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新人の営業社員が「自社のトップセールスのやり方」を真似しても売れるようにはならない…そのシンプルな理由

プレジデントオンライン / 2024年3月7日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/key05

仕事ができる人の真似をしても成果は出ない。経営コンサルタントの権藤悠さんは「新人の営業社員が自社のトップセールスの真似をしても成果は出ない。それは“鋭い洞察”が欠けているからだ」という――。

※本稿は、権藤悠『「解像度が高い人」がすべてを手に入れる』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■「ユニークで鋭い洞察」は「抽象化思考力」を鍛えることで得られる

「仕事ができる人」とはどんな人でしょうか。「業務スピードが速い人」でしょうか。「コミュニケーションが上手な人」でしょうか。元デロイトのコンサルタントの権藤氏は違う見解を持ちます。デロイトで3000社1万人以上のビジネスパーソンを見てきて、「仕事ができる人」とは「解像度が高い人」だと考えているといいます。

「解像度の高い人」の特徴の1つ、「ユニークで鋭い洞察を得ている」状態になるためには、どうしたらいいのでしょうか。それが、「『抽象化思考力』を鍛える」になります。

なぜでしょうか? その理由を解き明かすために、「そもそも、抽象化とは何か?」から考えていきましょう。

図表1は「日本」を細かく分解した図です。このピラミッドを上に上がる作業が「抽象化」です(ちなみに、このピラミッドを下に下がる作業が「具体化」です)。

■「東京都」→「関東甲信越」→「東日本」→「日本」

例えば、あなたが東京駅にいるとします。東京駅の周辺には丸の内、大手町、有楽町などの「千代田区」と、日本橋、八重洲、京橋などの「中央区」があり、さらに1階層上がれば「23区」、以下「東京都」→「関東甲信越」→「東日本」→「日本」とどんどん範囲が広がっていきます。

「抽象化」とは何か?
画像=『「解像度が高い人」がすべてを手に入れる』

軸となっているのは「違うもの同士の共通点を見つける」ということ。「東京都」「埼玉県」「千葉県」の共通点は何でしょうか。それが「関東甲信越」です。

では、「関東甲信越」「東北」「東海」「北海道」の共通点は何でしょうか。それが「東日本」です。では、「東日本」「西日本」の共通点は何でしょうか。それが「日本」です。

さらに、「日本」を抽象化していけば、「東アジア」→「北半球」→「地球」→「太陽系」……といった具合にいくらでも抽象度を上げることも可能です。

共通点を見つけることで上へ上へと思考レベルが上がっていく。こうして、ピラミッドの頂点までを形成していく営みが、抽象化ということになります。

■トップセールスの真似をするのは成果につながらない

では、なぜ抽象化すると「鋭い洞察」を得られるのでしょうか。言い換えれば、「共通点を見つけること」が、なぜ「鋭い洞察」と結びつくのでしょうか。

それは、「鋭い洞察」というものは、「成功例の共通点」から導き出されるからです。例えば、新人の営業社員が、一日も早く「売れる」ようになるために、自社の売上成績No.1のトップセールスのやり方を真似することはよくあると思います。

しかし、それだけでそうそう成果が出るものではありません。No.1のトップセールスが「ハキハキと元気なタイプ」だとしたら、それを真似ればいい、という考えです。これはまさしく「安易な解決策」と言わざるを得ません。

なぜこれでは成果は出ないのでしょうか。一つの例だけを見て、その表面をさらっているだけだからです。

よくよく考えれば、営業成績のよい人の中には「物静かなタイプ」もたくさんいます。そういった方々も成果を出しているという事実を無視して、「ハキハキと元気」という一つの例だけを安易に真似ているから、的外れになってしまうのです。

では、どうすればいいのか? 例えば、No.1だけを見るのではなく、売上の上位10名のやり方をそれぞれ調べてみて、共通点を抽出する――というアプローチが考えられます。

No.1という一個人の場合と違い、上位集団に共通するやり方であれば、客観的であり本質的です。このように10名の共通点を探ると、全員に共通する特徴は実は「引くことが上手」という点かもしれません。

人は感情を持った生き物。そして、「自分で決めたい生き物」。だから、商談時間の9割はむしろ「聞く」ことに充てていて、押すよりも引くことを意識している。

これであれば、営業成績のよい人の中に「物静かなタイプ」もいる、という矛盾も説明できますし、従来のハキハキした営業パーソンのイメージとはまた違うことから、「新たな気づき」があります。

オフィスで議論するアジアのビジネスパーソン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■成功例に共通している「見えづらい部分」を見つける

ポイントは「表面上の見えやすい一つの部分」を見るのではなく、すべての成功例に共通している見えづらい部分」を見つけようとすることです。

「成功例の共通点」によって、その背景に隠れていた「新たな気づき」があるからこそ、抽象化できる人の意見には、思わず「ハッ」とさせられます。

このように、抽象化によって洞察を得る例として、ソフトバンクグループの創業者である孫正義さんの例を挙げましょう。孫さんは、「時価総額10兆円を目指す」という目標を決めたときに、社長室の壁に世界の時価総額トップ企業10社のデータを貼り出して、毎月どこが上位に並んでいるかを見ていったと言います。

この話は、“孫正義の参謀”と呼ばれた元ソフトバンク社長室長・嶋聡さんから伺ったのですが、嶋さんが準備したデータを孫さんが分析して共通点を抽出し、それを自社の経営戦略に組み込んだことでソフトバンクは時価総額10兆円を実現した、ということです。

「抽象化思考のできる人ほど『優秀で、仕事のできる人』」ですが、さすがに孫正義さんほどの経営者ともなれば、抽象化思考は当たり前のようにやっておられるということのようです。

■「具体⇔抽象思考」で「物事をわかりやすく伝えられる人」になる

「解像度の高い人」のもう一つの特徴が「物事をわかりやすく伝えられる」です。この状態になるためには、どうしたらいいのでしょうか。それが、「『具体⇔抽象思考力』を鍛える」になります。

なぜでしょうか? 「具体⇔抽象思考」という言葉は、元もと一般用語にはない一種の“造語”ですから、まずはその意味するところを定義しておく必要があります。

「具体⇔抽象思考」とは、先ほどお見せしてきたようなピラミッドを上に行ったり、下に行ったりして、「具体」と「抽象」を行き来することです。

先ほどの「抽象化思考」で登場したピラミッドを思い出してください。頂点が最も抽象的な抽象度100%」、底辺が最も具体的な「具体度100%」となっています。

「具体化思考」は、このピラミッドの底辺に向かって掘り下げていく思考であり、「抽象化思考」は、ピラミッドの頂点に向かって組み上げていく思考だと申し上げました。

それに対して、「具体⇔抽象思考」とは、この頂点と底辺の間を行き来する思考のことを意味します。

言うまでもなく、「具体⇔抽象思考」ができる人というのは、「具体化思考」と「抽象化思考」のどちらも使いこなせている人に限られます。

従って、誰にでもすぐにできるというものではありません。トレーニングを十分に積んだ方であれば、習得することは決して難しくはありません。

■相手の「具体⇔抽象レベル」に合わせて話すのがポイント

既にここまでで、「具体」「抽象」とはそれぞれどういうものか? については皆さんも理解されているはずです。人は、誰もが同じ世界を見ているわけではありません。むしろ、一人ひとりがそれぞれ違う世界を見ていると言ってもいい。

見ている世界の違いは、すなわち「具体⇔抽象レベル」の違いです。とはいえ、世の中は「具体度100%の世界」や「抽象度100%の世界」に生きている人ばかりではないので、「具体寄り」「抽象寄り」の最適な階層に合わせて話をすることになるでしょう。

相手の「具体⇔抽象レベル」に合わない話をした場合、たとえ何一つ間違ったことは言っていなくても、あなたの意図は相手に伝わりません。それも、誤解されるというレベルではなく、場合によっては根本から全く理解されないことになります。

コミュニケーションがうまくいかない場合、原因を「伝え方」「言い方」の問題と捉えて、いわゆる「話し方教室」などで学ぼうとする人がいます。しかし、残念ながら、たいていの教室ではあなたの悩みは解決しません。

ビジネスミーティングで文書を提示するビジネスマン
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■多くの人は「具体」の世界で生きている

なぜなら、コミュニケーション・ギャップが起きてしまう原因の多くは、相手との「具体⇔抽象レベル」の違いだからです。「具体的な話が理解しやすい人」に「抽象的な話」をしたり、逆に「抽象的な話が理解しやすい人」に「具体的な話」をしたりすると、相手は理解ができず、コミュニケーションにストレスが生じます。

権藤悠『「解像度が高い人」がすべてを手に入れる』(SBクリエイティブ)
権藤悠『「解像度が高い人」がすべてを手に入れる』(SBクリエイティブ)

「物事をわかりやすく伝えられる」ということは、つまるところ「『具体⇔抽象レベル』を相手と合わせる」ことなのです。

ちなみに、特に重要なのが「具体に合わせる」という作業です。なぜなら、世の中の多くの人は「具体」の世界に生きているからです。ですから、コミュニケーション・ギャップで一番多いのが、相手が「具体的な話が理解しやすい人」で、話し手が「抽象度の高い話をしてしまう」というケースです。

そういった人は特にこの「具体⇔抽象」の行き来を意識し、多くの人が生きている「具体」の世界に合わせた「抽象度(具体度)」で話をすることが、コミュニケーション・ギャップをなくすために重要なのです。

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権藤 悠(ごんどう・ゆたか)
キーメッセージ代表取締役社長
慶應義塾大学理工学部情報工学科卒業。ベンチャー三田会幹事。ITベンチャー企業にて人事、IT新規事業開発をした後、ZUUに人事企画マネージャーとして参画し、東証マザーズ(現・東証グロース)市場上場前の採用・組織開発に従事。その後、デロイト トーマツ コンサルティングに経営コンサルタントとして入社。大手企業へのDX・組織人事高度化コンサルティング業務に従事し、合計社員数20万人以上の各業界企業を支援。デロイト トーマツ コンサルティングの中でも上位1%の人材しか認定されない「Sランク人材」の評価を受ける。2022年、キーメッセージを創業。大手企業からスタートアップへ経営コンサルティング、AIやデータ分析を活用した新規事業開発や人的資本経営コンサルティングを提供する。

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(キーメッセージ代表取締役社長 権藤 悠)

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