「長時間居座る客」はむしろ大歓迎…スタバが「コンセント、無料Wi-Fi、一人席」を用意する深い理由
プレジデントオンライン / 2024年3月13日 13時15分
※本稿は、岩田松雄『共感型リーダー まわりが自然と動く、何歳からでも身につく思考法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■仕事の目的を伝えないと若手は辞めてしまう
最近は若者の離職が多くなってきています。それぞれが夢を描いて入社してきたのに、こんなはずではなかったということなのでしょう。2018年の内閣府の『子供・若者白書』によると初職の離職理由は、
1位「仕事が自分に合わなかったため」(23.0%)
2位「人間関係がよくなかったため」(10.0%)
3位「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」(6.8%)
となっています。1位の「仕事が自分に合わなかったため」の原因として、上司がきちんと仕事の意義や内容をしっかり説明をしていなかったことも考えられます。
仕事をしていて、とてもつらいのは、「こんなことをしていて何か意味があるのか……」と、仕事の意義が見出せなくなるときです。リーダーは「この仕事は何のためにするのか」と、仕事の目的や意義をしっかりと伝えないといけません。
それなしに、ただ「やっておけ!」と言われても、やらされ感しかなく、モチベーションは上がりません。もちろん仕事の中にはクレーム処理や雑用など、なかなか「頑張ろう!」という気持ちになりにくいものもありますが、それでもどのように人の役に立っているのかなどそこに意味を見出して示すのがリーダーの役割です。またどんな些細(ささい)なことでも、「ありがとう!」「助かったよ」の声掛けをしっかりすることが大切です。
■「目標設定や評価の仕方」への不満が多い
ある企業では30代の離職がとても多く、その理由をヒアリングしてみると、「将来に対する不安」がとても多くありました。これはトップが社員に対してきちんとしたビジョンや将来に対する夢や希望・キャリアパスを示すことができていないことが原因だと思います。
次に多かったのが、「目標設定の仕方や評価の仕方」などへの不満でした。一方的な上からの押し付けの数値目標や業績のみの評価の仕方があり、マネジメントへの共感が持てなかったことが原因です。
売り上げ・利益などの数字だけではなく、会社が大切にしている価値観に対しても、しっかり評価項目に入れることが大切です。この会社は、社員のミッションへの共感度はとても高く、それが具体的な評価と結びついていないことが原因だと思われます。
「私には夢がある」
“I have a dream.”
――マーティン・ルーサー・キング牧師
キング牧師の未来のイメージつまりビジョンは、自分たちの子供たちが、「肌の色ではなく、人間性の内容によって判断される」世界を語りました。兄弟愛、尊敬、万人の自由というアメリカの建国の価値観と繋がる、具体的な未来のイメージを訴えました。
■言葉は抽象的でも、ビジョンの中身は現実的に
「僕らはここで未来を創っているんだ。僕らといっしょに宇宙に衝撃を与えてみないかい?」
――スティーブ・ジョブズ
例えばスティーブ・ジョブズが社員に語りかけたように、共感型のリーダーは、他者を自分のビジョンに引き込む不思議な力があります。自分は世界を変えられる、少なくとも社会に良い影響を与えられると心から信じています。
組織の変革を実行するリーダーがなすべき最初の仕事は、組織の存在意義や組織が向かうべき方向性の設定です。つまり、組織のミッションやビジョンを明確化することです。変化が激しく複雑性が増す現代社会においては、意思決定の拠り所となる揺るぎないミッションやビジョンが必要です。
気をつけないといけないのが、ビジョンを描く際には単に目標を設定すれば良いのではないということです。ビジョンの先に「こんな良いことが待っている」と語らなくてはならないのです。
また組織のビジョンはリーダーの個人的なビジョンではいけません。組織に所属する全員にとってのワクワクするビジョンでなければなりません。フォロワーの熱意を引き出し、アクションを起こさせ、彼らが共感し、自らの仕事に意義を見出せるものでなければなりません。
地に足が着いた、手の届きそうな現実的なものであり、組織のメンバーに夢を持たせるようなビジョンが必要です。これを設定できるリーダーこそが、人々を引きつけ、魅了し、支持を獲得できるのです。
■スターバックス時代に掲げたのは「感動の深さ」
「適切なビジョンをつくることで、リーダーは未来そのものに影響を与えられるのである」
――ウォレン・ベニス
「(目標とは)今のところ手が届かないが、そこに向かって努力を重ねるべきものであり、前進すべき方向であり、そのようになるべきものである。創造力を刺激し、今はまだやり方のわからないことに人々を挑戦させ、それに向かって進んでいることで誇りを持っていられるようなものだ」
――ロバート・K・グリーンリーフ
スターバックスの社長をしている時に、スターバックスのミッション(「人々の心を豊かで活力あるものにするために」)は、本当に心から素晴らしいミッションだと思っていました。私なりにこのミッションをより達成するには、どうしたら良いのかを真剣に考えました。
それは「より多くの人の心をより豊かにすることができたら、よりミッションが達成できるのではないか」と考えました。図表1の概念図を見てください。横軸にお客様数、縦軸に豊かさ(=感動の深さ)を置きます。現在が左下のボックスAだとします。
■「大量出店戦略」で陥りがちな罠
お店をどんどん増やせば、トータルのお客様の数は増えます。しかし採用や教育が間に合わず、お客様へのサービスが落ち、お客様に不快感を感じさせてしまったら、むしろミッションに反する方向になってしまいます。
ボックスBのようになって結果的に現在のボックスより面積が小さくなってしまいます。急成長しているベンチャー企業などでありがちな事例です。最近で言えば立ち食いのステーキチェーン店がまさしくそうでした。肉も満足に切れない人がお店に立っていました。人の成長(教育)が間に合わないのです。
実際感動を与えられる人数を増やすには、店舗を増やせば確実にお客様数は増えます。日本中の人がスターバックスの開店を待っていました。そのため「全県制覇」をひとつの方針として推し進めました。時には、「(予想)投資収益率」の目標水準を満たしていなくても、出店を推進しました。スターバックスを待っている人は多くおられる。投資収益率より大切なことがあると思いました。
■「ゆっくり過ごせる」空間が単価アップにつながる
一方、感動をより深くするには、店舗のサービスを充実させることが必要です。「感動の深さ」は、お客様の満足度と置き換えても良いでしょう。
ですから店舗数の拡大のみならず、無償Wi-Fiの導入、コンセント数の増大、一人席の拡充など、ミッションである「心に活力を与える」ための、さまざまなアイディアを実現させました。スターバックスの商品が他社のコーヒーチェーンより多少割高で買っていただいているのは、他社よりも感動が大きいからだと思います。つまり「感動の深さ=単価」なのです。
このボックスの面積こそが「単価×お客様数=売上」なのです。ボックスの面積を増やすことが、ひいてはミッションをより実現することにもなり、それは売上にもリンクしているのです。ですからもし売上が落ちているなら、何か間違っているのです。ボックスCの方向に向かって成長しないといけないのです。つまり売上はミッションの達成度を表しているのです。
私はこう考えると経営者としてとてもスッキリしました。「なぜ成長しなくてはならないか?」という問いに対して、「自分たちの素晴らしいミッションをより達成したかどうかの指標は、売上で測れるから」と答えられます。当然成長するためには色々な部署に負荷をかけなくてはなりません。
■「ミッションでは飯が食えない」と言われるが…
でも皆が共感しているミッションをより達成するためだと考えれば、良いのです。経営者としてこのスッキリ感がとても大切だと思います。決して株価を上げたり、自分の給料を上げたいために言っているのではないということです。
また利益はその効率だと思っています。同じ面積(=売上)でも、会社によって利益が違います。利益をしっかりあげているということは、より少ない資源とより少ない労力で同じ売上(ミッションの達成度)を達成していることで、とても効率が良いことになります。それだけでも社会貢献と言えるのではないかと思いました。
私が日産にいた時、大衆車のサニーと同じ価格帯のトヨタのカローラでは、カローラの方が原価が10万円安いと言われていました。もしサニーとカローラが同じ性能・品質だとすれば、トヨタは日産より少ない原材料、少ない労働力で同じ車を製造していることになります。私はそのこと自体社会貢献ではないかと考えていました。
「ミッションでは飯が食えない」
そんな声も聞いたことがあります。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に沿った経営が大切だと書きました。では利益は? もちろん大切です。企業は世の中を良くするためにあるのですから、その大前提としては「存続する必要」があります。つまりMVV経営の大前提は継続する(Going Concern)ことです。つまり利益は目的ではなく、存続するための手段なのです。
■ミッションも進化させなければならない
ではどれくらいの利益が必要かといえば、ドラッカーの言っている「最小利益」を目指すのです。ではその最小利益とは? お客様に価値に見合った適正な価格で商品を提供し、従業員に適正な給料を払い、取引先から適正な価格で商品を購入し、適正な税金を納め、最後に株主に適正に配当して残った利益が最小利益です。
企業の成長のために、将来に対して適切な投資ができる適正な内部留保も必要です。社会の公器として、いわゆるステークホルダーと(将来も)適正に付き合っていくための利益です。ミッションと株価、短期と長期など一見相矛盾することに「折り合いをつける」ことが経営者の仕事です。
創業間もないベンチャー企業以外のほとんどの企業には、すでに経営理念に類するものは存在していると思います。しかしその浸透具合には大きな差があります。また、環境の大きな変化、例えば人口構成や社会の大きな変化、科学技術の進展あるいは、自社の予期せぬ大きな成功(失敗)によって、MVVを見直す必要があれば変更しなくてはなりません。つまりMVVも進化させなくてはならないのです。
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リーダーシップコンサルティング代表
株式会社リーダーシップコンサルティング代表取締役社長。早稲田大学講師。1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業。日産自動車株式会社、外資系コンサルティング会社を経て、コカ・コーラビバレッジサービス株式会社役員。株式会社タカラ常務取締役。株式会社アトラス、ザボディショップジャパン株式会社、スターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOを歴任し実績を上げる。元立教大学教授。ベストセラー『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』(サンマーク出版)、『ミッション』(アスコム)など著書多数。【最新刊『共感型リーダー』(KADOKAWA)】
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(リーダーシップコンサルティング代表 岩田 松雄)
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