最高値突破の日経平均は下落しても2400円程度で暴落はない…そう断言する専門家が今、注視する意外な指標
プレジデントオンライン / 2024年3月12日 11時15分
■34年ぶりの最高値
東京株式市場では日経平均株価が、1989年12月末につけた3万8915円の最高値を34年ぶりに更新したことが大きな話題となっています。その後、一時4万円も突破しました。
これらのことを見るたびにバブルやその前の日本経済を実際に経験している人間としては、ある種の感慨を覚えるとともに、少し考えさせられるものがあります。
私は、約40年前の1981年に東京銀行(現・三菱UFJ銀行)の銀行員となりました。名古屋支店勤務でしたが翌年に為替課長と“賭け”をしたのをよく覚えています。その頃は、日経平均株価がちょうど1万円を超える水準で、ニューヨークダウは1000ドルをやはり超える直前でした。どちらが先に大台を超えるかで1000円の賭けを行ったのです。どちらが勝ったかは忘れましたが、日経平均もNYダウもそのレベルの相場だったのです。
■バブル期の日本
その後、すさまじいバブルが日本で起こりました。1985年9月にそれまでの円安を是正するために、ニューヨークのプラザホテルにG5(先進5カ国)の蔵相、中央銀行総裁が集まり会議が開かれました。米国の膨大な貿易赤字を是正するため、それまで240円程度だったドル・円レートを是正する決定が行われたのです。いわゆる「プラザ合意」です。当時、米国に留学中だった私は、みるみるうちに円高が進むのに驚いた記憶があります。1年ほどで100円ほど円高に振れたのです。
急激な円高で、当時は輸出主導だった日本経済は大きな打撃を受けるとの懸念から、日銀は金利を下げるとともに通貨供給量を拡大しました。ちょうどこのころ、外資の日本進出が進みかけていた時期で、外資、とくに金融機関は都心にふさわしいビルを探しましたが、彼らの目にかなうのは東京・港区のアークヒルズくらいしかありませんでした。
最初は、東京駅周辺の土地が再開発のために買い進められましたが、そこに金融緩和での余剰資金が流れ込み、土地が値上がりするので、特に八重洲側では、「地上げ」が始まりました。それがすぐに都内全域に広がり、周辺都市に拡大したのです。土地バブルが発生したのです。「23区の土地価格で全米の土地が買える」とまで言われました。それが株式やゴルフ会員権にまで広がるのに多くの時間を要しませんでした。
バブル期には、都心のみならず東京近郊の住宅地の地価が短期間に4倍にはね上がったり、小金井カントリー俱楽部の会員権が4億円をつけたりと、異常なバブルが発生しました。「一億総投資家」と言われ、日経平均株価が最高値をつけたのもその頃でした。
企業も余った資金を利用して、三菱地所がニューヨークのシンボルの一つロックフェラーセンターを買収、青木建設がカリフォルニアの超名門ゴルフ場のペブルビーチを買収しました。他にも、JALがニューヨークの名門ホテル、エセックスハウスを買収するなど、世界中を日本のバブルマネーが席巻しました。
余談ですが、私が勤めていた銀行で中小の不動産会社に融資していた担当者から聞いた話だと、現金で数億円持ってきてほしいと言われて持っていくと、その場で売主に現金でお金が支払われたそうです。そして、そこに居合わせた関係者に、その現金から百万円ずつ「祝儀」ということで配られたというのです。銀行の担当者にもくれるというのを必死で断ったという話を聞いたのもその頃です。
89年暮れの日経新聞には、「翌年(90年)は4万円」の記事が、最近よりももっと大きく踊っていました。しかし、バブルはしょせんバブルですから、90年には2万円台まで日経平均株価は下落し、その後34年間89年の最高値を抜かなかったのです。
それどころか、バブル崩壊による金融危機などがあり、日経平均株価は2度7000円台まで落ちました。そして、バブル期に買収した世界の名門資産は、今も日本企業が保有しているところはほとんどありません。バブル崩壊とはそのようなものです。バブル崩壊後の荒波を越えて、やっと日経平均がバブル期の最高値を抜いたというのが昨今なのです。
■ドル建てで考えれば
先の80年代前半と比べると、NYダウは40倍近く上がっている反面、日経平均株価は4倍程度です。これはこの国のこの間の成長力の弱さを反映しているとも言えます。
また、日経平均株価をドル換算したものを見ると、違った局面が見えます。図表1は、2019年3月から6年間の各3月の日経平均株価とニューヨークダウを表したものです(2024年は3月8日)。2019年3月はコロナ前、2020年3月はちょうどコロナの蔓延が急速に始まりだした頃です。
まず、円ベースの日経平均株価を単純に見てみると、現状(3月8日)の3万9688円は19年3月の2万1418円に比べて、1.85倍となっています。コロナが始まった20年3月の1万8974円と比べると2.09倍です。
一方、同時期のNYダウを同様に比べるとそれぞれ1.49倍と1.73倍で、円ベースでの日経平均株価の上昇率のほうが高いことが分かります。
さらに、日経平均株価をその時々のドル・円レートで換算すると、図表1のようになりますが、上と同様に、ドルで換算したその上昇具合を見ると、対2019年3月では1.40倍、対2020年3月では1.53倍となり、NYダウの上昇率を下回っているのが分かります。
ドル・円レートが現状、147円程度ですが、それから見ても、外国人投資家からはそれほどの上昇とは言えず、割安感があると言えます。
また、現在の株価を指標面から考えると、PER(株価収益率:株価が一株当たり純利益の何倍か)では16.8倍程度です。コロナ期でも14倍程度でしたから少し水準が上がったという程度です。バブルの最盛期は60倍程度まで上がりました。それらから考えるとそれほどの過熱感はないと考えられます。
年初来急ピッチで株価が上がっているので、多少の調整がある可能性があります。3月11日の東京株式市場はほぼ全面安の展開で一時、前週末終値比で1100円超下落しました(終値は868円45銭安の3万8820円49銭)。
今後は、PERで1倍程度下がるとすると、日経平均で2400円程度の調整はあるかもしれません。もし、2倍程度の下げがあるとすれば、その倍程度の動きとなりますが、バブルではないと私は考えているので当面の暴落は考えにくいと思います。
日本の短期金利がこの先、日銀のマイナス金利解除で少し上がり、逆に米金利はインフレ圧力の弱まりから下がることを考えても、90年代に見られたような暴落は当面はないと思われます。
また、日経平均の高値を支えている企業の多くは、海外で活躍する企業で、日本経済の状況だけでは株価を判断するのが難しくなっていることにも注意が必要です。
■現状の日本経済を考えれば
一方、先に述べた小金井カントリークラブの会員権相場は、今では4000万円程度です。東京郊外でバブル期に4倍値上がりした土地はその後、元の水準の4分の1にまで下落し、最近少し上がったというほどです。
私がなぜ小金井カントリー倶楽部の会員権相場を注視しているのかというと、それは日本国内で一番「余っているお金」の勢いを表しているからです。
株式市場には、私たちの公的年金を運用する世界有数の投資機関であるGPIFや、アベノミクス以降は日銀まで参入するようになり、「官製相場」とまで言われるほどです。つまり、政府関連の資金が流れ込むことがあり、実力を超えている部分もあります。でも、ゴルフ会員権にはそのようなお金は流れ込みません。
GPIFには、日本株は全体の25%という上限があり、このところの株高で持ち高を減らす必要があり、日銀もリスク性資産を減らすことが急務ですから、両者ともに徐々に日本株の持ち高を減らす傾向だと考えられます。土地やゴルフ会員権は弱含みではありませんが、バブル期のような勢いはありません。
こうして考えると、バブル期が異常だったのです。いずれにしても、膨大な財政赤字を抱え、人口が今後も大きく減少する中で社会保障負担が今後ますます政府にも個人にものしかかってくるのは必至です。
長期的には、こうした大きな問題や「実質賃金」が長きにわたってマイナスとなっている現状は何一つ解消していないのです。そういう環境の中での日経平均株価最高値ですが、これにより景気が長期的に上向き続けると考えるのは早計でしょう。
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小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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