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他人の不機嫌はあなたのせいではない…「何かしてしまったのかも」と不安になりがちな人が抱えている"認知のゆがみ"

プレジデントオンライン / 2024年2月27日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ljubaphoto

ネガティブな感情とどう付き合えばいいか。ハーバード大学准教授の内田舞さんは「人にはそれぞれ考え方のクセがある。現実をゆがめて悲観的に物事をとらえる“認知のゆがみ”はストレスの原因になりやすい」という――。

※本稿は、内田舞『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)の一部を再編集したものです。

■忘れ物をして友人に借りたとき、どんな考えが湧くか

人はそれぞれ、考え方のクセのようなものを持っています。

ごくわかりやすい例でいえば、忘れ物をしてしまって友だちに貸してもらうことになったとき、「自分はなんてダメなヤツなんだ。友だちに迷惑もかけたし」と落ちこむ人もいれば、「友だちが貸してくれてラッキー! しかもこれを機に仲良くなれるかも」とワクワクする人もいますよね。

こうした物事に対する考え方のクセが、私たちを苦しめ、生きにくくもします。とくに、過度に悲観的に物事を捉えてしまっている場合、それはもはや現実をゆがめて認識してしまっている、さらにいえば何かに化かされて幻想を見てしまっているともいえます。そのクセを直さないかぎり、まいにちを生きていくのは相当に困難なものになってしまいます。

このような、現実をゆがめて認識してしまうほどのクセを、脳神経学的には、「認知のゆがみ(Distortion/ディストーション)」といいます。ディストーションがよいほうへ働くこともなくはないのですが、これが無意識に働き、ストレスの原因となっていることがままあるので、その正体を明かしておいて損はありません。

■考え方のクセを知れば感情と付き合いやすくなる

また、「自分が物事をどう捉えることが多いのか」という考え方のクセを知ることは、一度立ち止まってその感情が本当に正しいものかを客観的に見つめ直すモニタリングにも役立ちます。

自身の傾向を把握しておけば、「また、あの考え方のクセが出ているから、気をつけよう」と、悪いほうへ向かわないように方向転換できますよね。その都度、軌道修正できれば、感情の波も小さく抑えられるはずです。

これから紹介する代表的なディストーションの例を、自分自身の考え方と照らし合わせてみてください。考え方のクセを今すぐガラッと変えるのは難しいですが(無理に変えようとしなくてもいいものかもしれませんし)、こうした考え方のよくないクセがあるということを知るだけで、視点が変わることもずいぶんあるはずです。

ディストーションの正体をつきとめるために、まず、最近感じた、怒りや不安、心配、焦り、執着、もやもやなどのネガティブな感情を思い出します。無意識にわきあがってきたネガティブな感情や、あなたがいま感じている嫌な気持ちを、なるべく包み隠さず言葉にしてみましょう。

あわせて、ネガティブな感情が生まれた背景や原因、そのネガティブな考えによって、どのくらいの苦痛やストレスを感じているかも考えてみます。

そのネガティブな感情の背景には、ディストーションがあるかもしれません。ここから先は、当てはまるものがないか考えながら読んでみてください。

■「優勝できなかった…やってきたことは無駄だったんだ」

・ゼロヒャク思考

物事を「0か100か」という極論のみで考えてしまう思考スタイルです。「全か無か思想」ともいわれ、完璧主義の人がなりやすいです。「白黒つけないと気が済まない」「失敗したら何もかも意味がない」というように二者択一の思考パターンに陥っています。

このディストーションがかかっていると、たとえば優勝を目指していた大会の決勝戦で負けてしまったときに、「優勝できなかったから、すべて無駄だった」と感じてしまうかもしれません。

何か一つマイナスな要素があったとしても、「全部ダメだ」ではなく、「これはできないけど、この部分ならできる」とか、「いまはダメだけど、これからよくなってくるはずだ」といった「間」に目を向ける習慣をつけるといいですね。

たとえ優勝を逃したとしても、0か100かではなく、「準優勝できたことは誇っていい」「今まで努力してきた事実は変わらない」「努力の過程で得たものがある」といった勝ち負けの間にあるものに目を向けられれば、まいにちのクオリティは格段に上がっていきます。

また、ゼロヒャク思考が他人に向けられると、人の小さなミスが許せず、厳しい対応をとってしまうことにもつながります。

さらに、すべてが白か黒にはっきり分けられるものだと思い込んでいると、「ワクチンは効くのか効かないのかはっきりさせて!」といった態度をとるようになってしまうのも大きな問題だと思います。

本来、「こういう人にはどれだけの効果の可能性が認められていて、一方でこういう人にはこんなリスクがどれだけの確率で予想されている」といったさまざまな要素がグラデーションで存在するのが現実であり、「必ず白か黒で分けられるはず」というのは、現実をゆがめて見ている幻想なのです。

■「資料の作成ミスをした…私は無能だ」

・過度な一般化

たった一つの出来事から、すべてのケースにおいてそうだと思いこみ、結論づけてしまうディストーションです。

仕事で資料の作成ミスをしたときに、落ち込むあまり、「自分は何一つ仕事ができない」と自己嫌悪に陥ることがあるかもしれません。でも実際には、たとえ資料の作成が苦手なのだとしても、その他の仕事の得手不得手とはまったく関係ありません。それどころか、実際にある現実は、ただその資料の作成において一度ミスをしたというだけで、資料作成が苦手というものでもないはず。これが「過度な一般化」の罠です。

顔を覆うビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

別の例をあげれば、仕事の面接に落ちたという一例を根拠に、「私は面接というものには受からないんだ」と一般論のような結論づけはできないはずなのに、私たちは、たびたびこうした思考に陥ってしまいます。

たった一回だけ自分に起きた不幸が、この先もずっと繰り返されるように、あるいは別のケースでも起こるように思いこんでしまうのです。過度な一般化はモチベーションを下げ、自身の可能性が最大限に発揮できないように自らを制御してしまいます。

もう少し広い視点で見てみると、いま世界のあらゆるところで起こっていることですが、ある時に一人のアジア人から嫌なことをされたという経験だけを根拠として、「アジア人は全員が嫌なやつだ、アジア人が憎い」と結論づけたりするのも、「過度な一般化」の危険な一例です。

■「疲れた表情をしていた、私といて楽しくなかったんだ」

・ネガティブ“だけ”を見る

物事には良い面と悪い面の両方があるはずなのに、悪い面ばかりに目がいく、というディストーション。一般に「マイナス思考」といわれるものが、これにあたるかもしれません。

テストの点数が100点満点中80点だったとき。「80点もとれた!」とポジティブな面を見るのではなく、「20点分も間違ってしまった……」というネガティブな面に気をとられ、落ちこみます。

大好きな人と多くの時間を楽しく過ごせた一日でも、ある瞬間にわずかに恋人が見せた疲れた表情が気になり、「嫌われたかもしれない」と気に病んでしまうのです。

それ以上にたくさんのポジティブな瞬間があったはずなのに……!

■「褒められたけど、本心ではないだろう」

・良いところを認めない

ポジティブな出来事や結果を否定・軽視する考え方のクセです。

人から褒められたり、「あれは良い経験だったよね」と声をかけられたりしたときに、「いや、でも……」とつい否定的な言葉で打ち消してしまう傾向が、とくに日本人には多いかと思います。

テストに合格しても「たしかに合格はしたけれど、簡単な問題だったから誰でも受かる」「他の人にとっては大事なテストかもしれないけれど、私にとっては重要ではなかった」などと、ポジティブな出来事の価値を下げようとします。

人に優しくされたときにも、「ビジネスの都合上、優しくしているだけ。本心ではない」と感じたり、「今日は、たまたま相手の機嫌がよかっただけ」と捉えたり、受けとったポジティブな気持ちをなかったことにしてしまいます。

いやいや、ポジティブな物事は素直に受け止めようよ! ということですね。

■「誘いを断られた、私のことが嫌いなんだ!」

・論理の飛躍

目の前の現実から根拠もなく飛躍して、悲観的な結論に結びつけてしまうのが、「論理の飛躍」です。

「心の読みすぎ」や「勝手な未来予知」と呼ばれる飛躍の種類があります。

心の読みすぎは、英語ではmind readingと呼ばれるもので、相手の胸の内を勝手に推測してしまうことから始まります。他人のことはわからない、という基本原則から離れてしまうわけです。

たとえば、遠くで友人たちがこちらを見て笑っているのを見たとき、なんの根拠もないのに「きっと私のうわさ話をして笑っているんだ」と感じたり、遊びの誘いを断られたときに「私が嫌われているからだ」と思ったり。

「勝手な未来予知」は、脳神経学的にはfortune tellingといわれ、一般には「占い」、あるいは「予言」を指す語彙(ごい)でもあります。「勉強しても、絶対に不合格になる」「パーティに参加しても誰も声をかけてくれないだろう」などと、何かささいな出来事をきっかけに、まだ起こっていないことを悲観的に決めつけます。また、たまたま占った通りの結果になるとますます思いこみに拍車がかかり、論理の飛躍思考が強まるのも特徴です。

宿題で問題を一つ間違えた→今度のテストで赤点だ→受験も落ちるに違いない→進学できないし、将来何の仕事にも就くことができない→孤独で不幸な人生を送るに違いない……といった、まわりの人から見れば、「どこの占い師なの?」というつっこみが入りそうな思考法(英語で、「ほらまたfortune tellingしてる!」のような言い回しがあります)ですが、当人は気づかぬうちにそこまで沼にハマってしまうことも。

■「あの人、イライラしてる…怒らせてしまった」

・個人の問題化

何かの出来事や他人の言動や行動を、自分個人の問題や責任に落とし込んでしまうディストーション。

内田舞『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)
内田舞『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)

たとえばパートナーがイライラしているとき、実際には仕事で疲れているだけかもしれないのに、「私がなにか苛立たせるようなことをしたから」と思ってしまったり、同僚に挨拶されなかったのは、ただ気づいていなかったり、考え事をしていただけかもしれないのに「自分が嫌われているからだ」と考えたり。

またよくあるのが、「私が応援すると必ずチームが負けるから、見ないようにする」とか、「私がいるからこの会社の業績が悪いんだ」のように、明らかに自分に責任のないことまで自分事にして捉えてしまうこと。他にも、SNSで誰かが投稿したひと言に対して、「これ、自分に向けられた言葉だ!」と思ってしまうこと、ありませんか?

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内田 舞(うちだ・まい)
小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授
マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。北海道大学医学部卒。イェール大学精神科研修修了、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。

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(小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授 内田 舞)

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