MLB選手が「妻は普通の人」と話すことはない…大谷翔平の結婚報道で元週刊誌編集長が心配すること
プレジデントオンライン / 2024年3月13日 17時15分
2024年3月6日、アメリカ・アリゾナ州フェニックス、ロサンゼルス・ドジャースの指名打者、大谷翔平(背番号17)がシカゴ・ホワイトソックスと対戦。 - 写真=Mark J. Rebilas/USA TODAY Sports/Sipa USA/時事通信フォト
■羽生結弦氏の結婚時とはあまりに違う
大谷翔平の新妻の「実名公表」はなぜNGなのか?
新聞、テレビだけではなく、噂大好きな週刊誌も今のところ彼女の実名や顔写真を掲載したところはない。
大谷が突然、結婚を発表したのは2月29日のインスタグラムだった。
「本日は皆さまに結婚いたしました事をご報告させていただきます」
その投稿の隅には愛犬「デコピン」の写真があしらわれていた。
大げさではなく世界中が驚きと歓喜に溢(あふ)れ、日本では岸田文雄首相が出席して派閥の裏金問題を審議する「政倫審」の話題を差し置いて、ほとんどのニュース番組が「大谷結婚」をトップニュースにもってきた。
日本中が結婚を祝福し、大谷がどんな女性を伴侶に選んだのかについて、妻や同僚、友人たちと夜が更けるまで語り合った。
大谷は翌日の囲み取材で結婚問題について語ると発表した。羽生結弦の「電撃結婚発表」のときは、羽生がSNSで公表しただけだったため、直後からメディアが血眼になって相手探しを始め、羽生や結婚相手の親族へ取材陣が押しかけた。
その後、羽生は「電撃離婚」の理由を、メディアの取材があまりにも過熱したため、「自分の肉親も結婚相手も守れなくなったため」だと発表した。
そうした轍(てつ)を踏まないために、大谷は会見を開いて結婚した相手のことを詳(つまび)らかにするのだろう。私もそう思った。
■手料理で一番おいしかったのはドライカレー
だが、そこで語られた結婚相手の素性は、「日本人の方ですね。普通の日本人です」としか明かさなかった。
記者から「会見したのはどういう意図か」と聞かれ、大谷は「皆さんがうるさいので。しなかったらしなかったでうるさいですし」と、どこへでもつきまとい嗅ぎまわるパパラッチ的取材を批判してみせた。
恩師の栗山英樹をはじめ、ごく少数の信頼する人間たちには結婚したことを伝えていたようだ。その一つがスポーツ誌『Number』(文藝春秋)だった。3月2日に、「大谷翔平 結婚生活を語る」(7日発売号)のサワリをネットで公開したのである。
彼女の手料理で一番おいしかったのはドライカレー。彼女は小説が好きだが僕はまったく読まない。「翔平さん」と呼ばれているが、僕は名前を呼び捨てにしています……。馴れ初めは帰国して日本で練習している時、2週間で2、3回会ったことだった。会うのはいつも部屋の中で、外でデートをしたことはないようだ。
結婚しようと決断した「決め手」は何だったのかと聞かれ、こう答えている。
■スポーツ雑誌は気を遣っても、週刊誌はどうか?
「一緒にいて楽だし、楽しいし。僕はひとりでいたときとそんなに変わらずにいられるんです。彼女がいるからといって喋り方が変わるとか食べ方が変わるとか、そういうことなく、気を遣う必要がないので、最初から僕は何も変わらずにいられるというスタイルでした」
いつまでも子どもだなあと思っていたが、ついに夫なんですねと問われ、
「今のところ実感はないですね。子どもができれば変わるのかもしれませんけど、そこまでの大きな変化は感じていません」
結婚は大谷にとっては大きな変化ではないというのは、妻に対してどうかな……とは思うが、気を遣わないでいい友達のような相手だということだろう。
ここでも、妻になった女性の具体的なプロフィールにはまったく触れられていない。
大谷番記者やスポーツ雑誌は、大谷がインスタの最後に付け加えた、「今後も両親族を含め無許可での取材等はお控えいただきますよう宜しくお願い申し上げます」という“注意書き”に縛られて取材できないのだろうというのは理解できる。
しかし、読者目線でつくる週刊誌は、天下の大谷であろうと取材に手加減を加えることはないはずだ。
そう思って、3月7日発売の週刊文春と週刊新潮を楽しみにしていた。文春はこう報じていた。
■出会いは2020年ごろ、トレーニング施設で
大谷翔平の両親は、「スターになるであろう我が子の将来を案じ、両親は当時、周囲にこう語っていた。『女子アナと芸能人は絶対にダメ』」
では、彼女は一体どんな女性なのか。“バスケ業界”関係者がこう打ち明けたという。
「女子バスケ元日本代表候補のA子さんです。バスケの強豪として知られる都内の高校を卒業後、スポーツ推薦で有名私立大学に進学。大学三年時にはユニバーシアード日本代表にも選ばれ、銀メダルを獲得しています。十九年にWリーグ加盟の実業団チームに入団して活躍していましたが、昨年四月に退団しました」
大谷翔平とどこで出会ったのかについては、プロスポーツ選手がよく利用することで知られるトレーニング施設だそうだ。
大谷は日本に帰ってきたときに、この施設をよく利用し、A子さんもここを利用していたため、2020年1月頃に「運命的な出会い」があったというのである。
A子さんの出身中学の同級生は、彼女のことをこう語っている。
「彼女は小学校まで空手を習っており、バスケを始めたのは中学になってから。一年の夏を過ぎたあたりから急成長し、後に選抜にも選ばれるようになりました。学校のクラスでは、優しくて真面目だけど“陰キャラ”でもないごく普通の子。素直で謙虚で素朴で、それでいて美人。大谷さんにはピッタリな子だと思います」
■気遣いのいらない新潮は書いていると思いきや…
A子さんの実業団チーム退団が発表されたのは昨年の4月24日。その直後に、彼女はロサンゼルスへ行っていて、その滞在中に大谷は6号ホームランを放っていたそうだ。
だが、昨年の8月23日、右肘の靭帯(じんたい)損傷が判明する。その頃も、A子さんはロスに1週間滞在していたという。
さらに11月、大谷がFA権を正式に取得した頃も、彼女は短期間、大谷のところに行っていたというのである。
ここまで詳しく大谷と新妻のことをつかんでいながら、なぜか、実名も顔写真もなし。これはきっと、自社の『Number』と大谷との関係に支障をきたさないように気を遣ってのことだろう。
そうした気遣いのいらない新潮なら、実名・顔写真付きで報じているはずだと見てみると、こちらもこう触れているだけ。
「『練習施設』で初めて出会い、離れていても一緒のドラマを同時に鑑賞して楽しめる、小説好きな28歳の女性。そんな大谷選手の妻がお披露目されるのを多くのファンが待ち望んでいる」
■テレビ局は「大谷妻を出せたら金一封を出す」と号令
サンデー毎日(3月17日号)でコラムニストの山田美保子はこう書いている。
「大谷選手と個人的な付き合いのあるディレクターやアナウンサーもワイドショーの中にはいる。『たとえ素性がわかったとしても、今日は扱えない』『名指しで誤報だと言われたメディアもあるらしい』『大谷があれだけ嫌がってるんだから独走することはさすがにできないだろう』などの声が聞こえてきた」
テレビ現場の弱腰が見えてくる。
週刊現代(3月16・23日号)は、大谷の妻をテレビに出せという檄(げき)が現場に飛ばされ、「なんとしてでも大谷妻の出演にこぎつけるべく、驚きの手法に出る局まで現れた。『大谷妻を出せたら金一封を出す』と、局員に伝達したキー局まであるというのだ」。その額100万円は下らないというのだが、そのために、大谷の妻にまったく触れないというのは本末転倒。もし、これが本当ならメディアの役割放棄といわざるを得ない。
しかし、写真週刊誌はそんなことはあるまい。
FLASH(3月19日号)は大谷翔平に忖度(そんたく)などしないはずだ。やはり、「本誌は詳細を確認すべく大谷のおばと思われる親族のもとを訪れた。
『私たちのところには報告は来ていません。何もお話しできないので……。ありがとうございます』」
おばと思われるとは? 一体何のことかわからないが、彼女の兄にも取材を試みているから、“禁断”の親族取材を敢行したようだが、そこまでで終わり。
■羽生結弦の結婚時は取材合戦が繰り広げられたが…
FRIDAY(3月22日号)はどうか。
大谷は過去に理想の結婚相手を「背が高く」て「スポーティー」で「明るい感じがいい」と発言していたから、「長身の元アスリート美女ではないかと目されている」というだけで、締めは「悲願のワールドシリーズ制覇が見えた勝負の年に、『ドライカレーをルーから作ってくれる』“最強の助っ人”を得た」である。
女性誌にも目を通したが、思わせぶりなタイトルを付けてはいるが、同じように実名・顔写真は出ていないようである〔女性セブン(3月21日号)はボカシを入れた妻らしき写真を掲載してはいるが〕。
私が連載を持っている日刊ゲンダイは、故・安倍晋三氏が首相時代、「日刊ゲンダイがあるんだから報道の自由は守られてる」といわしめたタブー無しの強気メディアだ。だが今回、ネットに上がっている彼女の実名を書いて原稿を出したら、やはり、他がやってないので止めてくれといわれてしまった。
なぜ、羽生結弦のときはメディアがこぞって取材合戦を繰り広げたのに、大谷の取材は自粛してしまうのか。
週刊ポスト(3月22日号)は、大谷が妻の素性を明かさないのは、元ヤンキースの松井秀喜のケースを参考にしているからではないかと推測している。
■いまだに名前や経歴、顔写真も明かされていない
「2008年3月、松井は当時33歳で結婚を発表し、お相手を『25歳の元会社員の一般女性』と説明した。大谷と同様、同僚のデレク・ジーターも結婚を知らなかった電撃発表だった。
スポーツ紙編集委員が語る。
『奥さんの写真は出さず、2枚の似顔絵を公表しました。松井さんとお兄さんが書いたもので、絵のタッチが独特だったので“警察の手配似顔絵みたいだ”と話題になった。
大谷と違うのは、松井さんの奥さんはマスコミの前に姿を見せていたことで、番記者も名前や出身地を把握していた。ただ、松井さんがプライベートを守りたいという方針で、元スポーツ報知記者の敏腕専属通訳がマスコミに目を光らせていた。そのため、各社は素性を分かっていながら報道を控えた経緯がある』
現在に至るまで、松井氏の妻の名前や経歴、顔写真は公開されていない。2人の子供が生まれ、生活の拠点をニューヨークに置いていること以外はベールに包まれており、『大谷が松井さんの成功例から学んだことは間違いないでしょう』」としている。
大谷は結婚相手を今後、松井のように、妻の素性を明かさないままいくつもりなのだろうか。ポストでスポーツ紙編集委員はこういっている。
■このまま隠し通すことなどできはしない
「大谷に嫌われたくない番記者は、仮に素性を知ったとしても、松井さんの時と同様に100%報じないでしょう。ただし、注目度では大谷が圧倒的に上回る。世界的スターなので、パパラッチのターゲットになる可能性が高い。通訳の水原氏が、松井さんの専属通訳のようにどこまで睨みを利かせられるか。ネットの普及で情報拡散に蓋ができない時代ですから時間の問題かもしれない」
先に書いたように、すでにネット上では実名・顔写真らしきものも上がっているのである。
もしそれが間違っているのなら、名指しされている当人にとっては迷惑どころの話ではない。人権・肖像権侵害で訴えられても致し方ないが、そういう話は今のところ聞こえてこない。
大谷のようなスーパースターの妻は“公人”である。それにメジャーにはさまざまなイベントがあり、チャリティーもある。そうした席には、夫婦同伴で出席することが当然だと考えられているから、隠し通すことなどできはしない。
翻って、マスメディア側が一斉に自粛することがいいことなのだろうか。そこに問題はないのか。
今から60年ほど前に、日本人のほとんどがファンだといわれた長嶋茂雄が、東京オリンピックのコンパニオンだった女性と結婚した。新聞主催の対談で長嶋が一目ぼれをして、知り合って40日後にスピード婚約したのだが、私が記憶している限り、妻の亜希子さんを隠そうとはしなかった。
■一般人は「非公表の理由にはなりません」
もし今回、大谷が妻と一緒に報道陣の前に現れたら、日本中、いや、世界中で「おめでとう」の大合唱になったのではないか。
そうすれば、メディアがそれ以上の詮索をすることもなく、これから大谷夫妻は静かな私生活を送ることができたはずである。
私が危惧するのは、これまで大谷は、明るく爽やかで、自分の信じた道を突き進む好青年というイメージだったのに、今回、マスコミを「うるさい」人だといい、妻を隠したことで、そうしたイメージが変わりはしないかということである。
万が一、今季期待外れの成績で終わったならば、ドジャースファンならずとも、大谷への批判の声は、彼の妻へも向きかねない。
新潮の「結婚への10の”祝辞”」の中で2人が辛口コメントを寄せている。一人はデーブ・スペクター(テレビプロデューサー)。
「大谷さんの結婚発表で気になったのは、お相手のことを『いたって普通の人』と説明したことに尽きます。
パートナーを『普通の人』と呼ぶのも微妙に思えたし、日本の芸能界では結婚相手を『一般人』だからと非公表にする傾向がありますが、アメリカでは著名人が結婚したら、どんな相手でも名前をハッキリ明かします。そもそもアメリカでは『一般人』に当てはまる訳語がなく、それが非公表の理由にはなりません。(中略)」
■「せめて“機会があれば紹介します”と付け加えたら」
「大谷さん自身が“なぜ自分のプライベートをそこまで教えないといけないの”と言っているようにも受け取られ、ドライな印象を与えかねません。せめて“機会があれば紹介します”と付け加えたら、もっと好感を持たれたと思います。(中略)
これから少なくとも10年間アメリカが生活の拠点。生涯で1000億円も貰う人の奥さんは『公人』といっていい存在だし、せっかくドジャースの報道が日米同時で前例のない盛り上がりなんで、大谷ファンとして、もうちょっと違う発表の仕方があったんじゃないかと違和感を覚えました」
今一人は江川紹子(ジャーナリスト)。
「一般論として、彼のような影響力や発信力を持つ『力のある人』が、一括りに『無許可の取材はダメ』と言ったことで、それを世間が鵜呑みにしてしまい、あたかもそれが普通だ、あたり前のことだと受け入れる風潮が作られていくのは、とても怖いことだと思うのです。
たとえば、ジャニーズ事務所における一連の性加害問題や、羽生結弦さんの結婚離婚の騒動を振り返れば、当事者である『力のある人』の側が、メディアに対して表や裏から様々な形で『無許可での取材』にブレーキをかけていました。ところが、蓋を開けてみればどうだったでしょうか。(中略)
つまりは『力のある人』が“許可のない取材をするな”と通達してきたところに、あえてメディアが取材をかけた。そのことで、世間が『力のある人』の発言について真実か否か疑うきっかけが生まれたわけです。(中略)」
■ツーショット写真はいつ見られるのだろう
「メディアの大半は、大谷選手本人への取材が今後しにくくなる可能性も考えてでしょう、その指示に素直に従っているように見えますが、実際にまっとうなやり方で綿密な取材を行い、事実は事実として報じるメディアが出てくるかもしれません。それを批判するのは自由ですが、『無許可の取材』はけしからんと非難する風潮が蔓延するのは、危険なことだと思うのです」
メディア全体が大谷に忖度して実名報道を自主規制したとすれば、メディアの存在理由が問われるはずである。発言の影響力を考えれば、大谷も権力者の一人である。多くのメディアは、今回、大谷は野球選手だから追及しなかったけど、これが政治家や大企業のスキャンダルならやるというだろう。
だが、野球選手の結婚相手を報道することさえできないメディアに、さらに強力な権力者の追及ができるのだろうか。
大谷が自分の結婚で、両家の親族がメディア取材で煩わされるのは嫌だ、という気持ちはよくわかる。だとしたら、結婚については自分が全部話す、もし必要なら妻の名前も、ツーショットの写真も提供するから、周囲の人たちに迷惑をかけないでくれ。そう対応できなかったのだろうか。
“好青年”大谷翔平だからこそ、今回の結婚発表のやり方は、彼らしくないと思わざるを得ないのだ。
2人そろってメディアの前でツーショット写真を撮らせる日が早く来ることを期待している。
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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