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IT業界の覇権は「GAFAM」から「GOMA」に変わる…ビッグテックの力関係を一変させる「生成AI」のインパクト

プレジデントオンライン / 2024年2月16日 7時15分

2023年11月6日、カリフォルニア州サンフランシスコで開催されたイベント「OpenAI DevDay」で講演するオープンAI CEOサム・アルトマン。 - 写真=AFP/時事通信フォト

チャットGPTなどの生成AIの登場はビジネスに大きな影響を与えつつある。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「生成AIの登場によって、テック業界を牽引する企業は『GAFAM』から『GOMA』に変わりそうだ」という――。

※本稿は、田中道昭『生成AI時代 あなたの価値が上がる仕事』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。

■チャットGPTの驚くべき進化

生成AIが登場して1年。オープンAIのチャットGPTはいくつかの点で進展しています。

まず、23年2月に有料版のチャットGPTプラスを開始しています。無料版のチャットGPTでは、1回の質問に対する回答の最大応答文が1024単語(日本語で約2000文字)と制限されていますが、チャットGPTプラスでは約2万5000語と大幅に緩和されています。

しかも無料版がGPT3.5を使用しているのに対し、有料版では同年3月よりGPT4が採用され、より精度の高い回答が得られるようになっています。

有料版ではプラグインも利用できるようになっています。プラグインというのは、機能を拡張するための追加モジュールで、いわば便利な部品を追加して利用できるというものです。たとえばインターネット内の特定のページを元に回答してくれるプラグインや、食べログと連携し、レストランの検索と予約を助けてくれるプラグインといったものもあります。あるいは、指定したウェブサイトやドキュメントの情報を参照し、独自のAIチャットボットを作成してくれるプラグインといったものもあります。

■「無人のユーザーサポート」も実現できる

さらに23年11月には、GPTsという新しい機能が追加されました。これはプログラミングなどの特別な知識なしで、文章で指定して自分だけの便利なGPT搭載ツールが作成できるという機能です。

たとえば、自社のマニュアルを読み込ませ、このマニュアルの内容に沿った回答を優先させて表示させる、といった独自のチャットボットを作ったとしたらどうでしょう。社員がこのチャットボットを活用することで、自社のノウハウや方法に則った仕事を進めることができるようになります。

また、これをユーザーサポートやカスタマーセンターなどの回答に応用したらどうでしょう。このチャットボットがうまく機能すれば、無人のユーザーサポートも実現できます。

実はオープンAIでは、これらのユーザーが作成したGPTsを公開・販売できる「GPTストア」を24年1月にオープンしています。前年の23年11月末に公開すると発表されていたものの、サム・アルトマンの解任・復帰劇が勃発したためか延期され、24年1月になってオープンしたのです。

■生成AIのプラットフォーム化

オープンAIにとってこのGPTストアは、生成AIのプラットフォーム化の本命ともいえるものです。

近年のIT業界では、独自のプラットフォームを展開することで大きな利益を上げてきました。たとえばアップルは、アップストアでアイフォーンやアイパッドのアプリを配布・販売し、またアイチューンズ・ストアで音楽や動画といったデジタルコンテンツを販売。さらにアップルブックスでは電子書籍の販売を行っています。アイオーエス(iOS)をプラットフォーム基盤として、アプリからデジタルコンテンツまでこれらのプラットフォームで配布・販売を展開しているのです。

アマゾンでも、書籍や物販を中心に、さらにビデオや音楽、電子書籍といったデジタルコンテンツを販売するプラットフォーム化に成功しています。

アップルストア
写真=iStock.com/Nikada
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nikada

■これから「AI界を牛耳る」企業の条件

オープンAIは、チャットGPTをプラットフォーム基盤として有料版チャットGPTプラス、画像生成AIのダリ(DALL-E)、それにチャットGPTを利用するAPI、プラグイン、さらにGPTストアの展開によって、いわば生成AIのプラットフォーム作りを行おうとしているといっていいでしょう。

GPTストアではユーザーが作成した独自のGPTの配布・販売が行われるため、ユーザーがGPTを作ることで利益を上げることもできます。さらにこれらのGPTを利用する一般ユーザーは、当然ながらチャットGPTをこれまで以上に利用することになります。これがチャットGPTのプラットフォーム化です。

これまでのビッグテックは、プラットフォームを展開することで利益を上げ、巨大になってきましたが、生成AIの分野ではオープンAIがそのプラットフォーム作りの先陣に立とうとしているのです。

生成AIの発展が、ビジネス界や仕事を大きく変革するものであると予測される現在、AIのプラットフォーム作りに成功する企業こそが、AI界を牛耳ることになるものと予想されます。

■「GAFAM」から「GOMA」へ

現在のIT業界はGAFAMに代表されるビッグテックが牽引しています。それどころか、規模でいえばIT業界のみならず、産業界そのものをビッグテックが牽引しているといっても過言ではないでしょう。

そのビッグテックとして、GAFAM――グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト――がテック業界を支配し、世界を支配しているというのがビジネス界の見方でしたが、生成AIの登場でこのビッグテックにも変化が起こっているのです。

米国で長い歴史を持つ月刊誌の『アトランティック(The Atlantic)』が、23年10月に「AIの未来はGOMA(ゴーマ)だ(The Future of AI Is GOMA)」と題する記事を掲載したのです。

この記事によれば、これまで検索ならグーグル、ショッピングならアマゾンといった具合に、インターネット上で行うすべては、少数のテック企業、GAFAMに支配されてきました。最近の独禁法訴訟や内部告発などを考えても、これら少数の企業によって世界が支配されていると考えるのは難しいことではありません。

チャットGPT、コパイロット、バードのアプリが入ったスマホ
写真=iStock.com/Kenneth Cheung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kenneth Cheung

■ビッグテックの構成が変わりつつある

ところが生成AIの登場によって、このバランスが崩れ、GAFAMからGOMAに変わろうとしている、というのです。

GOMAとは、グーグル(Google)、オープンAI(OpenAI)、マイクロソフト(Microsoft)、そしてアンソロピック(Anthropic)の4社です。

グーグルは生成AIのバードで、オープンAIはチャットGPT、マイクロソフトはやはりチャットGPTを駆使した「新しいビング」やコパイロットで、登場したばかりの生成AI市場の覇権を握ろうとしています。

アンソロピックというのは、米カリフォルニア州で21年に設立された人工知能を扱うスタートアップ企業ですが、設立メンバーはオープンAIにいた社員です。汎用(はんよう)人工知能(AGI)と大規模言語モデルの開発を専門としている企業ですが、設立翌年の22年には、グーグルから4億ドルの投資を受け、グーグルクラウドと正式に提携しています。

■生成AI時代を牽引するもの

この4社の関係を見るとわかるように、グーグル+アンソロピック対マイクロソフト+オープンAIという図式が見えてきます。今後の生成AIを牽引していくGOMAとは、グーグルとマイクロソフト、またはオープンAIとアンソロピックという2連合の対立ともいえるわけです。

田中道昭『生成AI時代 あなたの価値が上がる仕事』(青春新書インテリジェンス)
田中道昭『生成AI時代 あなたの価値が上がる仕事』(青春新書インテリジェンス)

なぜ2つに収斂(しゅうれん)していくのか? 生成AIの開発・運営は、「目玉が飛び出るほど高くつく」(サム・アルトマン)からです。たとえば、チャットGPTの運用は、1日70万ドル(約1億円)の費用がかかるとまでいわれています。グーグルのバードでも、検索の10倍のコストがかかると試算されています。

これらの費用をまかない、しかも利益を出していくのは、現在のビッグテック以外では不可能でしょう。しかも生成AIが、どの程度の利益に結びつくのか、いまはまだ不透明です。

GAFAMからGOMAへと、ビッグテックの構成も変革しつつありますが、それでもやはり生成AI時代を牽引するのは、ビッグテック以外にはないでしょう。生成AIの登場は、ビッグテックもテック業界も、さらにビジネス界をも、急激に、そして大きく変えようとしているのです。

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田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント
専門は企業・産業・技術・金融・経済・国際関係等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2025年のデジタル資本主義』など。シカゴ大学MBA。テレビ東京WBSコメンテーター。テレビ朝日ワイドスクランブル月曜レギュラーコメンテーター。公正取引委員会独禁法懇話会メンバーなども兼務している。

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(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント 田中 道昭)

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