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なぜ日本人は「仕事への熱意」が145カ国で最下位なのか…日本人の「生産性」を高めるために必要なこと

プレジデントオンライン / 2024年2月13日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ooyoo

米ギャラップの調査によると、仕事への熱意や職場への愛着を示す「エンゲージメント率」が、日本は145カ国中最下位の5%で、4年連続で世界最低水準となっている。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「エンゲージメント率の低い職場は、生産性も低い傾向にあることがわかっている。日本人は働き方の姿勢を根本的にあらためる必要があるのではないか」という――。

■なぜ柳井社長は賃金を最大40%アップしたのか

2022年の1人当たり名目GDPランキングで、日本は32位となった。前年の27位からは5ランクダウンし、主要7カ国(G7)では最下位だ。名目GDPで世界第3位をキープしているものの、1位のアメリカ、2位の中国に大きく差をつけられ、4位のドイツに追い越されそうな状況だ(IMF調べ)。

日本の国際競争力は、低下の一途をたどっているように見える。もちろん個々の企業に目を向ければ、世界水準の競争力を意識する経営者はいる。例えば、ファーストリテイリングは昨年、国内で正社員の賃金を最大40%ほど引き上げると発表した。柳井正会長兼社長は「海外の人はハードに仕事をしており、日本は生産性が低いことを自覚する必要がある」と発言した。

この報酬制度について、同社は「成長意欲と能力ある従業員一人ひとりにフェアに報い、企業としての世界水準での競争力と成長力を強化するため」と説明する。

■日本の「労働生産性」はG7で最下位

日本の国際競争力が低下した原因はいくつも考えられる。なかでも見逃せないのは、よく言われる生産性の低さだ。シンクタンク「日本生産性本部」の調べでは、日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)は、2022年のデータでOECD加盟38カ国中の31位だった。G7で最下位であり、1970年以降で最低の順位だ。

国際比較で指摘される日本の弱みはもうひとつある。「社員エンゲージメント」だ。米ギャラップ社が発表した2023年版リポートでは、日本は145カ国中で最下位だった。仕事や会社への熱意、貢献意欲などが高い「エンゲージしている社員」はわずか5%で、4年連続で過去最低となっている。

【図表1】日本人の「仕事への熱意」は145カ国最下位の5%(2022年)
出典=米ギャラップ「State of the Global Workplace 2023 Report」

なぜ、日本人の生産性やエンゲージメントは低いのか。筆者は、会社が“個人の強み”を活かせないことが大きな原因の1つだと見ている。個人の強みを活かせれば、社員一人ひとりのパフォーマンスは高まり、結果として会社の業績が伸びる。日本の競争力も強まるという好循環が生まれてくるはずだ。

■アメリカは「個人の強み」を活かしている

筆者は、世論調査やコンサルティングで知られる米ギャラップ社の「上級ストレングスコーチ講座」に米国シカゴで参加したことがある。5日間のプログラムで、アメリカの国際競争力は“個人の強み”を活かすことに起因していると知って驚いた。日本とは根本的に考え方が違ったからだ。

ギャラップ社は、国連が毎年発表する「世界幸福度報告」の調査データも提供している。調査の基礎にあるのは、同社が提供する強み診断テスト「ストレングス・ファインダー(クリフトンストレングス)」や「社員エンゲージメント」のフレームワークだ。強み(ストレングス)を活かすことは、熱意や貢献意欲(エンゲージメント)を高める最重要項目であり、社員の幸福度(ウェルビーイング)にも大きく影響する。

同社における「ストレングス」「エンゲージメント」「ウェルビーイング」の関係について、筆者が分析したのが図表2である。

【図表2】ギャラップ社フレームワークの全体構造
筆者作成

ギャラップ社が提供する「エンゲージメント・サーベイ」は、わずか12個の質問(Q12)で社員のエンゲージメントを測定する。例えば、以下のような質問だ。

Q1:職場で自分が何を期待されているのかを知っている
Q2:仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
Q3:職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている

このような質問に対して、自分が当てはまるかどうかを5段階で答えることで、社員1人ひとりのエンゲージメントが診断される。

「Q12」については、過去の記事で詳しく紹介しているので参照してほしい。

■日米で「大きな差」がつく当然の理由

「たった12個の質問で、エンゲージメントが本当にわかるのか?」と疑う人もいるだろう。なぜなら、日本企業で実施するエンゲージメント調査は、質問が50個以上あることが珍しくない。なかには100個以上の質問を社員に尋ねる調査もある。

だが、ギャラップ社の質問がたった12個であることには意味がある。日米の企業で、マネジメントの発想に重要な違いがあることを示す好例といってよい。

日本企業では何か施策を考えるときに、「あれもこれも」と範囲を広げ、総花的になることが多い。経営戦略でも、とにかく網羅的に有力な事業をリストアップしようと努める。会社のリソースが100あるなら、20個の施策に5つずつばら撒くような経営計画になりがちだ。

一方、アメリカ企業は「選択と集中」が基本だから、100のリソースを3個の施策に集中投下しようと、対象の絞り込みにエネルギーを費やす。日米でリターンに大きな差がつくのは当然だろう。

日米の違いは、エンゲージメント調査にも表れる。ギャラップ社は、本質からズレた余計な質問は設けない。エンゲージメントの中核は“個人の強み”にあると、ターゲットを絞り込んでいるところに価値がある。

エンゲージメント・サーベイの精度が高いことは、同社のデータベースで証明されている。例えば、「Q12」で最もエンゲージメントが高いと診断されたチームは、最も低いチームよりも離職率が43%低く、品質上の欠陥も41%低いというデータがある。

【図表3】世界と日本の「エンゲージメント」は差が広がっている
出典=米ギャラップ

■部下の「強み」を活かすには…

「Q12」の質問は、マネジャーの仕事にかかわるものが多い。「Q1:自分が何を期待されているのかを知っている」でいえば、マネジャーが本人に期待することを伝えていなければ、社員の自己評価は低くなる。社員のエンゲージメントは、マネジャーの行動によって変化するということだ。

そのためギャラップ社では、各質問に対応するマネジャーの役割や行動を示している(出典=ギャラップ『まず、ルールを破れ』日本経済新聞出版)。例えば、以下のようなものだ。

【質問】
Q4:この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした

【マネジャーがとるべき行動】
□いい仕事をしたという評価を望ましい成果とそのもとになっている才能と結びつける
□個人の強みに着目する
□成果と結びつけて評価する
□褒めるべきタイミングを理解する


【質問】
Q6:職場の誰かが自分の成長を促してくれる

【マネジャーがとるべき行動】
□部下の適性を見出す
□才能とスキル・知識と区別する
□部下が強みを育てることを助ける
□部下の強みに適した仕事を与える

なお、上記の「才能」「スキル」「知識」について、ギャラップ社では次のように定義している。

才能:簡単には変えられない生まれつきのもの
スキル:仕事のノウハウ
知識:事実や経験

■「辞めていく人は会社を去るのではない」

優れたマネジャーには4つのカギがあり、「Q12」のうち6個の質問が対応している。

(1)人を選ぶ
(2)要求を設定する
(3)動機づけをする
(4)人を育てる
【図表4】優れたマネジャーの4つのカギ×Q6
出典=ギャラップ『まず、ルールを破れ』(日本経済新聞出版)の内容をもとに筆者作成

質問が50以上もある日本の調査では、マネジャーの具体的な行動に落とし込めない。変革に結びつかないサーベイのみで終わってしまうのだ。

ギャラップ社の講座で、よく語られるフレーズがある。

「辞めていく人は会社を去るのではない。部下に関心をもたないマネジャーから去るのだ」

マネジャーが特に強く関心を向けるべきは、部下の才能や強みだということだ。

近年は日本でも、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換を図るため、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作成する企業が増えてきた。ただし、職務内容を文書化するだけで終わっているケースが少なくない。

“個人の強み”を活かすアメリカ企業では、あるポジションを設けると、職務内容とともに担当者に必要な才能、強みも明らかにする。採用では、求められる才能、強みを意識して人材を探す。採用後は、もともと必要な才能、強みをもつ人材だから、仕事が好きでパフォーマンスもエンゲージメントも高い。ジョブ・ディスクリプションによって、個人と会社がともにハッピーな状況になる。

ジョブ・ディスクリプションは、才能や強みから人材を見つけ出す有力なツールになる。日本では、ジョブ・ディスクリプションの本質を理解して運用している企業がまだまだ少ないようだ。

■日本企業の「残念なカルチャー」

日本の企業でも“個人の強み”を活かすことの重要性が語られることはある。しかし実際に、強みが発揮されて高い成果を出した組織は少ない。残念ながら日本は、“強み”より“弱み”にフォーカスするカルチャーが根強い。

会社では組織の弱みを正して、全体の平均点を上げようとし、採用でも「◯◯ができない」と弱みばかりを問題視して強みのほうはあまり評価しない。アメリカのカルチャーでは、明確な強みがある人材の弱みなど、ほとんど気しないのだ。

日本人は小学生の頃から「苦手科目を克服して平均点を上げよう」という発想が染みついている。自分についても他人についても、欠点や弱みがすぐに意識される。外国に比べて英語を話せない人が多いのも、「発音や文法が完璧でなければ話せない」という意識が邪魔しているからではないか。

■「弱み」は無視して「強み」に目を向ける

ドジャースの大谷翔平選手が、1月に全米野球記者協会の夕食会に出席し、英語でスピーチして多くの人から称賛された。昨年まで所属したエンゼルスの各関係者に感謝を述べてはじまるスピーチは素晴らしい内容で、リズムのいい英語で堂々と話す姿に筆者も感激した。メジャーリーグで活躍した日本人選手のなかで、英語の上達はトップクラスだ。

ところがSNSでは、海外で活躍する日本人アスリートの英語スピーチに対して批判的な意見を見かけることがある。完璧な英語で話せないなら、日本語で話すべきだ、といった内容だ。スピーチの内容ではなく、英語力を問題視するのは日本人ぐらいだ。日本人らしい完璧主義の発想から出たものだろう。

筆者がシカゴ大学のビジネススクールに留学したとき、中国やインドからの留学生がどんどん挙手して発言するのに対して、日本人の発言は目に見えて少なかった。英語力にあまり差はないのに、完璧に話せないからと尻込みする人が多かったのだ。

英語で話すときに重要なのは、発音や文法ではなく、話の内容だ。価値ある話なら、相手はリスペクトして一生懸命に耳を傾けてくれる。

日本人は弱みばかり気にして、強みを活かせないことが多い。日本の国際競争力を高め、グローバルに存在感を示すためにも、“弱み”から“強み”へというパラダイム転換が求められている。

【図表5】日米の重要な違い
筆者作成

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。

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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭 構成=伊田欣司)

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