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トランプは「面白い」、バイデンは「失望した」…アメリカのZ世代が"トランプ推し"に変わった理由

プレジデントオンライン / 2024年3月29日 9時15分

米西部ネバダ州ラスベガスで行われた集会で演説するトランプ前大統領(2024年1月27日、アメリカ・ラスベガス) - 写真=EPA/時事通信フォト

■いったいいつの間に復活したのか?

3月5日、アメリカはスーパーチューズデーを迎えた。全米の州のうち15州で同じ日に大統領選予備選が行われ、共和党はトランプ元大統領が圧勝した。

しかも、11月の本選に関する世論調査では、支持率は民主党の現職バイデン氏とほぼ拮抗しているか、リードしているものさえある。

4つの刑事事件の被告という前代未聞のネガティブな要素があるにもかかわらず、大統領候補に返り咲いたトランプ氏。この強さには当のアメリカ人も驚愕(きょうがく)している。

いったいいつの間に? どうやって? なぜトランプは復活したのか?

その経緯と、彼を支える新たな支持層を探っていくと、外からはなかなか窺い知ることができないアメリカの激変が見えてくる。

■Z世代がバイデン氏から離れ始めた

トランプ氏台頭の最大の要因のひとつ、それはバイデン大統領への幻滅だ。スーパーチューズデーではそれが明確になった。7つの州で一定数の民主党支持者が、「支持者なし」に投票したのだ。

そもそもバイデン氏が2020年に立候補したのは、トランプ再選を阻むには元副大統領という知名度と、白人男性というアイデンティティが最も有効であろうという計算からだ。その結果、僅差ではあったが民主党は政権を奪還できた。

しかし今年は4年前とはまったく状況が違う。バイデン氏を当選させた民主党支持者たち、特に若者の気持ちが離れているからだ。

昨年11月末に出たNBCニュースの全米世論調査は衝撃だった。18歳から34歳の若い有権者の間で、トランプ前大統領の支持率が46%に対し、バイデン大統領は42%。僅差とはいえ、なぜ若者の支持はバイデン氏からトランプ氏に移行したのか?

彼が高齢すぎるという理由だけではない。筆者が主宰する「NY Future Lab」のZ世代に聞けばその理由がわかってくる。

「パレスチナ危機が大きい。バイデン政権がイスラエルを強く支援しているから、若者がバイデンに対する嫌悪感を募らせている」

もともとアメリカは親イスラエルだ。しかし今回はハマスのテロがきっかけとはいえ、パレスチナ人に多くの犠牲を出したことに対し「バイデンはパレスチナ人の大量虐殺を許している」と、新世代の間で怒りが沸き起こった。

■「高学歴エリート向けの政策ばかり」と失望

さらにこんな意見も聞かれた。「最初はバイデンにみんなすごく希望を抱いていたのに、多くの人を失望させてしまった」

彼らは学生ローンの救済や温暖化対策など、バイデン氏の公約に期待していた。しかし4年目に入った今も、その変化は緩慢に見える。

また一般庶民にとって最も切実なのは経済問題だ。パンデミックからの経済復興が進んだとはいえ、高いインフレに賃金上昇が追いつかない。富裕層だけが豊かになり、さらなる格差が生まれている。このままでは自分たちは将来結婚できるのか、マイホームを持てるのか? という不安も広がっている。

中でも最もインパクトを受けているのは、低学歴の若者たちだ。彼らから見るバイデン氏のメッセージは、トランプ氏による民主主義へのリスクや、妊娠中絶問題、LGBTQの権利など、「高学歴なエリートの若者」が関心を持つ問題に偏っている。

そうではなく、もっと社会保障やホームレス救済などの、本来なら民主党がやるべき施策をやってほしいのに、自分たちの声が届いていないという不満がある。

Z世代は史上最も高学歴の世代といわれている。しかしそうでない若者から見ると、民主党は「高学歴のリベラルのための党になった」という反感も強いのだ。

■トランプ氏が事実上下院を動かしている

一方のトランプ氏は、この3年間政治の舞台から姿を消していたわけではない。2020年は、負けたとはいえ7400万票を獲得するという記録を叩き出している。(バイデン氏は8100万票)

この僅差があり、選挙に不正があったという主張(ビッグ・ライ)を共和党支持者の過半数が信じた。そのために議会襲撃事件まで起こった。

一方バイデン政権になってからも、前任のトランプ氏が指名した3人の保守判事が動き、2022年には50年近く続いた女性の人工妊娠中絶の権利は覆された。トランプ氏が大きな公約を果たしたことになる。

また下院では、トランプ派の議員らが力を伸ばしていった。共和党がわずかに多数派となった下院では、彼らの投票に議決が左右される。

それを利用した彼らは、今やトランプ氏の指示で動いている。下院議長もトランプ氏と昵懇だ。移民法やウクライナへの援助を含む法律が成立しないのも、選挙前にバイデン氏に手柄を立てさせたくないトランプ氏の意向が働いている。

さらに共和党自体が今や「トランプ党」だ。2020年の選挙結果を覆すために中心になって動いたのは共和党全国委員会だ。その委員長もトランプ派で、共同委員長はトランプ氏の義理の娘。共和党に入った寄付金はまずトランプ氏の裁判費用にまわる。

こうした中で、トランプ派ではない中道の共和党議員も黙らざるを得ない。トランプ氏につかなければ、自分も次は当選できないかもしれないからだ。

■「刑事事件の被告」だからパワーアップした

それにしても、4つの刑事事件の被告であり、計91もの罪に問われているトランプ氏が、なぜここまでのパワーを保てるのか。

実はトランプ氏がパワーアップしたのは、むしろ起訴のおかげなのだ。

トランプ氏は起訴された当初から、法廷に積極的に顔を見せた。そのたびにあらゆるメディアが取り上げ、一挙一動を報道した。

そのたびに「これはバイデン政権による魔女裁判だ、自分は犠牲者だ」と繰り返し主張した。時には裁判官に歯向かい、体制に反抗するイメージを作り出した。

トランプ氏の岩盤支持者は、地方の白人低所得者層だ。彼らはもともと、大きな政府で社会保障を重視する民主党の支持基盤だった。ところが、クリントン政権のあたりから民主党の政治が富裕層やエリート寄りになり、オバマ政権が若者の支持を受け、LGBTQの権利拡大など、文化的価値観が進むにつれ、取り残されたと感じるようになった。

ビッグ・ライを信じたこうした岩盤層には、トランプ氏が体制の暴挙にも負けず、自分たちのために再び戦ってくれる戦士に見えているのだ。

ドナルド・トランプのサポーター
写真=iStock.com/ginosphotos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ginosphotos

■“トランプ離れ”したエリート層も戻ってきた

また、膨れ上がるトランプパワーに引き付けられて新たな支持者も増えている。2016年のトランプ当選に貢献した「隠れトランプたち」だ。

年長白人男性を中心とした中道右派であり、昔からの共和党支持者だ。トランプの岩盤支持者とは違い、高学歴で高収入の富裕層も多い。

共和党はもともと、小さな政府で減税志向、特に富裕層と規制緩和による大企業優遇を基本としてきた。逆に社会保障などの予算はできるだけカットしたい。

そのため高所得者になるほど、共和党政権のほうがメリットがある。おのずと白人で高所得の保守主義者が共和党支持者になる。トランプ政権時代の減税の恩恵を受けたのもこの層だ。

実は、彼らは今回のスーパーチューズデーまでずっと迷っていた。2021年の議会襲撃事件の後、この層は急激にトランプ離れを起こしている。事件以降、共和党のデサンティス・フロリダ州知事や、ニッキー・ヘイリー元国連大使など、多くの若い候補が立ったのも、こうした層がトランプ以外の候補者を求めたからだ。

ところが若い候補はどうしてもトランプに勝てない。本戦でもバイデンに勝てないだろう――。どうしても共和党政権を奪還したい彼らは、トランプ支持に戻った。彼のモラルのなさや、議会襲撃事件への加担の疑い、民主主義へのリスクなど、多くのマイナス要因以上に、得られるメリットのほうが大きいと考えたからだ。

■黒人、ヒスパニック、アジア系も流れている

お金持ちの保守層が共和党を支持するのは理解できる。しかしなぜ、低所得者がトランプを支持するのか? それは、共和党が伝統的に白人の党だからだ。

辺境地域に住み経済的に持たざる層にとって、「白人であること」は唯一の、最も重要なアイデンティティなのだ。この傾向は、アメリカで白人の人口比が減り続け、2045年にはついに少数派になる(マジョリティ・マイノリティ)と予測される中で、さらに強まっている。

そのためトランプ氏は、自らが白人至上主義者であることを、はっきり打ち出している。多くの批判を受けつつも、白人であることにしがみつく人々にとっては、むしろプラスの要素になっている。

さらにもうひとつ、今回の大統領選には前回と違う不確定要素がある。黒人やヒスパニック、アジア系などマイノリティが、わずかだがトランプ支持に移行しているという調査結果があることだ。

彼らのようなマイノリティは、以前は圧倒的に民主党支持であり、前回選挙でバイデン勝利に貢献した。そんな彼らの気持ちが民主党から離れたとしたら、冒頭に述べた若者のバイデン離れと共通の理由なのか? また移民がある程度の経済力を得たために、共和党支持に変わったのか? 宗教的な要素も考えられるが、今のところ明確ではない。

ニューヨークの若者
写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FilippoBacci

■トランプ氏の狙いは若者・マイノリティに向いている?

では、トランプには弱みはないのだろうか?

実は彼は共和党支持者の中でも、中道保守に弱い。スーパーチューズデーまで食い下がって撤退したヘイリー候補は、得票率では3割を超えた州が8州、そのうちユタ州などでは4割を超え、バーモント州では得票率5割を超えてトランプ氏に勝っている。

つまりトランプ氏圧勝とはいえ、ヘイリー候補がここまで頑張ったことで、共和党支持者にも反トランプ勢がある程度いることがハッキリした。

特に高学歴の白人女性は、中道保守からリベラルに寄りつつあることもわかっている。この層が、11月の本選でバイデン氏に入れる可能性もある。

しかしトランプ氏は、こうした層が離れても問題ないと考えているフシがある。選挙人制度を採用する大統領選は、今や激戦州の少数の得票差で決まるといっていいからだ。

こうした州で、少数でも若者やマイノリティ票をバイデンから剝ぎ取れればいい。あるいはバイデン氏を嫌って第三党に入れる人、または棄権する人が増えた場合も、自分の有利になる――そう読んでいてもおかしくはない。

しかし、こうした票の動きをはっきりと見極めるのは困難だ。

アメリカは大きく多様化している。その中で同じ人種でも若者でも、環境や学歴、階層によって、政治的な考え方が異なっている。しかもその状況は非常に流動的だ。2024年のアメリカは、2016年とも2020年ともまったく違う世界になっているのだ。

■「トランプは面白いから」

最後に、最も説明しがたいが、トランプ氏がここまで人気を集める理由をお話ししたい。

「NY Future Lab」のZ世代はこう言う。「トランプは面白いから」

これを聞いたのは初めてではない。2016年の大統領選でも、タイムズスクエアで出会った若者が「トランプは面白い」と言っていたことを思い出す。

トランプ氏は支持者集会で、音楽と共に踊りながら登場するのがお決まりだ。そもそも彼は若い頃は、マンハッタンのクラブでよく姿を見かける夜遊び好きのセレブだった。それがNBC局のリアリティ番組『アプレンティス』の「You Are Fired(お前はクビだ)」の台詞で全国区の人気を得た。カリスマ性があるエンターテイナーで、理屈抜きに人の心を掴むツボを心得ているポピュリストなのだ。

感情に訴える演説、社会の不安を煽(あお)る扇動的な発言、虚偽の主張で大衆の心を掴み、自らの権力を強化する。ポピュリストの域を超えた、デマゴーグと呼ぶ人もいる。

支持者を前にした強烈で過激な発言の数々がそれだ。

■“もしトラ”は、日本の防衛の危機でもある

「不法移民は人間ではない」
「議会襲撃で投獄された人々は、実は愛国者でバイデンの人質だ。大統領就任初日に恩赦する」
「自分が当選しなかったらアメリカは流血の惨事になる」
「NATO加盟国がお金を払わなければ、ロシアにいくらでも好きにしていいと伝える」

支持者には大ウケだが、不法移民を非人間化することで合法な移民までも危険に晒(さら)し、白人至上主義者の暴力を煽り、法の信頼を失わせ、国際秩序をも混乱に陥れる非常に危険な発言だ。またトランプ氏は先日、独裁者として悪名高いハンガリーのオルバン首相を歓待し「素晴らしいリーダー」と絶賛した。

再選されればアメリカの民主主義は脅かされる。ウクライナや台湾、そして日本の防衛さえ危うくなると考えるのは、決して大袈裟ではない。

こうした危機感が、バイデン氏を再び浮上させるのか、それとも何が何でもトランプ共和党に勝たせたいという力がそれを凌(しの)ぐのか? 大統領選までの今後7カ月は波乱が続きそうだ。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。

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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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