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うつの原因は脳でも心でもなかった…長年うつに悩む患者がひそかに抱えていた「見落とされがちな症状」

プレジデントオンライン / 2024年3月31日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Filmstax

朝起きられない、仕事中に強い眠気に襲われる、落ち着かない……。そんな自覚がある人は睡眠時無呼吸症候群かもしれない。早稲田大学睡眠研究所所長で医師の西多昌規さんは「原因には肥満がよく挙げられるが、子どもや女性でも発症する可能性はある」という――。

※本稿は、西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)の一部を再編集したものです。

■突然死のリスクが高い睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸停止を繰り返すことで、心身のさまざまな病気や、強い眠気など日常生活での問題を引き起こす病気です(註1)

睡眠時無呼吸症候群については、もっともよく見られる睡眠障害のひとつですので、医療機関からのホームページなどから、たくさんの情報を得ることができます。頻度や症状や健康リスクに関して、重要なポイントをかいつまんで以下に挙げます。

註1:睡眠時無呼吸症候群は閉塞性、中枢性に分類されるが、気道が狭くなることによって生じる閉塞性睡眠時無呼吸がほとんどを占める。この項目では、なじみのある睡眠時無呼吸症候群という用語を使うが、閉塞性睡眠時無呼吸のことを意味している。

・成人男性の約3~7%、女性の約2~5%。男性では40歳~50歳代が半数以上を占め、女性では閉経後に増加。300万人が睡眠時無呼吸症候群の治療を必要としている。

・いびき、日中の眠気や起床時の頭痛、夜間の頻尿など。

・高血圧、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病などを引き起こす危険性が約3~4倍高くなる。重症例では循環器系疾患発症のリスクが約5倍にもなる。

 ・重症では、治療せずにそのまま放置すると、8年の間に約4割が死亡する。突然死のリスクも高い。

・治療は、軽症ではダイエット、マウスピース、重症ではCPAP(持続陽圧呼吸療法)。寝ているときに鼻にマスクを装着し、空気を送り込んで気道の閉塞を防ぐことにより、睡眠時無呼吸を予防する治療法(註2)

(一般社団法人日本呼吸器学会のHPを参考に作成)

註2:CPAPは、重症の睡眠時無呼吸症候群の治療法。「Continuous Positive Airway Pressure」の頭文字をとって、「CPAP(シーパップ)療法:経鼻的持続陽圧呼吸療法」と呼ばれる。CPAPの原理は、寝ている間の無呼吸を防ぐために気道に圧力をかけて空気を送り続けて気道を開かせておくというもの。CPAP装置からエアチューブを伝い、鼻に装着したマスクから気道へと空気が送り込まれる。日本の医療保険制度では、CPAP装置を医療機関からレンタルして使用するのが一般的である。 

■身体に与える深刻なダメージ

睡眠時無呼吸症候群にかかる割合は10%以下の頻度であり、少ないように見えます。しかし、まだ見つかっていない、実際に検査をすれば睡眠時無呼吸症候群と診断される人は、もっとたくさんいると思います。

実際に、過去に報告されたデータを新たな基準で評価し直したところ、日本における睡眠時無呼吸症候群の患者数は2200万人(30~69歳人口の32.7%)、CPAP治療を必要とする重症患者は940万人(30~69歳人口の14.0%)と推計されました(11)

日本呼吸器学会の数値の数倍であり、睡眠時無呼吸症候群はレアではない、ありふれた病気であることがわかります。わたし自身も、睡眠時無呼吸症候群患者で、5年ほど前からCPAP治療を受けています。

会議中に居眠りなど日中の眠気がひどくなり、仕事の能率も下がっている気がして、睡眠ポリグラフ検査をしたところ、重症の睡眠時無呼吸症候群であることがわかりました。

CPAP治療によって眠気はかなり改善し、今ではなくてはならない治療になっています。ただ、毎晩つける面倒くささや出張や旅行の際に荷物が増えるなど、煩わしいのは否めません。

それでもCPAP治療を続けなければとわたしが思うのは、眠気対策だけではありません。これから話すような、睡眠時無呼吸症候群が脳や体に与える深刻なダメージを、できるだけ少なくしたいからにほかなりません。

CPAP治療を受ける人
写真=iStock.com/cherrybeans
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cherrybeans

■うつ病、認知症のリスクを上げる

わたしは会議中の居眠りで済みましたが、とくに自動車や電車を運転している人にとっては、日中の眠気や居眠りも安全面からも深刻な問題です。睡眠時無呼吸症候群は中高年の病気のように思えますが、子どもの睡眠時無呼吸症候群も1~4%はあると報告されており、症状としては落ち着きがない、朝起きられない、居眠りが多いなどが見られます。

やはり怖いのは、さまざまな病気のリスクです。

生活習慣病のリスクは間違いなく上がりますが、うつ病のリスクも高くなります。2019年の論文では、睡眠時無呼吸症候群のうち、うつ病の有病率は男性で2・7倍、女性で4・0倍、無呼吸のない人に比べて高いという結果でした(12)

実際の臨床でも、なかなか良くならないうつ病患者が、睡眠時無呼吸症候群であることが判明し、治療を行ったところ、うつ症状が改善するということがしばしばあります。認知症も、睡眠時無呼吸症候群を患っていると、リスクが上がります。

睡眠時無呼吸症候群と認知機能障害は、いずれも加齢とともに増加し、閉塞性睡眠時無呼吸がある場合には認知機能障害を生じやすくなります。

アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症など認知症にもいろいろありますが、どの認知症を見ても、睡眠時無呼吸症候群のない健康な人と比べて2.2倍~16.5倍の発症率でした(13)

かなり高い数字ですね。ほかにも、睡眠時無呼吸症候群の人は、新型コロナウイルス感染症に罹患(りかん)するリスクが約8倍と高く、呼吸不全を発症する重症化リスクは2倍にのぼるなど(14)、睡眠時無呼吸の人にとっていろいろな病気のリスクが高くなるデータは、枚挙に暇がありません。

■肥満以外に罹患しやすいタイプ

睡眠時無呼吸症候群が生じるメカニズムは、空気の通り道である上気道が狭くなることが原因です。首周りの脂肪や筋肉が多いと、上気道は狭くなりやすいので、肥満は睡眠時無呼吸症候群と深く関係しています。

ラグビーやアメリカンフットボールなど首周りの筋肉が発達するスポーツ選手にも、睡眠時無呼吸症候群は多く見られます(15)

肥満でなくても、扁桃腺の肥大や大きな舌、鼻炎・鼻中隔弯曲(かくわんきょく)といった鼻の病気も原因となります。子どもや女性に多いのですが、あごが後退していたり、あごが小さいことも睡眠時無呼吸症候群の原因となり、肥満でなくやせていても、睡眠時無呼吸症候群になります。

睡眠時無呼吸症候群が生じるメカニズムはわかったとして、呼吸が止まる、しづらくなると、人体にどのようなダメージが加わって、いろいろな病気になりやすくなるのでしょうか。キーワードは、低酸素状態いわゆる酸欠と、交感神経の活性化です。

次項では、睡眠時無呼吸症候群がわたしたちの心身に与えるダメージを具体的に見ていきましょう。

■交感神経系が働きっぱなしになる

睡眠時無呼吸症候群になると、体や脳の病気にかかる可能性がぐんと上昇するのは、どうしてでしょうか。次の2つのメカニズムが考えられます。

1.交感神経系の活動亢進(こうしん)
2.低酸素血症(酸欠)

睡眠中は、体を休めて回復させる「副交感神経」の活動が優位になります。当たり前ですが、睡眠中はゆったりリラックスできているのが、理想です。

睡眠時無呼吸症候群になると、寝ている間に何度も首を締められて窒息している状態を、1日6~8時間・365日続けていることになります。こう表現すると、ずいぶんつらそうで、よくこれで眠っていられるなと思われるでしょう。とてもではないですが、リラックス役の副交感神経が優位になれるような状態ではありません。

かわりに、人体を自動車にたとえればアクセル役にあたる、交感神経系が活発になります。交感神経が活発にはたらいているときには、血管を収縮させ、心拍数を高め、血圧を上昇させます。本来は覚醒しているときだけ活発であるはずの交感神経が、睡眠中に活動が高まることになります。

とくに交感神経が活発になり、呼吸筋の緊張も低下するレム睡眠では、この傾向が顕著になります(16・図表1)。眠っている間に本来はお休みになっているはずの交感神経の活性が高まることで、自律調節機能のバランスが崩れ、ホルモン分泌の異常や体内の炎症反応の亢進などが生じてきます。

【図表】睡眠中の交感神経活動と血圧
出典=『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)
西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)
西多昌規『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)

これらの異常が1日の3分の1、しかも毎日続けば、人体にガタがきてもおかしくないでしょう。

まとめると、睡眠中の呼吸機能は、覚醒時に比べれば落ちてしまいます。健康であれば問題はないのですが、前述の通り睡眠時無呼吸症候群という病気は相当多いと見積もられています。

睡眠時無呼吸症候群を放置すると、脳も体も酸欠状態になり、細胞のミトコンドリア、大脳皮質の白質が壊れていきます。睡眠中にお休みすべき交感神経系も、活発なままです。疑わしければ、睡眠医療の助けを求めるべきです。

11
Benjafield, A. V., Ayas, N. T., Eastwood, P. R., Heinzer, R., Ip, M. S. M., Morrell, M.J., Nunez, C. M., Patel, S. R., Penzel, T., Pépin, J. L., Peppard, P. E., Sinha, S., Tu k,S., Valentine, K., & Malhotra, A. (2019). Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. The Lancet.Respiratory medicine, 7(8), 687–698.
12
Kim, J.-Y., Ko, I., & Kim, D.-K. (2019). Association of Obstructive Sleep Apnea With the Risk of Affective Disorders. JAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgery, 145(11), 1020-1026.
13
Leng, Y., McEvoy, C. T., Allen, I. E., & Yaffe, K. (2017). Association of Sleep-Disordered Breathing With Cognitive Function and Risk of Cognitive Impairment:A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Neurology, 74(10), 1237-1245.
14
Maas, M. B., Kim, M., Malkani, R. G., Abbott, S. M., & Zee, P. C. (2021).Obstructive Sleep Apnea and Risk of COVID-19 Infection, Hospitalization and Respiratory Failure. Sleep Breath, 25(2), 1155-1157. 
15
Caia, J., Halson, S. L., Scott, A., & Kelly, V. G. (2020). Obstructive sleep apnea in professional rugby league athletes: An exploratory study. J Sci Med Sport, 23(11),1011-1015.
16
Somers, V. K., Dyken, M. E., Clary, M. P., & Abboud, F. M. (1995). Sympathetic neural mechanisms in obstructive sleep apnea. J Clin Invest, 96(4), 1897-1904. 

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西多 昌規(にしだ・まさき)
早稲田大学教授 精神科医
東京医科歯科大学卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学客員研究員、スタンフォード大学客員講師などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院教授、早稲田大学睡眠研究所所長。精神科専門医、睡眠医療総合専門医などをもつ。専門は睡眠、アスリートのメンタル・睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に『休む技術2』(大和書房)『眠っている間に体に中で何が起こっているのか』(草思社)など。

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(早稲田大学教授 精神科医 西多 昌規)

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