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「気弱で口下手な人」が交渉で勝つにはどうすべきか…むしろ「気弱で口下手のままでいい」といえる理由

プレジデントオンライン / 2024年2月29日 15時15分

出所=『心理カウンセラー弁護士が教える 気弱さん・口下手さんの交渉術』

交渉をうまくまとめるにはどうすればいいのか。弁護士の保坂康介さんの著書『心理カウンセラー弁護士が教える 気弱さん・口下手さんの交渉術』(日本実業出版社)より一部をお届けする――。

■交渉では相手を「認めて」、願望を「満たしてあげる」

皆さん自身が交渉の当事者になったと想定してみてください。

交渉で成功したいですか? もちろん、成功したいですよね。当然のことだと思います。少なくとも失敗したいとは思っていないでしょう。

なぜかって。交渉に失敗すると、自分の望んでいることや守りたいと思っていることが実現できなくなりますから。もっと言えば、自分の得たい願望や守りたい願望が相手に認められないことによるネガティブな感情を味わいたくない気持ちもあるのでは?

人は「承認」されたい生き物ですから、交渉でも自分の言い分や望みを相手に認めてもらいたいと思うのです。

■欲求が満たされないと欠乏感を持ってしまう

「マズローの欲求5段階説」は有名ですので、皆さんもご存じかもしれません。

図のように、下から生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求(所属と愛の欲求)、承認欲求、自己実現欲求の5つがあります。

これらの欲求が満たされないと欠乏感を持ってしまいます。だから交渉でその欲求が通らないと嫌ですし、そうならないために交渉に成功したいと思うのでしょう。

だとしたら、それは交渉の相手も同じです。あなたが交渉に成功したいと思っているのなら、相手も同じように成功したいと思っているはずです。

お互いが何の譲歩もせずに、双方の願望や欲求がまるっと通れば何の問題もありません。でも実際にはそんなことは起こりません。

■自分の欲求を通すことばかり考えてはいけない

では、お互いの欲求がバッティングしたときにどうすべきか?

そんなとき、自分の欲求を通すことばかり考えて、相手の「自分の欲求についても認めてもらいたい」という願望・気持ちに耳を貸さなかった場合、どうなるでしょう?

相手としては自らの願望や欲求をあなたに否定されているわけです。もしかしたら、自分の欲求はあきらめて、あなたの要求を受け入れてくれる人もいるかもしれません。

でも、自分の欲求をまったく無視するような相手と今後も一緒にいようと思ったり、これからもつき合いを続けていこうと思うでしょうか?

おそらく、あなたとの良好な関係の維持は望まないはずです。それは非常にもったいないことだと思いませんか? 人間関係の輪が1つ消えてしまいますから。

指でバツ印を作るビジネスパーソン
写真=iStock.com/takasuu
自分の欲求を通すことばかり考えてはいけない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/takasuu

■相手の願望を満たす

ここまで、ちょっとおカタい説明になってしまったかもしれません。

ですが、相手のことをしっかりと認め、その願望に寄り添い、満たしてあげることを前提に交渉をしていくことが、気弱さん・口下手さんの交渉の基本です。

それができれば、相手も自分の願望・欲求を満たしてくれたあなたの願望に寄り添い、満たしてくれるような交渉をしてくれるでしょう。

■「負ける技術」とは相手に満足してもらう技術

「相手の願望を満たす」って、具体的にどういうことなのでしょうか?

どんなことをイメージしますか。相手が出した要求を無条件に受け入れるとか、相手に迎合するといったことでしょうか?

答えはNOです。

「相手の願望を満たす」というのは、相手の言いなりになることではありません。

ここでいう「相手の願望を満たす」とは、あなたが自分の伝えたいことや実現させたい希望を口にすることよりも、まず相手に対して理解を示すことです。

もっと言うと、相手の要望が何なのか、その要望の裏にある背景に理解を示すことです。

そのためには、相手の話を「聴く」ことが前提になります。

耳に手を当てて聞く女性
写真=iStock.com/bymuratdeniz
相手の話を「聴く」ことが前提(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

聴き役に徹して相手の話したいように話をさせてあげると、見方によっては、一方的に話をしている相手のほうが主導権を握って優位に立っているように見え、それを聴いている側はぐいぐいと攻め込まれているような印象を与えるかもしれません。

でも、それでよいのです。

交渉を進めるうえで大切なことは、自分を知り、相手を知ること。自分が何を欲していて、相手がどんな人で何を求めているのか。これがわからないまま漠然と交渉をしていてもお互いにとって何のメリットもありません。

相手がどんな人で、どんな考えを持っているのかを知るために、相手に質問をしましょう。相手の話に耳を傾け、相手の本音・本心がどこにあるのかに関心を向けましょう。

こちらの質問に対して相手がレスポンスしてきたら、さらに質問をしたり、共感をしたりします。

■アクティブリスニングとパッシブリスニング

あるいは、相手の言っていることを言い換えたりするなどのアクティブリスニング、効果的な沈黙や相づちなどのパッシブリスニングなどの聴き方を実践して、相手の本音・本心を探っていきます。

相手への理解を深めるように意識して聴いていくと、相手が話せば話すほど、そしてこちらが相手の話を聴けば聴くほど、相手もこちらのことを信頼して、たくさん話してくれるようになります。

大事なのは、相手にたくさん話をしてもらい、「自分の意見や考えを受け入れてもらっている」と感じてもらうことです。

最初は自分の意見や要望はまったく語らなくてもよい、くらいに思っていて問題ありません。

聴き方が上手になると、相手は「自分のことをわかってくれようとしている」と感じ、そのことに満足感を得るようになります。

■伝えたいことばかり話すのはやめる

相手の条件を受け入れているわけでもなく、単に話を聴いているだけなのですが、満足してくれるのです。

そして、話を聴いてもらって満足した相手は、聴き手であるこちらに対して口に出さないまでも感謝の気持ちを持つようになり、あなたの言葉にも耳を傾けてくれるようになります。

ですから、「気弱ではいけない」とか「口下手なままでは飲み込まれる」なんて意気込んで、あなたの伝えたいことを唐突に話しはじめたりしないようにしてください(笑)。

無理にそんなことをすると、それは本来のあなたの姿ではないので、相手も違和感を覚えます。すると、交渉もどこかギクシャクしたやり取りになってしまい、もったいない、残念な結果になりかねません。

あなたが何かを強く伝えたいと思っていても、まずは言いたいことを脇に置いて、相手の話をしっかりと聴くようにしてみてください。

「まず、相手を満たすこと」が交渉における成功への近道になるのです。

会議で説明をするビジネスウーマンの手
写真=iStock.com/mapo
「まず、相手を満たすこと」が成功への近道(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mapo

■「準備」「対話」「クロージング」

ちょっと真面目な説明をさせてください。

交渉の過程は、大きく分けると「準備」「対話」「クロージング」の3つに分けることができます。

この3つのそれぞれの場面で、ほんの少し工夫を加えることで交渉の進め方や結果に大きな違いが出てくるんです。詳しい内容はそれぞれ別の章でお伝えしていきますが、ここではどのような工夫をするのかを簡単に説明していきます。

■「自分が何を求めているのか」をリストアップ

・準備……自分のことを知っておく

ついおろそかになりがちですが、交渉に臨む前の事前準備、これは超重要です。

ここでの準備は交渉相手の情報を知っておくこと、ではありません。もちろん相手の情報も大事ですが、自分自身に対しての準備をしておくことはもっと大事です。言い換えると、「自分自身が何を欲しているのか」を事前に知っておくことです。

「何だ、そんな当たり前のことか」って思ったかもしれませんね(笑)。

でも、これをしっかりできている人はそれほど多くないはずです。

頭で考えると、「あれが欲しい」とか「いくらで買いたい」「あそこに行ってみたい」「こうしてほしい」というような表面的な願望が出てくるとは思いますが、それがあなたの本当に求めているものかというと、そうとも限らないのです。

ですから、本当にあなたの求めているものが何かを探るために、交渉の前段階として、まずは「自分が何を求めているのか」をリストアップしてみましょう。

■実際に紙に書いてみる

これは頭に思い浮かべるのではなく、実際に紙に書いてみることを強くお勧めします。

自分の求めている結果や希望を文字に書いてみることで、頭の中を整理することができますし、自分が何を求めているのかをしっかりとキャッチできれば、それが相手にも伝わるからです。

そうすると、相手の要求に対して譲歩するべきか、譲歩できるとしてどこまでできるのかという線引きも明確になるのです。

そのように自分が求めているものを深掘りしていくと、自分のこだわりの大小に気づくことができ、感情や思考の整理をすることにもなります。

この準備なしで交渉に臨んでしまうと、相手の出方に対して柔軟に対応することができなくなり、交渉が自分の思い通りに進まなくなってしまいます。スムーズな交渉を行うためにも、交渉の直前までにリストアップして自分自身を整理しておきましょう。

黒の背景にクリップボード付きのホワイトペーパー
写真=iStock.com/voyata
実際に紙に書いてみる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/voyata

■「聞く」ではなく「聴く」

・対話……聴いて共感する

対話は、実際の交渉における相手との話し合いのことです。先ほどお伝えしたように、対話中はあなたの意見や希望・要望を伝えることを優先するのではなく、相手の話を聴くことに比重を置きます。

ここで意識してほしいのは「聞く」ではなく、「聴く」ということです。

単に相手が発している言葉を「聞く」のではなく、言葉の裏にある相手の本音や感情にも意識を向けて「聴く」ようにすることが大切です。

交渉では、どうしても自分の要求や希望を伝えたくなってしまいます。その結果、こちらも話すほうに意識が取られてしまいがちです。

でも、そこを押しとどめ、「聴く:話す」の割合は少なくとも「聴く7:話す3」、できるならば「聴く8:話す2」くらいでもいいくらいです。

質問をして相手が求めているもの、相手の奥深くにある本音などを引き出したり、相手の言葉の裏に隠れている感情に関心を示して共感することが大切です。

「聴いている」姿勢を相手に見せることができると、相手はあなたになびいてきます。

そうすると、会話もスムーズなものとなり、あなた自身のペースを崩さずに交渉を進めることができるのです。

■プレッシャーをかけていい

・クロージング……敬意を持ってプレッシャーをかける

クロージングは交渉の終盤になります。ここをどのように工夫したら、交渉がうまくまとまるのでしょうか。

保坂康介『心理カウンセラー弁護士が教える 気弱さん・口下手さんの交渉術』(日本実業出版社)
保坂康介『心理カウンセラー弁護士が教える 気弱さん・口下手さんの交渉術』(日本実業出版社)

クロージングの場面でも交渉相手を尊重するスタンスを持つように意識するのですが、この段階では、多少なりとも交渉相手に心理的なプレッシャーをかける必要があります。

もしかすると、気弱さん・口下手さんは、ここを苦手としている方が多いかもしれませんね。

まず、気弱さん・口下手さんはこう自分に言ってあげてください。

「私(僕)は、交渉相手にクロージングでプレッシャーを与えてもいい」

交渉というのは、うまくまとまってもまとまらなくても、お互い結論を出すことに変わりはありません。その結論を促すのがクロージングですから、必然的に相手にはプレッシャーをかけることになります。

だから、プレッシャーをかけていいんです。あとは、そのプレッシャーのかけ方です。

大事なのは相手への配慮と敬意です。相手への配慮・敬意を示しながらのクロージングは相手も納得しやすくなります。

このようにそれぞれの過程で準備をして、意識を変えていくことで、より劇的に満足度の高い交渉結果をもたらすことができます。

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保坂 康介(ほさか・こうすけ)
弁護士、カウンセラー
1977年秋田県生まれ。弁護士/カウンセラー。明治大学政治経済学部卒。ドラマ「HERO」をきっかけに司法試験を目指し、2007年旧司法試験に合格。勤務弁護士として5年間の実務を経験した後、2014年10月に独立する。以降、東京都新宿区で法律事務所FORWARDを運営。著書に『心理カウンセラー弁護士が教える 気弱さん・口下手さんの交渉術』(日本実業出版社)。

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(弁護士、カウンセラー 保坂 康介)

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