1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

ついに"ナイキ離れ"か…「着用率95.7%→42.6%」箱根駅伝で王者を食った2ブランドが東京マラソンでガチ対決

プレジデントオンライン / 2024年3月3日 8時15分

アシックス「METASPEED EDGE PARIS」 - 写真提供=アシックス

パリ五輪のマラソン枠は男女とも残り1。3月3日に開催される東京マラソンはその選考も兼ねている。スポーツライターの酒井政人さんは「日本人の誰が活躍するかだけでなく、どのブランドのシューズを履く選手が上位にくるかにも注目が集まっている。王者ナイキの後塵を拝してきた、アシックス、アディダスはここへきて逆襲してきており、会社の業績に大きく影響するトップ選手の走りから目を離せないという――。

■厚底王者ナイキの着用シェア率が下がっている理由

1月2、3日に開催された第100回箱根駅伝。往路・復路とも優勝したのは青山学院大学だったが、ランナーたちの足元を制したのは今年もナイキだった。カーボンプレート搭載の厚底シューズを投入して、第94回大会で初めてシューズシェア率でトップを奪うと、その後は“独走状態”が続き、今大会で“7連覇”を達成したことになる。

今回、ナイキは一般発売前だった『アルファフライ 3』(税込3万9650円)を着用した中央大学・吉居大和(4年)、東京農業大学・前田和摩(1年)ら“目玉選手”のコンディション不良もあり、強いインパクトを与えることができなかった。それでも1区を独走した駒澤大学・篠原倖太朗(3年)、5区の区間記録を大幅更新してMVPに輝いた城西大学・山本唯翔(4年)ら全10区間中7区間を制した。

ただし、シューズシェア率は前年の61.9%から42.6%に大幅にダウンした。21年箱根駅伝での着用率95.7%というほぼ100%の時点から考えれば、半分以下になったことになる。今回、王者・ナイキを食ったといえるのがアシックスとアディダスだ。

■アシックスは前年から9.6ptアップ

アシックスは今年の箱根駅伝で57人が着用。シューズシェア率を前年の15.2%から24.8%に大きく伸ばして、2位に浮上した。第97回大会(21年)で屈辱の“着用率0%”に終わったが、その後は社長直轄プロジェクトで完成した〈METASPEED〉シリーズで盛り返している。

同シリーズはアシックス初のカーボンプレート搭載モデル。画期的だったのが、スピードを上げるときに歩幅が伸びる「ストライド型」と、歩幅も足の回転数も変化する「ピッチ型」の走法の違いに着目したことだ。それぞれに設計された2モデル(〈SKY〉と〈EDGE〉)があり、自身の走法に合わせて選ぶことができる。

他にも多彩なモデルを発売。カーボンプレート搭載シューズがスタンダードになったことで、骨盤まわりのケガが急増しているが、アシックスは「レース前の身体づくりをもサポートする“履き分け”を積極的に推し進めた」ことで“選ばれるメーカー”になったと分析している。さまざまなモデルのシューズを履くことで、特定の部位に負荷が集中するのを防ぎ、故障のリスクを分散することができるのだ。

今年の箱根駅伝では9区で青学大・倉本玄太(4年)が区間賞を獲得(※9区は区間1~5位の選手がMETASPEEDシリーズを履いていた)。また、実業団のニューイヤー駅伝でも7区間中3区間で同モデルを着用した選手が区間賞をゲットしている。

アシックスは正月の駅伝でシェアを伸ばしただけでなく、マラソンでも素晴らしい結果を残した。1月28日に開催された大阪国際女子マラソンで〈METASPEED SKY〉を着用した前田穂南(天満屋)が19年ぶりに日本記録を更新。日本人初の2時間18分台を叩き出したのだ。

その勢いに乗る形で同社は3月11日に新たなレースモデルを発売する。パリ五輪を意識した『METASPEED PARIS』(税込2万7500円)だ。

トップ選手を含む100人以上のテスターの声を取り入れ、各部位の形状や機能構造をバージョンアップ。その結果、さらなる軽量化に加え、反発性やクッション性の向上を実現した。前モデルと比較して、〈METASPEED SKY PARIS〉は約20g、〈METASPEED EDGE PARIS〉は約25gの軽量化に成功。フォーム材の反発領域も前者は約12%、後者は約20%も向上したという。

〈METASPEED EDGE PARIS〉のプロトタイプを着用してニューイヤー駅伝の最長2区で区間賞に輝いた太田智樹(トヨタ自動車)は、「前モデルも素晴らしいシューズでしたが、走り終えた後の足先へのダメージも少なく、自己ベスト更新を目指すランナーへおすすめできるシューズです」とコメントしているほどだ。

同社の業績では2022、23年の12月期で2期連続で過去最高の売り上げ・純利益を記録しているが、それを牽引しているのが『METASPEED』系を含む「パフォーマンスランニング」と呼ばれるカテゴリーだ。この国産ブランドがパリ五輪などでさらに存在感を高めれば、来年の箱根駅伝でのシューズシェア率は、王者ナイキにさらに迫る可能性は高い。

■箱根駅伝でアディダスの「8万円モデル」が爆走

一方、アディダスはシューズシェア率でアシックスに抜かれたものの、箱根駅伝は前年(18.1%)とほぼ同数の18.2%。走りのインパクトではナイキ以上だった。

昨年9月のベルリンでティギスト・アセファ(エチオピア)に2時間11分53秒という驚異の女子マラソン世界記録をもたらした8万円超モデルの〈ADIZERO ADIOS PRO EVO 1〉(以下EVO 1)を着用した青学大のWエースが爆走したのだ。

目立ちたがり屋の太田蒼生(3年)は、「世界記録が出たときは日本にはまだ入っていなくて、世界でも数が少ない(※当時は世界で限定174足)と聞いていたんです。でも入手できたら『絶対に履こう』と決めていました」とEVO 1で勝負する気持ちでいたという。噂のモデルを入手したのは直前の12月中旬だったが、迷うことなく、正月決戦で着用した。

EVO 1は〈ADIZERO ADIOS PRO 3〉をベースにしたモデルで、約40%の軽量化に成功。中足骨をヒントに調整された5本のカーボンスティックを搭載した厚底モデルながら約138g(27cm片足重量)しかない。

「軽さが抜群に違っていて、履いていても、シューズ(の重さ)がまったく気になりません。走った感触としては、PRO 3はどちらかというとクッション性がやや少なくて反発がある感じなんですけど、EVO 1は沈んだ分、反発が強く返ってくる。凄いペースでいったんですけど、後半にも余力があったのは、シューズのおかげでもあるのかなと思います」

EVO 1を着用して3区に出場した太田は、10kmを27分26秒という驚異的なペースで通過すると、2年連続の駅伝3冠を目指した駒大を大逆転。3区の日本人最高記録を1分08秒も塗り替える59分47秒で突っ走った。

青学大は花の2区に抜擢された黒田朝日(2年)もEVO 1を着用していた。権太坂(15.2km地点)の通過はトップ駒大と1分05秒差だったが、後半がとにかく強かった。

「沿道から『前と1分差だよ』という声が聞こえてきたときは、優勝はちょっと無理そうだな、と一瞬思ったんです。でも権太坂の上りくらいから、自分のなかで動きが良くなったというか、上がってきた感覚がありました。その後は、タイムや順位の意識はあまりなくなって、本当に自分の走りに集中できたのかなと思います」

左が青学大の太田蒼生選手、右が黒田朝日選手
撮影=酒井政人
左が青学大の太田蒼生選手、右が黒田朝日選手 - 撮影=酒井政人

歴代のエースたちを苦しめてきた“戸塚の坂”で駒大に急接近。最後は13秒まで詰め寄り、区間歴代4位の1時間06分07秒で区間賞に輝いた

「ラスト3kmを切ってから駒大が見えてきたので、1秒でも縮めたいという気持ちだけで走りました。終盤まで余力を残して走れたのは、シューズの恩恵があったのかな。クッション性と反発力はこれまでに履いてきたシューズのなかで突出しているのかなと思います」

箱根駅伝2区で8人抜きを演じた國學院大學・平林清澄(3年)もアディダスを着用する選手だ。箱根はEVO 1ではなく、さほど厚くない〈ADIZERO TAKUMI SEN 9〉で1時間06分26秒(区間3位)と快走したが、同モデルで出場した大阪マラソン(2月25日開催)で関係者の度肝を抜いた。なんと初マラソンで日本最高&日本歴代7位の2時間06分18秒で優勝したのだ。

こうした実績を残しているアディダスもナイキを追い落とすのに十分なポテンシャルがあると言えるだろう。

■パリ五輪代表はナイキ優勢だが…東京マラソンで“大激戦”の予感

各ブランドにとって、箱根駅伝に次いでプロモーションが期待できる国内レースは東京マラソン。今年は3月3日に開催されるが、どうなるのか。

東京マラソンはアシックスが第1回大会からスポンサードしている。それだけに同社に注目が集まるが、ナイキとアディダスからも目が離せない。

今大会は、男子マラソンの前世界記録保持者で五輪を連覇中のエリウド・キプチョゲ(ケニア)と、昨年のロンドンマラソンとシカゴマラソンを制したシファン・ハッサン(オランダ)という世界のスーパースターが登場するが、ふたりはナイキを愛用する選手だ。

男子はこの大会がMGCファイナルチャレンジレースにもなっており、MGCファイナルチャレンジ設定記録(2時間05分50秒)を上回った日本人トップがパリ五輪代表となる。日本人出場予定選手では男子マラソン日本記録保持者の鈴木健吾(富士通)、前回日本人トップの山下一貴(三菱重工)はナイキを履いている。アシックス勢は細谷恭平(黒崎播磨)の期待が大きい。

酒井政人『箱根駅伝は誰のものか 「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)
酒井政人『箱根駅伝は誰のものか 「国民的行事」の現在地』(平凡社新書)

アディダス勢は新谷仁美(積水化学)が日本記録(2時間18分59秒)の更新を目指す。箱根駅伝で快走をもたらした〈ADIZERO ADIOS PRO EVO 1〉を着用する可能性もある。どんな走りを見せるのか楽しみだ。

なお、すでにパリ五輪のマラソン代表に内定している小山直城(Honda)はナイキ、赤﨑暁(九電工)はニューバランス。同じく女子の鈴木優花(第一生命)と一山麻緒(資生堂)はナイキを履いている。

男女ともにパリ五輪代表は残り1枠。男子はMGC3位の大迫傑(Nike)、女子はアシックスで日本記録を打ち立てた前田穂南(天満屋)が“リード”している状況だが、3日の東京マラソンと10日の名古屋ウィメンズマラソンで決めることになる。

トップ選手の活躍がマーケティングにも大きく影響するだけに、パリ五輪をめぐる6枠の“シューズ争い”にも注目したい。

----------

酒井 政人(さかい・まさと)
スポーツライター
1977年、愛知県生まれ。箱根駅伝に出場した経験を生かして、陸上競技・ランニングを中心に取材。現在は、『月刊陸上競技』をはじめ様々なメディアに執筆中。著書に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。最新刊に『箱根駅伝ノート』(ベストセラーズ)

----------

(スポーツライター 酒井 政人)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください