「実用本位でシンプルなデザインを好む職人気質なブランドといえば?」選ばれ続けるブランドが持っているもの
プレジデントオンライン / 2024年3月14日 6時15分
※本稿は、永井孝尚『モノではなく価値を売るためにマーケティングについて永井孝尚先生に聞いてみた』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■ブランドとは単なる看板ではない
Q:ブランドの価値を高め続けるにはどうしたらいいですか?
<お答えしましょう!>
ブランドを単なる看板でもロゴでもなく資産価値としてとらえる戦略を立てるべきです。
1980年代、多くの人は「ブランドは看板のようなもの。広告代理店に任せればいい」と考えていました。ところが、世界的なブランド戦略の大家として知られるデービッド・アーカーはブランドを商品や人材と同じく「資産価値」のあるものと考えて、ブランド・エクイティ(ブランド資産)という概念を提唱し、ブランド資産を戦略的に高めることの重要性を強調しました。
■信頼こそがブランドである
商品やビジネスモデルには絶えず「模倣リスク」がつきまといます。しかし、企業が築き上げた信頼は簡単には模倣できません。この信頼こそがブランドなのです。
しかし、ブランドは一朝一夕で構築できません。鍾乳洞が石灰を含む地下水の一滴一滴によって長い時間をかけてできるのと同じように、ブランドも企業努力の地道な蓄積の結果、形成されるのです。
また、アーカーは、ブランドの資産価値は、「ブランド認知(それがどんなブランドかを消費者に覚えてもらう)」、「ブランド連想(ブランド名を聞いたときにすぐにどんな商品かを連想できる)」、「ブランド・ロイヤリティ(ブランドを気に入った人が常にそのブランドを選ぶようになる)」の3つによって高め続けられると述べています。
ブランド資産。ブランドが持っている様々な資産価値の集合体。単なるロゴやマークではなく、顧客に選ばれ続ける理由になる見えない資産のこと。
■そのブランドを人々からどう見られたいか?
Q:ブランド・アイデンティティを強める4つの視点とは何ですか?
<お答えしましょう!>
製品、組織、人、シンボルの4つの視点からブランドをとらえることで、そのブランド・アイデンティティを強めていきます。
前項で紹介したデービッド・アーカーのブランドに対する考え方は、その後「ブランド・エクイティ」という概念から「ブランド・アイデンティティ」という概念に進化していきました。前者が鍾乳洞でたとえられるようにマーケティングの結果であるのに対して、後者はマーケティングの起点といえます。
ブランド・アイデンティティとは「そのブランドを人々からどう見られたいのか?」という能動的なものであり、「今どう見られているか」という受動的なブランドイメージとは異なるものです。
■「ブランドらしさ」を強める4つの視点
強いブランド・アイデンティティは、次の4つの視点で作っていきます。
①製品としてのブランド
製品として提供するもの。たとえば褐色のコカ・コーラや、ハーゲンダッツの美味しいバニラアイスクリームなどです。しかし製品だけではいずれ、真似されてしまいます。
②組織としてのブランド
パタゴニアは「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションからブレずに商品を開発、販売しています。このように組織や価値観も、強いブランド・アイデンティティを作ります。
③人としてのブランド
バイクメーカー・ハーレーダビッドソンの熱烈なファンは、その入れ墨を入れるほど、ハーレーを崇拝しています。このように、顧客はブランドをあたかも一つの人格を持つ人間のように感じます。
④シンボルとしてのブランド
コカ・コーラの赤色、ポケットモンスターの黄色のように、ブランドを象徴するカラーもシンボルになります。
これら4つの視点でブランドを考えて構築することで、ブランド・アイデンティティを高めることができます。
自己同一性。その人やモノの「らしさ」のこと。または、その自分らしさを社会から認められていること
■ブランドが顧客に提供できる利益
Q:ブランドを構成する「便益」について教えてください!
<お答えしましょう!>
顧客にとって、そのブランドが提供する利益を明確に具体化したものです。
ブランドの資産価値を高め続けるためには、「顧客にとって便利で利益があること」を明確化・具体化する必要があります。これを「便益」といいます。ブランドには、大きく分けて4つの便益があります。
1つ目は「機能的な便益」。これは、製品そのものの便利さであり、模倣されやすく、これだけでは差別化が困難なものです。ブランドの資産価値を高め続けるためには、「顧客にとって便利で利益があること」を明確化・具体化する必要があります。これを「便益」といいます。
ブランドには、大きく分けて4つの便益があります。
1つ目は「機能的な便益」。
これは、製品そのものの便利さであり、模倣されやすく、これだけでは差別化が困難なものです。
2つ目は「情緒的な便益」。そのブランドの商品を買ったり持ったりすると「いい気分になる」など、感情的にポジティブな影響を受ける便益です。
3つ目は「自己表現的な便益」。たとえば、Apple製品を使っているとクリエイティブな人に見られるのは、まさにこの便益です。
■顧客でいることに付加価値を創り出す
4つ目は「社会的な便益」。そのブランドの商品を使っていると、社会に対して役に立っている気分になれるとか、そのブランドを愛する人々の一員になっているといった感情を抱くことができる便益のことです。
社会的な便益の例として、一部のブランドでは顧客からの意見を商品開発に活かすことで、顧客でいることに付加価値を創り出すことに成功しています。
ブランド・アイデンティティを構築するためには、「お客様にとって、何が便利なのか?」というブランドの便益を絶えず問い続けることが重要なのです。
財産として評価した価額や市場での取引価格という意味で一般的に使われる言葉。
■ブランド・ロイヤリティって何ですか?
<お答えしましょう!>
そのブランドの商品をすべて欲しくなるほどの「忠誠心」のことです。
前項で紹介したブランド・ロイヤリティという概念について、もう少し詳しく説明します。ロイヤリティとは日本語で「忠誠心」です。あるブランドが好きなあまり、自分の持ち物のほとんどすべてをそのブランドで構成したくなる気持ちをいいます。
たとえば、日常的に使うもののほとんど全部を無印良品の商品にしている人、スマホもパソコンもAppleで統一している人といえばわかりやすいのではないでしょうか。
■脳内にイメージを定着させ差別化を図る
それでは、ブランド・ロイヤリティを確立するためにはどうしたらいいのでしょうか。それはブランド・パーソナリティを明確にすることです。ブランド・パーソナリティとはブランドを人にたとえたときにどんな人かを表す概念で、たとえば無印良品なら「実用本位でシンプルなデザインを好む職人気質な人」といった感じです。ブランド・パーソナリティがあると、その人格に共感する人を惹きつけることができます。
さらに、組織連想も大切です。組織連想とは、たとえば「無印が作るのなら、コストは抑えながらも、ムダを省いて品質はいいのだろう」といったように、その企業を思い浮かべたときに組織への信頼感に基づいて商品へのポジティブなイメージが連想されることです。
人格。ブランドを人にたとえた時にイメージされる人格をブランド・パーソナリティと呼ぶ
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マーケティング戦略コンサルタント
マーケティング戦略コンサルタント。慶應義塾大学工学部(現・理工学部)を卒業後、日本IBMに入社。IBM大和研究所の製品開発マネジャー、ソフトウェア事業のマーケティング戦略マネージャー、人材育成部長として30年間勤務。2013年に日本IBMを退社して独立し、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。製造業・サービス業・流通業・金融業・公共団体など、幅広い企業や団体を対象に、年間数十件の講演やワークショップ研修を実施。さらにビジネスパーソン向けに経営戦略力を高める完全オンライン制「永井経営塾」も主宰している。著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』(以上、KADOKAWA)などがあり、著書累計は100万部を超える。
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(マーケティング戦略コンサルタント 永井 孝尚)
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