「社長が現場の仕事をする」は絶対ダメ…3年以内に3000万円で売却「ミニマム・イグジット」までの3フェーズ
プレジデントオンライン / 2024年3月29日 17時15分
※本稿は、遠星誠『100万円のスモール・ビジネスを3年以内に3000万円で売却する ミニマム・イグジットの教科書』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■ミニマム・イグジットまでの三つのフェーズ
ミニマム・イグジットまでの事業成長は、三つのフェーズをたどります。
第一フェーズは、起業してから黒字になるまでの1年。つまり、その会社が今後、存在・成長できるかどうかが試される時期です。
日本政策金融公庫の「2023年度新規開業実態調査」によると、創業された企業の3割以上が赤字です。赤字ということは当然、手元の資金は減少し続けます。したがって、創業のために準備していた資金(自己資金)や調達した資金(創業融資等)が枯渇し次第、廃業せざるを得ないということになります。
設立された企業の相当数は1年以内に廃業することになるのです。かなり厳しいフェーズです。
別の見方をすると、第一フェーズを乗り切れば一息つけるということでもあります。
この段階ではコストを抑え、とにかく黒字を出すことに集中してください。
第一フェーズで注力すべきは二点、営業とコスト抑制です。
私は会社を設立する前、つまりコストが発生する前にまずクライアントを確保しました。設立してから営業しているようでは手遅れだからです。
もちろん黒字が確定するほどのクライアントを確保することは難しいですが、できるだけ、事前にクライアントを集めてから起業します。それもあって、私が経営してきた会社はいずれも設立直後からずっと黒字続きです。
もう一つのコスト抑制ですが、これは営業の話と密接に関連しています。会社設立直後に黒字を達成するためには営業パーソンが不可欠です。ただ、設立直後においてはあなた自らが営業を行い、人件費を最大限に抑えることが重要です。
この二点を踏まえれば、設立直後から黒字化することはさほど困難ではありません。
ここで大切なのは、実際の制作や納品、サービス対応においては、マニュアルを作成し、「人に任せる状態」を確立することです。教育さえすれば誰でもできる作業を任せ、自分は社長として経営戦略を考えたり、営業で利益を伸ばすなどに専念します。
■質的な変化をしつつビジネスを広げていく前段階で売却する
第二フェーズは、ビジネスを拡大していく時期です。たとえば、あなたが映像制作会社を立ち上げたなら、制作できる動画クリエイターメンバーを増やし、チームを増強し、より多くの案件を受けられるようにするということです。
第二フェーズは第一フェーズよりは難易度は低いのですが、余計な手間を増やして難しくしてしまう人も少なくありません。そのコツは後述しますが、この段階では最初のビジネスモデルを忠実にコピーするのがポイントです。
自分で作って成功したビジネスモデルですから、コピーするのは決して難しくありません。
第三フェーズは第二フェーズのようなコピーによる拡大ではなく、質的な変化をしつつさらにビジネスを広げていく段階です。飲食店を経営しているなら、他の店舗を買収や上場をするなど、そのくらいのフェーズです。
第三フェーズは、多くの企業にとって鬼門になります。第二フェーズまでは順調に来ていても、第三フェーズで一気にコストが大きくなるからです。従来のやり方を続けていると、足元をすくわれかねません。
本書が目指すミニマム・イグジットでは、この第三フェーズに入る直前に企業を売却することをイメージしています。ですが、この三つのフェーズを理解することが成功のカギを握っています。もう少し詳しく解説しましょう。
■最終形は「社長が現場の仕事をしない」
大切なことは、社長のやるべき仕事や役割が、フェーズごとによって変わることです。失敗した企業の多くは、このことを見落としています。
第一フェーズでの社長の仕事のうち、もっとも重要なものが営業です。仕事がなければ利益は得られません。第一フェーズでの目標は、コストを抑えてとにかく黒字を出すことでした。そのためには、まずは営業です。
さて、めでたく第一フェーズをクリアしたら、社長の仕事には従来通りの営業だけではなく、新しい仕事が加わります。
第二フェーズとなる自分で作ったビジネスモデルをコピーして拡大する段階に入りますから、スタッフを増やさなければいけません。具体的には、人材の募集と、その人材を適切なところに配置する仕事です。
さらには、今後のためのスタッフ育成も必要です。第一フェーズは社長個人の力がもっとも重要で、裏を返すと社長の力さえあればどうにかなる面が強いのですが、第二フェーズ以降はそうはいきません。
特に第三フェーズは、育成の結果に左右されます。第三フェーズに入った会社では、社長は現場の仕事をしてはいけません。ラーメン店なら、第一フェーズでは社長自ら厨房に立って必死で黒字を目指しますが、第三フェーズでは厨房ではなく社長室で仕事をすることになります。
そのとき店舗に立つのが、それまで育成してきたスタッフです。育成の結果が店の評判に直結するのです。
よくある失敗は、会社は第三フェーズに入っているのに、社長が自らに求められる役割が変わっていることを理解せず、自分が厨房に立っていた第一フェーズの感覚を引きずってしまうパターンです。そういう会社はたいてい失敗しています。
■社長の管理力や問題解決力が非常に重要になる
第三フェーズでの社長の役割は、育成してきたスタッフの管理と、社内の問題解決です。大きくなった会社では必ず問題が発生しますから、それの火消しをするのが社長の役割です。
また、対外的な問題解決も、社長にしかできません。ラーメン店なら、食中毒が発生してしまったり、価格を急に値上げせざるをえなくなってしまったら、社長が解決しなければいけません。
食中毒によって顧客に被害が出たら、ただちに社長自らが顧客に謝罪し、賠償金などについて協議します。同時に、食中毒の原因を特定し、再発防止策を伝えます。
この際に重要なのはスピード感です。事故が発生した直後に社長自らが動くことと、部下ではなく社長が誠実に謝罪することが今後を左右します。
食材が値上がりしたなら、代替できる食材や、もっと安い業者を検討したり、それらが見つからなかったりしたら、食材の量を減らすか、販売金額を上げるかを検討します。それも社長が決断すべき案件です。
しかし、こういった緊急事態を除き、平時の現場はスタッフに任せましょう。社長の仕事はあくまで火消しであり、問題がなければ出番はありません。
第三フェーズに入ると、会社の拡大にともなってコストも大きくなりますから、社長の管理力や問題解決力が非常に重要になります。それなのに第一フェーズの感覚のまま現場ばかりに目を向けてしまうと、非常にまずいことになります。
社長が時間と労力をすべて現場で使ってしまうと、トラブル解決や将来的な方向性の模索、会社の管理などもっと重要で、社長にしかできない仕事をやれません。つまり、会社はいつまでたっても成長できません。
■会社の拡大に伴って、幹部スタッフの育成の難易度も上がる
くり返しになりますが、第三フェーズではコストもリスクも一気に増大します。私が第二フェーズでの売却を進める理由がここにあります。第二〜第三フェーズのどこで会社を売るべきかは、社長個人の判断に左右されます。
もし会社の拡大に伴う自分の役割の変化をちゃんと理解し、それに適応できるなら、自分で会社を大きくする手もあるでしょう。しかし、その能力がまだ備わっていないと感じたなら、さっさと売却すべきです。
もう一つ、会社を売却するタイミングに関わる要素が、スタッフの育成です。
会社が拡大すればするほど業務も複雑になりますから、スタッフ、特に幹部スタッフに求められる能力も高度化します。再度ラーメン店に例えると、第二フェーズ初期くらいまでのスタッフはラーメンを作る能力が重要ですが、徐々に店舗の売上やアルバイトの管理能力も求められるようになるというわけです。
会社の拡大に伴って、幹部スタッフの育成の難易度も上がっていきます。
この段階で育成の手を抜く選択肢だけはありえません。会社の将来を閉ざすことになります。
ですが、育成にはいつか限界が来ます。望む能力の幹部が社内にいない、という時期がいつか来るはずです。
そうなったときの選択肢は二つです。
一つは、社外から人材を採用するということです。大手の同業他社の幹部クラスなら、あなたが望む能力を持った人がいるでしょう。
しかし大手からの引き抜きはとても難しいものです。私も何度か、1500万円くらいの年俸を用意してトライしたことがありますが、結局成功しませんでした。かといって、それ以上の待遇を用意すると人件費が大きくなってしまいます。
■スタッフの能力や育成に限界を感じたときは
先述しましたが、大手からの引き抜きにはリスクもあります。中小零細企業と大手では同業界でも文化や仕事の工程が違いますから、大手で優秀な人が中小零細企業でも優秀であるとは言い切れないのです。
高いコストを払って雇ったスタッフが期待外れだと、会社の存続そのものが危うくなります。
もう一つは幹部を社内で育成するという手もあります。社内で成長可能性が高い社員を教育して、幹部にします。このときに注意すべきは、経験や能力が足りないのは後から補強できるので問題ないのですが、責任感とコミュニケーション力は育成が難しい点です。したがって、そういった能力に長けた社員を見抜いてください。
私の会社の幹部は、ほとんど社内のメンバーを育成しました。このやり方なら、あまりコストはかかりません。
このような手法がうまくいかず、スタッフの能力や育成に限界を感じたときも、会社を売るべきタイミングです。リスクを背負いこむことはありません。
■ビジネスモデルをひたすらコピーして会社を拡大する
第二フェーズでは、第一フェーズで作り上げたビジネスモデルをひたすらコピーして会社を拡大します。ラーメン店なら、最初の店舗が成功して黒字になるまでが第一フェーズで、そのやり方をコピーして、店舗数を増やしていくのが第二フェーズです。
せっかく第一フェーズで成功したモデルがあるわけですから、余計なことをせずにどんどんコピーするのがコツです。
しかし一つだけ心がけてほしいのが、ビジネスモデルはコピーでも、それぞれの店舗のブランドは変えることです。一店目が「○○ラーメン」なら、二店目は「××ラーメン」、三店舗目は「ラーメン△□」という感じで、店舗の名称を変えていくイメージです。
その理由は、どこか一つの店舗で問題が起きたときに、グループ全体が共倒れになるのを避けるためです。
先に記したように、ビジネスが拡大していくと、飲食店なら食中毒などのブランド力を左右する問題が起きがちです。店舗数が増えていくほど、問題が起こる確率も上がります。そのときにすべての店舗が同じブランド名を掲げていたら、共倒れになってしまいますよね。
ブランドが統一されていないとイグジットのときに混乱するのでは? と思われるかもしれませんが、大丈夫です。多くの人はブランドに投資するのではなく、ビジネスモデルに投資するからです。
だから、ビジネスモデルは成功したビジネスモデルを正確にコピーし、ブランド名だけを変える、という形をお勧めします。正確なコピーで、ブランドだけ違う、という形をお勧めします。
■差をつけるのは難しい商品より営業に投資する
第一フェーズでは商品より営業が大事で、もっとも力を入れるべきなのは営業です。
商品ではありません。よくある失敗は、商品やサービスの質を上げることばかりにコストを使ってしまい、営業をおざなりにしてしまうことです。
こう書くと身も蓋もありませんが、少なくとも今の日本では、商品のクオリティに大きな差は出しにくいものです。それは、裏を返すと商品の力で差をつけるのは難しいという意味でもあります。
ここまで商品やサービスの質が高くなっている日本で、それらのレベルを、同業他社に対する優位点になるまで伸ばすためには膨大なコストがかかります。それより、そのコストを営業に投資するほうがずっと効率がいいのです。
私が営業こそが大事だというのはそういう意味です。
いくら商品やサービスが素晴らしくても、営業が弱いと世間が知ることができませんから、その商品やサービスには意味がありません。当然、売れませんから利益をもたらしません。
逆に、商品やサービスが全然ダメなのに営業だけが素晴らしいと、それは詐欺になってしまいます。
コストをかけて商品のクオリティを上げることは、もちろん可能ではあります。でも、それには非常に大きなコストがかかってしまうのです。
ならば、同じコストを営業に投入したほうが、はるかに効率がいいということです。
営業>商品、という原則を忘れないでください。
■営業で「浅く・広く」のコスト配分は絶対に避ける
会社が拡大するにつれ様々な職種のスタッフが必要になりますが、もっとも能力の差が大きく、会社の運命を左右するのが営業力です。
制作スタッフの能力の差は、致命傷にはなりません。厨房のスタッフなら、優秀な人は同時に5杯のラーメンを作れるけれど、普通のスタッフなら3杯だけ、といったイメージです。3杯しか作れなくても、会社の成長には支障がないのです。
しかし、営業パーソンの能力の差は歴然です。優秀な営業スタッフは一人でたくさんの契約を取り付けますが、そうでない営業パーソンは、100人いても一件の契約も取れません。とてもはっきりとした差が出るのです。
ですから、営業に関しては、人件費というコストをごく少数の優秀なスタッフに集中するようにしてください。一律の固定給を配るような「浅く・広く」のコスト配分は絶対に避けましょう。
具体的には月に20万円を5人に投入するのではなく、スター営業一人に、100万円を投入してください。優秀な営業は不可欠な人材ですから、それでいいのです。さらに、コミッション(歩合)制にするといいでしょう。
たとえば、基本給は15万円でもコミッションで毎月何百万円も報酬が獲得できる条件を提示します。もちろんフルコミッションも良いでしょう。自然と優秀なスタッフに給与が集まりますし、本人のモチベーションも上がります。
営業パーソンにはコストをかける価値があります。彼らを集めるときも高い給与を用意し、競合他社から引き抜く際に優位となるようにしましょう。
優秀な営業は給与以上の利益を会社にもたらしてくれます。引き抜くということは、すでに他社が教育してくれているわけですから、教育のコストがゼロベースよりもかからないという意味でもあります。ですから、なおさら高い給与を用意できます。
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起業家
1984年、杭州出身。大学卒業後、弁護士を7年間行う。2015年から連続で3つの会社を創業し、全て利益を出して、株式売却(イグジット)をおこなった。得意な分野は国際取引及び短時間で会社設立から株式譲渡まで行うこと。直近では、事業開始2年でスキーリゾート開発会社を15億で大手証券会社に売却。現在、日本の起業家向け「100万円で起業して3年後に3000万円で売る“ミニマム・イグジット”スクール」を立ち上げている。著者のイグジットによる資産は約20億。
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(起業家 遠星 誠)
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