「果物と野菜のスムージー」は最悪の朝食…糖尿病専門医が「バターたっぷりのチーズオムレツ」を食べる理由
プレジデントオンライン / 2024年3月18日 10時15分
※本稿は、山田悟『糖質疲労』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■フルーツには糖分がたっぷり含まれている
「朝のリンゴは金」という言葉が以前ありました。朝はフルーツを、という習慣の方も多いかもしれません。果物の入ったこだわりのスムージーや色鮮やかな搾りたてのフレッシュジュース。健康のために、とこうした習慣を取り入れている人もいらっしゃるのではないでしょうか?
しかし、こうした朝食メニューは、食後高血糖・血糖値スパイク予防の視点で見ると、お勧めできない食事のとり方です。
確かに果物はビタミンや食物繊維を摂取するのによい食材ですが、それらは野菜でも摂取することが可能な栄養素です。果物には果糖をはじめとする糖質が豊富に含まれているのが問題です。よくおいしさの印のようにして記載される「糖度○%」という言葉は、その果物100gの中に○gの糖質が含まれているという意味です。
果物に多く含まれる果糖は体内で中性脂肪に変わり、肥満や脂肪肝を引き起こしやすく、血糖値を下げるホルモン・インスリンのはたらきを弱めることが報告されています。長期的に見たとき、高濃度で果糖が含まれる果物をふんだんにとる食習慣は、脂肪肝や脂質異常症や糖尿病を発症させるリスクになるのです。
■「血糖値を上げにくい低GI食品」の罠
ラスティグ先生というカリフォルニア大学の教授によると、果糖は体内に入ると肝臓でだけ処理されるそうです。10~20%はブドウ糖に変換され、残る80~90%は果糖のままで処理されますが、利用しきれないと、中性脂肪に変換されて血液に放出されたり(脂質異常症)、肝臓にこびりついたり(脂肪肝)するのです。やがて(数カ月で)肝臓のブドウ糖放出が高ぶって血糖値も悪くします。
ところが食べた直後の血糖値測定では、果糖ではなく血中のブドウ糖の濃度が測られるので、直接的にはさほどの血糖値の上昇はみられません(摂取した果糖の10~20%分だけ)。そのため果糖を多く含む果物は全般的に「血糖値を上げにくい食品(低GI食品)」と言われるのです。
これは短期的な現象であり、やがて、脂質異常症や脂肪肝のみならず高血糖を生みます。朝フルーツは、決してヘルシーな習慣とは言えないのです。果物=健康というイメージは、かつてのビタミンB1不足による脚気(かっけ)の影響でしょう。現在では、果物を過量に食べてしまうことは金どころか「禁」なのです。
また、果糖はブドウ糖以上にたんぱく質と結合する糖化反応(『糖質疲労』(サンマーク出版)の「糖質疲労で『老化』はこう進む」の項参照)を起こしやすく、ブドウ糖やでんぷんといったほかの糖質よりも心臓病など、健康上のトラブルにつながる可能性も指摘されています。
■お酒を飲まないのに脂肪肝になる人が増えている
昨今、非アルコール性の脂肪肝になる人が増えていて、中高年に限らず、若い女性にもみられます。その主たる原因が、果糖だと私は考えています。ケーキバイキングで、ケーキばかりか、フルーツもお皿にこんもりと盛ってぺろりと食べる姿をテレビで見ますが、フルーツの果糖はケーキと同じくらいに危険なのです。
なお、そもそもバイオリズムの影響で、早朝は「血糖値が急激に上昇しやすい」タイミングです。「朝のおめざ」の習慣も流行りましたが、血糖値が上がりやすい朝にさらに甘いもので追い打ちをかける行為です。血糖値の急上昇を防ぐために、朝食は、ほかの食事以上に「より糖質控えめ、よりたんぱく質と脂質を十分に(ふんだんに)」を強く意識することが望ましいのです。
ただし、果物を完全に禁止する必要はありません。ロカボという食べ方では、嗜好(しこう)品の糖質量は1日10gまで。リンゴなら1/4個程度、イチゴなら6粒程度、ミカンは1個程度となります。
■「朝なら何食べてもOK」のウソ
早朝は血糖値が上昇しやすいタイミングで、何も食べていなくても血糖値が勝手に上昇する人がいます。これを「暁現象(dawn phenomenon)」と呼びます(※1)。「朝なら何を食べても太らない」「どうせ糖質を食べるのであれば朝がよい」「朝食で血糖値を上げて体を目覚めさせる」とお考えの方もいらっしゃるのですが、これは食後高血糖のリスクをかなり高めます。
SNSでヘルシーかつスタイリッシュな朝食として「シリアル+低脂肪乳+ハチミツ」というメニューを見ることがあります。
シリアルはそれだけでも糖質(でんぷん)がたっぷりなことが一般的で、ドライフルーツが入っていれば果糖もたっぷりです。
牛乳はせっかくたんぱく質と一緒に脂質がとれるチャンスなのですが、低脂肪製品が選ばれていては脂質が摂取できませんし、果糖たっぷりのハチミツをかけてはさらに高糖質です。
食後高血糖・血糖値スパイク予防の視点から望ましい朝食は、「糖質控えめ、たんぱく質と脂質を十分に(ふんだんに)」ですが、このメニューはまさにさかさまの発想。食べ続けたら太りやすくなり、糖質疲労や血糖異常のリスクが高まります。
※1:Trends Neurosci 2022; 45(6): 471-482
■朝食は卵3個使った「チーズたっぷりオムレツ」
私は家族とともにロカボを実践していて、1食の糖質量は20g以上40g以下を意識しているのですが、暁現象を考慮して、朝食では私も妻も糖質をギリギリ20gにしています。
そしてたんぱく質と脂質を十分にとります。朝食でたんぱく質と脂質を十分にとっておくと、その後、一日中、血糖値が上がりにくくなり、消費エネルギーが増えるからです(※2)。
私自身、かつては糖質疲労を感じていたひとりです。昼食を食べた後の外来では、強い眠気に襲われ、集中力が途切れそうになる日々を過ごしていました。いま、ロカボを実践している私にそのような悩みはありません。
ちなみに、とある私の休日の朝食メニューです。
・チーズたっぷりオムレツ(1人前に「卵3個」使用)
・ツナサラダ(オリーブオイルをたっぷりかけて)
・ブランパン(バターはたっぷり)
・無糖、高脂肪タイプヨーグルト(人工甘味料をかけてかき混ぜます)
・ナッツ
・コーヒー(生クリーム入り)
※2:Diabetes Care 2015; 38(10): 1820-1826
■これでもぜんぜんハイカロリーではない
家族そろってバターやオリーブオイルは大好物なので、ちょっと贅沢をして、おいしいものを選んで食べています。おいしい油は、食事の満足感を格段に上げてくれます。こうした食事で、朝から気分も上がります。
普段、食事を摂生しようと思っている人(腹八分目が健康によいと思っている人)は、この献立を見て、食べすぎや脂質のとりすぎを懸念されるかもしれません。
しかし、どうぞご安心ください。
このような食習慣で内臓脂肪が増えることも、血中コレステロールがハネ上がることもありません。逆に血糖値や中性脂肪値は下がり、食後の眠気から解放され、パフォーマンスが向上することでしょう。
脂質やカロリー摂取量についての誤解は、拙著で詳しく紹介しますが、結論を先にいえば、2023年時点の世界の医学的見地に照らせば、少なくとも糖質疲労を感じている方に、「脂質やカロリーの摂取の過剰はありえない」のです。
■果物+野菜のスムージーは最悪
忙しい朝、健康や美容のためにスムージーを朝食がわりにしている人も多いようです。スムージーすべてが悪いわけではありませんが、果物と野菜だけを材料とし、ほかには何も食べないとしたら、糖質疲労を招く最悪の朝食になることでしょう。
スムージーの中の果糖の問題は先に述べたのでここでは割愛しますが、スムージーだけではたんぱく質や脂質が圧倒的に不足します。
朝食でこそ意識すべきなのが、「糖質控えめ、たんぱく質と脂質はしっかりと」です。
朝はお忙しいという方は、ゆで卵、チーズ、ナッツなどを常備するとよいでしょう。
朝食に時間のとれる方であれば、サラダの上に缶詰のツナを載せたり(さらに、マヨネーズ、オリーブオイルもお好みで好きなだけかけます)、ベーコン入りの卵焼きを焼いたり、バター・チーズたっぷりのオムレツもよいでしょう。
こうした「糖質控えめ、たんぱく質と脂質はしっかりと」の朝食であれば、スムージーを最後に飲むことで、安心して楽しめる、食後高血糖(糖質疲労)を招かない朝食となるでしょう。
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北里研究所病院 糖尿病センター長
1970年生まれ。94年慶応義塾大学医学部卒業。2013年(一社)食・楽・健康協会を設立。ロカボ=ゆるやかな糖質制限を提唱し、企業に対して啓発活動を行うなど、日本人の健康増進のために日夜活動中。著書に『糖質制限の真実』『カロリー制限の大罪』(いずれも幻冬舎新書)などがある。
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(北里研究所病院 糖尿病センター長 山田 悟)
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