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「訓練」と称すればゴジラにも火器は使える…元自衛官が重い口を開いた「対ゴジラ戦」の現実シナリオ

プレジデントオンライン / 2024年3月11日 7時15分

『ゴジラ-1.0』の完成報告記者会見で、写真撮影にポーズを取る(左から)山崎貴監督、俳優の神木隆之介さん、浜辺美波さん、東宝取締役専務執行役員の市川南氏=2023年9月4日、東京都千代田区の帝国ホテル - 写真=時事通信フォト

映画『ゴジラ-1.0』が世界的なヒットを記録している。もし映画のようにゴジラが日本に出現したら撃退できるのか。フリージャーナリストの秋山謙一郎さんは「現役や元職の自衛官などに取材したところ、『単なる巨大生物』が暴れるだけなら法的にはお手上げになる。その場合は『訓練』と称して撃退するしかなさそうだ」という――。

■映画『ゴジラ-1.0』が世界的な大ヒット

相手が何者か。それがわからなければ手の施しようがない――。その際、腹を括って事に対処する者が出てくるか否かで事態は大きく変わってくる。

山崎貴が監督・脚本・VFXを手掛け、神木隆之介が主演を務める映画『ゴジラ-1.0』(東宝)が国内外で話題だ。

国内では昨年11月3日の公開から3月3日までの122日間で、観客動員数は約392万人、興行収入は60億1000万円という好調ぶりをみせた(興行通信社調べ)。また、今年度の日本アカデミー賞では、最優秀作品賞を受賞した。

海外でもこの勢いは変わらず。日本から1カ月遅れで公開されたアメリカでも、現地時間12月5日に興行収入1436万ドル(約20億9000万円)を超え(Comscore調べ)、34年ぶりに邦画実写作品の興行収入歴代1位を更新。「第96回アカデミー賞」では、邦画として初めて視覚効果賞にノミネートされるなど、俄然、ゴジラ強しといった様相を呈している。

その「強いゴジラ」が、もし、本当に日本に現れたなら、果たしてわが国の防衛力で対抗できるのか。日頃、国防など関心もない向きであれども気になるところだ。

■もしゴジラが日本に現れたら…

そこで今回、「もし、日本にゴジラが現れたなら」という問いを、現役、元職の自衛官など関係者にぶつけてみた。彼、彼女らの話を聞けば聞くほど、わが国が危機に晒された際の課題が浮き彫りになってくる。

それにしても今回の取材は難航を極めた。そもそもゴジラは映画世界における架空のキャラクターだ。そのゴジラがわが国の領土(領海、領空を含む)で暴れまわるという、いわば「仮定の話」について、それぞれ官の立場で応えてほしいという相談である。

当初、彼、彼女たちは、みずからの立場上、「冗談でも応えられない」とその対応はにべもないものだった。

そこで私は、彼、彼女たちに申し訳ないと思いつつも、こう挑発した。「もしかしてゴジラが本当に現れた場合、自衛隊は、ただ指をくわえて見ているだけで、逃げるだけなのではないですか?――」と。

それでも挑発をいなす自衛官には、「どうせ警察頼みなんでしょ?」「海上保安庁でなければ対応できないですよね?」と、あえて、彼、彼女らの神経を逆撫でしてみた。

■「単なる巨大生物、怪獣ということでいいね?」

すると、ある自衛官はそれまでの「制服を着ている者として一切お話しできない」という前言を翻し、顰め面を隠さず、私に鋭い目を向けつつ、「ゴジラを愛する者のひとりとして個人の立場で今回限りお付き合いさせていただく」と、しぶしぶながらも応じてくれた。

またある人は、「日頃、組織の中だと、とても言えないことを間違いなく文字にしてくれるのなら」と前置きし、「あくまでも組織とは関係のない個人の話として」と、身元の秘匿を条件に、その重い口を開いてくれた。

いずれにせよ、消極的な取材受けだ。それゆえ、日頃、決して表に出ることのない、見る人がみれば、日本の防衛を揺るがすセンシティブな内容も孕む。そんな組織の壁を越えた彼、彼女たち自衛官の決して公の場では出てこない「対ゴジラ」への肉声をお伝えしたい。

「ゴジラの属性は? 単なる巨大生物、怪獣ということでいいね?」

やや呆れ顔で私に問うように話すのは、水上艦艇畑の現役の1等海佐だ。護衛艦などの艦長経験有り。海上自衛官としての勤務の半分以上を海の上で過ごした海自のなかでは「艦方(ふなかた)」と呼ばれる生粋の海の武人である。

海上自衛隊ホームページより
※写真はイメージです(出典=海上自衛隊ホームページ)

■ゴジラの「属性」によって対応は大きく変わる

その彼に、「もし、ゴジラが攻めてきたら」と問うた際、彼は私に逆質問してきた。それが、「ゴジラの属性」だ。そもそも属性がはっきりしないと、海自、また海の警察である海上保安庁でも、対応のしようがないというのが現状だという。

もし、ゴジラが諸外国やテロ組織が放ったものであったらどうか。あるいは、どこの国、テロ組織とも関連のない「単なる巨大生物、すなわち怪獣」であったらどうか。

この属性の違いによって、国としても対応が大きく変わってくるからだ。

もっとも、日本の領海内に現れたゴジラが、諸外国なりテロ組織なりが「わが国への攻撃の意図を持って放ったもの」と明確にわかっていれば話は早い。自衛隊法で定められている「防衛出動」や「海上警備行動」といった措置が取られる可能性があるからだ。

とりわけ、日本の防衛行動のうち、最上位に位置する防衛出動が発令されたなら、自衛権に基づき必要な武力の行使が認められ、幅広い自衛隊の活動を可能とする。それだけにこの命令の発令には高いハードルが立ちはだかる。国会の承認だ。

■立ちはだかる「法の壁」

当然のことながら、国会での承認がなければ防衛出動はない。問答無用で暴れまわるゴジラを相手に、そんな悠長なことをやっていていいのかと国民のひとりとしては心配になる。だが、法治国家である以上、法には従わなければならない。

国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

「なので、現場としては、一刻も早く海上警備行動の発令をお願いしたいところだ」

たしかに国会での承認を必要とする防衛出動とは違い、命令の発令権者が防衛大臣である海上警備行動であれば、閣議を経て、内閣総理大臣の承認で、防衛大臣は命令を下せる。これなら防衛出動よりも短い時間で済む。いち早くゴジラに対応できる。

だが、これは諸外国やテロ組織が日本を攻撃する意図、目的をもってゴジラを放ったことが明確な場合だ。

仮に、諸外国やテロ組織による日本への攻撃ではなかったとしよう。しかし当のゴジラがわが国の領海内で暴れまわっている。この場合も法の壁が立ちはだかる。

■「暴れまわっているだけでは、何もできない」

そもそも防衛出動でも海上警備行動でも想定しているのは「武装した敵の艦船」である。巨大生物であるゴジラは艦船ではない。それにゴジラは“武装”しているのかと問われれば、専門家ですらその解答に窮する。

ふと視線を宙にやり、私に鋭い視線を向けた1等海佐は、こう静かに口を開いた。

「ただ、暴れまわっているだけでは、何もできない。これが率直なところだ――」

考えてみてほしい。日本の領海内で巨大生物……、たとえばイルカ、クジラ、見たこともない大きなタコやイカなど何でもいい。それが官民問わず、わが国の艦船に何がしかの被害を与えたとしよう。だからといって、それだけを理由に自衛隊が現場の判断で武力を行使できるだろうか。その答えは誰しも察しのつくところだろう。

このように、もしゴジラが日本の領海に現れても、何も為す術がないというのが現状だ。

とはいえ、ゴジラに限らず、巨大生物が日本の領海で暴れまわっている状況下、わが国は国家として本当に何もできないのだろうか。

■「現場には“訓練”をしていただく」

前出の1等海佐はじめ複数人の制服組が口を閉ざすこの問いに、ようやく、口を開いたのが元防衛省のノンキャリアのひとりである。長年、東京・六本木、同じく市ヶ谷で過ごしてきた彼は、こう口火を切った。

「今、今日、この時点でゴジラ、それも諸外国やテロ組織の関与がない巨大生物が、わが国領海で傍若無人に振る舞う、それがわが国、国民に被害を及ぼすとなれば、即、対処することは当然だ――」

だが法の壁がある。それについてこの元ノンキャリア氏は、にやっと笑い、次のように言葉を継ぐ。

「現場には、“訓練”をしていただく。訓練で火器を用いた。結果としてゴジラに当たってしまった――かかる責任は防衛大臣、政治家に取っていただく。それがいちばん国家国民にとっていい形ではないですか」

ここまで語った元ノンキャリア氏は、心なしか、ややだらっとした姿勢を取り、私を斜め上に見た視線で、こう締め括った。

「予測のつかない事態、これに責任を取る。そうした大臣がいるかどうか。“対ゴジラ”でもっとも大事なことですよね。わが国はそれが……」

■ゴジラの火炎は「摂氏10万度」を超えるが…

時代を問わず難しい問題のようだ。こうした問いをわが国はずっと逃げてきた。そのツケが今、至る所に来ているのが現実だ。

それにしても法的な問題はさておき、今日この瞬間、ゴジラが日本の領海内に現れ、その口から火炎を放射したならば、たまったものではない。諸説あるが「放射火炎」「放射熱線」と呼ばれるそれは摂氏10万度を超えるとされる。

そんなゴジラの火炎だ。精強で鳴るわが国の海上自衛隊といえども、やはり耐えられないだろう――。

こうした話をすると、それまで柔和な表情を崩さず聞いていた技術畑の2等海佐の表情がみるみる曇っていく。そして技術畑とはいえ、やはり武人らしい鋭い目を私に向け、言葉にできない何かを伝えたいのか、喫茶店のテーブルを心なしか軽く叩くようにして手を乗せる。そして言った。

「心配には及ばない――」

どうやら、海上自衛隊の艦船は、ゴジラの放射火炎にも耐えられるようだ。

海上自衛隊ホームページより
※写真はイメージです(出典=海上自衛隊ホームページ)

■元幹部自衛官が語った「対ゴジラ」の秘策

ゴジラが東京湾から本土へ上陸しそうだとなると、防衛最後の要、陸上自衛隊の登場である。だが、このゴジラの移動途中、首相官邸、防衛省本省、情報本部、統合幕僚監部はその対処に大わらわだ。

やはり法治国家である。まず形式的にも急ぎ、ゴジラを「有害鳥獣」に指定。猟友会が登場する。警察、海上保安庁でも対処が難しい。ゆえにゴジラを陸海空自衛隊で対処するという法的な筋道が立てられる。

こうして万が一、ゴジラが上陸した際には、主に陸自が対処。海空の各自も作戦に参加することになるというのが、かつて補給畑で活躍した元陸将補の見立てだ。

その際、どのような作戦でゴジラを殲滅(せんめつ)するのか。元陸将補は、「俺に名案がある」と言い、作戦の腹案を明かす。

「重要なのは3点。第一、ゴジラの上陸を許さない。第二に被害を拡大させない。第三は早期に終わらせることだ」

制服を脱いでも、いまだ現役といった面持ちの元陸将補は、みずからが打ち立てた作戦の詳細を一気に語った。

「まず、空自の戦闘機にゴジラの周りを飛んでもらう。そしてゴジラの目をこちらに向ける。その間、東京湾のどこかにオイルフェンスというかな、それで急ぎ囲いを作る。中は芸能人の運動会であるような泥プールにするんだ。そこにゴジラを誘導してだな、その中に入れる。後はうちの化学科になんかいいものがあるだろう。それでゴジラを固めてしまえ――」

©2023 TOHO CO., LTD.
「ゴジラ-1.0」©2023 TOHO CO., LTD.

据え置き型の殺虫剤ではあるまいしと思いつつも、この元陸将補の話を受けて、化学作戦に従事する化学科職種の現役2等陸佐とコンタクトを取った。そして、この元陸将補の話をし、「ゴジラを固める、そんな兵器はありますか?」と問うてみた。

■「想定していないこと」にどう対処すべきか

2等陸佐は、「ふふふ」と意味ありげに笑い、こう言葉を継ぐ。

「ご安心を――」

それにしても架空の問いに、元、現職を問わず自衛官や防衛事務官たちは、皆、真剣に応えてくれたが、そのなかでも、もっとも今回の問いの要となる言葉がある。

「結局、自衛隊も役所で。いざというときにデータとマニュアルがなければ、ただ警戒、監視……指をくわえて見ているだけしかない、という現実は確かだ。これは政治と法の問題だ」

振り返れば、1995年の阪神・淡路大震災、2001年の九州南西海域工作船事件(いわゆる不審船事件)など、自衛隊は「想定していないこと」で苦労を強いられた歴史がある。

阪神・淡路大震災では、被災後、現場の判断で「訓練と称して」部隊を出動させ、同時にその指揮官は、「急ぎ辞表を書き懐に入れて」、その“訓練”の指揮を執ったという。いわゆる不審船事件にしても現場では上から下まで、皆、手探りの状態での対応だった。

何者かわからない脅威は、今、すぐにでもやってくる。そうした際に、現場ならではの判断で動かざるを得ない場面もあろう。とはいえ法治国家である。ときに現場の判断が政治と法の壁を飛び越えてしまったとき、腹を括って責任を取れるリーダーは、今、わが国にいるだろうか。「もしもゴジラが攻めてきたら――」。この問いを考えるにつけ、心配になる。

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秋山 謙一郎(あきやま・けんいちろう)
フリージャーナリスト
1971年兵庫県生まれ。『AERA』「AERA.dot」(以上、朝日新聞出版)、『週刊ダイヤモンド』「ダイヤモンド・オンライン」(以上、ダイヤモンド社)、「現代ビジネス」(講談社)などに寄稿。経済、社会、文化の3つのジャンルを専門とする。著書に『弁護士の格差』『友達以上、不倫未満』(以上、朝日新書)、『ブラック企業経営者の本音』(扶桑社新書)、『最新証券業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』『公務員の「お仕事」と「正体」がよ~くわかる本』(以上、秀和システム)など多数。共著に『知られざる自衛隊と軍事ビジネス』『教師が危ない』(以上、別冊宝島)などがある。

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(フリージャーナリスト 秋山 謙一郎)

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