「1日30品目」は無理ゲー…「子の夕飯がコンビニの○○チキだけの日があってもいい?」に管理栄養士の痛快な回答
プレジデントオンライン / 2024年3月23日 6時15分
■「1日30品目」は眩しすぎる
家族の食卓を担う親・保護者が背負う重圧は、とかく大変なものである。子どもの好き嫌いを加味しながら栄養バランスに配慮した献立の作成を、家族が生きていく限り毎日続けていかねばならない。
私、筆者も最近夕食担当としてキッチンに立つようになり、食事を用意することの苦労を身に沁みて学んでいるところだ。毎日ではなく週に3、4日なのに、時に「手抜きをしよう」と堕落の脳内囁きに屈してしまうことがある。
親とて完璧超人ではないからたまには手抜きをする日があっても許してほしいところなのだが、ではどれくらいまで手抜きをしていいのかという率直な疑問が生じる。世間には「1日30品目が望ましい」といった言説もあり、この眩しすぎる理想を前にすると、「たまには手抜きしたい」という親の本音は単なる弱音のようで、口にするのが憚かられるのである。
■どこまでなら手抜きをしても許されるか
どこまでなら手抜きをしてもいいのか。そんな、人に訊くには恥ずかしい質問に、真摯(しんし)に向き合ってくれる専門家はいないものか。
かくして2児の父として、そして豊富な知識と大局的な俯瞰(ふかん)でもって日々の献立を見つめる管理栄養士として活躍する成田崇信さんにお話をうかがってまいったわけだが、常識がいくつも覆るほどの衝撃を受けることとなったので、ぜひ情報をここにシェアしたい。
■「1日30品目」に根拠はない
――共働き世帯が増えてきて、仕事から帰宅してすぐに夕食の準備に取り掛かる人も珍しくありません。「子どもにはきちんとした食事を提供したい」と考える親・保護者は多いと思います。ただよく言われる「1日30品目」は、食事を用意する親にとってかなり高いハードルなのですが、やはり理想的にはそこを目指すべきなのでしょうか?
【成田さん】「1日30品目」はもともと、1985年に当時の厚生省(現在の厚生労働省)が出した『食生活指針』に言及があって、世間に広まってきたものですね。だから現在の子育て世代の頭の中には強くこれが残っていると思います。ただ2000年に出された食生活指針では、なくなっているんですよ、この文句。
――えっ、そうなんですか?
【成田さん】はい。でもみんな印象が深くって、「1日30品目」ってお題目のように唱えているんですけど。今の子どもはそのようには教わっていないんですよ。
――では、今の子どもには特に具体的に「何品目」ということはないんでしょうか?
【成田さん】ないですね。「バランスの取れた食事をしよう」と。
――なぜ「1日30品目」は『食生活指針』からなくなったのでしょうか?
【成田さん】当時は「食育」といった言葉もなく、ご飯、漬物、味噌汁で完結するような質素な食卓で、それを「バランスよく栄養を取るためにもっとバラエティに富んだものにしよう」という狙いから、キャッチーな文句として「1日30品目」と打ち出されました。しかし「30」という数字に根拠はゼロなんです。
――そうなんですか⁉ ひどい!
■「1日30品目の呪縛」から解き放たれてもいい
【成田さん】はい、でも具体的な「30」という数字があったから広まった(広まりやすかった)という事実もあるわけで。
かくして各家庭の食卓は狙い通りバラエティに富んだものとなったので、「30」にこだわるのはもはや誤解を招くだけとなりますし、廃止になったと。これが主な理由だと思います。
それと今の時代に「1日30品目」がそぐわないという面もあります。野菜ジュースを飲んで「この野菜ジュースに入っている8品目を今日はもうクリアした」と満足してしまうのがいいのか悪いのか……というのもあるので。
だから、「1日30品目」の話をする時は「その呪縛からはもう解き放たれていいですよ」とお伝えしています。
■たまには○○チキだけでも許されますか?
――なるほど。これはついぞ知りませんでした。「1日30品目」のフレーズには、それを達成できない自分に向かって「お前は不出来な食事当番だ」と思い知らせてくるような圧があり、後ろ暗く思いながら、もはやあえて考えないようにしていた領域でもありました。そのお話が聞けて本当によかったです。
が、そうはいってもやはり毎回きちんと作るのは大変なわけで……たまにはファミチキやななチキなど、子どもも喜ぶコンビニの○○チキを買ってきてあげるだけの、超手抜きの日も許してもらいたいところなのですが、実際にそういう日があってもよいものなのでしょうか?
【成田さん】「ファミチキだけの日があってもいいか?」ということですと、その「日があっても?」というところがポイントですよね。ファミチキだけでも大丈夫かというと、大丈夫ではないんですけど――。
――はい(笑)。やはり「ファミチキだけ」には問題が……。
【成田さん】私がこういう話をする時に気をつけているのが、たとえばこの質問に対して「いいですよ」って言うと、捉え方に個人差が生まれるんですね。Aさんは「3日に1回くらい」、Bさんは「1週間に1回」、Cさんは「1カ月に1回」という具合に。
ですので、ファミチキだけの日は「あってもいい」んだけど、ただ私が「あってもいい」とだけ言ってしまうと、それを「3日に1回」と受け取ってしまった人のご家庭では、子どもの栄養状態が良くなくなる可能性もあるので……「1カ月に1回」と思ってくれる人に関しては、注釈なく「いいですよ」とだけ伝えることができます。
ただ「ファミチキ“だけ”」というのは極端な例ですよね。たとえば、ファミチキは買ってくるけど、家には冷凍のご飯があったからそれを出して、冷蔵庫を漁ったらミニトマトがあったからそれを5、6個出して、ファミチキと食べて、「これで一応夕食だ」と。これはいいのではないかと思います。
■普段しっかり食べているなら「10日に1回のチキデー」は可
――ファミチキにご飯とトマトを添えればオッケーになりますか?
【成田さん】普段しっかり食べていれば問題ありません。そしてその「普段しっかり」にも個人差、家庭差があるんですよ。
味噌汁、おひたし、肉や魚のメイン、漬物という充実した食卓の家が、10日に1度、「今日はファミチキだけでごめん!」だったらまったく問題ないんですけど、普段から「ご飯と1品くらい」とか、ちょっと弱い食事をしている家庭でファミチキだけポーンと出されるような日があると……です。そういった、普段の食事との兼ね合いもありますね。
■3日~4日単位で食事を見ていけばいい
――「ご飯とトマトが添えられたからオッケー」というような単純な話ではなく、もっと長い期間、大きな流れで判断していくわけですね。
【成田さん】そうなんですよ。「栄養価は毎日揃えなきゃ」というものでもなくて、大人なら1週間平均、子どもなら3~4日サイクルで見ていければ。
子どもは大人に比べて体に蓄えられる栄養の量が少ないのですが、成長のためにたくさんの栄養を必要とするので、大人よりそのサイクルが短くなります。
だから子どもは毎日しっかり食べるのが大事なんですけど、まあ「栄養が蓄えにくい」といってもそんなにすぐなくなってしまうものでもないので、3~4日ぐらいの周期で平均的に栄養が取れればいいかな、というのがおおまかな目安ですね。
――トマトのように、来たるべき「チキデー」に備えて冷蔵庫に常備しておきたい添え物としては、何がオススメですか?
【成田さん】やっぱり冷凍食品・冷凍野菜が多くなるんじゃないですかね。ジャガイモ、ニンジンなどの日持ちする野菜は常備しておけばいいのですが、そういう野菜ほど調理するのにひと手間かかることが多いです。なので、冷凍野菜は強い味方になるかと。すぐ使えるので。
ブロッコリーやほうれん草などの冷凍は、好きな分量だけ使えて便利です。そういうのをスープに入れて、とか。味噌汁も、粉のだしを入れて、冷凍野菜を入れてほぐれたら味噌を入れて……とやれば、3、4分で手作りの1品を用意できます。
そして野菜を増やしたかったら、味噌汁に入れる冷凍野菜の量を単純に増やすと。そんな感じですね。
あとゴマとかいいですよ。ご飯をチンしてゴマかけてってするだけで食物繊維が取れて。子どもは意外とゴマ好きですし。
■ファミチキの“出し方”が重要
【成田さん】もうひとつ大事なのは、子どもへのメッセージです。食事の用意が大変でも、形だけでも「栄養のバランスを考えている」という素振りを子どもに見せてあげるっていうのが大事なところだと思います。
「今日はファミチキだけ」といって、本当にファミチキだけポーンと渡すと、子どもは「こういうのでいいんだ」と思っちゃうので……。だけどそういう時でも、たとえばファミチキにインスタント味噌汁を添えて出す、冷蔵庫にネギがあったからそれを刻んで味噌汁に散らす、海苔があったから千切って散らす……などなど、たいした手間ではないんだけど「ファミチキ“だけ”で終わらせない」という気持ち、意思表示を、子どもに対してしてあげてほしいと思います。そうした親の姿勢が、将来の子どもの食事へのスタンスにも影響を与えていきます。
――たしかに、子どもの食事観は主に親を見て培われていきますね。
【成田さん】はい。なので、ものすごく忙しい日でも、“ひと手間”の誠意を見せたいところです。で、栄養は他の日で調整する、というのがいいと思います。
「まったくがんばらない」というのは子どもにとってもよくないので、がんばれる時にがんばる、がんばれない時は“誠意を見せる”ということです。
――“誠意”がキーワードですね。ファミチキなどで手抜きをするのは必ずしも悪いことではないと知り安心しましたが、一手間を加えてギリギリのところで格好をつけて、その姿を子どもに“誠意”として示していきたいと、新たに思えました。
成田さんには引き続き、食事を担当する親として、普段は聞きにくい心の甘えからくる疑問をぶつけてみる予定である。
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管理栄養士
1975年東京生まれ。社会福祉法人で管理栄養士の仕事をするかたわら、主にブログ「とらねこ日誌」やSNSなどインターネット上で食と健康関連の情報を発信している。栄養学の妥当な知識に基づく食育書『新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)を執筆。共著に『各分野の専門家が伝える子どもを守るために知っておきたいこと』(メタモル出版)、監修として『子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ』(オレンジページ)などに携わっている。
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ライター、ミュージシャン
早稲田大学第一文学部卒。広告代理店社員、トラック運転手、築地市場内の魚介類卸売店勤務などさまざまな職歴を重ね、現在はライターとミュージシャンとして活動。
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(管理栄養士 成田 崇信、ライター、ミュージシャン 武藤 弘樹)
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