ネイティブはWhatを「ホワッツ」とは発音しない…日本人にかけられた「英語を話せない呪い」を解説する
プレジデントオンライン / 2024年3月26日 9時15分
■英語が苦手な人を育てている日本の学校教育
ほとんどの日本人は少なくとも6年間は学校で英語を勉強します。なのに、なぜか英語が話せないまま、好きな海外ドラマもさっぱり聞き取れず、英語に対する強い苦手意識を持ってしまっている人も少なくないです。
そのひとつの理由としては前回の記事でご紹介しましたように、英語ネイティブは音同士をつなげたり、発音しなくても相手が理解できる音ははしょったりしてしゃべるからです。日本人は学校で「つながり」や「はしょり」をきちんと学んでいないので、自分が想像している英語とネイティブの英語とのギャップが大きすぎて話しても伝わらない、聞き取れないという現象が起きます。
ですので、英語がしゃべれるようになるためには、ネイティブの英語が聞き取れるようになる必要があり、それには1回目の記事で紹介したように、ネイティブが実施している「つながり」や「はしょり」を理解して慣れる必要があります。
学校の英語教師のほとんどがこうしたネイティブの発音ルールを理解せずに教育をしています。そのため、まじめな生徒ほど、誤った発音をインプットして、英語が苦手になるという悲劇が起きてしまいます。私が教えていたインターに通ったこともある女子高生は、ネイティブに近い発音ができる子だったため、逆に日本人の先生の英語が聞き取れず、リスニングが苦手(?)でした。
誤った発音を覚えることはテストの点数稼ぎにはなりますが、コミュニケーションツールとして英語を使いたいのであれば、致命的です。学校で習った英語の発音は忘れて、ネイティブの発音を学び直す必要があります。
■ネイティブから見た日本の英語教育の不思議
もう一つ、学校教育で不思議なのは、習う発音と単語があべこべだということです。
たとえば、「働く」という意味の「work」と「歩く」という意味の「walk」。日本人は「work」のことを「ワーク」と発音し、「walk」のことを「ウォーク」と言います。実は両方ともイギリス訛りの発音に近い発音になります。北米の英語ネイティブはどちらかというと反対の発音で話します。つまり、「work」のことをカタカナにすると「ウォーァッ」(※どちらかと言えばウォークに近い発音)、「walk」のことを「ウァーッ」(※どちらかと言えばワークに近い発音)と発音するのです。
発音はイギリス訛りの発音を学びますので、もしかしてイギリス英語の方が聞き取りやすいと感じる日本人もいるかもしれません。その代わり、アメリカ英語の海外ドラマが全く聞き取れないのです。
このように発音はイギリス英語寄りなのに、単語はアメリカ英語寄りです。たとえば、「アパート」のことをイギリスでは「flat」と言いますが、アメリカでは「apartment」と言います。他にも、「エレベーター」のことをイギリスで「lift」と言いますが、アメリカでは「elevator」です。食べ物ですと、「ポテトチップス」のことをイギリスでは「crisps」と言いますが、アメリカでは「potato chips」または「chips」と表現します。
なぜこうなったのか不思議ですが、きちんと統一してほしいものです。
■ネイティブには伝わらない「外来語」「和製英語」
学校教育に加えて、日本人が英語下手になる「呪い」といえるような存在が、日本語の中でたくさん使われている外来語や和製英語の存在です。
外来語は日本人が英語などの外国語をカタカナ化したものです。私は聞こえるままをカタカナ化して発音練習をする「カタカナ英会話」という方法を編み出し推奨していますが、重要なのはネイティブの発音をそのままにカタカナ化するということです。しかし、日本で使われているカタカナ化はネイティブの発音を反映していません。
たとえば、「white」は「ホワイト」とカタカナ化しています。しかし、実際のネイティブの発音は、「ワイトゥ」あるいはそれもはしょって「ワイッ」というのがほとんどです。「what」も『ホワッツ マイケル?』(講談社)というマンガがありましたように「ホワッツ」と書きますが、これは誤りです。ネイティブは、「ワットゥ」と発音したり、続く単語によっては「ワッ」だけの場合もあります。どうして「ホ」がつくのか、謎です。
外来語にはこうした日本語訛りの英語をカタカナ化したものだけでなく、他の言語の訛りになってしまっている単語も存在します。
たとえば、「エネルギー」はドイツ語訛りの英語です。実際はドイツ語でも「エナギー」に近い発音ですが、英語ネイティブでは「エヌジー」と言います。「ウイルス」はラテン語で「毒素」を意味する言葉で、ラテン語由来の発音です。英語ネイティブでは「ヴァイウス」と言います。
そして、挙げ句の果てには、そもそも単語が英語ではないというケースも多いのです。例えば、「ピーマン」はフランス語の「piment」由来で「ピーマン」または「とうがらし」という意味です。英語では「green pepper」「グイーン ペプー」と発音します。
さらに言いますと、単語は一応英語なのですが、日本語の意味と英語の意味が全く異なる和製英語もたくさんあります。有名なのは例えば、「コンセント」ですね。英語でも「consent」という単語がありますが、全く意味が違って「同意する」や「承諾する」という意味です。「コンセント」のことを英語では「outlet」(アウッレッ)と言います。駅の「ホーム」も英語では「form」ではなく「platform」(プラッフォーゥン)と言います。これを言う時には最後に唇を軽く閉じて音を出しましょう。
■ネイティブの発音を学び直すことからやり直そう
このように日本語の中で日常的に使われている“英語に似た言葉”に、私たちの発音は影響を受けています。
子どものころ、母とマックに行って、母が「Crush」(ファンタオレンジと似たソーダ)を注文しようと、「クラッシュ」と言ったところ、店員さんに理解してもらえなかったことがありました。ネイティブの発音を正しくカタカナ化すると、「クアッシュ」になります。しかし、和製英語で「クラッシュする」などと使われている発音が母の記憶にあって、そのような発音になってしまったのでしょう。
外来語が訛ってしまうのは日本だけの問題ではありません。もともと日本語で英語ネイティブが発音すると全く違うものに変わってしまっている単語もあります。たとえば、「カラオケ」は、ネイティブは「キャーウィオウキ」といい、「酒」も「サーキー」と言い、「空手」は「クアーリ」と言います。これは英語で「schwa」(シュワ)と呼ばれる「あいまい母音」があるからです。「あいまい母音」は口を完全にリラックスさせたまま軽く開け、喉のあたりから一瞬だけ弱く出す音です。
たとえば、「a」は軽い「ウ」になります。「about」は、日本では「アバウト」と言いますが、ネイティブは「ウバウッ」と発音します。「i」ですと、「April」(4月)という単語がありますが、日本語訛りの発音ですと、「エイプリル」と言いますね。これをネイティブは「エイプォー」と発音します。「il」は軽い「オ」になるという具合です。
このように発音の仕方に違いがあるので、学校で習った英語や外来語、和製英語は一旦すべて忘れましょう。そしてネイティブの発音を学び直すのが近道です。拙著『カタカナ英会話』では、ネイティブの耳で聞いた正しい発音でカタカナ化していますので、ぜひ、参考にしてみてください。
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英会話講師、翻訳家
モントリオール大学英仏翻訳科大学院修士課程卒業までに6カ国語をマスターし、現在は英語、フランス語、日本語のトリリンガル。カナダ在住のとき、ジャパニーズ英語で苦労してきた父母を見てきて、「日本人のカタカナ英語でも、ネイティブに通じる方法はないか?」と研究し続け、「カタカナ発音法」を生み出す。「世界まる見え!テレビ特捜部」(日本テレビ)や「日立 世界ふしぎ発見!」(TBSテレビ)などに通訳で出演するほか、「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」(NHK)などの英語字幕・ナレーション翻訳を手がける。著書に『これだけ! 接客英会話 丸覚えフレーズBOOK』(ナツメ社)、『ネイティブの“こども英語”で通じる英会話』(あさ出版)、『ながめて覚える英単語1200』(かんき出版)など。
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(英会話講師、翻訳家 甲斐 ナオミ)
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