区・目黒区・世田谷区といったエリアの場合、通う小学校によっては7~8割が中学受験を志す子供が占めることもある。

中学受験はお金のかかる世界である。わが子をその道に歩ませるだけの教育費を捻出できるかどうか、親の収入事情と大きく関係している。中学受験をするか否かは「エリア」と「世帯収入」によって左右される。しかし、当然のことながら、そのエリア居住の家庭はみな「教育熱」や「学力」が高いとは言えない。

よくこんな言説が流れてくる。

■全体的な学力において中学受験者層>高校受験者層とは言えない

「中学受験者層は平均的な学力が極めて高いので、たとえ偏差値40であろうと、それを高校受験のそれに換算してみるとトップ層に食い込むことを意味する」

真っ赤なウソである。

中学受験者層と高校受験者層の学力の平均値を算出したとしたら、おそらく前者のほうが高く出るだろうが、そこまで圧倒的な差はないように思う。わたしは二十年近く前まで高校受験指導にも携わっていたが、中学受験をしたら間違いなく最難関校に合格できる実力のある子供が公立中学校に何人も在籍していたのを見ている。中学受験でいわゆる上位校を受験する子の学力は確かにとびぬけているが、そこに達しない子のほうが多い。学力差の高低はかなり大きいのが現実だ。つまり、全体的な学力において中学受験者層>高校受験者層とは言えない。

日本の制服の生徒たち
写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

そして、保護者から「公立サゲ」で中学受験を勧められたような子供たちが地元の公立中学校に進む周囲の友人に対して優越感を抱いてしまい、トラブルに発展したという事例もしばしば見聞きする。

それだけではない。

中学受験を選んだわが子が結果として「公立中学校」に行く可能性もあるのだ。受験した中学校がすべて不合格であるかもしれないし、中学受験勉強の中で壁にぶつかって受験を断念し、地元公立中学校に進むこともありうる。そうなったら、「公立サゲ」の価値観を植え付けられた子は、「自分はダメ人間だ」と自信喪失してやる気をなくしたり、勉強嫌いになったりすることもある。

「公立サゲ」が動機の中学受験は、わが子の首をのちのちしめる危険性があるのだ。一方で、「私立サゲ」をする公立礼賛派の人たちも存在する。彼らはよくこんなことを口にする。

「所得層の高い家庭で育った子供たちが集まる私立中高一貫校には多様性がない。公立中学校には家庭に貧富の格差が見られ、それは社会の縮図であり、子供たちにとって良い学びの場である」

でも、ちょっと待ってほしい。

家庭の懐事情で失われてしまうほど、「多様性」なるものは脆弱(ぜいじゃく)なのか?

貧困家庭で育った子供たちは、あなたのお子さんの「教材」なのか?

こんなふうに、わたしはこの弁に対して違和感と憤りを覚えてしまうのだ。

■友人と仲良く塾通い……やめたほうがよい理由

もうひとつの塾通いの動機である「仲良くしている家庭の子が○○塾に通い始めて、楽しそうにやっているので、それならわが家も……」もやめたほうがいい。

教室の前で仲の良い少年二人
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

わたしは距離の近い家庭であるほど、逆に同じ塾に通うのはやめたほうが無難だと感じている。

なぜなら、仲の良い家庭とわが家の家庭環境が同じとは限らないからである。一方の家庭は父親が学習に付き添っていても、もう一方の家は共働きで親が子の勉強を管理はできない。こういうケースが考えられる。

中学受験塾には、四谷大塚・日能研・SAPIX・早稲田アカデミーといったような大手塾から、わたしたちのような小中規模の塾までさまざまである。わたしはそれら塾を2つに大別できると考えている。

1つは「家庭主導型」、もう1つは「囲い込み型」である。前者については、あくまでも授業の提供が塾の役割であり、その予習や復習については家庭学習に任せるといったタイプの塾。後者については、家庭と受験勉強をある程度切り離して、授業以外に子供たちが塾内で毎日自習・質問できる環境を整えているタイプの塾である(わたしの経営する塾はこちらのタイプに相当する)。

どちらのタイプの塾が良いとか悪いとかの話ではない。各家庭がどちらのタイプの塾がよいのかをよく考えてほしいのである。

加えて、中学受験指導をする集団塾では、学力別にクラス編成されているところが多い。ずっと仲良く付き合っていた家庭の子と、学力差が大きくついてしまうと、それをきっかけに関係がぎくしゃくすることもある。算数・国語・理科・社会の得点などを比較することで仲良し関係に摩擦が生じるケースが散見されるのだ。中学受験はあくまでも「個人戦」である。わが家にとってそれが「よきこと」と心から思えれば中学受験を選べばよい。

■中学受験の魅力とはどういうものか?

矢野耕平『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験 最強と最凶の分かれ道』(祥伝社新書)
矢野耕平『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験 最強と最凶の分かれ道』(祥伝社新書)

ここで中学受験の魅力とは何か、改めて考えてみたい。わたしは中学受験勉強で求められる科目学習の範囲の広大さと、それらの奥深さを早いうちに学べること、そのものに大きな意味があると考える。確かに子供の負荷は大きいが、中学受験が“学びの基盤”を構築してくれる。その基盤は一生モノである。

また、中高一貫校のメリットは高校受験がなく6年間の中高生活を謳歌(おうか)できる環境であることもある。多感な子供たちにとってたくさんの学びがあり、部活などで出会った友人は6年間の付き合いだけでなく、大人になってもその関係性が続くことが多い。そうした友人は人生の大きな財産になる。

筆者が2月1日に上梓した『ぼくのかんがえた「さいきょう」の中学受験 最強と最凶の分かれ道』(祥伝社新書)では、中学受験ではどのようなカリキュラムで、どのようなことを学ぶのか、あるいは、中高一貫校には形態別にどう分類されて、それぞれどのような特徴を持っているのか、などについて詳しく記述した。機会があればぜひ手に取ってほしい。

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矢野 耕平(やの・こうへい)
中学受験専門塾スタジオキャンパス代表
1973年生まれ。大手進学塾で十数年勤めた後にスタジオキャンパスを設立。東京・自由が丘と三田に校舎を展開。学童保育施設ABI-STAの特別顧問も務める。主な著書に『中学受験で子どもを伸ばす親ダメにする親』(ダイヤモンド社)、『13歳からのことば事典』(メイツ出版)、『女子御三家 桜蔭・女子学院・雙葉の秘密』(文春新書)、『LINEで子どもがバカになる「日本語」大崩壊』(講談社+α新書)、『旧名門校vs.新名門校』』(SB新書)など。

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(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平)

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