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ついに「日本円の紙くず化」は最終ステージに突入…日銀・植田総裁が仕掛けた「YCC再修正」の悲惨な結末【2023下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2024年3月24日 6時15分

金融政策決定会合後、記者会見する日本銀行の植田和男総裁=2023年10月31日、東京都中央区の同本店 - 写真=時事通信フォト

2023年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。国際・政治経済部門の第5位は――。(初公開日:2023年11月10日)
日本経済はこれからどうなるのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「日銀は10月の金融政策決定会合で、『2度目のYCC再修正』を決定した。長期金利は1%に迫っており、現状を追認しただけだ。日銀は異次元緩和というバラマキを続けざるを得ず、円の紙くず化はもう近い」という――。

■日銀が「長期金利1%超え」を容認した

日銀は10月30日、31日の金融政策決定会合で、YCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)の再修正が決定した。長期金利1%を事実上の上限としていたが、1%を超える金利上昇を一定程度容認する。金融緩和の継続を堅持することも決めた。

日銀は10年国債金利の許容変動幅を±0.1%、±0.2%、±0.25%、±0.5%と順次引き上げ、7月末には「±0.5%目途」とする柔軟化を決定。1%での連続指値オペを行うと表明したことから、1%が「事実上の上限」となっていた。物価上昇への対応のようではあるが、本質的には日銀の組織防衛戦であり、戦線は後退を続けている。最終防衛ラインも突破された危険な状態に入った。

日本でも物価上昇が続いている。9月の全国消費者物価指数は、前年同月比(生鮮食品を除く)が2.8%。ガソリンなどの補助金で物価を低く抑えての2.8%である。この結果、日銀が目標としている2%を19カ月間連続で上回った。

それにもかかわらず、日銀は「まだ物価上昇が確実でない」と主張し、物価上昇を促す金融緩和政策をとっている。筆者が思うに、日銀は「緩和を堅持しているどころか加速させている」と言っていい。正確に表現するなら“緩和継続”ではなく、“緩和加速”である。

■行き着く先は「円の紙くず化」…開業以来、最大の危機

そう書いたのは、長期金利の更なる上昇を抑えるために、債券市場から国債を大量に購入する「国債買いオペ」を強化しているからだ。国債買いオペとは、お金を市中銀行に振り込むことでもある。市中にあるお金の量を増加させる(=日銀バランスシートを膨らませる)のだから量的緩和の拡大なのだ。市中にあるお金の量を一定量に保つ「量的緩和の維持」にとどまらない。

市中にあるお金を吸収している欧米の中央銀行とは真逆の行動である。お金がバラマキ続けられれば、その価値はますます希薄化(=円安、インフレ加速)していく。

政府が物価対策としてガソリンなどへの補助金を出し、所得減税まで予定しているにもかかわらず日銀は、真逆の政策をとっている。普通の消費者感覚からすれば理解不能のはずだ。

もうロジカルな思考経路を持つ人なら気がついてもいいはずだ。

日銀は金融緩和を止めたくてもできないのだ。解除したらとんでもない事態が待っていることを頭のいい植田和男日銀総裁は、十二分に理解されている。だからこそ無理やり「緩和を継続する方便」を見つけ出し、緩和を継続(加速)させることに汲々としている。

日銀は追い詰められている。明治15年の開業以来の最大の危機に直面している。それはとりもなおさず「円の紙くず化」の危機だ。

■「現状追認の微調整」しかできなかった理由

10月末の政策決定会合前でも、今、日銀が政策変更するとしたら、①YCC再修正・放棄、または②マイナス金利政策の解除だろうと指摘されていた。

マスコミ報道でもYCC再修正が予想されていたが、結局は「現状追認の微調整」に終わったと筆者は考えている。日銀はYCCの放棄はもちろん、この枠組みの変更はできない。

それはなぜか。政策変更をすれば、さらなる長期金利上昇を日銀自身が招くことになるからだ。金融システムの大混乱し、日銀自身が死に体になる。

長期国債の爆買で長期金利を低く抑えつけるYCCは、そもそも、オーソドックな金融論では中央銀行の禁じ手だ。「短期金利は中央銀行、長期金利はマーケットが決める」がオーソドックスな金融論の教えであり、世界の金融界の常識だ。したがって長期金利を政策目標にしている中央銀行は日銀以外、他には昔も今もない。

かつて日銀自身が一般向けホームページ「教えて!にちぎん」にそう書いていた。しかし、異次元緩和に手を染め国債の爆買いを始めた結果、そのオペレーションとの整合性をとるためか「長期金利はコントロールできる」と変えたのだ。

積みあがったコインにはしごをかけて登ろうとする男性
写真=iStock.com/DNY59
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DNY59

■長期金利をコントロールできないことを証明した

日銀が長期金利の政策金利をゼロ%としながらも、上限を0.25%、0.5%、1.0%に段階的に変え、今回は「1.0%を多少超えても可」とするに至った。市場の圧力に敗れ上振れさせてきたことは、「中央銀行が長期金利をコントロールすることなどやはり無理」の証明でもある。

日銀が長期金利をあるレートに設定をすると、金利上昇の際、市場圧力の増加に対応するため、過度の国債買いオペ(お金のばらまき=量的緩和の加速)を迫られる。お金をばらまかないと、長期金利上昇を止められない。お金のバラマキは景気過熱、インフレ促進であり長期金利を抑えようとして、逆に市場の長期金利を押し上げてしまうのだ。

長期金利の上限(あるいは上限目途)の度重なる引き上げは、日銀が市場の圧力に屈してきた結果である。いずれ日銀は長期金利のコントロール自体が不能となり、長期金利の市場金利は、虎を野に放つ勢いで暴騰すると私は思っている。

なお、今までの中央銀行は(短期金利の話だが)政策金利を動かすことによって市場金利をコントロールしてきた。市場金利をコントロールできなくなった中央銀行は中央銀行の体(てい)をなさない。

■長期金利1%で日銀と日本の金融システムは崖っぷち

今回の政策決定会合での微調整でさえ国債売りは優勢となり、長期金利(10年債金利)は一時上昇。11月1日には0.97%をつけた。10年5カ月ぶりの高水準だ。いよいよ金利1.0%に迫ってきた。

【図表】10年債金利
筆者作成

長期金利が1.0%になると、日銀や日本の金融システムはどうなるのか。金利上昇は債券価格の下落を意味する。つまり様々な金融機関の保有債券評価額(評価損、いわゆる含み損)が拡大することになる。

その額はどのくらいになるかを検討してみよう。参考になるのは2022年9月末(長期金利0.25%)と12月末(長期金利0.5%)時点の評価損の増加具合である。

長期金利が0.25%上昇したことにより、地方銀行全体の債券評価損は2倍(1.6兆円)に増えた。生保主要15社は約5兆円5600億円の評価益が約3600億円の評価損となった。5.9兆円の評価額の減少だ。一方の日本銀行は、評価損が8849億円から8兆8000億円に拡大した。評価損が7.9兆円増えたのだ。

長期金利が0.5%から1.0%に上昇した場合、大雑把に言えば、上記の評価損が2倍になる。地銀は評価損3.2兆円、生保主要15社の評価損は12.1兆円、日本銀行は24.6兆円の評価損となる。単純計算であり正確性は欠けるものの、巨額であることに変わりない。日本の2023年度の税収予想額70.3兆円と比べれば、尋常ならぬ額である。

米国のように長期金利4%後半にもなれば、腰を抜かさんばかりの評価損になってしまう。日銀や金融機関はたちまち債務超過になる。

■金利が上がれば、どんどん債務超過になる

債務超過になると何が怖いのか。時価会計ベースで「債務超過になる」とは資産、負債両サイドを現時点で現金化した場合、借金等の負債を全部返済するのには現金が不足するということ。民間銀行だと「取り付け騒ぎ」のリスクが生じる。

預金者は、銀行が(資産を売却して)調達した現金が枯渇する前に、自分の預金を引き落とそうとするからだ。最近では米国のSVB(シリコンバレーバンク)での資金流出劇が記憶に新しい。

債務超過が怖いのは、なにも銀行だけではない。企業でも債務超過になれば、同じ現象が起きる。お金を貸している銀行や関係企業、社債を買っている(=貸金をしている)人たちが、資金が枯渇する前に回収を図る。その結果、企業は資金繰倒産をしてしまう。

よく「債券は満期になれば元本がきちんと返ってくるから問題ない」と主張する人がいるが、債権者は債券の満期までその企業からの資金回収を待ってくれない。リーマンその他多くの企業がこのケースで資金繰り倒産している。

■債務超過の中央銀行が、ひとたび信用を失うと…

そして債務超過の最も恐ろしいのは、その企業の信用が著しく傷つくことだ。日銀であっても同様である。

中央銀行の信用が傷つけば、発行する通貨の信用は失墜する。日銀自身が、このことを十分認識しているのは明らかだ。雨宮正佳・日銀副総裁(当時)は、日本金融学会の2018年度秋季大会で「マネーの将来」と題した特別講演を行い、こう発言した。

「もちろん、中央銀行への信用がひとたび失われれば、ソブリン通貨といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」

要は、中央銀行への信用が失われれば、その発行する通貨の信用は失墜しハイパーインフレ(=通貨価値の大暴落)が起きるとおっしゃったのだ。中央銀行の信用失墜の最たるものの一つが債務超過だ。

自国民ならともかく、外国人は債務超過の中央銀行が発行した通貨など信用しない。輸出しても、そんな通貨よりドルを所望する。貴重なドルを売ってまで、そんな中央銀行が発行する通貨など受け取らない。

銀行が入っているのは、重厚感のある建築
写真=iStock.com/Warchi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Warchi

■外資系銀行は日銀の財務状況を冷静に見ている

私が1985年に邦銀からJPモルガンに転職した時に驚いたことがある。

邦銀ではG7の政府や中央銀行に対しては取引枠はなかった。青天井で取引できた。国債の保有や中央銀行の当座預金に残高を置くことは、信用リスクの観点からは無制限にできたのだ。

ところがJPモルガンではG7の国であれ中央銀行であれ、取引の上限枠が設定されていた。これにはかなりのカルチャーショックを受けた。米銀は倒産の可能性を考慮し、リスク管理をしている。取引枠があるということは、信用力が落ちたら枠を縮小し、さらには閉鎖することがあるということだ。

特に、債務超過が一時的でなく、どんどん大きくなると思えば確実に閉鎖だろう。外資は日本人や日本政府のために日本に進出しているわけではない。株主の利益極大化のために行動している。株主の損失回避は経営陣の最重要な責務である。

■欧米銀行が日銀当座預金を閉鎖すると…

一般の方は、日銀に預金ができないから日銀の口座にはなじみが薄い。しかし、日銀当座預金とは日本経済にとって極めて重要な口座だ。

日本の経済的取引の最終決済は、この口座で完結する。たとえば、手形交換。約束手形は手形交換所で交換されるが、その裏の資金決済(各銀行の勝ち負けをネットアウトした金額の決済)は日銀当座預金口座を通じて行われる。国債取引、株取引、内国為替、外国為替、すべてそうだ。

日銀当座預金を閉鎖した場合、日本国内でのあらゆる銀行業務はできなくなる。民間金融機関が日銀検査を異常に怖がる理由の一つである。日銀当座預金閉鎖は銀行業の廃業命令と同義である。

米銀が日銀当座預金口座を閉鎖するとは日本での銀行業務から撤退することを意味する。さまざまな弊害があるが、特にドル/円の取引が不可能になるのが怖い。

ドル/円のリンクがはずれれば、円はローカルカレンシー(地域通貨)化する。そんな通貨を世界は相手にしない。貿易でも、為替市場でも円は受け取ってくれない。円の大暴落だ。

スケールに載せられた円マークとドルマーク。円が軽すぎて均衡が取れていない
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

制裁のためにスイフト(国際金融取引の決済ネットワーク)から除外されたロシア・ルーブルと同じ状態になる。ロシアは産油国であるため、「ルーブルでなければ原油を売らない」と脅しかけルーブルの価値をある程度保つことができたが、円にそれは期待できない。

■「Xデイ」はいつなのか

「Xデイはいつなのか。それが言えないのならフジマキの主張はいい加減である」とよく言われる。

そのきっかけとなり得る一つが、米銀の日銀当座預金口座の閉鎖だと思っている。撤退の意思決定は米銀審査部のごく少数の幹部や経営陣が秘密裏に行うだろう。私には彼らがどう分析するかはわからない。彼らの頭の中までは見えない。

日銀が純資産である限り、そのような決断はしないのではないか、と思っている。しかし日銀が債務超過になったら話は別である。日銀が債務超過に陥るのか、いまだ純資産であるかは、極めて重要なポイントなのだ。

日銀もその点は十分わかっている。だからこそ1%を超える長期金利の上昇を絶対に許すわけにはいかないはずだ。黒田東彦・前総裁時代から、日銀はETF(上場投資信託)の爆買いを続けてきた。株式の含み益の額によって債務超過に陥るレベルは多少上下するだろうが、1%からそれほど離れているとは思えない。

いずれにせよ、日銀が許容できる金利上限は、もう目と鼻の先なのだ。

令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行いました
令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行いました(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■日本円の大暴落は一瞬で起きる

経済評論家やマスコミは、物価上昇を抑えるために「YCCを撤廃するべきだ」と主張する。もちろん植田総裁は十二分にわかっている。

しかしYCCを撤廃すれば、長期金利1%をはるかに超える。債務超過、円のローカルカレンシー化、すなわち大暴落の引き金をひいてしまう。そうなればハイパーインフレに一直線だ。日銀にYCC廃止などできるわけがないのだ。

外資の日銀当座預金閉鎖は一晩で起こりうる。その時、日本円しか持っていない日本人はどうやって資産を守るのか。そんなリスクを背負うことを賢明だとは思わない。

なお、金融論的には、「中央銀行が債務超過に陥っても大丈夫な条件」が3つある。

① 債務超過が一時的である。
② 金融システム救済のために債務超過になるが中央銀行自体のオペレーションは健全である。
③ 国家の財政が健全化に向かっており、近い将来、税収で、中央銀行の債務超過を補塡(ほてん)できる

との3条件である。米銀の審査部はこの辺を考えながら、日銀当座預金を閉鎖するか否かの判断をすることになるだろう。現在の日銀は上の3条件、どれ一つ該当していない。

■マイナス金利政策解除では何も変わらない

先月31日の政策決定会合の際には、YCCのほかに「マイナス金利政策の解除」が可能性として取りざたされていた。

私は、これが日銀の取れる唯一のオペレーションであり、いつかはこれを行うと思っている。しかし、これは「金融緩和政策の変更もどき」であって実質的に何の意味もない。金融緩和の解除などとはお世辞にも言えない。

情けないことに、多くのマスコミがマイナス金利政策を「重大な政策変更」と誤解している。非常に多くの外国人もそうだ。

お化けは「出るぞ、出るぞ」と脅されているときが一番怖く、出てしまえば、「なんだ」と言うことになってしまう。それと同じだ。しかし、スカだからこそ日銀はできる。そして何も変わらない。

世界各国の中央銀行は、政策金利の変更を通じて市中金利に影響を与えようとする。銀行間の貸借レートに変化を与え、貸出金利、企業への融資レート、FXのスワップポイントに反映させることを狙う。

FED(米国の中央銀行)も同様だ。現在のFEDの政策金利5.25~5.5%は、銀行間の1日間の貸借レートそのものだ。だからこそ、FEDが政策金利を引き上げると市中金利(特に1日物金利)もそれと同じだけ上昇する。

■0.011%上昇では金融引き締めの効果はない

ところが、日銀の金利政策である▲0.1%とは、銀行間の1日間の貸借レートそのものではない。

3層に分かれている545兆円の日銀当座預金(市中銀行が日銀の預けてある当座預金)のうち、たった30兆円弱に付利されている金利のことである。いわば日銀に預け過ぎの部分に適用される一種のペナルティーに過ぎない。

実際、11月2日の銀行間の1日間の貸借レートは▲0.011%だ。マイナス金利政策を解除しても、銀行間の1日間の貸借レートがたったの0.011%上昇するだけだ。「マイナス金利解除」と聞くと大イベントのように聞こえるが、実質的に何も起こらないのである。

先日、日経新聞紙上で、前田栄治前日銀理事が「マイナス金利解除では変動金利型の住宅ローン金利は上がらない」と発言していたが、これがその理由。このニュースで為替が多少円高に振れてもすぐ円安基調に戻るだろう。

■日銀は、この歴史的な円安を止めることはできない

今まで述べてきたように、日銀は出口の第一歩であるYCCの見直しはできない。撤廃もできない。マイナス金利政策の解除はできるが、金融引き締め効果はない。ゼロ金利政策の解除や、ばらまいたお金の回収など、もってのほかである。

日銀はインフレが加速しても何もできないのだ。インフレに対処しようとすれば日銀が自滅してしまうからだ。円の暴落を恐れて、何もしなければ、円はとめどもなく下落を続ける。暴落よりはスピードが遅くなるが、と言うだけの話だ。

日本銀行本店
日本銀行本店(写真=Fg2/PD-self/Wikimedia Commons)

さらには長期金利の上昇を抑えるため、お金を回収するどころか、今後もバラマキ続けなければならない(=国債買いオペを継続)。単年度の財政が黒字になるか、はたまた、よほどに長期金利が上昇し日銀以外の国債の買い手が現れない限り、保有国債の減少(=市中からのお金の回収=インフレの鎮静化)など夢のまた夢である。すでお金の回収に入っている他の中央銀行とは、どえらい違いだ。

■アメリカの景気が失速すれば、円高になるのか

昨今の円安について、米国の景気が失速して日米金利差が縮小すれば円安は止まり、日銀は助かるのでは? と考える方もいるが、そんな悠長なことを言える時はとっくに過ぎてしまっている。

米国がどうなろうと、日本がデフレや景気低迷が続かない限り、日銀はどこかで他国と同様に金利を引き上げなければならない。より重要なのは、バラマキ過ぎた円の回収を図らねばならないことだ。しかし、今の日銀にそれはできない。

日米金利差が縮小しようがしまいが、日銀の財務は日ごとに悪化(=お金をバラマキ続けている)し続け、改善は全く不可能だ。ばらまいたお金を回収に入っている欧米の中央銀行と、バラマキを継続せざるをえない日銀の違いはどえらく大きい。金利差など小さな問題なのだ。

■金利上昇に耐えられない「脆弱な日本」に誰がした

Bloombergの報道によると、著名投資家のドラッケン・ミラー氏は最近「米財務省が事実上のゼロ金利を利用して長期の国債発行を増やさなかったのは『史上最悪の失策』だ」と批判したそうだ。

「金利が低い時に長期債で資金調達をすべき」はオーソドックスな金融論の教えるところであり、私もJPモルガン時代は、その原則にのっとってオペレーションをしていた。基本のキである。ドラッケン・ミラー氏は、もっと長い期間の長期債を低金利時代に発行すべきだったと米財務省を非難したのだ。

対して日本である。日銀は、統合政府論の実践である「財政ファイナンス」(財政赤字を賄うために、政府の発行した国債等を中央銀行が通貨を増発して直接引き受けること)を事実上実践してきた。

これは統合政府で考えると「せっかく政府が長期国債を発行したのに、日銀が、日銀当座預金という1日のお金に変換してしまった」ことを意味する。米財務省が「長期債の代わりに短期債を多く発行した」どころの話ではない。「長期債の代わりに1日間という極超短期のお金で資金調達をしている」状態を意味する。

金利上昇に対して、とんでもないほど脆弱(ぜいじゃく)な国家を作り上げてしまったのだ。この状態を元に戻すのはもはや不可能もいいところである。

■海外のメディアも日銀のヤバさに気づき始めた

最近、海外のマスコミも日本や日銀に厳しい目を向けるようになってきた。だんだん、日銀や円の厳しい実情が、海外にバレ始めてきたようである。

Bloombergは11月2日、「円はトルコ・リラやアルゼンチン・ペソと同じ部類」というドイツ銀行の為替調査グローバルヘッド、ジョージ・サラベロス氏の主張を紹介した。

このような記事が多くなり、多くの外国人が日銀や円の実態を知るようになれば、Xデイは間近に迫っている。米銀の日銀当座預金の閉鎖も可能性も一段と現実味を帯びてくるだろう。

そうなれば円の紙くず化が近い。保険の意味でもドルを買っておいた方がいいという私の主張を理解していただけるのではないだろうか。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中受賞受章。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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