なぜ「極太タイヤの電動オートバイ」が無登録で買えるのか…急増する違法モペッド問題で行政がやるべきこと
プレジデントオンライン / 2024年3月10日 6時15分
■「モペッド」には違法タイプと脱法タイプがある
3月5日に閣議決定された道交法改正案は、自転車にも青切符(=行政処分)を導入するという画期的なものだったのだが、そこの部分は別機会にでも書かせていただくとして、今回は、「モペッド」について解説したい。
現在問題となっているのは、私が「電ジャラス自転車」と呼んでいる危険な乗り物のことだ。たいていの場合、自転車よりも太いタイヤで、ペダルを漕がずに(あるいは楽々と回して)道路を爆走しているが、ナンバープレートが付いていない。右手にスロットルがついているフル電動タイプ(違法)と、スロットルのないタイプ(脱法)があって、どちらにしても危険極まりないというのは、以前の原稿で書いたとおり。
【参照記事】ペダルを回さず猛スピードで走り去る…危険すぎる「電ジャラス自転車」を、なぜ警察は野放しにするのか
■「自転車ではなく原付」と明確化された
今回の閣議決定では、この「ペダル付きバイク」通称「モペッド」について、あらためてその立ち位置を確認するという形になった。
ちまたに蔓延するモペッドは、あくまで「電動の原付バイク」であり、免許も必要、ナンバー登録も必要、税金と保険料を払って、歩道は不可、ヘルメットをかぶること、などが、あらためて明確化された形だ。
また、これらのモペッドについては、たとえ「モーターを止めた状態」であり、「ペダルで走行」していても、無免許やナンバープレートを付けずに走ることはアウトだということが念押しされた。
ハイパワーでハイスピード型の電ジャラス自転車は、電源を切っていても「自転車ではなく原付」だと認定されたのだ。
■マスコミ報道の「一夜づけ知識」
それはそれでいい。しかし、私が案じるのは、これを報じるメディアも(行政も?)ちゃんと分かっているのかなということだ。
某紙の記事には「改正案が成立した場合、この部分は公布から6カ月以内に施行される」なんてことが書いてある。
6カ月以内なんかじゃないぞ。今すぐだ。なぜなら、今回のこれ、現行法の念押しに過ぎないからだ。600Wのハイスピード型(20km/h以上出るもの)は、最初から原付一種、それを超える1000Wまでのものは原付二種としてすでに法律で決まっている。いわゆるモペッドは、法改正の前後を問わず、最初から「電動原付」なのである。
ついでにいうと各紙各局が「モペット」と呼ぶのにも、私は強い違和感を持っている。モペッドはMotor+Pedalで、Mopedなのだ。最後の「ト」は濁った「ド」。分かってない記者が分かってない記事を書いているというのが、こんなところにも出ていると思う。
■原付の始まりは「人力アシストオートバイ」
そもそも「原付バイク」という成り立ちから考えてみるといい。原付とは「原動機付自転車」の略。もともとが「自転車に簡易なエンジンをつけたもの」だ。
戦後日本のミニバイク黎明(れいめい)期、ホンダをはじめとする2輪メーカー各社は、自転車(いわゆる運搬車)に小さなレシプロエンジンを取り付け、これなら楽に走れる、と売り出した。ユーザーはそのエンジン音から「バタバタ」と呼んだものだ。
エンジンスタートはペダルを回しながらONにした。まだレシプロエンジンが非力だった時分だったから、坂道を上るときは、ペダルを踏んで、エンジンを人力でアシストした。今で言う電動アシスト自転車の逆だ。人力アシストオートバイ。それが原付の始まりだった。
製造コストが安く、お手軽なのに楽ちん、昭和の高度成長期に物流の一翼を担った。50ccスクーター(原付)が、税金面で優遇され、免許試験がごくごく簡単なものなのは、その時代のなごりだ。
原動機はガソリンであれ、電動モーターであれ、法律上の立ち位置は同じ。以前はバッテリーの性能が今のようによくなかったので、電動モーターが実用的じゃなかっただけなのである。
ちなみに「電動アシスト自転車」はあくまでペダル踏力をアシストするという形であって、トルクセンサーによる厳密な出力制御が前提であり、電ジャラスとはまったく異なっている。
■販売から規制をかけなくては減らせない
さて、車道も坂道も猛スピードで走る違法モペッドだが、今回の閣議決定で減るだろうか。
私としては、呼びかけるだけでは「へー」でおしまい、捕まっても「知らんかった」で終わりだと思う。これを機に販売側に網をかけるしかないだろう。
話は簡単で「原チャリと同様」にすればいい。ネットであれ、路面店であれ「ナンバーを取って、登録代理までやらないと売っちゃダメ」とする。
普通の路面店ではそれをしないと「乗って帰ることができない」ので必ずそれをする。軽トラなどで届ける場合だって同じだ。
ここの部分をきちんと管理すれば、現在の電ジャラス蔓延に一応のブレーキはかかるだろうとは思う。とりあえず「自転車でしょ、ウェーイ」とか言って歩道を爆走している連中はこれ以上増えなくなるだろう。だから今回の閣議決定に意味がないとは言わない。
だが、問題はすでに売られたモペッドのことだ。
■「すでに乗っているヤカラ」をどうするか
すでにばらまかれた電ジャラス自転車は全国に何万台あるのだろう。私など東京の中心部を毎日自転車で移動していると、無法の電ジャラスを1日50台は見るような気がするのだが。
あの連中が、今からナンバー登録して、税金払って、自賠責保険払って、保安部品(ミラーやウィンカーなど)つけて、オートバイ用のヘルメットかぶって、車道左側を原付として乗るだろうか。
そこを期待するのはほぼ無理だろう。もしもそれをやるというなら、最初から原付を買っているだろうから。
■「全国一斉取締りキャンペーン」をやるしかない
正直申しあげて、現在の電ジャラスユーザーは「税金や、保険や、ヘルメットとかウザい、自転車だから酒飲んでも大丈夫っしょ(本当は自転車でもダメ)、歩道もOKっしょ」みたいな不埒(ふらち)な動機から、現状のモペッドに乗っていると考えるほうが自然だ。
私が思うに、警察だってそんなことは分かっている。「呼びかけ」をいくらやったって、あの連中が「はい、原付だから、今後はそういう行為はしません」なんて聞くわけない。
おそらく今後、どこかの時点で「全国一斉取締り」みたいなことをやるんだろう。そしてそこそこ知られている有名人なんかを「無免許、無登録、無保険で逮捕」と発表する。
テレビのワイドショーなんかはきっと大喜びだ。「前から危ないと思っていましたよ」「あんなの乗るなんて信じられない」と、このときばかりはバンバンぶっ叩いていただきたいと思う。
なにかに似ていると思ったら、いつぞやのノーブレーキピストの摘発メソッドだ。あのときも若手のお笑い芸人を血祭りに上げて一罰百戒とした。あれは効いたな、たしかに。
どうぞきっちりと摘発を。
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自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。
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(自転車評論家 疋田 智)
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