流行っているから儲かると思ったのに…「二郎系ラーメン大ヒット」を見てラーメン屋を開業した人の末路
プレジデントオンライン / 2024年3月14日 7時15分
※本稿は、石動龍『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■「簡単に儲かる商売」が存在しない理由
一口に儲かりやすい商売は存在しません。時期や場所、オーナーの資質に左右される部分が大きいからです。
もちろん、時代に合って成功しやすい商売、失敗しやすい商売はあります。
それを見つけられるかは運が大きく絡みます。ここ20年で市場に出た革新的な製品のうち、スマートフォンは大流行しましたが、セグウェイは生産終了になりました。
技術革新が進んだり、状況が変わったりすると、産業自体が大きく傾くこともあります。例を挙げてみましょう。
大正時代に入って男性がスーツを着ることが一般層にも浸透し、仕立て屋さんとして起業する人が続々と現れました。
職人の手によって、それぞれの体型に合わせたスーツが一着一着、丁寧に仕立てられました。
■どんな仕事も変化の波にさらされている
ところが、第二次世界大戦が終わり、高度経済成長期に入ると、状況が一変します。
あらゆる産業が機械化し、マニュアルによる大量生産の時代に入り、既製品のスーツが量販店にあふれるようになりました。
個人店は価格で太刀打ちできなくなり、徐々に廃業していきます。
やがて、スーツは既製品が当たり前で、オーダーメードは愛好者のための高級品になりました。
現代では、仕立て屋さんで独立するという選択肢は、一般的とはいえないものになりました。
士業としての私の仕事も新しい波にさらされています。
「AIに代替される仕事」と題された記事を読むと、たいてい「税務申告」が入っています。私の本業の1つである税理士が仕事としてなくなってしまうのは正直、とても困ります。予想が当たるとは限らないですが、そのような未来が到来する可能性は十分あるでしょう。
■タピオカブームはあっという間に去った
時代の変化に伴って、人の好みや周囲の環境は次々に変わっていきます。
ここ20年間のラーメンで見てみても、魚介系と動物系のWスープ、メガ盛りの二郎系、濃厚魚介つけ麺、鶏白湯(パイタン)など、次々に流行が生まれ、移り変わっていきます。行列店が生まれる陰で、かつての行列店が閉店していきます。
タピオカが爆発的に流行し、あっという間にブームが去ったのは記憶に新しいです。
少しさかのぼると、白いたい焼きでも同じようなことがありました。
かつてダーウィンは、「生き残るのは強い者ではなく、変化に対応できる者である」と唱えました。これは、ビジネスにおいてもまったく同じです。
儲けるためのシンプルなルールは、環境変化に臨機応変に対応することです。
儲かっていたビジネスが、ある日を境に変わってしまう――。
このようなことはどのジャンルでも起こっており、飲食店はわかりやすい例です。
■ブルーオーシャンとレッドオーシャン
「ブルーオーシャン」と「レッドオーシャン」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
ブルーオーシャンとは、競争相手のいないエリアのことで、文字通り「のどかで穏やかな青い海」のような市場です。
これに対し、レッドオーシャンとは、競合がひしめき合う激しい競争状態にあるエリアのことで、「血で血を洗うような真っ赤な海」のような市場です。
近年人気である、メガ盛りの二郎系ラーメンの例で考えてみましょう。
東北地方に住む大森さん(28歳、元ラグビー部、体重80キロ)は、出張の際に東京で食べた二郎系ラーメンに感動しました。家の近所に似た店はないため、出張時以外は食べることができません。
いつでも食べたいと悩んでいたところ、インターネットでレシピを見つけました。
大森さんは「それなら自分で作ってやろう」と製麺所から麺を通販で購入し、試作を始めます。毎週のように続けると、味のレベルは上がっていきます。
3カ月もすると、自分がおいしいと思う二郎系ラーメンを作れるようになりました。
■「二郎系ラーメン」でブルーオーシャンを開拓
近隣地域では、「二郎系というラーメンがあるらしい」とテレビやインターネットで噂になっているものの、県外に出る人以外には幻の存在です。
自信をつけた大森さんは、「おいしい二郎系を地域の人に届けたい」と思い立ち、脱サラして二郎系メガ盛りラーメン屋「大森の大盛」を出店することにしました。
学生を狙って、場所は大学の近くにしました。近隣に類似店はなく、狙いは大成功。腹ペコの運動部員を中心に人気を集め、連日行列ができるようになりました。
客単価900円で毎日200杯を売り上げ、1日の売上は18万円、1カ月では25日営業で450万円を売り上げました。
原価率は約40%、人件費や家賃を引いても月に約120万円が手元に残るようになりました。
3カ月後、大森さんの店の行列を遠くから眺めている人物がいました。かねてからラーメン屋で独立したいと考えていた目雅森(めがもり)さん(30歳、元レスリング部、体重100キロ)です。
■よく似たラーメン屋ばかりが増加
「大森の大盛」の繁盛を目にした目雅森さんは、「これからは二郎系がもっとはやるに違いない」と考え、退職して独立を決意。
決意からさらに3カ月後、エリアを少し離し、大森さんのラーメンによく似た「目雅森のメガ盛」を出店しました。
ブランド豚でチャーシューを作り、肉質にこだわったところ、こちらも行列ができるようになり、1日130杯を売り上げる人気店になりました。
月商は約300万円、利益は約80万円です。
大森さんの店は、新店オープンの影響で少し行列が減ったようです。
さらに3カ月後、居酒屋を経営している獏森(ばくもり)さん(32歳、元相撲部、体重120キロ)が目雅森さんの店を訪れました。
ラーメン屋経営に興味はありませんでしたが、行列を見て、「二郎系は儲かりそうだ」と考えました。獏森さんはさっそく居酒屋のスタッフにラーメンを試作させ、似た味を作ることに成功。
■ついに閉店に追い込まれる
決意からさらに3カ月後、2人の店から少し離れた場所に「獏森の爆盛」をオープンさせました。
製麺機を導入し、2人の店にはなかった自家製麺を提供したところ、評判は上々。1日100杯を売り上げるようになり、月商は約220万円、利益は約25万円となりました。大森さんと目雅森さんの店は、行列が減ってしまいました。
それから2年後、大森さんの店はすっかり行列がなくなり、ついに閉店に追い込まれました。
この事例では、ブルーオーシャンだった二郎系ラーメンは、あっという間にレッドオーシャンに変わってしまいました。どうしてこうなったのでしょう?
■飲食店の開業は簡単
理由は1つ。飲食店の開業は簡単だからです。①食品衛生責任者を設置する、②飲食店営業許可を取得するというプロセスだけで、小規模飲食店は開店できます。
料理は別として、準備期間は1カ月あれば十分です。
わかりやすい行列がなくなるまで、似た店の出店は続くでしょう。
特殊な国のエスニック料理など、簡単に真似できないジャンルでなければ、どの地域の飲食店でも、おそらく似たようなことが起こります。
ちなみに、筆者が自分のお店「ドラゴンラーメン」を開店した後、近隣に①煮干などの乾物を扱う会社による出汁ラーメン、②和食専門店の日替わり魚介ラーメンが1年以内にオープンしました。
これらは、当店の成功を見て参入したわけではなく、たまたま時期が重なっただけです。儲かりそうな業界は、より多くの参加者を引きつけます。
後発者は先行者に勝つための工夫を凝らして参加します。また、後発者は資本があるパターンが多いため、設備やスタッフ面でも有利です。
激しい競争にさらされる業界で勝ち続けるには、強いブランド価値を確立する、後発者が真似できない高いクオリティを保つなど、有利な状態をキープしなければなりません。
そのために必要なことは、「日常的にデータを分析し、臨機応変に対応すること」です。
売上が落ちている、原価が上がっているなどの不利な状況を数値化して見えるようにし、適切な手を打ち続ける必要があります。
そして、そのデータを得るためのプロセスが、日々の会計になるわけです。
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ドラゴンラーメン店主、石動総合会計法務事務所代表
1979年生まれ。青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。2020年10月に地元でドラゴンラーメンを開業し、店主として自ら店にも立つ。ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干ラーメンの研究。著書に『公認会計士試験 社会人が独学合格する方法』『司法書士試験 独学で働きながら合格する方法』(ともに中央経済社)がある。
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(ドラゴンラーメン店主、石動総合会計法務事務所代表 石動 龍)
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