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「化粧品の輸入先1位はフランスから韓国に」韓流ブームが続く日本に上陸した"盛らないプリクラ"の正体

プレジデントオンライン / 2024年3月31日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fotoVoyager

韓国で「盛らないプリクラ」が流行している。マーケティングが専門の高千穂大学の永井竜之介准教授は「韓国では50社以上が参入し、専門店の数は1000店舗におよぶ。“韓国プリ”は日本でも流行する要素を持っている」という――。

■「韓流ブーム」が始まって20年が経った

「韓流ブーム」と言われ始めたのは2004年のことで、それからじつに20年が経ったことになる。「ブーム」と言われながらも、一過性のもので終わらずに、「韓流」はいまや1つのジャンルとして日本に定着している。

ただ、韓流ブームの中身を見てみると、1つ1つの商品・サービスなどは、やはりブームとして盛り上がっては冷めていきやすい。韓流ブームは、いくつものブームが生まれては消えていく、その浮き沈みの波の中で、韓流というジャンルを20年かけて形成してきたものとして考えられる。

韓流の歩んできたこれまでの道のりについて、エンタメ・フード・コスメの3分野に整理しながら大きな流れを振り返り、日本でブームになるための成功条件を分析したうえで、その条件を満たす次のブームの有力候補「韓国プリ」を取り上げていこう。

■「冬ソナ」から始まった第1次ブーム

第1次ブーム

もともと「韓流」とは、「1997年前後に生まれた韓国ドラマ、映画などの韓国の大衆文化が人気を集めるようになった現象※1」を意味する造語として、韓国や中国などで使われた言葉である。それが日本でも使われるようになったきっかけは、2003~04年に放送された韓国ドラマ「冬のソナタ」だ。

冬のソナタは、中高年層の女性を中心に「冬ソナ」ブーム、あるいは主演俳優ペ・ヨンジュンの愛称「ヨン様」ブームを巻き起こし、社会現象級の大ヒットを記録した。このヨン様に、チャン・ドンゴン、イ・ビョンホン、ウォンビンを加えた4人は「韓流四天王」と呼ばれ、アイドル的な人気を集めた。また、ラブコメの韓国映画『猟奇的な彼女』やK-POPグループ「東方神起」も人気となり、中高年を中心としながら、若年層にも韓国エンタメが身近な存在になったのが、韓流の第1次ブームである。

エンタメのブームに合わせ、熱狂的なファンが日本から韓国へ訪れてイベントに参加したり、ドラマのロケ地を聖地巡礼したりするにつれて、韓国フードへの注目も高まった。テレビや雑誌で特集が組まれることも多く、冬のソナタのドラマ内に登場するサムギョプサルやトッポッキに加え、スンドゥブチゲ、タッカルビ、サムゲタンなど様々な韓国フードの知名度と人気が上昇した。

また、韓国を訪れた観光客が買って帰り、友人などに配るお土産として人気になったのが、BBクリームやフェイスパックをはじめとする格安コスメだ。プチプライスの韓国コスメが人気を呼ぶようになり、2005年にエチュード、2006年にミシャなど、韓国コスメブランドの日本市場進出もスタートした。

■2009年頃から始まったK-POPアイドルのブーム

第2次ブーム

第1次ブームの盛り上がりが落ち着きを見せた数年後、2009年頃から、東方神起に続いてBIGBANG、KARA、少女時代などK-POPアイドルが続々と日本で人気になったことで生まれたのが第2次ブームだ。男性アイドルはもちろん、女性アイドルも、憧れを抱く若い女性ファンたちの心を掴んで人気を集めた。2011年の第62回NHK紅白歌合戦には3組の韓国アイドルが出場し、チャン・グンソク主演のドラマ「美男<イケメン>ですね」が大ヒットするなど、若年層の女性を中心にブームが盛り上がった。

韓国アイドルたちの人気の高まりと共に、彼らが好きなコスメやフードもまた脚光を浴びた。新宿に近く、もともと多国籍な地域だった新大久保が「コリアンタウン」として発展し、若い女性たちが韓国のアイドルグッズ・コスメ・フードを楽しむ場所になっていったのも、この頃からである。

■「インスタ映え」する韓国フードが話題になった

第3次ブーム

また数年を空け、2016年頃からはコスメやフードの「SNS映え」を原動力に第3次ブームが起きていった。これまでの第1次・第2次ブームはドラマやアイドルの人気が主導する形で盛り上がったのに対して、第3次ブームはフードやコスメがSNS上でバズることで盛り上がりが生まれていったのが特徴とされている。

ちょうどスマートフォンとSNSがライフスタイルに浸透しきったタイミングで、特にインスタグラムを通じて、沢山のチーズが伸びるチーズタッカルビやチーズハットク、派手な見た目の韓国風かき氷のパッピンスなど、「インスタ映え」の韓国フードが話題を呼んだ。

ファッションやコスメでも、「韓国っぽスタイル」「韓国ガール」といったキーワードが人気になり、なかでも韓国の美少女メイクを意味する「オルチャンメイク」は大きくバズった。高品質で低価格、なおかつ新しいコスメが次々に開発される韓国コスメは人気ジャンルとして定着し、クッションファンデやシカクリームがヒット商品になった。通販サイト「@コスメ」では、2018年頃から韓国ブランドが大きく成長を見せ、年間のベストコスメアワードにランクインした。

白い背景にファンデーションとパフ
写真=iStock.com/Sharlotta
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sharlotta

フードやコスメが、エンタメと相乗効果を生むのはこれまで通りで、世界的な人気を獲得した韓国アイドルのBTSやTWICEが日本でもファンを増やしていくと、アイドルたちのSNSに登場するフードやコスメもさらに注目された。2019年に公開された韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が米アカデミー賞で非英語作品として初の最優秀作品賞を受賞する快挙を果たすなど、韓国エンタメが世界での評価や人気を確立したのも第3次ブームの時期である。

■化粧品の輸入先1位がフランスから韓国へ

第4次ブーム

第3次ブームから合間を空けず、2020年初頭からのコロナ禍をきっかけに第4次ブームが始まった。ステイホームで、自宅で過ごす時間が増えたことから、定額制配信サービスで「愛の不時着」や「梨泰院クラス」などの韓国ドラマが大ヒットした。2021年にネットフリックスで配信されたドラマ「イカゲーム」は、世界90カ国で視聴数第1位という世界的ヒットを記録した。いち早くオンラインライブを始めたK-POPも合わせて、自宅で楽しめる韓国エンタメが人気を博した。

コロナ禍で韓国へ行けない代わりに自宅やホテルで韓国体験を楽しむことが「渡韓ごっこ」と呼ばれてブームになり、その対象はエンタメだけでなく、韓国ラーメンやダルゴナコーヒー、ヤンニョムチキンなどの韓国フードも流行った。コスメに関しては、日本における化粧品の輸入先では長らくフランスが不動の1位だったが、2022年に韓国が初めてフランスを上回ってトップになった※2。韓国コスメはコロナ禍でも成長を続け、コンビニやドラッグストアで広く取り扱われる定番ジャンルにまでなっている。近年では韓国のナチュラルメイクやジェンダーレスメイクが流行り、男女問わず若い世代からの人気を集めている。

■現在もブームは続いている

アフターコロナでも、2023年末の第74回NHK紅白歌合戦にNiziUをはじめとする7組もの韓国アイドルが出場したことが大きな話題となったように、韓流の第4次ブームは現在進行形で続いているもの、あるいは、地続きで新たな第5次ブームが始まっていくものと考えられる。

韓流ブームの推移
図表=筆者作成
出典:参考資料を基に筆者作成。 - 図表=筆者作成

このように韓流ブームの中身を整理してみると、エンタメ、フード、コスメのいずれかでヒットが生まれると、他の分野にもその盛り上がりが波及し、韓流全体の大きなブームになってきたことが分かる。大きな韓流ブームの火付け役になるヒットの成功条件として、次の3つがあげられる。

■SNSから輸入、若い女性が中心、お手軽で高品質

1つめは、SNSを通じて韓国から日本にブームが伝わる点だ。本場の韓国でまったく話題になっていないモノ・コトが、日本でブームになるという図式はほとんど見られない。「韓国で人気」「韓国アイドルが愛用」といった韓国でのブームが、SNSを経由して日本にも伝わり、広がってブームとなりやすい。そのため、必然的に、SNS映えをする方が、国境を越えやすくなる。

2つめは、中心にいるのは若い女性である点だ。初期の冬ソナブームを除けば、時期・分野に関わらず、韓流の盛り上がりの中心には若い女性たちがいる。だから、例えば、韓国の中高年層の間で高麗人参が流行っていても、それが日本でのブームには繋がりにくい。日本の若い女性たちから注目されるモノ・コト、というのは外せない条件になる。

3つめは、お手頃で高品質という点だ。韓流ブームの中身を振り返ると、ハイブランドや高級品、高価格帯はないに等しい。ブームの中心にいる若い女性たちにとって、お手ごろな価格帯で、コストパフォーマンスに優れたモノ・コトが人気の獲得に成功している。

■盛らないプリクラ「韓国プリ」

韓国のSNSで人気が高く、若い女性がメインターゲットで、コスパが高い。この3つの成功条件を満たす、2024年のこれからの韓流ブームを担う有力候補として「韓国プリ」があげられる。

「プリクラ」という言葉はセガの登録商標で、正確にはプリントシールだが、一般に同種のサービス全般を指して「プリクラ」と呼ばれている。韓国プリ(韓国のプリントシール)は、4枚の写真がセットで出てくることから「4カット」と呼ばれたり、自分で高画質の写真を撮れるセルフ写真館コンセプトのプリント写真として「セルプリ」と呼ばれたりもするものだ。韓国プリの最大手の「フォトイズム」を筆頭に、新大久保・渋谷・原宿などの専門店舗や全国各地のゲームセンター内に韓国プリ機の展開が加速している。

photoism 原宿竹下通り店の外観
Photoism 原宿竹下通り店。Photoism Japanプレスリリースより

日本のプリクラが「盛る」「デコる」など、元の顔が分からないほど強い画像加工や補正、スタンプを楽しむ傾向が強いのに対して、韓国プリは「盛らないプリクラ」である。ありのままの姿を最大限にキレイに撮るため、プロ仕様の一眼レフカメラが用いられ、自然体で楽しむための小道具・被り物・コスチュームなどの豊富なグッズを利用できる。自分の好きなタイミングで撮れるセルフシャッター機能や、アイドルの画像と合成感のないツーショット撮影が楽しめる「コラボフレーム」、画像とタイムラプス動画のデータを追加料金なしで無料ダウンロードできる点も人気を集めている。

Photoism 原宿竹下通り店の店内
Photoism 原宿竹下通り店の店内。Photoism Japanプレスリリースより
Photoism 原宿竹下通り店の日本限定フレーム
Photoism 原宿竹下通り店には日本限定フレームがある。Photoism Japanプレスリリースより

■韓国では50社以上が参入し1000店舗を超えるブームに

この韓国プリは、日本でブームになるための3つの成功条件をちょうど持ち合わせている。まず、韓国の若者の間で大人気になっていて、SNS向きでもある点だ。韓国では、コロナ禍が明けて久しぶりに帰国した韓国人が驚くほど、韓国プリが大ブームになっている。韓国国内では50社以上の企業が市場参入し、プリクラを楽しむことに特化した小型店舗の形の韓国プリ専門店が1000店舗を超えているという。プラダやシャネルなどのハイブランドが、ロゴ入りフレームで撮れる期間限定ブースを売り場に設置するほどに大流行している。韓国アイドルのBTSやTWICEが、プライベートで韓国プリを撮ってSNSにアップしたことで大きくバズり、すでに日本の韓流ファンには広く知られている存在だ。

そして、韓国プリのメインターゲットは、もちろん10代後半の若い女性だ。彼女たちにとって、1回400~500円で利用できて、高画質な写真とタイムラプス動画を無料ダウンロードできる韓国プリは、お手頃で高品質なサービスとして受け入れられるだろう。

■「プリクラ文化」は根強く定着している

韓国プリには、成功条件を持ち合わせていることに加えて、さらに日本でブームになりやすい2つの追い風がある。ひとつは、「盛らない」韓国プリは、近年の「盛らない」を好むSNSトレンドに合致している点だ。2020年にフランスでリリースされ、欧米のZ世代の間で人気を集める「盛らないSNS」の「BeReal」は日本でも流行を広げている。女子中高生の間で流行った「JC・JK流行語大賞」(AMF)で、2023年のモノ部門の第1位は、盛らないSNS「BeReal」だった。そのため、盛らない韓国プリは、現在のSNSの潮流にピタリと合うサービスと言える。

もうひとつは、今もなお、プリクラ文化が女子中高生を中心に根付いている点だ。日本におけるプリクラブームは、1990年代後半に1000億円の市場規模まで盛り上がった後、ブームは過ぎたものの、全盛期の1/5の200億円強の規模で下げ止まっている。スマホでいつでも自撮りできる現在でも、友人やカップルで楽しむイベント・娯楽として、プリクラを撮る習慣は根強く定着している。そのため、韓国プリは、0から新習慣を広める必要はなく、既にあるプリクラ習慣における新サービスとして、普及のハードルが抑えられる。

教室の窓際に立つ女子高校生
写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA

日本で、現在進行形で続いている韓流ブーム。その新たな火付け役の有力候補として「韓国プリ」に注目してみると、韓流のさらなる進展を楽しむことができるだろう。

【参考資料】
※1 朴倧玄(2012)「深韓流からみた韓国事情 第12回 深韓流-韓流の語源と韓流文化の考察-」『東アジアへの視点:北九州発アジア情報』国際東アジア研究センター, 23(3), 55-66.
※2 日本化粧品工業会「化粧品統計 化粧品の輸出入」(2023年9月5日)
・伊藤忠商事株式会社「繊維月報 若い消費者の心をくすぐる『韓流』の秘密」VOL730(2021年2月)
・モランボンおうち韓食「八田靖史の韓食通信 徹底考察『第4次タッカルビブーム』は日本に来るのか?」2023年10月13日
・東洋経済オンライン「『プリクラ』を女子高生がスマホ時代に撮る理由」2019年6月18日
・ニッセイ基礎研究所「2021年JC・JK流行語大賞を総括する-『第4次韓流ブーム』と『推し活』という2つのキーワード」2021年12月15日
・日本経済新聞「韓国コスメなぜ人気?」2023年7月24日
・マネ―現代「韓国ではプリクラはもう古い! 『写真館』ブームが日本に上陸」2023年2月2日
・読売新聞オンライン「「コスメにも韓流人気、フランス抜き輸入額首位…『好きなアイドルも使っている』」2023年8月4日
・AERA dot.「冬ソナから20年…コロナ禍での韓流“第4次ブーム”は必然だった? ドラマやK-POPから見る潮流」2023年10月26日
・eltha「韓国コスメはなぜ人気? 日本でのブーム背景と最新トレンドを専門家が解説」2023年7月6日
・ITmediaビジネスONLINE「“盛らない”プリクラ機が渋谷に登場、韓国発『セルフ写真館』が1回400円で」2023年7月4日
・NEWSポストセブン「キム・ヨンジャからNiziUまで…日本での韓流ブームの歴史年表」2020年8月19日
・「JC・JK流行語大賞2023を発表『○○ドリル』『不気味の谷』『ヒス構文』がランクイン!」2023年11月30日

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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