なぜ「本当のお金持ち」は冠婚葬祭を大切にするのか…「世界トップクラスの相続税」から財産を守るために富裕層がやっていること
プレジデントオンライン / 2024年4月3日 15時15分
※本稿は、芦原孝充『相続の処方箋』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■財産は受け継ぐだけで確実に目減りしていく
「相続が3代続くと財産がなくなる」とは、資産家や富裕層の間ではよく知られた言葉ですが、「何もしなければ、財産は受け継ぐだけで確実に目減りしていく」という意味合いを示します。
こうした目減りの原因は、主に相続税制によるものです。わが国の相続税率の高さは世界でもトップクラスであることから、ある程度の資産をお持ちの方は、相続をする度に財産の約半分が税金として流出することになります。また、その相続に際しては、家族の結婚や独立といった理由による相続分の流出がこれに加わります。
よほどの資産家であったとしても、相続が3代続いた頃には、かつての「家」の格式や体裁など、保てない状態になってしまうことから、そうした言葉が語り継がれているのです。
しかし、財産が失われてしまうのは、何もしなかった場合のことです。しっかり対策すれば、3度の相続を経ても、財産を減らすことはありません。
■相続人が一人でも欠ければ、遺産分割はできない
全員主役の相続税、それが戦後の相続税制度です。相続人の誰一人欠けても、遺産分割はできません。遺産分割ができなくなると――10年、20年という時間の経過とともに、相続人が亡くなり、当該遺産分割の主役がネズミ算的に増えていきます。はじめは兄弟3人で話し合えば済むことが、その子どもたちが遺産分割の枠の中に加わります。このゲームは反対者が一人でもいたら、遺産分割できないルールで行われます。
では、ここで実際に相続が発生した場合のことを考えてみましょう。まず、相続発生直後、預貯金が凍結されます。亡くなったその日から、お金がおろせなくなり、振込や引落も一切できなくなります。株式についても同様です。これらは、遺産分割協議(または凍結解除の相続人全員の申し出)が終わらない限り、どうすることもできません。
また、相続人に配偶者がいる場合、最大で税額の50%を(小規模の相続では100%まで)軽減することができますが、これもできなくなります。
■何も手を打たなければ、10カ月と10日で差押え
他方、相続税は亡くなった日から10カ月で納めなければなりません。現金一括納付が原則です。その算段が付かなければ、最短で納付期限から約10日で財産の差押えが入ります。実務の運用としては、少額ならばそこまで即座に、ということはないでしょうが、高額に上る相続税の場合には直ちに入るのが基本です。
差押えの対象は相続財産に限らず、各相続人の固有の財産に及びます。自分の預貯金も、住んでいる家も、その対象です。このように、突然の「人の死」という予測できない出来事に起因して、何も手を打たなければ、(最短)10カ月と約10日で差押えられてしまうという時間勝負の問題解決を迫られることになります。
一方、こうした状況に対して、古くからの商家などでは、家督相続の名残りから、葬式に集まった親族(相続人)に相続放棄の書類を預け、次の四十九日には持参するよう求める習慣がいまも生きづいています。こうした知恵が当たり前のように通用しているのは、家族親族間の良好な関係性、「家」を大切に思う心、先祖を尊ぶ想いが培われているからこそのことで、家のあり方がよく現れたエピソードだといえるのではないでしょうか。
■相続とは「相続人全員の共同作業」
血縁が凝固剤の役目を果たし、家族の結束が固かった時代には見られなかったさまざまな問題が、相続の現場で噴出しています。
誰もが、相続税を少しでも安くしたいと考えるものです。少ないに越したことはありません。税理士はそのためにいる、というのもその通りです。
しかし、税金の流出を出来る限り少なくし、スムーズに進めるためには、相続人と税理士とが歩調を合わせることが大事です。
さらに、相続に際しては「家族の結束」が試されます。相続とは、相続人全員の共同作業にほかなりません。10カ月という限られた期間に、①相続財産を確定させ、②それを評価し、財産目録にまとめたうえで、③どのように分配するかを話し合い、④それを書面化し、申告書に反映させ期日までに申告し、⑤期日までに納税する――少なくとも①から⑤の作業が必要になります。
■大切なのは、日頃からの家族間の風通しのよさ
そして、その中で最も重要なのが、③「どのように分配するかを話し合うこと」です。これについては既述の通り、「反対者が一人でもいたら」……大変な事態になります。
相続に際しては、常日頃の家族間の風通しが大切です。関係性が良好なほど、これらの共同作業はスムーズにいくからです。
読者の皆さんは、ここまでのところでお気づきでしょうか。
かつては、家督制度の下で家族は知らず知らずのうちに結束し、強固な関係性を保っていましたが、戦後には、結束を支える中心軸が取り払われてしまいました。しかし、実際には結束しなければ、その難局を乗り越えることができないルールの下で相続の仕組みが成り立っていることを――。
つまり相続において重要なのは、本書にて繰り返しお話ししているように、日本本来の家族のあり方を捨ててはいけない、ということです。どのような結果が導き出されるか――それは私たちの足元にあります。
■財産の流出を防ぐために必要なこと
本来ならば「遺言」にしておくことが望ましいのですが、実際に遺言を作成する方は残念ながら少ないのが実情です。遺言は、まだまだ一般化していないということです。
その望ましいはずの遺言を残さないのには、一般の方々からすれば、馴染みがないということもその一因かもしれません。しかし、矛盾するようですがその一方で、遺言を作成することで納税額が逆に増えてしまうことがあります。
それは、相続税は財産の分け方によって税額が大きく変動するからなのです。――つまり、「納税の最適値」と「どのように遺産を分けることが家族にとって望ましいか」という二つの点は、二律背反してしまうのです。
遺言は法的実効性を持ちますから、安易に作成してしまっては逆効果になりかねません。それには周到な準備が必要です。時間、労力、費用の点で、「しっかりした相続税対策をするんだ……」という決意のようなものが、家族全員に求められるのです。
そうした団結と意思決定ができる家族であれば、ぜひとも、事前の相続税対策を行うべきです。それによって確かな結果に結び付くことが期待できます。
また、現在では民事信託を活用し、被相続人の意志を具体的に反映した分け方や家族のあり方といったことまでも指定できるようになりました。このようにして、意志を家族に正確に伝え、同時にそれを伝え聞いた家族がそれを尊重し忠実に従うことで、大切な財産の不要な流出を避けることができるのではないでしょうか。
■300年続く「名門」の家に共通する2つの特徴
先ほどは「家」の概念に関連して、古くから続く名門の家系のお話をしましたが、200年、300年と続く名門の家には、ある種の共通する特徴があります。
繰り返しますが、ひとつは、「家族を大切にする」ということです。それは同様に「先祖を大切にする」ことにも繫がります。
先祖を敬い家族を大切にする、そうした自然の振る舞いを、生まれたときから身につけていく、またその子どもにも同様に受け継がれ、代々にわたり受け継がれ続けていきます。
そしてそのことは、結婚という大事な場面でも同様に、同じ遺伝子をもった家系と結び付いていきます。それは単なる言葉によるものではなく、その家に宿るお徳とでもいうのでしょうか、不思議にも、そうした結び付きというものが引き付けられ結び付けられていく、そういうものだと思います。
日本では昔から、神仏を拝み敬う文化があります。名門の家系にはそうした文化が古くから息づいています。日本には中国から仏教が伝来し、一方では古来より神様を祀ってきました。名門家に脈々と続く隆盛は先祖のおかげであり、その先祖を支えてきて下さった神仏をも同様に大切にし続けている、そのような慣習が家のあり方を形づくり、家の求心力に作用しているといえるのです。
もうひとつは、名門の家では「時間軸が長い」という特長があります。これも既述の、先祖を敬い身近に感じることと共通する観念です。
たとえば、江戸時代に建てられた古い家に住み、先祖が集めた陶磁器などの古美術を身近に感じ、祖父が生まれたときに植樹した桜の花を愛でるなど、そうした暮らしの中では、その観念の先にある時間軸は100年、200年、300年……と、なっていくのではないでしょうか。
時間を味方につけることができる、それが成功のカギです。そして名門家のすべてといっていいほど、どこの家も、時間が味方をしています。
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税理士
芦原会計事務所所長。1962年、福島県会津の酒造家に生まれる。高校進学を機に上京し、慶應義塾大学大学院商学研究科を修了(経営学・会計学専攻)。コンサルティング会社勤務を経て、1993年に東京芝で税理士開業。2007から2020年まで、拓殖大学商学部にて教鞭を執る。租税訴訟学会会員。著書に『EVA MONEY ミリオネアの思考軸』(NP通信社)がある。
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(税理士 芦原 孝充)
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