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「これだけは変えないでほしい」大ヒット朝ドラ「ブギウギ」脚本家が唯一こだわった"決めゼリフ"

プレジデントオンライン / 2024年4月7日 6時15分

脚本家の足立紳さん(写真=本人提供)

連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)はなぜヒットしたのか。同作脚本家の足立紳(櫻井剛と合同執筆)さんと娯楽映画研究家の佐藤利明さんが対談。足立さんは「ヒットの最大の理由は? と聞かれたら、最終オーディションで『この人に演じてもらいたい』と思った趣里さんのすばらしさに尽きる。他にも僕の無茶振りを受けてくれた草彅剛さんをはじめ、魅力あるキャストに助けられた」という――。

※この対談は2024年3月22日、書泉グランデ(東京都千代田区)で行われたイベントの模様を再構成したものです。

■「ブギウギ」がヒットしたのは、まず主演の趣里ありきだった

【佐藤】「ブギウギ」はスズ子(笠置シヅ子)を中心にした群像劇であり、いろんな人が出てきますけど、まず、スズ子役の趣里さんがすばらしかったですね。歌はどんどん上手くなるし、ラインダンスでもきれいに足が上がるし。もちろん、演技もすばらしかった。

【足立】本当にすばらしかった。「ブギウギ」の何がよかったかをひと言で言うなら、趣里さんがすごかったということに尽きると思います。

【佐藤】ヒロイン役のオーディションのときは、足立さんも参加したんですか。

【足立】最終オーディションに行きました。趣里さんと他に7、8人くらいの俳優さんがいらっしゃったんですが、趣里さんが一番面白かったんですよね。歌の上手さは、僕はよくわからなくて、みんな同じくらいなんじゃないの? とも思ったけれど、お芝居が本当に愛くるしく、コロコロと変わるいろんな表情されていたんですよね。その時点で台本は第3週ぐらいまで書いていたので、「この方がスズ子を演じてくれたら、これは視聴者の皆さんからそうとう愛されるんじゃないかな」と思いました。

■服部良一をモデルにした羽鳥を演じた草彅剛の快演

【佐藤】趣里さんは、笠置さんが持っていた愛嬌を表現して、人前では元気印でいるけれど、いろんなことを経験し、いわゆる“大阪のおばちゃん”になっていくという表情の変化がすごくよかったですよね。しかも自然なんです。そして、作曲家の羽鳥善一を演じた草彅剛さんもみごとでしたね。もはや服部良一さんという存在を超えて、羽鳥善一という人が出てくるような……。

【足立】服部良一さんに関する本を読んだ時に、良一さんは新曲ができたら深夜だろうが早朝だろうが、とにかく家族を起こして「聞け聞け」ってやっていたらしいんですよね。その感じがすごいいいなと思って。僕も台本を書き上がると、すぐ妻に読んでもらいたくて、「読んで読んで」と、寝ているところを無理やり起こして怒られたりするので(笑)。その良一さんの賑やかな感じを描こうと思いました。

【佐藤】羽鳥家のホームドラマ、面白かったですよ。服部良一先生のお宅を垣間見ているような気分になりました。

【足立】あと、ドラマの音楽を担当してくださった服部隆之さん(良一の孫)とご飯を食べに行ったんですけど、ずっとニコニコしていらして、そのにこやかさがすごく素敵だなと。だから、羽鳥善一は隆之さんのにこやかさと良一さんの明るさを足して“二で割らない”感じで書きました。

■羽鳥のカウントはなぜ「トゥリー、トゥー、ワン、ゼロ」になったのか

【佐藤】そういう昭和のホームドラマ的世界観がすごく出ていましたし、オタクという言葉がない時代だけれど、羽鳥善一はちょっとオタク的で、僕たちからしてもすごく共感できる人だなと。妻や家族を前にしても、自分の仕事のことばかりを語りたくて、意識がどこか行ってしまっている感じがして「あるある」でした(笑)。

【足立】その点も、やっぱり草彅さんのお芝居が面白かったですよね。僕は前に脚本を担当した「拾われた男」(俳優・松尾諭の自伝的ドラマ)でも草彅さんとご一緒して……と言っても一度もお会いしたことはないんですが、そのときのお芝居のイメージがあって、「草彅さんならこんなふうに演じてくれるんじゃないかな」と思いました。羽鳥善一の「トゥリー(スリー)、トゥー、ワン、ゼロ」という決めぜりふは、僕の思いつきなんですが、「変えてほしくない」とリクエストしました。そんなことをお願いしたのは唯一、それだけなんです。

■「東京ブギウギ」お披露目場面は撮り直して後半にも

【佐藤】第1話の冒頭で「東京ブギウギ」のお披露目をする時ですね、最初に「トゥリー、トゥー、ワン、ゼロ」が出てきたのは。本当は音楽のカウントとしてはおかしいんですよね。普通は「スリー、トゥー、ワン」で「はい演奏して、歌って」ということになる。

娯楽映画研究家の佐藤利明さん
娯楽映画研究家の佐藤利明さん(写真=本人提供)

【足立】そうなんです。でも、その変則的な感じを、草彅さんが僕のイメージどおりに見事に演じてくれました。最初に台本を出したときは、やっぱり音楽家なのに変だという意見もあり、そこで服部隆之さんにおうかがいを立てたら、「面白いじゃない」と軽くOKしてくださって。そのあたりがやっぱり服部家の血なのかなみたいな感じで(笑)。

【佐藤】最初にその強烈なインパクトがあって、だんだん僕たちも受け入れて面白がれるようになりました。その後、いろいろあって、スズ子が子どもを産んでから、また同じ「東京ブギウギ」のお披露目のシーンに戻るのもよかったですね。わざわざもう一度撮り直をして、出てくる赤ちゃんも別の子になっていました。

【足立】やっぱり、第1週第1話はかなり早い段階で撮影したので、実際に趣里さんがスズ子の人生をかなり長い時間生きた上で、同じシーンを撮り直しできたのはよかったですね。二回目はキャストの皆さんの気持ちもだいぶ役に入り込んでいた。その違いも見比べてもらうと、面白いかもしれません。

■羽鳥がスズ子をしごく場面は『セッション』オマージュだった

【佐藤】その違いが如実に出ていたのが、淡谷のり子をモデルにした茨田りつ子(菊地凛子)でしたね。二回目は、りつ子のツンデレ的な優しさがより深く感じられました。一方で、草彅さんはブレていない。半年近く経っているのに「トゥリー、トゥー、ワン、ゼロ」と言うときの感じが変わらないし、すごいなと思いました。

【足立】僕はアメリカ映画の『セッション』(2014年、デイミアン・チャゼル監督作)が好きなんですけれど、J・K・シモンズが演じた怖い音楽の先生。あれはちょっとモノマネしたくなるから、このドラマでもそういう面白さを出したかったんですよね。モノマネしたくなるものって素晴らしいものだと思うので。それで「怖くない『セッション』をやろう」と思って、スズ子と羽鳥が初めて組んだ「ラッパと娘」の稽古シーンを書きました。だから、羽鳥がスズ子のことをしごきまくるんです。

笠置シヅ子が劇中で「ラッパと娘」「ヘイヘイブギー」を歌う映画『舞台は廻る』(1948年大映)。 ホームドラマチャンネルで4月7日放送
『舞台は廻る』©KADOKAWA 1948
笠置シヅ子が劇中で「ラッパと娘」「ヘイヘイブギー」を歌う映画『舞台は廻る』(1948年大映)。ホームドラマチャンネルで4月7日放送 - 『舞台は廻る』©KADOKAWA 1948

【佐藤】その場面、スズ子は羽鳥に「もう一回、もう一回」とダメ出しされ、戸惑っている感じでしたが、羽鳥は絶対にブレない。自分の思う音になるまでは何度でもやるという姿を見て、まさに音楽伝記ドラマだなと思ったんですよ。常軌を逸している状態だけれど、それでいい曲が生まれたから、みんな、納得してしまう、というような。

【足立】まさにそうですね。

■「東京ブギウギ」の歌詞「ズキズキ」に込められた深い意味

【佐藤】「ブギウギ」は歌唱シーンもよかったですね。「ラッパと娘」にしても「東京ブギウギ」にしても、15分間しかない朝ドラの中で歌をノーカット、フルコーラスで見せるという。

【足立】でも、15分のうちの3分を持ってかれるので、物語をどうするかということは悩みましたね。どうしても薄くなっちゃわないかなと思って。歌唱シーンで盛り上がるためには、そこに至るまでのドラマはしっかりしてないといけないと思うので、そこは本当に、一番苦労したところかもしれません。

【佐藤】そこまでの人間ドラマがちゃんと歌でオチがつくようになっていましたよね。例えば「東京ブギウギ」の「ズキズキワクワク」というのはどういうことなのか。「ドキドキ」じゃない「ズキズキ」なわけで。

【足立】たしかに、ワクワクドキドキならよくわかるけれど、ズキズキってなんだろうと思いました。

■服部良一が昭和22年に仕掛けたことが令和に訴えかけてきた

【佐藤】ドキドキは恋をしているような感じだけれど、ズキズキというのは痛みを伴っているわけですよね。でも、それをワクワクに変えてくれるのがブギウギのリズムなんだと……。服部良一さんが昭和22年に音楽に仕掛けたことが、このドラマで再現されて、だから「東京ブギウギ」という曲はいいんですよと、みんなが理解できる流れになっていました。

【足立】そうなっていると、本当にいいんですけど。

【佐藤】ズキズキワクワクというのが、当時、最愛の人を亡くし、シングルマザーとして生きていく決意をした笠置さんにとってはダブルミーニングになっているんですよね。

【足立】やはり「ズキズキ」の部分をしっかり描かないとダメだろうなとは思っていました。笠置さんの人生では、大切な人がどんどん亡くなっていくので、その亡くなる衝撃だけでズキズキになるのではなく、人生はなかなか思い通りにいかないということ、周りの人間関係など「雑音」みたいなものまで描きたいなと……。

■「ヘイヘイブギー」は笠置から娘へのラブソングだった?

【佐藤】そこが共感できるポイントでした。「東京ブギウギ」のズキズキワクワクというのが痛みを伴ったものだとすれば、終盤初めてフルコーラスで歌った「ヘイヘイブキー」は、あなたが笑えば私も笑うという共感に変わる。スズ子にとっては、娘の愛子が笑えば私も……という。

【足立】「ヘイヘイブギー」は、子守歌としてしか出してこなかったですからね。終盤の展開で、若手歌手が出てきた時に対抗する歌を「ヘイヘイブギー」にしようとは決めてなかった気がするんですよ。スズ子の人生を書いていくうちに「今は子育てのことだ」と積み重ねてきたので、愛子のために何かを歌う展開にしたい。それなら歌詞からして「ヘイヘイブギー」がいいんじゃないかという話になった。

【佐藤】笠置さんの最後のTV出演となった第7回紅白歌合戦、大トリで歌った曲が「ヘイヘイブギー」なんです。その史実とドラマの展開がぴたっと合ったのを見て、鳥肌が立ちました。その歌合戦でスズ子の「ラッパと娘」を歌った水城あゆみというキャラクターは、美空ひばりさんであり江利チエミさんでもあるという……?

【足立】そうですね。史実でもいろいろあったわけですが、でも、自分の持ち歌、しかも代表曲を歌いたいんだと、若手の有望株から言われた時のスズ子というのは、描きがいがあるなと思ったんです。

■脚本家がフィクションとして描いた電撃引退の決断の理由

【佐藤】そこなんですよ。史実を調べてみると、笠置さんの歌手引退って謎が多いんです。あの人は多く語らなかったから……。

【足立】当時、「体力の限界だから」とかおっしゃっていますけど、その言葉通りにはなかなか受け取れないですよね。そこも僕なりに「こういうことだったのかな」という理由を考えました。そして、ずっと羽鳥とスズ子の関係を描いてきたその最終形として、自分なりのスズ子の引退の理由を作りました。

【佐藤】実は、最後の歌合戦の後もレコーディングをしたりしていますし、服部先生が立ち上げたミュージカル「凡凡座」お祝いに駆けつけたり参加したりと、ステージで歌うこともありました。つまり完全に引退したわけじゃないけど、気持ちの中で幕引きしたのは、やはり最後の紅白でしょうね。

【足立】あくまでフィクションとして、ですが、ドラマのスズ子がなぜ辞めるのかを描くのは、すごく書きがいがありましたね。

【佐藤】そういった足立さんの新しい解釈があって、笠置シヅ子が再注目され、これまではめったに上映されることがなかった映画の出演作が上映されたり、放送されたりするようになったのは、本当にうれしい。4月以降もCS放送で特集がありますから、当時の貴重な映像を見てもらえるとうれしいです。

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足立 紳(あだち・しん)
脚本家、映画監督
1972年、鳥取県生れ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書きはじめる。松田優作賞受賞作「百円の恋」が2014年に映画化され、シナリオ作家協会 菊島隆三賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。2016年、NHKドラマ「佐知とマユ」が市川森一脚本賞受賞、2019年、監督・脚本を手がけた「喜劇 愛妻物語」が東京国際映画祭最優秀脚本賞受賞。小説の新作に『春よ来い、マジでこい』(キネマ旬報社)がある。

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佐藤 利明(さとう・としあき)
娯楽映画研究家、オトナの歌謡曲プロデューサー
1963年、東京都生まれ。笠置シヅ子、榎本健一、古川ロッパ、渥美清など、昭和の喜劇人やアーティストについてのコラムを執筆。著書に『笠置シヅ子 ブギウギ伝説』(興陽館)、『クレイジー音楽大全 クレイジーキャッツ・サウンド・クロニクル』(シンコーミュージック)、『寅さんのことば 生きてる?そら結構だ』(幻冬舎)などがある

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(脚本家、映画監督 足立 紳、娯楽映画研究家、オトナの歌謡曲プロデューサー 佐藤 利明)

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