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大好評で放映終了の「ブギウギ」に実は脱落者多数…60代以上が好み若年女性に敬遠された"連ドラ定番シーン"

プレジデントオンライン / 2024年4月2日 11時15分

画像=プレスリリースより

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』(全26週・126話)は、「東京ブギウギ」で知られ、戦後を明るく照らしたスター歌手・笠置シヅ子さんをモデルにした物語だった。元NHK職員で次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんが半年間の放映期間の個人視聴率を分析すると、「ライブシーンは秀逸だったが、“人間ドラマ”としての掘り下げが今ひとつという視聴者が多かった。ただ、これまでにない音楽芸能ドラマというユニークな作りで、主人公を演じた趣里や作曲家役の草彅剛の存在感は際立っていた」という――。

笠置シヅ子をモデルとしたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』が終了した。

福来スズ子(趣里)の歌手人生を描いたドラマだけに、「歌」パートには称賛の声がたくさん寄せられた。ところが途中から「つまらない」という批判も増えた。

どんな人が番組をどう見たかの記録となる視聴データ。

個別の視聴者や評論家の感想と比べると、大勢の主観を集めた分だけ少し客観に近づく。そこで個人視聴率だけでなく、特定層の傾向も踏まえ見られ方がどう変化したかを追うことで、『ブギウギ』はどんなドラマだったのかを位置付けておきたい(スイッチメディアが関東1万2000人から集めた視聴データで分析)。

■序盤の傾向

『ブギウギ』を直近の4作と比べると、視聴率的には可もなく不可もなくといった感じだ。全期間を通じると、個人全体は序盤が今ひとつだったが、11月から12月半ばにかけて盛り上がった。

ところがその後1月まで低迷した。そして2月はじめから最終週に向けて少しずつ挽回した。

【図表】「ブギウギ」週ごとの個人視聴率推移
スイッチメディア「TVAL」から作成

ただし以上は個人全体の話。朝ドラは8時台に在宅する人を前提にし、加えて女性の一代記となることが多いため、女性の視聴者が男性を圧倒している。

そこでまず、若い女性と年配女性で視聴率にどんな差があるかを確認しよう。

実は個人全体は60歳以上の女性の視聴率推移とほぼ重なった。ちなみに40~50代の女性も60歳以上と被る部分が多い。つまり視聴者の最大勢力となる中高年の女性が、個人全体の動向を左右していた。

具体的にはスズ子が東京に出る前まで、数字はパッとしない。

ところが上京後に作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会うと、視聴率も上向き始めた。そして母・ツヤ(水川あさみ)の病死と、弟・六郎(黒崎煌代)の戦死を経て、スズ子がコンサートで弟への思いを込めた「大空の弟」を歌った第10週までは、数字は好調のまま推移した。

一方で20~30代の女性は別の反応をみせた。

まず序盤、趣里が登場し梅丸少女歌劇団の「桃色争議」(※)で急騰した。実は40~50代女性も同様の傾向となったが、60歳以上は微動だにしなかった。女性の働き方は時代とともに変化してきたが、ドラマでの受け止めは年代によって大きく異なった。

(※)1933年(昭和8年)、松竹株式会社の少女歌劇部と楽劇部のメンバーたちにより起こされた労働争議

また高齢層に好評だった戦時中の家族の死なども、若年層には不評だった。

「戦争描写がしつこくて脱落しそうになった」
「梅丸歌劇団あたりまで楽しくみてたけど」

世代によって感じ方がここまで異なるのは興味深い。若年層は視聴者数が多くないゆえ、ドラマ全体の視聴率に大きく影響しないが、NHKドラマが若者に見てもらうためのヒントはこのあたりにありそうだ。

■中盤以降の失速

ドラマは第11週で失速した。

村山興業の御曹司・愛助(水上恒司)と出会った頃からである。その後も終戦を迎えた第15週まで、戦時下でのスズ子と愛助の関係を描いた期間の数字は低迷したままだった。その後、喜劇王・タナケン(生瀬勝久)と組んで女優業に挑んで以降、数字は少しずつ改善する。

ところが愛助の入院、スズ子の出産、愛子の子育てなどでは数字は思うように上がらない。そんな中でも、「東京ブギウギ」の誕生とレコーディングなど気を吐く週もあったが、ラスト2カ月はおおむね今ひとつだったと言わざるを得ない。

こうした状況は、SNS上のつぶやきにも反映された。

主観の集積としてのデータを裏付けるような、具体的な指摘がいくつも出ていたのである。

「途中までは面白かったんだけどなぁ」
「ライブシーン以外の抑揚がなく」
「(失速したのは)ラストに向けての目標が見えないからじゃないのかな」

■原因は“人間ドラマ”と“感動”不足⁉

こうした感想は、全体を通した特定層別視聴率にも表れた。

【図表】同世代内の層別個人視聴率
スイッチメディア「TVAL」から作成

個人全体を1として、「ドラマ好き」「音楽番組好き」「感動重視派」の平均を指数で示すとグラフのようになった。

基本的にドラマ好きにはよく見られた。特に朝の忙しい時間帯に情報番組ではなくドラマを見る理由は、やはりドラマが好きだということらしい。

ただし年齢が上がるに従い、「ドラマ好き」ではなく「音楽番組好き」が増えてくる。

60歳以上に至っては、2割ほど「音楽番組好き」が上回った。その意味では、笠置シヅ子をモデルとして戦後の芸能シーンを描いた制作陣の狙いは当たったと言えよう。

ただし「感動重視派」の視聴率が低い点が気になる。

若い女性に至っては個人全体を大きく下回り、年配の女性でも「ドラマ好き」とともに「感動重視派」の評価が低かった。要は人間ドラマとしての描き込みが弱く、見ていて気持ちがあまり乗らなかったということだろう。

■年配女性も一部が終盤で脱落

視聴率全体に最も影響を与えた年配女性の動向からも、ドラマの課題は見える。

【図表】女性60歳以上の層別視聴率動向
スイッチメディア「TVAL」から作成

「音楽番組好き」は半年の間、基本的には高い数字のまま推移した。ところが「ドラマ好き」「感動重視派」は、終盤の2~3月で明らかに失速した。

注目すべきは1月末から2月初めの週以降。スズ子は大きなお腹を抱えて「ジャズカルメン」の舞台に立った。ところが愛助は鑑賞を断念し、そのまま東京に戻れずに亡くなる。

この週は「音楽番組好き」を含めて3つの層とも視聴率を落とした。ただし「東京ブギウギ」でスズ子が歌手に復帰し、「ジャングルブギ」も出す次の2週で、「音楽番組好き」の視聴率は回復する。ところが「感動重視派」は微増にとどまり、「ドラマ好き」に至っては逆に下落してしまった。

さらに以後は、「音楽番組好き」と他2層の上下動が逆になることが増える。明らかに今回の朝ドラに何を求めるかによって、ドラマの評価が反対になっていったようだ。

「お仕事パートはワクワクして楽しいのに、後半一気につまらない」
「もっと歌手としての苦悩とか喜びとか深掘りして欲しかった」
「(後半だめだったのは)私はこのドラマの芸能のエピソードを楽しみにしていたからだろう」

音楽とドラマ。煌びやかな表舞台と人間の内面。こうした異なる局面を併せて見たいというニーズに、残念ながら今回のドラマは応えきれていなかったようだ。名作ドラマは、異なる位相とそれぞれの関係性を見事に描いてこそ名作と称賛される。残念ながら、そこまでには届いていなかったようだ。

■それでも記憶に残るドラマ

展開には課題があったとしても、それでも記憶に残るドラマだった。

ライブシーンを核にした、これまでにない音楽芸能ドラマというユニークな作り。そして主人公を演じた趣里や羽鳥善一役の草彅剛の存在感だ。

「すべてをステージで解決するストロングタイプではあったけど、歌や踊りってそれぐらい力があるよねと思わせてくれた」

「趣里ちゃんのような華と才能のある女優に出会えて楽しい半年間でした(中略)笠置シヅ子さんの歌がたくさん知れて、こんなドラマをもっと見たいと思った」

「シヅ子の掛け合いのうまさが光って、コミカルでよかった」

「“俳優・草彅剛”しっかり記憶に残せたね(中略)喜びから複雑な心境を宿した表情まで、全部見入った」

朝ドラはここ数年、大胆な挑戦が目立つ。

昭和の音楽史を代表する作曲家と、その妻の生涯を描いた『エール』(2020年春・窪田正孝主演)。

ラジオ英語講座と共に生きた母娘孫三代の百年にわたる悲喜劇『カムカムエヴリバディ』(21年・上白石萌音、深津絵里、川栄李奈主演)。

日本の植物学の父・牧野富太郎をモデルにした『らんまん』(23年・神木隆之介主演)。

いずれもスケールが大きく、日本の一側面を描いた秀作で記憶に残るドラマだった。

さて次は日本初の裁判所長となった三淵嘉子をモデルとする「虎に翼」(伊藤沙莉主演)。法の世界から日本社会に斬り込みつつ、人間ドラマとしてどう感動を視聴者に送り届けてくれるのか。できたら若年層にも多く見られるバランスの良いドラマを楽しみたい。

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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。

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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)

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