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日本円の紙くず化はやはり避けられない…日銀の「異次元緩和終了」でも円高にならない根本原因

プレジデントオンライン / 2024年3月29日 11時15分

金融政策決定会合を終え、記者会見する日本銀行の植田和男総裁=2024年3月19日、東京・日本橋本石町の同本店 - 写真=時事通信フォト

日本銀行は3月18日、19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除を決めた。日本経済はこれからどうなるのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「マスコミなどは『大規模緩和からの転換』と大騒ぎしているが、実質は何も変わっていない。日本円の暴落、紙くず化はやはり避けられない」という――。

■日銀は本当に「大規模緩和の転換」をしたのか

私は1月19日に参議院議員に繰り上げ当選し、2期目に返り咲かせていただいた。そこで最初に明確にしておきたい。本稿は私の個人的見解、予測であり、所属する党の公式見解ではない。

そもそも金融論はイデオロギーや政治的な主義主張とは無縁である。日本人を幸せにする正しい政策か、間違った政策かに尽きる。本稿では日本銀行(以下「日銀」)の財務内容がいかに悪化しているかを書くが、そのような分析は政治理念によって変わるものではない。事実は事実だからだ。

本稿は、マーケットの最前線に於いて長年、切った、張った、で戦い、実績を上げてきた自他ともに認める現場人間の分析、予測だ。そのつもりでお読みいただきたい。

3月18日、19日に開かれた日銀の政策決定会合で、日銀はマイナス金利政策の解除を決めた。長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)や上場投資信託(ETF)などリスク資産の買い入れを終了することも決めた。これにマスコミは「大規模緩和からの転換」「正常化への第1歩」と大きく報じ、大騒ぎとなった。

にもかかわらず市場への影響はほとんどなかった。むしろ為替は、多くの識者が予想した円高ではなく、逆に円安が進行して再び1ドル150円を超えた。長期金利の水準は大きく変わらなかった。

■「異次元緩和をさらに推し進める」ことが示された

この「なぜか?」を事後的に滔々(とうとう)と分析しているコメンテーターもいるが、分析するまでもなく、理由は簡単だ。

「マイナス金利政策」を解除したところで市場金利はほとんど変わらず、日銀は「YCC解除」という言葉で変化を印象付けようとしたのだろう。しかし実際は「異次元緩和をさらに推し進める」ことを確認したに過ぎない。そのことをマーケットに見透かされたからだ。金融環境が何も変わらなかったのだからマーケットが反応するわけがない。

さらには、インフレが進行しても日銀にはもう打つ手がなくなったことも印象付けてしまった。今回の金融政策決定会合で打った政策変更は豆鉄砲だった。今後は、決定会合のたびに日銀のインフレに対する無力さが明らかになっていくだろう。化けの皮が1枚ずつ剝がされていくと思う。

■株と国債の爆買いは「禁じ手」

「今、日銀は政策変更をすべきなのか?」と聞かれれば、答えは当然にYESだ。

日銀は、大規模緩和を続けるにあたって「禁じ手」を使ってきた。金融政策目的で株を保有している中央銀行は日銀以外、G20の国にはない。日銀はETFを大量に爆買いし続け、日本最大の「株主」になってしまった。

その保有額は、長期債の購入(=お金のバラマキ)に比べれば桁違いに小さい金額なので、異次元緩和政策にはさほど影響がなく、やめても(株式市場に影響が出たとしても)日銀自身が窮地に追い込まれることはない。はるか以前に止めるべきだった。せっかく進めてきた国の民営化と真逆の逆民営化政策だった。日本は社会主義国家ではないはずだ。

長期債も同様で、日銀ほど(対GDP比)長期国債を保有しているG20の国はない。私が金融マンだった頃の日銀は、長期債などほとんど保有していなかった。他国の中銀は「まだ日銀がこけてないから」との理由で日銀を「炭鉱のカナリア」として、日銀のはるか後方をおそるおそるついてきただけだ。

その他国の中銀は、すでにUターン(=国債保有の増額中止、減額)を始めている。日銀だけが崖に向かって驀進中だ。インフレを抑制し、金融正常化を実現するには、日銀は保有する長期国債も大幅に減じるべきなのだ。

中央銀行は、株や国債などの価格が大きく変動する金融商品を保有すべきではない。市場をゆがめるだけではない。債務超過に陥ってしまうと信用が失墜し、その発行する通貨の価値も失墜してしまうからだ。これは伝統的金融論の肝である。

日銀通りの標識
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

■物価高を抑えるために「大規模緩和の終了」は不可欠

東京都区部の消費者物価指数(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2022年10月から前年同月比2.0%を超え、高い時は4%に達した。現在でも3.15%(2月)の高い水準にある。

今後、政府のエネルギー補助金が打ち切りとなれば、物価高に対する国民の肌感覚は、さらに悪化するだろう。為替が円安方向に進めば、インフレ加速のリスクはさらに高まる。

このような経済環境の中で、市場金利の原点(日銀の誘導目標)であるオーバーナイト無担保コールO/N物レートがゼロ%という史上最低レベルのままでいいはずがない。少なくともCPIと同じ2%以上であるべきだ。長期金利も「名目長期金利=実質金利+期待インフレ率+政府の倒産確率」という伝統的金融論が唱える数式に当てはめれば現状の金利0.7%はあまりに低すぎる。

長短金利があるべき姿から長期にわたって乖離(かいり)すると、インフレが加速し中央銀行の制御が効かなくなる。市場金利が政策金利を無視して荒れ狂うことになる。そうなると日本経済はめちゃくちゃだ。

以上を考えると日銀は金融政策を少なくとも中立程度にまで修正していかねばならないのは明らかだ。異次元緩和を継続するべき地合いではない。

しかし「するべき」と「できる」とは全く違う。日銀の植田和男総裁も「政策変更は絶対必要」と思っているはずだ。問題はそれができないことだ。日銀の債務超過を筆頭として、日本経済のダメージがあまりに大きすぎるからだ。そこが日銀、そして日本経済の大問題なのである。

■日銀は何も変えていない

黒田東彦・前日銀総裁が始めた「異次元緩和」は、正式には「量的・質的金融緩和」という。質的とは、日銀が長期国債などの購入に踏み込むことであり、量的とは日銀が大量の長期国債を購入して、お金を銀行間市場に流し込む政策だ。これが今の日銀の金融政策の根幹である。

YCCやマイナス金利政策はその太い幹から出た枝、あるいは棘(とげ)のようなものにすぎない。したがって「日銀の政策変更」が行われたか否かは、長期国債の大量購入を止め、保有国債の減額にかじを切ったか否かで判断するべきだ。

すなわち「年間の購入国債<償還国債」が実現して初めて「量的緩和政策の変更」と言える。

今回の金融政策決定会合で、日銀は長期国債を毎月6兆円程度買い入れることを決めている。私が参院予算委員会で日銀に聞いたところ、今年満期を迎える日銀の保有国債は67.1兆円になる。買い入れ額のほうが償還額より多いのだから、日銀の保有国債額は相変わらず増え続ける。これでは「量的緩和政策の変更」などとは到底言えない。

3月22日の日経新聞1面トップに「世界緩和マネー、圧縮途上 ピークの8割」という見出しが掲げられた。“途上”ではあっても各国中銀はバランスシート(BS)を圧縮している。つまり市中に出回ったお金を回収しているのだ。

一方の日銀はBSを拡大し、円をばらまいていく。モノやサービスと同じで、お金も供給過多になれば価値は下落する。円安、インフレが予想される。なお、下落する円とは逆にビットコインが昨今爆謄しているのは、ばらまかれ続ける円と発行量に上限があるビットコインとの希少価値の差にあるように思える。

日本銀行
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

■「マイナス金利の解除」は「利上げ」ではない

政策金利とは市場金利を誘導させるための金利である。政策金利が重要なのではなく動かすターゲットの市場金利が重要だ。

なぜならば、貸出し金利、預金金利、住宅ローンの変動金利、FXのスワップポイント、日米金利差等は市場金利で決まるのであり、政策金利で決まるわけではないからだ。

FRB(米連邦準備制度理事会)の政策金利や、異次元緩和前の日銀の政策金利は、100%市場金利と連動していたから政策金利の動きをウオッチしていればよかった。しかし、異次元緩和後、日銀は補完当座預金制度適用利率という510兆円(2月16日から3月15日)のうちの、たった28兆円にしか適用されないペナルティー金利のことを政策金利と称するようになった。私は何じゃそれ? と思っていた。市場金利との100%の連動性がないからだ。

実際、政策金利がマイナス0.1%だった金融政策決定会合前日の無担保コールO/N物レート(市場金利の原点)はマイナス0.003%だった。ほぼゼロ%と言ってもよい。もし今回の決定会合が「マイナス金利政策の解除」だけだったら、無担保コールO/N物レートはマイナス0.003%から0%に変わっていただけであろう。

政策金利を0.1%上げたのに、市場金利はたったの0.003%しか上がらなかった。微動だにしなかったと言ってもいい。

■0.077%の上昇…これを利上げというのは恥ずかしい

「マイナス金利解除」と大騒ぎして、市場金利はたったの0.003%の上昇。これではまずいと思ったのか、日銀はマイナス金利政策の解除だけではなく、政策金利をマイナス0.1%からプラス0.1%へと変更するゼロ金利政策の解除も同時に行った。

したがって決定会合翌日の無担保コールO/N物レートはプラス0.074%まで上昇した。しかしながら政策金利をマイナス0.1からプラス0.1%へと0.2%上昇させたのに、(市中金利の根幹である)無担保コールO/N物レートは決定会合前日のマイナス0.003%からプラス0.074%へとたった0.077%しか上昇していないのだ。

欧米では0.25%とか0.5%の上昇を利上げというのに、0.077%しか上昇していない。これを利上げと称するのは、恥ずかしい。

「これでは利上げとは言わないのではないか?」と私が参院財政金融委員会でお聞きしたら、植田総裁は「利上げは利上げですから」と答弁された。ならば私はこれから68kgの体重が67.9kgへと減量しことを、「ダイエットに成功した」と言うことにする。「減量は減量」なので。

利上げと大騒ぎしても実際は利上げでもなんでもない。だから為替が円高に触れなくても当たり前なのだ。

21日の参院財政金融委員会で、植田総裁は住宅ローン金利について「大幅に上昇するとはみていない」との見解を述べられたそうだ。当たり前だ。市場金利の根幹が0.077%しか動いていないのだから住宅ローン金利が大幅に上昇するわけがない。

■日銀の印象操作に、アナリストやマスコミが大騒ぎしただけ

預金金利についてはどうか。19日の日経新聞「三菱UFJと三井住友、普通預金の金利を0.001%→0.02%に」には、両者が普通預金金利を現在の20倍に引き上がると書いてあった。しかし実態は0.001%が0.02%になっただけであり、0.019%上げるだけに過ぎない。

100万円を預金して年間10円となる受取金利が200円に上昇するだけで、蟻の涙が雀の涙に変わっただけだ。政策金利が0.2%上昇したのに、預金金利は10分の1程度の0.019%の上昇しかしない。無担保コールO/N物レート上昇幅の0.077%ほども動いていない。

これがアナリストやマスコミが大騒ぎした「マイナス金利政策の解除」の結果である。「マイナス金利政策解除」を「利上げだ」「日米金利差縮小だ」と大騒ぎしていた識者やアナリストは、あまりにみっともないと思う。YCCの解除といい、何ら実態のない言葉の遊びにすぎなかった。

たくさんの新聞
写真=iStock.com/MonthiraYodtiwong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MonthiraYodtiwong

なお私が前項の件に関し参議院財政金融委員会で質問したら、植田総裁は「政策金利」の定義を微妙に変えた」とお答えになった。今後は昔同様O/N 無担保コールレートそのものを政策金利と呼ぶようになるようだ。「何じゃ、それ?」だ。

日銀の都合のいいように定義を変えるのか?(筆者注:補完当座預金制度適用利率を政策金利としたのは円安誘導のために日銀がアグレッシブに金利を下げているとの印象を世界にふりまくための印象操作だったと私は思っている)「いずれ、銀行がフジマキに貸し出す金利を政策金利と呼ぶようになるのではないでしょうね」と嫌味を言っておいた。

打つ手の無くなった日銀は、印象操作という技巧に頼らざるを得ないほど追いやられていると私は思っている。

■日銀が利上げをしたくても「できない」理由

インフレが加速していった場合、プラスに戻った市中金利を更に上げていくためには、日銀当座預金に対する付利金利を上げていくしか方法はない。他国の中央銀行もその方法で利上げをしている。伝統的金融政策をしていたころの利上げ手法は、異次元緩和をしてしまった以上、日銀は使えない。

現在、日銀当座預金残高は538兆円だから、法定準備金を除けば約500兆円。今後は0.1%の利上げごとに年間5000億円の金利支払いが生じる。

令和4年度(2022年度)の日銀の経常利益は3兆2307億円。そのうちETFからの利益が1兆1044億円、外国為替関係益が7490億円だ。前述したように、本来中央銀行が保有してはいけない株で純利益の3分の1を上げているなど、びっくり仰天だ。

それはともかく、本来、中央銀行の通貨発行益の主たる源泉は保有国債からの受取利息だが、日銀の受け取り利息は1兆5207億円に過ぎない。0.1%ごとに5000億円の支払い金利が発生すれば、いとも簡単に損の垂れ流しが始まる。

■「利上げのできない中央銀行」にインフレ抑制は不可能

膨大な国債を抱える日銀にとって、利上げが自分の首を絞めることになる。利上げできない以上、インフレに対抗する武器を日銀はすでに失ったと言える。インフレ対応能力を失った中央銀行など中央銀行とは呼べない、日銀はもはや政府の紙幣印刷所に過ぎない。

ちなみにFRBの受け取り利息は年間26兆円ほどである。日銀の1兆5207億とは次元が違う。だからFRBはFED FUNDレートを5.25%から5.5%まで引き上げてやっと損の垂れ流しが始まったのだ。

日銀が無担保コールO/N物レートを5.5%まで引き上げたら毎年27兆円の損の垂れ流し(これは予算委員会で日銀に聞いた)となる。一般会計税収約70兆円と対比してみればとんでもない数字であることが分かる。ちなみに私が銀行員時代には無担保コールO/N物レートの5.5%など異常なレートでも何でもない。1985年の平均は9.06%、89年6.65%、90年8.34%だ。

このままインフレが加速していったら日銀の損の垂れ流しは他の中央銀行の比ではない。日銀に自らの信用、日本円の信用を保てる自信はあるのだろうか? FRBは大丈夫だから日銀も大丈夫という話ではない。

現在の日本国債10年物の金利は0.73%。私が参院予算委員会で日銀にお聞きしたところ、日銀の保有国債の評価損は10兆円(2023年9月末時点、10年物金利は0.76%だった)、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するそうだ。

長期金利が1.76%まで上昇すれば39兆円の評価損になるということだ。「日銀は償却原価法を取っているから表差損は問題ない」というのが黒田前総裁、植田総裁の答えだか果たして、そうか? 私は全くそう思わないが字数の関係で今回は触れない。

令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行った
令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行った(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■日銀は追い詰められている

長期金利が上昇すればとんでもない評価損が発生し、短期金利を上げていけばとんでもない損の垂れ流しが始まる。日銀は追いつめられている。

異次元緩和を開始してから、日銀財務の脆弱(ぜいじゃく)性は日に日に悪化している。改善したり悪くなったりを繰り返しているのなら、まだいい。しかし、一時期たりとも改善したことはなく、解決策を誰も見出していない。

次期総裁選びの際、垂涎の的の総裁職を日銀マン、日銀OBは誰も引き受けなかった。財務省OBの最高の天下り先だった総裁職を、財務省OBも誰も引き受けなかった。内部事情を知れば知るほど尻込みをしてしまったのは当然だ。

なのに植田氏は総裁職を引き受けた。日本金融学会での講演録や、日銀審議委員時代の議事録を読むと、植田氏は明らかに私と同様、日銀の政策に相当の危機感をお持ちだった。日銀審議委員時代は、いわば日銀の党内野党の立場のように思われる。

それが総裁になった途端に、楽観論者に変わったのは「そう言わざるを得ない立場」になったからだろう。それは理解する。私が思うに、植田氏が総裁を引き受けられたのは、市場の動きを甘く見ていたせいだ。

机上の学問通りには事は運ばない。そして植田総裁の最大の問題は総裁職を引き受けたことだと思っている。もし、見識ある人たちが誰も引き受けなければ、その時点で日銀が大問題を抱えていることを日本中が認識し、その解決に英知を傾け(と言っても時すでに遅し、だとは思っているが)、国民は自らが資産防衛に走らねばならないことを認識したはずだ。危機の発生を更に先延ばしにして、起こりうる市場の暴力を極大化してしまった。

「大規模緩和」と書かれたニュースの見出し
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■固定金利の高さは保険料と考えるべきだ

私は本稿で「日銀はインフレが加速しても、もう武器を持っていない」と書いた。それを読んで「短期政策金利を引き上げられないのなら住宅ローンは変動型のままでいいか」と思わないでいただきたい。

本稿で述べた通り、(異次元緩和時期を除いて)政策金利とは市場金利を誘導するためのものだし、実際ワークしていた。しかしながら中央銀行が信用を失えば、市場金利は政策金利を無視し、暴走する。インフレが加速すればいくら日銀が政策金利を低位に抑えていても、市場金利は高騰し、住宅ローンの変動金利も上昇してしまうだろう。

私はその事態を危惧する。変動金利から固定金利への変更は事務手数料程度でできる。現在は固定金利のほうが変動金利よりだいぶ高いかもしれないが、高い分は保険料と考えるべきだと思う。

■円高要因は“為替介入”ぐらいしかない

為替は「国力を反映する」のが大原則だ。国力の弱い国から強い国にお金は流れる。景気がいい国は金利も高く、株価も上昇する。投資対象物がいくらでもあるからだ。その観点からすると40年間、世界ダントツのビリ成長を続けてきた日本の通貨・円が弱くなっていくのは当然だ。

しかし、それは平時の話で、中央銀行の信用が前提となる。世界ダントツのビリ成長を続ける日本の中央銀行の財務が、これまた世界最悪ときているのだから円の価値毀損(きそん)は不可避だと思っている。

加えて本稿に書いた通り、他国の中央銀行はばらまかれたお金の回収を始めているのに対し、日銀はバラマキ続けているのだ。円がトレンドとして強くなる要因はほとんど見当たらない。日米金利差などという枝葉の理由だけの円安ではない。

そうなると、ほんの一時的とは言え、円高要因は政府による為替介入くらいしかない。そこで為替介入が効くかどうかの私見を最後に述べておきたい。

資本主義社会では為替介入はルール違反である。それゆえ市場では、ダーティーフロートとか、近隣窮乏化政策というネガティブな言葉で表現されている。さらに、他国に不利益をもたらす恐れがあるから自国の都合だけでは行えない。

米国は今年選挙の年だ。インフレ再燃は政権にとって最も回避したい経済事象だ。インフレが再燃すればバイデン大統領の再選は困難になろう。ドル安(=円高)は米国の強いインフレ要因だ。したがって、米国はそう簡単にはドル売り介入を許可しないと思われる。円安加速防止ならまだしも、ドルの押し下げ介入など許すはずがない。2年前とは事情が違う。

■避けられない「X デイ」の先に日本の大復活がある

こう考えると、従来から主張している通り、日本円が大暴落するX デイは不可避だと思う。ドル資産を買って保険とし、苦しい時期を乗り越える準備が不可避だ。

しかし日本人は頭もよく、礼儀正しく、勤勉な国民だ。厳しい時代に、社会主義体制を真の資本主義体制に改革できるならば必ずや日本は大回復する。将来を悲観することは無い。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中受賞受章。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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