頭のいい人とそうでない人の格差がますます広がっていく…ChatGPTによる「勉強革命」がもたらすもの
プレジデントオンライン / 2024年3月15日 8時15分
※本稿は、野口悠紀雄『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■勉強のコツは「できるだけ早く先に進んで、全体を捉える」
私は、「超」勉強法という方法を提唱してきた(*)。これは、いくつかの点で、常識的な勉強法とは異なるものだ。
*野口悠紀雄『超「超」勉強法 潜在力を引き出すプリンキピア』参照。
「超」勉強法の原則の1つは、全体を捉えることによって部分を理解すること、そして、そのために、できるだけ早く先に進むことだ。
数学、物理学、統計学などでは、基礎概念を学んでからその応用に進むべきだと考えられている。しかし、基礎概念から順に進んでいくという方法は、効果的な勉強法ではない。
効果的でない最も大きな理由は、基礎は退屈で難しいことだ。例えば、微分法の基礎を完全に理解するのはたいへん難しい。それに拘泥(こうでい)するより、微分法の公式を使って問題を解くほうが重要だ。
証明なしで定理を使い、それがどのような可能性を持っているかを知る。そしてつぎに証明を見、さらに概念を学ぶ、という方法のほうがよいのである。これは、ガソリンエンジンの原理を理解していなくとも、とにかく自動車の運転を始めてみるのと同じことだ。
■「超」勉強法の3原則は不変
「超」勉強法では、上の原則に加え、「数学の問題を自分で考えて解くのでなく、解き方を暗記して、様々な問題に当てはめればよい」こと、「何が重要かを把握し、努力をそこに集中すべき」ことをも強調した。そして、これらを合わせて、〈「超」勉強法の3原則〉とした(*)。
*『超「超」勉強法』第7章の1。「数学の解き方を暗記せよ」というのは、早く先に進むための手段であり、重点化を可能にする手段だ。
山登りで頂上まで行けば、視界が開けて、下界の様子がどうなっているかを把握できる。それと同じように、勉強においても、ある程度進んでから振り返れば、様々な概念の意味や重要度が分かるのである。
その意味で、「できるだけ早く進め」という原則と、「重点化が必要」という原則は、密接に関連している。
■過去問→百科事典→教科書の「逆向き勉強法」
「超」勉強法は、私自身の経験から生み出したものだ。
私は、大学では工学部で勉強していたのだが、4年生になってから経済学に興味を持ち、経済や社会に直接関連した仕事をしたいと思うようになった。法学部や経済学部に学士入学することも考えたのだが、そうするための経済的・時間的余裕がなかったため、国家公務員試験の経済学の科目を受けることにした。
そして、「基礎から徐々に」ではなく、最初から過去問に挑戦した。分からないところは、経済学の百科事典で調べる。教科書を見るのは、最後だ。つまり、教科書→百科事典→過去問という普通の方法を逆転させ、過去問→百科事典→教科書という順で進んだのだ。普通の順序とは逆なので、私は、これを「逆向き勉強法」と呼んでいる。
このやり方なら、試験で良い点を取るという目的に必要な知識だけを最短時間で勉強できる。
非常に功利主義的だが、時間の制約がある中で目的を達成するには、徹底して合理的である必要がある。逆向き勉強法だと、全体の構造が早く分かるので、何が重要かが分かる。
■最も大切なのは「何を勉強したらよいか」を知ること
新しいことを勉強する場合にまず必要なのは、何を勉強したらよいかを知ることだ。
学校で勉強する場合には、勉強の内容や進め方を示すカリキュラムを学校が準備してくれる。しかし、独学する場合には、自分で判断しなければならない。これはたいへん難しい。
これから勉強するのだから、その内容について詳しくは知らない。知らないことについて何を勉強したらよいかを判断するのは、それほど簡単ではない。
普通の方法だと、つぎのようになる。まず、その分野の代表的な教科書を、最初から順に読む。分からない語句や概念が出てきたら、百科事典などで調べる。そして最後に、その分野の試験問題を解く。しかし、この方法だと、全体の体系がなかなか分からず、どこが重要なのかの判断ができない。
これに対して、逆向き勉強法だと、全体の構造が早く分かる。全体の構造が分かると、何が重要で何が些細(ささい)なことかの判断ができる。こうして、「超」勉強法の原則の1つである「重点化」が実現できるのだ。
■重点化は「AIのフレーム問題」をも解決する
AI(人工知能)に関する難問の1つとして「フレーム問題」というものがある。これは、問題解決のために必要な検討事項を、どの程度の範囲に設定するかという問題だ。
重要な事項をなおざりにすると、失敗する可能性が高い。かといって、あまりに些細なことまで検討すると、所定時間内に処理できない。
実は、この問題は、人間においてもある。前項や前々項で述べた「重点化」がそれだ。「重要なことは何かを見出し、それに努力を集中する」のは、勉強に限らず必要とされることだ。
問題は、「何が重要か?」を見出すことだが、勉強の場合には、「先に進んで、全体を把握する」ことが、「フレーム問題」の答えを見出す最も効果的な方法なのである。
■「超」勉強法にはヘリコプターが必要
「超」勉強法では、基礎に拘泥せず、できるだけ早く先に進んで全体を捉える。このために、助けを借りてもよい。
逆向き勉強法を行なうには、道具が必要だ。なぜなら、基礎から順に進んでいるわけではないので、分からない用語や概念がつぎつぎに出てくるからだ。それらの意味を知るには、手助けが必要だ。
私が国家公務員試験のために勉強していたときには、このために経済学の百科事典を用いた。このことを、「百科事典というヘリコプターの力を借りて、できるだけ高いところに登る」と表現してもよい。そのため、逆向き勉強法を「ヘリコプター勉強法」とも呼んだ。
ある頃まで、勉強は、順序立てて進まなければならなかった。例えば歴史であれば、時代の順に勉強する。知りたいところだけをピンポイントで知るのは簡単なことではなかった。
だが、百科事典をヘリコプターとして使うことによって、「超」勉強法が可能になった。百科事典は、知の大衆化のためにたいへん重要な役割を果たしたのだ。
■検索エンジンで「超」勉強法がいっそう強力に
インターネットが利用できるようになり、さらにウェブ記事を検索できるようになって、「超」勉強法の道具が非常に強力になった。知りたいことを、直接ピンポイントで知ることができるようになったからだ。
従来は百科事典で進めるしかなかった「超」勉強法が、インターネットと検索エンジンという新しい手段を得て、より強力なものになった。これによって、知の大衆化がさらに進んだ。
これらを使えなかった時代には、「知りたいことを知る」というのは、それほど簡単なことではなかったのだ。インターネットと検索エンジンが利用できるようになってから成長した世代の人々には、こうしたことを実感できないだろう。
■ChatGPTは新しい強力な勉強のツール
百科事典と検索エンジンに加えて、いま、もう1つの新しい手段が現れた。それが、ChatGPTだ(*)。これを使うことによって、「超」勉強法はさらに強力なものになる。
*ChatGPTは、生成AIのうち、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる言語を扱うAIの1つだ。これについての詳しい説明は、『生成AI革命 社会は根底から変わる』第6章を参照。
ChatGPTがこれまでの手段に比べて優れているのは、知りたいことに対して答えてくれることだ(*)。
*ただし、従来のChatGPTの事前学習データは2021年9月までだったため、それ以降のことについては答えられなかった。これらについては、別の対話型AIを搭載した検索エンジンBingや、Googleが提供する生成AIのBardを用いる必要がある。
■人間に聞かなくても答えてくれる
これまでの情報源は、教科書にしても参考書にしても、書いてあるのは、著者が読者に伝えたいと思うことだ。つまり、著者の問題意識で重要とされていることだ。
ところが、それが読者の観点と一致している保証はない。読者はそこに書いてあることとは違うことを知りたいと思っている場合もある。そうした場合、いくら参考書や教科書を読んでも、答えを得ることはできない。
検索エンジンでウェブの記事を調べても同じことだ。検索エンジンでヒットするのは、検索語が含まれている記事であり、こちらの知りたいことがその記事に書かれている保証はない。
このような場合、従来は人間に聞くしか方法がなかった。
学校の先生や物知りな人に聞けば、こちらが知りたいことに対して答えてくれるかもしれない。しかし、そうした人たちに必ず聞けるわけではない。それに、人間の場合、どんなに物知りであっても、その知識には限度がある。だから知りたいことを必ず教えてくれるとは限らない。
ところが、ChatGPTに尋ねれば、直ちに的確な答えを示してくれる。
■興味あることを知るのは「面白い」
私が国家公務員試験受験のために逆向き勉強法を行なったのは、時間の余裕がなかったからだ。いまChatGPTが使えるようになって、逆向き勉強法は、単に時間を節約する効果があるだけでなく、興味を維持しながら勉強するためにたいへん有効な方法だと痛感する。
これを説明するために、情報の「プッシュ」と「プル」という概念を用いて、つぎのように言い換えてみよう。
「情報のプッシュを受ける」とは、押し出されてくる情報を受け止めることだ。そして、それを理解したり、記憶したりする。それに対して、自分が知りたいと思う情報を引き出すことを、「情報をプルする」という。
普通の勉強法は、情報のプッシュを受ける性格が強い。それによって得られるのは、必ずしも自分が知りたいと思っていることではない。だから、勉強が退屈になってしまう。
それに対して逆向き勉強法の場合には、知りたいことや興味があることを調べる。つまり、情報をプルしているのだ。だから、面白い。
■ChatGPT勉強法は好奇心を最大限に活用できる
人間は誰しも好奇心を持っている。謎があり疑問がある。それに対する答えが得られれば、面白いと思う。
「超」勉強法がなぜ有効かといえば、勉強が嫌々ながらやるものではなく、面白くてたまらないものになるからである。
ChatGPTを用いる勉強法では、この利点を最大限に活用することができる。クイズを解きながら勉強しているようなものだ。ChatGPTでは自由自在に情報をプルすることができるからだ。
好奇心が満たされるのは楽しいことだ。勉強の楽しさは、まさにこの点にある。それまで知らなかったことや疑問に思っていたこと、あるいは、あやふやにしか理解していなかったことが分かるのは、とても楽しい。
■子供たちが学校の勉強がつまらない根本原因
ところが、これまでの勉強は、必ずしも好奇心を満たすものではなかった。教科書によって勉強すべき内容が与えられ、それを理解したり覚えたりすることを強制されるからだ。このため勉強が苦痛になる。
多くの子供たちが、学校の勉強を「つまらない」と感じているが、その理由は、学校で教えられていることが、自分の関心事や好奇心に関係のないことだからだ。だから、興味を持てず、勉強はつまらないもので、辛いものになってしまう。
ところが、ChatGPTを用いれば、勉強が本来楽しいものであることが実感できる。
教科別でいえば、とくに理科や社会科について、このことの意味は大きい。理科は自然現象を扱い、社会科は人間が行なっていることに関するものという違いはあるが、どちらも、様々な疑問を解明しようとしているからだ。
だから、それを知って理解していく過程は、本来はたいへん楽しい。
■ChatGPTは勉強革命
これまでの社会科や理科の勉強は、教科書に書いてあることを理解したり、暗記したりするという押しつけになってしまっていた。つまり、自分から進んで好奇心を満たしていくというプロセスにはならないことが多かった。
ChatGPTを使えば、理科の勉強も、社会科の勉強もとてつもなく面白いものになる。面白すぎて、他のことをやる時間がないとさえ思うようになるだろう。
この意味で、ChatGPTは勉強革命なのだ。このような可能性に気づいて、ChatGPTを最大限に活用できるかどうかが、その人の将来に大きな違いをもたらすことになるだろう。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)ほか多数。
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)
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