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リニア妨害の川勝知事も「法律」には勝てない…静岡県にリニアを通すためにJR東海が最優先でやるべきこと

プレジデントオンライン / 2024年2月9日 5時15分

1月29日の会見で「事実誤認」を否定する川勝知事(静岡県庁) - 筆者撮影

川勝知事のリニア妨害によって静岡工区の着工が先送りになっている。膠着を打破するにはどうすればいいのか。ジャーナリストの小林一哉さんは「妨害にはどんな手も使う川勝知事だが、『法には則る』と言っている。その言葉を信じるならば、JR東海は河川法に基づく行政手続きを進めるべきだ」という――。

■リニア問題が膠着状態のままでいいのか

昨年12月から新年早々に掛けて、川勝平太・静岡県知事がリニア問題に関するデタラメ発言を続けたことで、JR東海は1月24日、「知事発言の事実誤認」を指摘する異例の記者会見を開いた。

「事実誤認」の指摘に対して、川勝知事は「JR東海が公の場で出したデータを基に発言している。事実認識は誤っていない」と真っ向から反論した。

川勝知事のデタラメ発言を見れば、リニア問題の解決への道のりはあまりにも長く、ことし1年も相変わらず膠着(こうちゃく)状態が続くと関係者の多くがあきらめ顔になっている。

何よりも政府がリニア問題に関与して5年目を迎えたが、川勝知事のデタラメ発言に手をこまねいて、何らの解決策を出せない状態が続いているのだ。

結局、この難局を打開するためには、当事者であるJR東海がリニア問題への解決に向けて真っ向から対応するしかない。

いったい、JR東海は何をどうすべきなのか?

■開業に影響が出ないよう政府も関与を表明したが…

まず、政府の関与から振り返る。

2019年7月5日、川勝知事は名古屋市を訪れ愛知県の大村秀章知事とリニア問題の解決策について会談した。

その席で、川勝知事は「大井川の流量減少問題が解決されない限り、着工を認めない」として、東京・品川―名古屋間の2027年開業は「見直すべきであり、現実的ではない」と発言した。

これで、静岡工区の早期着工を求める大村知事らの声をかき消してしまった。

ただ、川勝、大村の両知事との間で、「国の関与が必要」という認識では一致した。

この会談を受けて、翌日の6日、菅義偉官房長官(当時)が「(2027年開業)予定に影響が及ばないよう、両者(静岡県、JR東海)の間で客観的な議論が進むよう国土交通省として必要な調整を行う」と政府として関与する方針を表明した。

菅長官の表明を受けて、国交省事務方トップの事務次官が10月に静岡県庁を訪問したが、川勝知事にいいようにあしらわれただけだった。

■「環境への影響なし」に別の「全量戻し」で対抗

その後、国交省は2020年4月、南アルプス・リニアトンネル工事に伴う大井川の水環境問題を議論する有識者会議を何とか立ち上げて、それまでの県地質構造・水資源専門部会の議論などの検証を始めた。

2021年12月、第13回目の国の有識者会議は、①トンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される、②トンネル掘削による中下流域の地下水量への影響は極めて小さい――とする中間報告をまとめた。

大井川中下流域の水環境への影響はないとの結論を出した国の有識者会議
写真=国交省提供
大井川中下流域の水環境への影響はないとの結論を出した国の有識者会議 - 写真=国交省提供

つまり、国の有識者会議は「リニア工事による大井川中下流域への水環境への影響はない」と結論を出したのだ。これでリニア問題は解決へ向けて大きく前進すると思われた。

ところが、静岡県は「工事期間中も含めトンネル湧水の全量戻しが必要であるとの認識の上で、工事中のトンネル湧水の全量の戻し方について解決策が示されておらず、水温を含む水質への影響、発生土の処理方法などの議論も十分行われていない」などとした上で、「現状では、南アルプス工事を認める状況ではない」との見解を示した。

翌年2022年1月20日、流域10市町長らが加入する大井川利水関係協議会が開かれ、この見解が全会一致で認められてしまった。

県の見解にある「工事期間中」とは、静岡、山梨県境付近での工事期間中を指す。

もともとは南アルプスのリニアトンネル工事中、工事後に大井川の流量が毎秒2トン減少することに対して、川勝知事は「全量戻せ」を唱えた。

その後、JR東海が毎秒2トンの全量を戻すと表明すると、県境付近の工事期間中の湧水減少を問題にして、川勝知事は新たな「全量戻し」を求めた。

■リニア問題の争点がどんどんずれていった

この辺りから、リニア議論が非常にわかりにくくなった。

新たな「全量戻し」と従来の「全量戻し」がごちゃ混ぜとなり、一般の人たちはいったい何が違うのかわからなくなったのだ。

県専門部会で、JR東海は、作業員の命の安全を確保するために県境付近では山梨県側から上向きに掘削するとして、約10カ月間の県境付近の工事期間中は、最大500万トンの湧水が山梨県へ流出することを説明していた。

「生命の安全」か「水一滴」かの議論の最中にもかかわらず、最大500万トンの湧水流出に対して、川勝知事は、静岡県の湧水は一滴も県外流出することを認めないとして、「県境付近の工事期間中の全量戻せ」を主張したのである。

一方、国の有識者会議は「県外流出する最大500万トンは非常に微々たる値であり、中下流域の利水上の影響はほぼない」とする見解を示した。

しかし、県は「最大500万トンの全量戻し解決策が示されていない」と強硬に主張した。これで、「中下流域への影響なし」とする有識者会議の結論そのものが何の意味も持たなくなってしまった。

結局、川勝知事の求める「県境付近の工事期間中に山梨県へ流出する湧水の全量戻し」がリニア議論の焦点となった。

■条件付きとはいえ「田代ダム案」を川勝知事がのんだ

JR東海は有識者会議で、県境付近の工事完了後に、山梨県内のトンネル湧水をポンプアップして、流出した湧水全量分を戻すと提案していたが、その提案に川勝知事はさまざまな言い掛かりをつけた。

このため、2022年4月の県専門部会で、JR東海は、大井川の水で水力発電を行っている東京電力リニューアブルパワーの内諾を得た上で、山梨県へ流出する東電・田代ダムの湧水を取水抑制してもらい、大井川にそのまま放流する「田代ダム案」を提案した。

リニア問題の焦点となった「田代ダム」の大井川取水口(静岡市)
筆者撮影
リニア問題の焦点となった「田代ダム」の大井川取水口(静岡市) - 筆者撮影

川勝知事が河川法の水利権を持ち出して、田代ダム案を妨害する言い掛かりが続いた。

これで1年以上も遅れたが、JR東海は昨年9月末、田代ダム案の具体的な実施策を流域市町など利水関係者へ説明、大筋の了解を得ることができた。

染谷絹代・島田市長らは「利水関係協議会として田代ダム案に合意する。これで水資源保全の問題は解決の方向が見えた」などと期待を寄せた。

流域市町などの強い姿勢に川勝知事は、昨年11月28日の会見で、「県境を越えた静岡県内の高速長尺ボーリングの実施は、生態系への懸念などに具体的な保全措置を示すことが条件」などと発言したが、何はともあれ、「田代ダム案」容認の姿勢を示した。

2022年1月の段階で、県は「県境付近の工事期間中のトンネル湧水の全量戻しの方法について解決策が示されていない」として、国の有識者会議の結論を蹴った。

ところが、条件をつけたとはいえ、「田代ダム案」が容認されたことで、川勝知事の求める「県境付近の工事期間中の全量戻し」が解決されたことになる。

■JR東海は河川法に基づく占有許可申請をすべき

染谷市長らの言う通り、「中下流域の水資源保全の問題は解決した」のであり、リニアトンネル工事による「下流域の利水上の支障がない」ことを、川勝知事を含めて大井川利水関係協議会が認めたことになる。

となれば、JR東海は河川法に基づく占用許可申請を行い、まずは「(リニアトンネル工事が)利水上の支障がない」ことを明確にさせるべきである。

リニアトンネル(斜坑、導水路トンネルを含む)は西俣川、東俣川(いずれも大井川上流部の分岐点からの呼称)の6カ所を地下約400メートル前後で通過する。

大井川は全長168キロのうち、駿河湾から下流域の26キロを国、そこから源流部までの約142キロを県が管理する。

西俣川、東俣川は県管理の部分であり、河川内(大深度地下を含む)に工作物を新築する場合、JR東海は知事の許可を得なければならない。

河川法許可の審査基準は、①治水上又は利水上の支障を生じるおそれがないこと、②社会経済上必要やむを得ないと認められるものなどである。

リニアトンネルの場合、これまでは「利水上の支障」が問題だった。

川勝知事は「中下流域の利水に支障がある」として、占用許可を認めない方針を堅持してきた。

ところが、川勝知事が「全量戻し」の解決策・田代ダム案を認めたことで、「利水上の支障」の懸念は解消されたのである。

つまり、JR東海が河川法の許可手続きに入る障害がなくなったのだ。

■あの川勝知事も「法律にはのっとる」と言っている

河川法の許可権限はこれまで何度か話題に上り、川勝知事は2018年11月19日の会見で、「JR東海との交渉材料に使うという姑息(こそく)な考えは持っていない。法律にのっとってやる」の発言を皮切りに、法律を遵守する姿勢を示している。

2019年7月5日、川勝知事は、愛知県の大村知事との会談で、「大井川の流量減少問題が解決されない限り、着工を認めない」と述べている。

「県境付近の工事期間中の全量戻し」は田代ダム案の容認で解決したのであり、これで川勝知事の言う「大井川の流量減少問題」が解決したことになる。

河川法占有許可を担当する県交通基盤部河川砂防局は、リニア問題の会議メンバーではないが、担当者は「JR東海から申請書類が提出されれば、審査基準に沿って、許可を出す」と述べている。

JR東海からの申請を受ければ、静岡県が占用許可を止める理由はなくなった。

JR東海の丹羽俊介社長(静岡市)
筆者撮影
JR東海の丹羽俊介社長(静岡市) - 筆者撮影

JR東海の丹羽俊介社長は、河川法の占用許可申請の提出と同時に、川勝知事への面会を求めればいい。川勝知事はいつでも面会を受けると述べている。

公開の席で、丹羽社長が「大井川流量減少問題が解決した」ことを説明すれば、いくら何でも川勝知事も占用許可をうやむやにはできないだろう。

「部分開業」など一連のデタラメ発言の訂正ではなく、丹羽社長は粛々と河川法の手続きを進めることを優先したほうがいい。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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