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「あまりに頭が悪い…」少子化対策で年3.6兆円ドブに捨てる岸田首相が国民を騙す"全手口"を3分で解説

プレジデントオンライン / 2024年4月5日 11時15分

参院予算委員会に臨む岸田文雄首相=2023年3月23日、国会内 - 写真=時事通信フォト

岸田首相が打ち出した毎年3.6兆円の少子化対策だが、効果は期待できないとの声が大きい。なぜなのか。昭和女子大学特命教授の八代尚宏さんは「結婚した夫婦の出生率は1.9台だが、未婚者を含めて計算すると1.2台へ急落する。少子化対策のキモは子育て世代への金銭給付拡充ではない。結婚・出産しても女性が働きやすい環境づくりや未婚率改善が優先されるべきだ」という――。

■子育て世帯に金銭給付しても子供は増えない

岸田文雄総理が打ち出した「異次元の少子化対策」のために、新たに必要な財源の規模は、毎年3.6兆円にも達する。財源の内訳は、既存の予算の組み換えで1.5兆円、歳出改革で1.1兆円、そして健康保険などに追加して徴収する「子育て支援金制度」の創設で1兆円(公費も含めれば1.3兆円に増加)としている。

しかし、この「少子化対策」と子育て支援金制度の導入には、以下のような3つの大きな問題点がある。

第1に、肝心の少子化対策としての効果のあまりの小ささである。この対策の柱は1.7兆円の児童手当をはじめとした金銭給付拡充策で、児童手当受給世帯の所得制限の撤廃、年齢制限の緩和、第3子以降の手当額の倍増などが含まれる。

こうした金銭給付は、子育て世帯に歓迎されるだろうが、それが出生数の増加にどこまで結びつくのかは不明だ。そもそも少子化の大きな要因のひとつは、家族の所得水準の高まりで、「少なく産んで大事に育てる」ために、一人当たりに多くの教育費を費やすという、人々の行動の結果である。

このため児童手当の額が増えても、既存の子どもの教育費などの増加に回ることとなり、新たな子ども数の増加にはつながりにくいという過去の研究も少なくない。1.7兆円もかけて、ろくな効果はなし。そんな恐れがあるのだ。岸田首相の施策は率直に言って「ピントがずれている」「あまりに頭が悪いと言わざるを得ない」といった声はSNSに溢れている。

第2に、結婚した夫婦の合計特殊出生率は最近でも1.9と高く、人口を維持するために必要な2.1の水準とは差があるものの、大きく下回っているわけではない。一方で全国平均の出生率が1.2台と低いのは未婚者が持続的に増えていることによる。つまり、既婚女性が1.2人しか出産していないのではなく、この数値は分母が15~49歳の全女性で未婚者も含むため自動的に減ってしまうわけだ。

未婚率の増加の大きな要因のひとつとして、女性の社会進出の高まりにもかかわらず、慢性的な残業や転勤など、旧来型の専業主婦を暗黙の前提とした企業の働き方は以前より若干改善されつつあるが、その「基本」がいまだに維持されていることを指摘しないわけにはいかない。

そうした旧態依然とした仕組みのため、女性がばりばり働きキャリアを追求しようとすれば、結婚・出産を先送り、もしくは断念するという結論にいたるケースが増える。岸田政権は、育児休業制度といった分野の改善には熱心だが、一部に反対のある専業主婦を優遇する税・社会保険制度の改革や、主として若年層の共働き世帯が希望する夫婦別姓選択などの導入の制度改革には消極的である。

そのような社会体制の中で、やむなく結婚を諦め、出産の機会を逸する女性は少なくない。子供が生まれた家庭へのサポートだけではなく、婚姻率を高める政策こそ望まれているが、岸田首相にはそのポイントが何もわかっていない。もしくは無視している。

■「国民一人当たり平等に500円」負担を少なく見せるウソ

第3に、最大の問題は、健康保険料に上乗せして徴収する子育て支援金制度にある。そもそも健康保険は疾病のリスクに備える社会保険であり、この保険料に負担金を上乗せすることは健康保険制度の本来の目的から外れており、単に「取りやすいところから取る」ものに過ぎない。

この健康保険料への乗せ分は、子どもを産み育てる現役世代の負担が大きく、高齢世代の負担は小さい点で不公正である。政府の試算(2028年度=令和10年度見込額)では、後期高齢者の健康保険料への上乗せ分は月350円となっている。

これに対して、被用者保険平均(サラリーマンやその扶養家族を対象にした健康保険)の上乗せ分は500円。それも保険料を払っていない被扶養者まで分母に入れて、見かけの負担額を低く見せた数字である。実際に保険料を負担している被保険者一人当たりでは月800円増と後期高齢者の倍以上になる。

また、被用者の場合、これに同額の企業負担分が加わり、合わせて1600円増になる(図表)。企業にとって労働者の社会保険料の引き上げは、賃金コストの増加であり、将来の雇用削減や賃上げ抑制の形で、結果的に労働者の負担増になる可能性が大きい。これらを無視して、「国民一人当たり平等に500円」という政府の説明は、意図的に被用者などの負担を少なく見せようとする、政府の作為的な操作の結果である。

【図表】支援金負担額と平均健康保険料
出所=こども家庭庁資料により作成

医療保険財政自体についても、すでに前期高齢者納付金(※1)、後期高齢者支援金(※2)、介護納付金(※3)などの負担が重なり、すでに被保険者の保険料負担は大きい。その上に、今回の子育て支援金の上乗せは、医療保険財政を一段と圧迫する要因となる。

※1 健康保険組合が国へ65~74歳の前期高齢者の医療費のために納付
※2 後期高齢者(75歳以上)の医療費の一部分を74歳以下が支援
※3 40~64歳(介護保険の第2号被保険者)が加入する健康保険で保険料を納付

企業の健保組合などの保険運営者は、子育て支援金の「集金」を求められる一方で、その資金の規模や使い方は、子ども家庭庁が決め、口出しはできない。これでは健保組合などにとって実質的な税金と同じ仕組みだ。本来の保険者機能が発揮できず、有効な少子化対策に結びつけられない。

政府は、児童手当の大幅な拡充など、多額の費用を要する一方で、少子化抑制の効果に疑問がある政策の推進のために、肝心の子育て世代にも多くの負担を課すことは完全な筋違いである。それだけでなく、実質的な保険料負担が増えるにもかかわらず、仮に歳出改革と賃上げが実現するという仮定の下で、国民の「実質的な追加負担は生じない」とするのは、国民を愚弄する詭弁である。

なぜなら肝心の歳出改革の具体像は明確ではなく実現可能性に乏しい。また今年の春闘の高い賃上げ率は、今後の物価上昇と相殺され、実質ベースではほとんど増えない可能性も大きい。本来、実質賃金の引上げに不可欠な、生産性向上のための努力もほとんど行われていないからだ。

仮に、この少子化対策が、真に必要な実効性ある内容なら、そのための負担増は、高齢世代も平等に負担する消費税が望ましい。これから子どもを産む世代に、より多くの負担を課す少子化対策は本末転倒と言える。

出生率の低下は日本だけでなく、韓国、台湾、シンガポールといった東アジアの国々にも共通した現象である。いずれも過去の高い経済成長の結果、女性の急速な社会進出と家族の所得水準が大きく高まった点では、日本との共通性は大きい。女性の継続就労と子育ての両立が容易となるような働き方の実現や、夫婦別姓選択が許容されないなど、他の先進国と比べた周回遅れの旧来の制度の抜本的な改革が必要とされる。

なお、本稿は制度・規制改革学会の提言にもとづいたものである。

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八代 尚宏(やしろ・なおひろ)
経済学者/昭和女子大学特命教授
経済企画庁、日本経済研究センター理事長、国際基督教大学教授、昭和女子大学副学長等を経て現職。最近の著書に、『脱ポピュリズム国家』(日本経済新聞社)、『働き方改革の経済学』(日本評論社)、『シルバー民主主義』(中公新書)がある。

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(経済学者/昭和女子大学特命教授 八代 尚宏)

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