「あのとき、別の道を選んでいれば…」よくある人生の悩みがまったく無駄であるといえる根本理由
プレジデントオンライン / 2024年3月22日 9時15分
※本稿は、枡野俊明『悩まない練習』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■ネット社会の副作用
ネット社会の広がりは、私たちの生活に役立つプラス面がある一方で、さまざまな副作用もあります。
そのひとつは、SNSにおける他人からの評価がその人の価値を決めてしまうかのような風潮です。SNSを利用していると、たくさんの「いいね」がもらえたり、フォロワー数が多いほど社会的に価値のある存在だと、当の本人も周りの人間も感じたりします。
他人が自分をどう見ているか。そんなことを気にする人が増えているように感じるのは、多分にネット社会の影響があるのだと思います。
「こんなことを言うと相手から顰蹙(ひんしゅく)を買わないだろうか」
「ここで決断を下すと嫌われたりしないか」
そうして常に周りの目を意識するために、自分の言動に自信が持てなくなることもあるでしょう。
■「自分の人生」をしっかり生きているか?
もちろん、独りよがりの判断は、よからぬ結果を招きますから、ある程度は他人がどう見るか、どう評価しているのかという客観性を持っておくことは大事です。
しかし、自身の言動を決める基準が他人や世間の側にあるとすれば、その人は「自分の人生」を生きていないことになります。
人の意見や考えは、あくまでその人の考えにすぎません。
当たり前のことですが、あなたとその人は違う人間であって、異なる人生を歩んでいます。あなたの代わりに生きてくれるわけではありません。親身にアドバイスしてくれる人の意見でも、鵜呑みにするのではなく、あくまで参考にする程度の気持ちで聞きましょう。
「回向返照(えこうへんしょう)」という禅語があります。「外側ばかり見ないで、自らの内側を光で照らしなさい」という意味です。周りの目や人の意見がつい気になってしまう人は、この言葉を胸におさめてください。
自分の心を明るく照らすと、やがて見えてくるものがあります。それが、あなたが選ぶべき道です。
■禅が教える「枯淡の境地」
私は庭園デザイナーをしています。庭造りには大勢の人の協力が必要です。しかし、最終的な仕上げの場面になると、独りで庭と向き合い、自分自身と対話することで、魂を込めて決断をしなくてはなりません。
そうやって自分の心とぎりぎりの状態で向かいあった果てに見出されるものが、枯淡(こたん)の境地を表現する「禅の庭」には欠かせません。
人の評価や意見は聞き流すくらいの気持ちでいましょう。ものごとを成すには、まずは自分の心がどこを向いているかが大事です。
自分の内側を静かに見つめる時間を一日に1回は持ちましょう。そこから静かに湧いてくるものをしっかり見定め、目を逸らさない強さを持ってください。
■掃除とは「心の埃」を払うこと
昨今、掃除や片づけをテーマにした本が人気だそうです。もちろん、本の中では掃除のコツや片づけの仕方といったものが説明されているわけですが、多くの読者はさらにその先に心の断捨離といったものも求めているようです。
なぜなら、掃除や片づける行為には、同時に心を整える効用があるからです。
心は放っておくと、いろいろなゴミや埃(ほこり)が自然とたまっていきます。しかし、心の掃除をするといっても、どこをどう手掛かりにしていいかわからないかもしれません。
その点、掃除や片づけというのは、具体的で入りやすい。そんなことも、このブームの一端を担っているのでしょう。
禅寺では、掃除は大事な行のひとつです。一片のゴミもないよう境内を掃き清め、本堂の床や柱をピカピカに磨き上げることで、禅僧自身の心も磨き、整えているのです。
■すべての人間が心に「仏性」を備えている
人間の心は本来、「仏性」を備えています。どんな人にも仏性はあります。仏性というと、なにやら高尚でむずかしく聞こえるかもしれません。しかし、そんなことはありません。
人のために役立ちたいという気持ち、思いやりや優しさ、人に嫌な思いをさせないという気遣い。こうしたものも仏性です。
しかし、人はなかなか仏性のまま生きていけません。心の中には煩悩や執着が常に渦巻いています。怒りや嫉妬といった負の感情もしばしば生まれます。もし、それらを具体的な形で「見える化」したら、汚さや乱雑ぶりにきっとギョっとすることでしょう。
「得をしたい」「競争に勝ちたい」「相手を出し抜いて自分だけの成果にしたい」「もっとよく思われたい」「夢を実現するため、思い通りに人を動かしたい」「あの人が羨ましい」「許せない」……実にさまざまな欲望や思いが、仏性の周りを埃やゴミとなって覆っています。煩悩や感情のままに生きていると、仏性はどんどん曇っていくばかりです。
■心がけ次第ですべてが変わる
しかし、心の埃は心がけ次第で、いくらでも払うことができます。
たとえば、お寺へお参りにいって、仏様に手を合わせると、心が鎭まり、気持ちが穏やかになったりします。これは、お寺という空間に身を置き、仏様に心をさらけだすことで、仏性を覆っていた雲が取り除かれるからです。
少しでも放っておくと、心はすぐに埃でいっぱいになります。毎日をどう生きるか、どんな心持ちで過ごすか、その工夫と努力をちょっとするだけで、仏性に近づき、きれいな心を保つことは十分可能なのです。
■迷えばどちらの道に進んでもいい
「人生ゲーム」という昔からずっと根強い人気を持つボードゲームがあります。
ルーレットを回して出た数字の分だけ駒を進め、止まったところで書いてある指示に従い、お金を増やしたり、大きな買い物をしたり、家族をつくったり、人生のさまざまなイベントをゲームとして楽しむすごろくゲームです。
このゲームが実際の人生と決定的に違うのは、すべて偶然に出た数字によって勝ち負け(人生の勝者、敗者)が決まってしまう点です。
一方、現実の人生は、自分の意思や決断といった必然的な要素が大きく関わります。いい人生を送るには、自分の意思でどのような選択をするかがとても重要だということです。
■どの道を選んでも同じ
実際、「あのとき、別の道を選んでいれば……」という後悔は、ままあることだと思います。もしいま辛い状況にあれば、学校や会社、パートナーの選択を誤ったからだと考える人も少なくないでしょう。
しかし、禅は、どの道を選んでも同じだと教えます。人生の選択において、「よい判断」も「悪い判断」もないのです。どちらの道を選ぼうと、その人の生き方によって、人生はいくらでも変わるからです。
人生に成功している人は、過去を振り返って「無駄なことは何ひとつなかった」としばしば述懐します。どんなに遠回りしても、どん底の経験をしても、それらはすべていまに生きていると考えているのです。
彼らが成功したのは、逆境のときも他人や社会のせいにせず、目の前のことに最善を尽くす気持ちでひたすら無心に取り組んできたからだと思います。
たとえ、辛い道を選んでしまっても、そこで投げやりになったりはせず、一生懸命に努力をする。つまり、生き方によって自分の道を輝くものにしているのです。
■どの道を通っても真理や幸せに通じる
こんな生き方ができる人は、仮に別の選択をしても、きっと成功するはずです。
「大道通長安(だいどうちょうあんにつうず)」という禅語があります。どの道を通っても真理(悟り)や幸せに通じるという意味です。
禅では、「よい」「悪い」の判断を離れ、すべての物事が「絶対」であると考えます。目の前にあることにただ無心に向き合えば、おのずと道はひらけるのです。
人生で岐路に立ち、迷うことがあったとしても、どの道を選んでも「正解」なのです。大事なのは、選ぶ判断をしたあとにどう生きるかです。結果にこだわらず、やるべきことをただひたすらやる。
その果てに選んだ道は、必ず「よい道」になります。
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曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー
1953年、神奈川県生まれ。多摩美術大学環境デザイン学科教授。玉川大学農学部卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行ない、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年『ニューズウィーク』誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。
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(曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー 枡野 俊明)
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