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植物食恐竜はときどきカニも食べていた…貴重な「ウンコの化石」から見えてきた恐竜研究の最新仮説

プレジデントオンライン / 2024年2月25日 12時15分

ウンコ化石(コプロライト)が散らばるモンタナ州の化石産地(著者提供)

かつて恐竜はどんなものを食べていたのだろうか。最近になって恐竜の排泄物の化石の分析が進んだことで、少しずつ食生活が解明されつつある。恐竜学者の田中康平氏の著書『最強の恐竜』(新潮新書)から一部を紹介する――。

■あたり一帯に転がるコロコロした「ウンコ化石」

アメリカ・モンタナ州のバッドランドを歩いていると、卵殻化石はもちろんのこと、あたり一帯にコロコロした繭のような小さな岩が密集した地点があった。こういうコロコロした岩は踏むと滑って転びそうだからやっかいだ。実は、このコロコロした岩は全てウンコ化石なのだという。ウンコ化石と思われる岩は、地表を覆っている。おびただしい数だ。

正直、ほんまかいなと思った。ウンコと言われればそう見えるし、ただの泥の塊のようにも見える。ウンコ化石と言われた瞬間、急にその岩に価値があるような気がしてくる。どうして、それがウンコ化石と言えるのだろうか。

ウンコ化石は、正式にはコプロライト(coprolite)と言う。排泄される前の胃や腸の中の内容物はコロライト(cololite)と呼ばれる。尿化石はユーロライト(urolite)と言う。

これらは生物の体そのものの化石ではないため、体化石と区別して、生痕化石と呼ばれる。生痕化石にはほかに足跡化石や巣穴化石などが含まれる。恐竜のウンコ化石には、当時の糞虫が掘ったトンネル状の穴が見つかることがある。生痕化石の中に別の生痕化石が保存されるという、入れ子構造の化石だ。

■形状、大きさ、内容物から“主”を絞り込む

ウンコ化石は、ウンコとは全く関係ない地層中の別の構造物と混同してしまう恐れがあるため、判定にはいくつかポイントがある。まず、形状である。恐竜のウンコには細長い形状や塊状、ベチャっと崩れた形など、「それっぽい形」が挙げられる。

だが、形状だけの判断は早計である。内容物に植物片や骨片などの有機物質が含まれていること、肉食動物のウンコであればリン酸塩の化学組成を示すこと、化石を埋める母岩と独立した化学組成や構造をしていることなどが基準となる。もちろん、これらすべてを満たす化石がいつも見つかるとは限らないから、判定はケースバイケースだ。

ウンコ化石研究には重大な問題がある。ウンコをした主が特定できないのだ。ウンコの内容物から、植物食性か肉食性かは分かる(場合がある)。ウンコの大きさから、ウンコをした個体の体の大きさをある程度絞り込むことはできる。ただし、それだけの証拠から犯人を追い込むのはかなり大変で、ウンコ化石が単体で見つかった場合、捜査は難航する。

■体の化石と一緒に見つかる例は極めて珍しい

体化石と一緒にウンコ化石が見つかれば(状況証拠によって)ウンコの持ち主を特定することはできる。プシッタコサウルスというケラトプス類の恐竜では、マンガのようにペッタンコに潰れた化石が見つかっていて、軟組織まで綺麗に保存された標本が存在している。総排泄腔の跡まで確認でき、そのあたりには、ウンコとおぼしき物体がこびり付いていた。

また、クンバラサウルスというオーストラリアのアンキロサウルス類では、体化石とともにコロライトが見つかっている。この骨格標本は、過去にはミンミと呼ばれていたが、最近の研究で別属であることが分かっている。これまたマンガのようにペッタンコになった標本で、排泄前と思われる腸管内容物が体の表面にくっ付いていた。最後の晩餐の跡だ。

このような発見は極めて珍しい。「持ち主が誰か分からない問題」は卵化石や足跡化石にも共通しているが、卵の中に赤ちゃん骨格が残った化石や抱卵中の化石が見つかる卵化石よりも、さらに難易度が高いと言えるだろう。

モンゴル・ゴビ砂漠で化石を探す著者
写真=著者提供
モンゴル・ゴビ砂漠で化石を探す著者 - 写真=著者提供

■ティラノサウルスのウンコには骨のかけらが大量に含まれていた

恐竜のウンコ化石研究の第一人者に、アメリカのカレン・チン博士がいる。博士はこれまでに多数のウンコ化石論文を発表しており、ウンコ化石を使って恐竜の生活や生態系を見事に解き明かしている。ウンコは健康のバロメータと言われるくらいだから、たくさんの情報が詰まっているのだ。ここでは、ウンコ化石の成分を調べることで、どういうことが分かるのか、簡単に紹介しよう。

まずウンコ化石を調べることで、その恐竜の食生活を垣間見ることができる。例えば、この後紹介するが、ティラノサウルスのウンコ化石には骨のかけらが大量に含まれていた。その割合はウンコ全体の30~50%にもなる。ティラノサウルスはエサの骨を砕き、骨まで飲み込んでいたのだ。

骨片からディナーになった恐竜を特定するのは困難だが、鳥盤類恐竜の可能性が考えられるという。ウンコ化石や噛み痕が付いた植物食恐竜の骨化石の発見から、ティラノサウルスは獲物に骨ごとかぶりつき食べていたことは間違いないだろう。

■腐った木、カニの破片…意外な構成要素から推測できること

アルバータ州で見つかったティラノサウルス科のウンコ化石には、驚くべきことに食べた肉の痕跡が保存されていた。顕微鏡で観察すると、筋繊維という筋肉の軟組織が確認できる。普通、肉は消化・吸収されるはずだが、ウンコとして残っていたということは、消化が不完全だったか、排出までの時間がかなり短かったことを示しているのかもしれない。

植物食恐竜のマイアサウラのものと思われるウンコ化石には、針葉樹の木質部が大量に含まれていた。最大で85%にもなるというから、ウンコの構成要素の多くが硬い幹の破片である。ただし、木片には細菌による分解の跡が認められたから、腐敗した木を狙っていたようだ。

なぜ、かれらは栄養価の低い木質部を食べていたのだろうか。これはかなり変わった習性である。分解が進行中の腐った木だったらある程度消化しやすいから、エサの範疇に含まれたということなのかもしれない。いつも食べていたのか、その時だけだったのかは分からない。

このような木片が混じったウンコ化石では、ときおりカニなどの甲殻類の破片が見つかることがある。なぜ、植物食恐竜が甲殻類を食べたのだろうか。チン博士は、エサの種類が季節によって変化し、甲殻類を食べるタイミングもあったのではないかと考えている。

恐竜の繁殖行動を研究している私から言わせれば、カルシウムを補うために食べていた、と解釈することもできるのではないかと思っている。卵殻形成のためにはカルシウムが必要であるため、現生鳥類でも積極的にカルシウムを補給すること(例えば、カタツムリの殻を食べるなど)が知られている。

木片といい、甲殻類といい、ウンコ化石からしか分からない、奇妙な食生活だ。ウンコ化石は食べたものの直接的な証拠を示してくれるという点でとても重要である。

■イネ科植物がインドに広がったのはいつか…ウンコの化石から新説

他にも植物食恐竜のウンコ化石からは、植物の進化について知ることができる。インドの竜脚類ティタノサウルス類のものと思われるウンコ化石には、プラント・オパールと呼ばれるシリカが含まれていた。これはイネ科の植物に含まれる鉱物で、ティタノサウルス類がイネ科を消費していたことが判明した。

田中康平『最強の恐竜』(新潮新書)
田中康平『最強の恐竜』(新潮新書)

それまで、イネ科は新生代に放散したと考えられていたが、白亜紀後期の時点でインドに生えていたことが分かる。白亜紀後期当時、インドはひょっこりひょうたん島のような単体の島である。ということは、インドにイネ科が広がったのはまだインドが南半球の大陸と地続きかすぐ近くにあったときだろう。従来の考えよりも、ずっと早くからイネ科の放散は始まっていたのだ。ウンコ化石から、植物の壮大な進化物語が垣間見られる。

ウンコ化石は比較的まだ研究が十分に進んでいない分野である。恐竜の食性や生態、さらには当時の生態系での他の生物との関わりも見えてくる。真面目に言って、とても重要な研究対象である。今後のさらなる研究が期待される。ウンコにはフロンティアが広がっているのだ。

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田中 康平(たなか・こうへい)
筑波大学生命環境系助教
1985年名古屋市生まれ。北海道大学理学部卒業、カルガリー大学地球科学科修了。Ph.D.。恐竜の繁殖行動や子育てを中心に研究、NHKラジオ「子ども科学電話相談」でも活躍中。著訳書に『恐竜学者は止まらない!』『恐竜の教科書』など。

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(筑波大学生命環境系助教 田中 康平)

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