無理して「億超えタワマン」を買った共働き夫婦はお気の毒…聡明な人たちがタワマンを買わない明白な理由
プレジデントオンライン / 2024年3月17日 10時15分
※本稿は、牧野知弘『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
■「ウォーターフロント」に建つタワマンのリアル
お客様との面談で、東京の江東区豊洲のタワマンにうかがう機会がありました。
このタワマンを事前に調査したところ、数年前の販売時の平均価格は坪単価450万円、上層階で専有面積100m2を超すプレミアム物件になると、坪単価は600万円を超えていました。1戸あたり、優に2億円を超えます。中層階、低層階でも20坪(66m2)で9000万円前後ですから、一般国民には手が届きません。
さて、現場にすこし早めについて周囲を実査しました。豊洲近辺はかつてIHI(石川島播磨重工業)のドックなどがあり、古くからの街並みが形成されているわけではありません。緑も少なく、見方によっては人工的でやや殺風景に見えます。
世間では海が近く、「ウォーターフロント」などと礼賛されますが、しょせん借景にすぎませんし、きれいとは言えない海で泳げるわけでもありません。潮風は防ぎようがないため、建物寿命などに影響が出ます。
■埋立地ならではの災害リスクを忘れてはいけない
タワマンの近くにあるのが、いかにも取って付けたような公園、それも潮風の影響でひしゃげたような樹木が多いです。ショッピングモールは大手流通企業や不動産会社が運営する、どこにでも見られるような店舗ばかり。その店舗に並ぶ商品も、通勤が主体となる生活を反映してか、生活必需品が中心です。
災害もちょっと心配です。埋立地では大地震が発生すると津波はもちろん、建物自体の安全性は確保されても、周辺土地の液状化が起こることは、かつての東日本大震災発生時において証明済みです。エレベーターが停止して40階まで階段の上り下りで死にそうになった、ゲリラ豪雨による洪水で電気室が浸水した……などなどタワマンにまつわる危険性の指摘は枚挙に暇がありません。
また、上層階と低層階の住民格差などが題材になった「タワマン文学」まで、巷には蔓延しています。このように、湾岸エリアを居住環境として考えると、お世辞にも優良とは言いがたいものがあります。それでも、売れ行きは好調のようです。なぜでしょうか。
■タワマンは「金融商品」として考えたほうがよい
私は時折、お客様からタワマン購入についての相談をいただきます。私のアドバイスは、一貫して「お買い求めになるのでしたら、数年で売却しましょう」です。なぜなら、タワマンは長く住み続ける住宅ではなく、「金融商品」と考えたほうがよいと思っているからです。
金融商品は買ったら、どこかで必ず売らねばなりません。投資の世界では、これを「EXIT(出口)」と言います。金融商品への投資は、買った価格、所持している間の運用益、売却(EXIT)した時の価格で決まります。タワマンを金融商品に置き換えると、タワマンを買う意味が鮮明になります。
私が訪ねた豊洲のマンションを例に考えてみましょう。数年前に分譲された時の販売価格は前述のように、平均の坪単価は450万円でした。現在売りに出されている中古販売価格を見ると、坪単価500万円~1000万円になっています。住戸面積にもよりますが、売却すれば数千万円~1億円以上の売却益が期待できます。
■賃貸にすれば利回り3.5~4%が得られる
調べを進めるうちに、このタワマンのいくつかの住戸は、買ったオーナーによって賃貸に供されていることもわかりました。たとえば、もっとも狭い住戸は13坪(40m2強)で月額25万円程度(坪単価1万9000円)、上層階の広い住戸は32坪(100m2強)で同75万円程度(坪単価2万3000円)でした。
管理費(月額)は1m2あたり400円、修繕積立金が同100円ですから、両方合わせて狭い住戸で2万2000円、広い住戸で5万3000円くらいの負担になります。これらの費用(投資信託で言えば信託報酬のようなものです)を賃料から差し引いた利回りで見ると、狭い住戸で年間約4%程度、広い住戸で3.5%程度となります。ただし、この計算の前提は常に借り手がいる、つまり稼働していることが条件になります。
■売却時、2~6割強も値上がりする可能性
さて結論です。このタワマンという金融商品は運用利回りで税引き前3.5~4%、ここ十数年続いてきた超低金利時代を思えば十分に高い利回りと言えます。また数年間運用したあと、出口価格が2~6割強も値上がりが期待できるのは、投資商品としてはすばらしい性能ということになります。
また、この商品を運用せずに自らが住む住宅として資金調達をしていれば、賃貸収益は得られないものの、購入にあたって住宅ローン金利が適用されますので、金利はさらに低く、税制上の恩典も合わせてアツモリ状態になっているはずです。
この商品のメリットはこれだけではありません。相続に悩むあなたにもぴったりです。シミュレーションをしてみましょう。
■相続税フリーで1億円の物件を買う方法
このタワマンの23坪(76m2)の住戸を1億円で買うとします。1億円の内訳は仮に土地7000万円、建物(区分所有部分)3000万円としましょう。土地は路線価評価ですが、このエリアは1m2あたり56万円でした。この住戸の土地所有面積は20m2(約6坪)ほどですから、土地評価は1100万円。建物は固定資産税評価額で約2000万円。土地と建物を合わせた評価額は3100万円となります。
現金で1億円を持っていたら、額面通りに課税されますが、相続税の計算の基となる評価額が7割も圧縮されたわけです(マンション相続評価改正前)。
もっと圧縮したければ、この商品を買う際に借入金で調達します。借入金額は評価額から差し引くことができるので、1億円全部を借入金にすれば、何と相続評価額はマイナス、つまり税金フリーということになります。相続後は、タワマンは右肩上がりで価格が上がっていますから、相続人である妻や子供たちが売却すると多額の売却益を享受できます。
ですから、住み心地がイマイチだとか、住戸から見る夜景などすぐに飽きるなどということは二の次であり、災害が起こったところで建物自体が大丈夫なら、この金融商品はお買い得ということになります。買えるものならぜひ買っておこう。これが、タワマン購入の結論です。
■タワマンの豪華な設備は賑やかしにすぎない
タワマンを拵(こしら)えるデベロッパーやゼネコンは、こうしたからくりを熟知しています。すなわち、自分たちは金融商品を作っているのであって、豪華な共用部ロビーなどしょせんお飾りだし、フィットネスルームやキッチンスタジアムなどは賑やかしにすぎないということを。
買う人たちに買うための理由さえあればよく、マーケットで値上がりが続いている限り、販売には何の問題もありません。彼らは売れてしまえば仕事としておしまいです。顧客が買ったその先には興味を抱く必要もないし、実際、気にもしていません。
しかし、うまいことばかりが続く金融商品など存在しないことは、聡明な人であれば気づくでしょう。
■相場が下がり始めたら一巻の終わり
まず、この商品は当然ながら、元本保証ではありません。また、売却価格が相場に左右されるのは株式と同じでありながら、株式のように即日で売却(利確または損切り)できるほどの流動性はありません。相場が悪くなると一斉に売りに出されるのは株式と同じですが、商品単価が高いため売りづらいのです。
つまり相場が下がり始めると、あれよあれよと下がっていくのを呆然と見つめることしかできません。さらに、この商品は年数(築年数)を経過すると、どんどん劣化していきます。建物は古くなり修繕費用が嵩(かさ)みますし、周囲に新しい建物(商品)がたくさん出てくるため競合が激化し、当初の「レアもの感」はすぐに失われます。
このように、タワマンの商品価値を維持するのは意外と難儀なのです。また自分が住んでいれば、保有期間中の運用益は得られないうえに、管理費と修繕積立金という投資信託であれば信託報酬的な費用は毎月かかります。
さらに、相続での節税効果については本書で詳述しますが、税務当局が一定の制限を設けるようになりましたし、今後さらに規制が強化されるリスクも内包しています。そもそも、この節税効果には所有者である被相続人本人が死ななければ享受できないという、まったくもって理不尽な条件が前提になっています。
■金融機関に人生を売り渡すようなことは避けるべき
金融商品は、金利の変化に敏感です。株式もそうですが、思い切りレバレッジ(借入金による取得)を利かせすぎると、いざ相場が下がり始めた時に対応できなくなる危険性が増します。しかも、不動産は株式より流動性が低いため、金利上昇はつらい仕打ちとなってしまいます。
確かに、タワマンは今までかなり高いパフォーマンスを示してきたので、得をした人が多いのは事実です。しかし、どの金融商品もそうですが、これまでの成功がこれからの成功を約束するものではありません。
ましてや、タワマンを金融商品と思わずに買ってしまった、つまりずっと住み続けようとして、しかも過酷なレバレッジをかけて夫婦ペアローンを組むという、人生を金融機関に売り渡してしまったようなパワーカップルがいたとしたら、その未来はとてつもなく不透明なものと言わざるを得ません。
もう一度言います。タワマンは金融商品として扱いましょう。運用期間10年程度の金融商品ですから、金融情勢や社会の変化に対して敏感に反応して期間内で運用する、適切なタイミングで「売り抜ける」ことが肝要となります。
逆に言えば、「住居」として周辺環境や住民同士のいざこざなどを意識することなく、「商品」として冷静に儲かるタイミングだけを見ていればよいということになります。身も蓋もない言い方ですが、これがタワマンのリアルな姿です。
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不動産事業プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。ボストン コンサルティンググループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)、『負動産地獄 その相続は重荷です』(文春新書)など。
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(不動産事業プロデューサー 牧野 知弘)
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