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「お菓子食べない?」と登下校中の児童を狙い…"見守りボランティア"の高齢者男性が自宅で行った卑劣な犯行

プレジデントオンライン / 2024年2月16日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

高齢者が性犯罪の加害者となるケースが増えている。犯罪加害者の家族を支援するNPO法人の代表を務める阿部恭子さんは「私が支援した事例のなかには、児童の登下校を見守るボランティア活動をしていた男性が、自宅に子どもを連れ込んでわいせつな行為に及んでいたケースがあった。家族は大きなショックを受けており、裁判にはひとりも顔を見せなかった」という――。

■元教師が児童へのわいせつ行為で逮捕

筆者は、加害者家族の支援に従事しているが、近年、当団体に寄せられる相談で目立つのが、高齢者による犯罪である。

性犯罪者といえば若者を想像するかもしれないが、高齢者が加害者となるケースも年々、増えている。たとえば、2014年における高齢者の検挙人員は1986年と比べて、強姦(ごうかん)(改正刑法が施行され、現在の罪名は「不同意性交等罪」に変更されている。)では約7.7倍(3人から23人)、強制わいせつ(改正刑法が施行され、現在の罪名は「不同意わいせつ罪」に変更されている。)では約19.5倍(11人から215人)に増加している。(*1)

ここでは、ある日突然、高齢者の親が性犯罪者となってしまった家族の事例を紹介したい。彼らはなぜ、性犯罪に手を染めることになってしまったのか。なお、プライバシー保護の観点から登場人物の名前はすべて仮名とし、個人が特定されないようエピソードには若干の修正を加えている。

佐々木茂雄(70代)は定年退職後、小学校に通う児童が安全に登下校できるよう見守るボランティア活動を行っていた。

茂雄はかつて、学校の教師をしており、退職後も町内会や地域の行事に積極的に参加するなど、地域の人々からの信頼も厚かった。ところがある日、茂雄が児童にわいせつな行為を行ったとして逮捕されたというのだ。

茂雄の家族も地域の人々も、最初は冤罪(えんざい)事件ではないかと疑った。ところが茂雄は容疑をすべて認めていた。

茂雄は、下校途中の女子児童にお菓子を食べていくようにといって自宅に連れ込み、わいせつな行為を行っていた。犯行当時、自宅には妻もおり、お茶の支度を手伝っていた。知らない大人について行ってはいけないと躾けられている児童も、さすがに見守りボランティアの高齢者に対しては警戒心を解いたことだろう。

私は遠方に暮らす茂雄の長男から相談を受けていた。事件の影響が最も深刻だったのは犯行現場にいた茂雄の妻であり、警察の事情聴取では、耳を塞ぎたくなるような事実を知らされ、「もう、生きるのが辛い……、死んでしまいたい」と、食事も喉を通らず寝込んでしまった。

(*1)法務省「性犯罪に関する総合的研究」

■「父親が性犯罪者になる」ことの苦悩

茂雄はこれまでも男女問わず、子どもたちを家に連れてくることがあった。妻はその度に、いつも子どもたちにお茶菓子を出していたのだ。警察は、余罪がかなりあるとみて調べを進めている。妻は、一度だけではなく、これまでも自分がいるところで茂雄がわいせつ行為に及んでいたかもしれないと思うと、自責の念に駆られ、胸が押し潰される思いだった。

地元に住んでいる長女も事件の影響に悩まされていた。茂雄が逮捕されたニュースが流れた瞬間から、この地域は事件の話題で沸いていた。長女は、連日のように住民たちから事情を聴かれ、対応に窮していた。

「娘も学校でいろいろ聞かれているらしく、おじいちゃん何したの? って言われて……」

長女もまた、憔悴(しょうすい)しきっている様子だった。父や夫が性犯罪者になるということは、女性の家族にとってはこの上ない屈辱である。

「もう、父のことは許せないです。とても面会なんか行く気になれません……」

落ち込む女性
写真=iStock.com/Watto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Watto

加害者に失望と怒りを隠せない家族の中で、唯一、同情の余地を残している長男が事件の処理を担い、警察署にいる茂雄に面会に行くことになった。

■面会で語ったのは謝罪ではなく「食事への不満」

「ここの飯は冷たくて不味いんだよ。揚げ物が多いしね」

警察署の面会室に現れた茂雄が長男に最初に語ったのは謝罪ではなく、食事への不満だった。茂雄の表情から、反省している様子は少しも見られなかった。

「悪いことをしたとは思ってないんでしょうね……」

長男はため息をついた。長女は、

「もう刑務所に行ってもらったほうが私たちも安心です。この辺をうろうろされるようになったら困るって言う近所の人たちもいるので……」

と、茂雄の保釈に協力するつもりもないという。これまで一度も女性トラブルなど起こしたことのない茂雄が、なぜ犯行に手を染めることになってしまったのか。私は家族の代わりに茂雄に面会に行くことになった。

面会室に現れた茂雄は、他人の私に対しては丁寧に対応し、日々、後悔している様子だった。

茂雄は昔から趣味もなく、教師一筋の人生だった。定年後も仕事を続けたかったが、地元には高齢者が働ける場所は少なく、都市部まで仕事に行きたいと妻に相談したが反対され、仕方なく子どもの見守りボランティア活動の日々を選んでいた。

■傍聴席には家族はひとりもいなかった

教員時代のように、子どもとともに学ぶ仕事がしたいという茂雄の意欲は、ただの見守りボランティアで消化することはできなかった。社会に居場所がなく、不全感ばかりが募る毎日のなかで、誰かに頼られたい、必要とされたい、昔の自分を取り戻したいという欲望が、子どもに特別な関係を迫るという歪んだ犯行を招いてしまった。

茂雄の裁判の日、傍聴席に家族は誰もいなかった。尊敬していた父、夫が腰縄をかけられ、被告人席に立つ姿を目の当たりにするのは家族にとって残酷である。

茂雄には執行猶予付き判決が下され、釈放後は老人ホームに入居することが決まった。妻とは判決確定後に離婚し、それぞれ、老人ホームで暮らしている。

■突然、強制わいせつ罪で逮捕された父親

木下健一郎(70代)は、定年退職後まもなく妻を亡くしてから独りで生活するようになり、半年前から、かつての部下の50代の女性と交際を始めていた。何も知らない健一郎の長女・奈津美(50代)はある日突然、弁護士を名乗る人物から、父親が元交際相手の女性を自宅前で待ち伏せし、抱き着くなどして強制わいせつ罪で逮捕されたという知らせを受けた。

奈津美は頭が真っ白になり、一瞬、詐欺の電話なのではないかと警察署に電話を入れると、父親は確かに勾留されていた。

電話に怯える女性
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

奈津美は弁護人の勧めにより、被害者との示談交渉に立ち会うことになった。被害女性は奈津美とほとんど年齢が変わらない女性だけに、奈津美は非常に気まずかった。しかし、被害女性は父親の元部下だったこともあり、被害届を出すかどうか、家族への影響も考えて躊躇したといい、終始、穏やかに対応してくれた。

健一郎と女性は、かつての上司と部下として、月に一度のペースで食事をしていた。ある時、健一郎から交際を申し込まれた女性が承諾すると、健一郎から毎日のように電話がかかってくるようになった。

健一郎は、女性と昼食を一緒に取りたいと会社にお弁当を持って迎えに来るようになった。帰宅時にも会社に車で迎えに来るようになり、最初はうれしかったが、健一郎に合わせようとすると、仕事のペースに支障が出るようになった。

女性は、デートは会社から離れた場所がいいと健一郎に頼むと、会社に来られることはなくなったが、今度は自分の家で一緒に暮らそうと言い始めた。健一郎の態度が負担になってきた女性が別れを切り出すと、健一郎は会って話がしたいと自宅に押し掛けてくるようになった。

■孤独を抱えた高齢者たちの暗い欲望

自宅の駐車場に現れた健一郎に、女性が

「これ以上、付きまとうようなら警察を呼びます!」

と警告すると、健一郎はその日は大人しく帰った。ところが翌日、女性が自宅の鍵を開けようとしたところ、女性は背後から健一郎に抱き着かれ、すぐさま警察を呼ぶことになったのである。

弁護人の話によれば、健一郎は妻を亡くした後、孤独な日々を送っており、話し相手は被害女性だけだったという。かつて経験したことのない、孤独な日々を埋め合わせるよう女性に依存していき、逮捕されてようやく目が覚めたと反省しているという。

一方、娘の奈津美は、そんな父親の孤独に全く気が付いていなかった。

「父は強い人で、寂しい思いをしているなんて、恥ずかしくて私たちには言えなかったでしょう……。これからは、もっとそばにいてあげようと思いました」

不起訴処分で釈放された健一郎は、知人の紹介で再び仕事を始め、多忙な日々を取り戻した。

誰しも家族には見せない一面がある。それが性犯罪として現れた時、家族が受ける衝撃と屈辱は計り知れない。高齢者の性は半ばタブー視されているが、高齢者同士の恋愛や再婚が進むなか、こうしたトラブルも想定される。高齢化の一途を辿る社会において、直視せざるをえない問題となろう。

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阿部 恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。

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(NPO法人World Open Heart理事長 阿部 恭子)

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