「デタラメにやる」は「テキトーにやる」ではない…タローマン監督が「おもしろ映像に笑いは不要」という理由
プレジデントオンライン / 2024年4月20日 16時15分
※本稿は、『ネガティブクリエイティブ つまらない人間こそおもしろいを生みだせる』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「現場ウケ」を狙ってはいけない理由
おもしろ映像を撮っていると、よく「撮影現場もさぞかし愉快なんでしょうね」と思われがちなのですが、僕の撮影現場はさほどおもしろおかしい場所ではありません。むしろ、現場スタッフのウケをあまり信用しないように気をつけています。
僕自身が、映像を見ているときに内輪の盛り上がりが垣間見えると冷めてしまうことが多く、そうならないようにしたいという気持ちが強いのかもしれません。そういう映像を見ると、なんだか自分が蚊帳の外にいるようなネガティブな気持ちが生まれてしまうのです。
あくまでも僕らの目的は、映像を見た人がおもしろいと思ってくれること。だから、現場の内輪ノリで一人よがりな“おもしろさ”に陥ってはいけないと考えています。ここは、僕が思う「映像がなぜおもしろいと感じられるのか」という創作論にも繋がってくるので、丁寧に説明しましょう。
■「まじめに」と頼んで俳優に怒られることも
僕が好きなおもしろさは、「登場人物たちは至って真剣にやっているのに、それを外から見ると、彼らのまじめさが滑稽に見える」というものです。
だから演者の方々にもまじめな演技を求めます。しかし、演者は作っているものがおもしろ映像だと知ると、わざとコメディっぽいおどけた表情や演技をしがちです。「ここはまじめにやってほしいです」と伝えても、なかなかわかってもらうのは難しい。
あるときは、変顔を抑えてほしいと頼んだ俳優さんに「(某有名監督)さんの現場ではこの演技で褒められた! 現場のスタッフみんなも笑っているじゃないか!」と怒られたことすらあります。
■大切なのは「変なことを、大まじめにやる」
確かに過剰にコメディっぽい演技をすることでおもしろくなることもあるとは思います。僕自身、変顔や勢いで押し切るタイプの芸人さんのネタは大好きです。でも、僕の創作は「他人から見たら変なことを、大まじめにやる」ことで生まれるおかしみを大切にしたいのです。
岡本太郎の言葉にも「でたらめをやってごらん」とありますが、「でたらめ=コミカル、雑、テキトー」ではありません。でたらめをやるからこそ、真剣にならなくちゃいけないと僕は考えます。
つくり手の「こうすればウケるんでしょ」という浅はかな意図は得てしてバレるし、見ている人を白けさせます。僕が「まじめにつくったのに、変なものになってしまった」を目指している理由はそこです。つくっている側がとことんまじめにやっているんだけど、そのまじめさが滑稽に転じてしまう。そういうユニークさが僕は好きなのです。
極論を言えば、笑わせなくたっていいのです。僕の根っこにあるのは「変な世界をつくりたい」ということ。それを実現した結果、見た人の心に引っかかり、そしておまけに笑ってもらえたら最高です。
■『TAROMAN』は本気で作ったからおもしろい
たとえば『TAROMAN』は、『ウルトラマン』をパロディにしたおもしろコメディではなく、「昭和の特撮の世界で、岡本太郎をモチーフとしたヒーローをまじめにつくったもの」が、結果的になんだか滑稽にも見える……というものを狙ってつくりました。
また、「石田三成CM」も、「昭和の時代に滋賀県の職員の方々がまじめにつくったCM」が、なんだか味がありすぎておもしろい……という見え方を狙っています。
どちらも、つくり手の悪ふざけ感が前面に出ていたら、見ている人にはおもしろさよりも不快感が勝ってしまったかもしれません。あくまで「中の人は本気でそれをやっている」と見せるのが、そしてつくり手自身が本気でやることが重要なのだと思います。
その本気度が、つくり込みの細かさやリアリティにあらわれてくる。そこをまじめにやることで、にじみ出るおもしろさが生まれるのだと思います。
■ネガティブな人間が映像を編集する苦悩
がんばって撮影した映像を、さあ編集するぞ! とまずはコンテ通りに簡易に繋いだものを見たとき、僕は「あれ、思ったよりぜんぜん良くない……」と毎回落ち込みます。なぜか必ず毎回です。現場で良い画が撮れたと思っていた場合でも関係ありません。
おそらくネガティブなチェック目線が災いして、カットごとに今からかけるべき修正を何箇所も発見しているうちに、その膨大な量に脳が悲鳴をあげているのでしょう。
撮影現場でほぼ合成や加工が必要ないくらいの完成形を目指して撮影し、あとはその撮ったものを並べるだけ……というスタイルの監督ならそうはならないでしょう。それはさながら、最上級の海鮮を、切れ味の良い包丁でさばいて盛りつけた刺身のよう。素晴らしい匠の技であり、憧れます。
しかしながら、僕のつくるものは素材を切ったり焼いたりするどころか、怪しいソースまでかける始末。とにかく編集であれやこれやと味をつけてしまうスタイルなのです。現場のスタッフには申し訳ないとすら思うレベルで味をつけていきます。
■CM撮影後に重要なシーンを急ごしらえ
これは僕のネガティブな人間性が影響しており、とにかくあとから小ネタを足してでも点数を上げなければ、という強迫観念に近いものです。「なにも小ネタがないカット恐怖症」なのです。アニメーションを描き足したり、テロップを入れたりして、なんとかおもしろくできないかとあれこれ探り続けます。
「足す」どころか、なにもないところからつくりだすということも平気でやります。
「石田三成CM」では、撮影後に石田三成の「三献(さんこん)の茶」のエピソード(寺小姓だった頃の三成が、羽柴秀吉に一杯目はぬるいお茶を茶碗なみなみに、二杯目は少し熱めのお茶を半分ほど、三杯目は熱いお茶を小さい茶碗で出した、という逸話)を入れるのを忘れていたことに気づき、慌てて会社で「三献の茶」という架空のお茶のラベルをIllustratorでつくり、プリントして空のペットボトルに貼りました。
そして給湯室から小道具の湯呑みを持ってきて、会議室のテーブルの端っこでiPhoneで撮影した素材をつくってCMになんとか入れ込みました。
■TAROMANの「昭和風」が完成するまで
普通であれば、CM制作会社のプロデューサーから美術さんに小道具を依頼し、撮影スタッフとスタジオを再度予約して……という流れが必要です。
なので、「今からそのカットを足すのはあきらめましょう」となるところなのですが、自分でつくってしまえば大丈夫、というむちゃくちゃなやり口で小ネタを足し続けました。だって、どうにも不安なんですから。
合成用のグリーンバックで撮った素材の場合は、さらに延々と背景をいじり続けます。
『TAROMAN』のときは、人物の撮影後も、古い写真や、会社に置いてあるミニチュアなどを撮影してはPhotoshopで合成し、それらしき昭和風の背景をつくり続けました。
その上、最後は、でき上がった映像をVHSに一度通してわざと画質を劣化させたりもします。せっかく直火でつくった料理をレンジでチンするようなありさまです。
■ギリギリまで手を入れた結果、個性になる
正直、僕の場合は手を入れすぎなのかもしれません。ただ、それが結果的に作風にもなっているし、これからもこういうつくり方を続けていくしかないんだろうなと思います。
そんな感じで、常にギリギリまであれこれいじっては「なんとか間に合った……」と思いながら納品している日々です。作業中はいつも「こんなんじゃスケジュール通りに終わらないよ」と頭を抱えていますが、結果的に間に合っているので、まあ良しとしています。
締め切りがなければ、僕はいつまでも手を動かし続けてしまうでしょう。そういう意味ではデッドラインに感謝もしています。
こうやって少しずつ映像ができていく過程は大変ですが、とても楽しいものなのです。
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映像作家、クリエイティブディレクター
1979年、愛知県出身。武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン科卒。電通、フリーランスを経て、GOSAY studios設立。主な作品に、『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』、「石田三成CM」、「サウンドロゴしりとり」、「造船番長」、「大嘘博物館」など。考え抜かれたくだらないアイデアで遊び心あふれたコンテンツを生みだし話題を集める。ACC賞グランプリ、TCC賞、ADC賞、カンヌライオンズ銀賞、ギャラクシー賞、放送文化基金賞など、国内外の受賞多数。著書に『ネガティブクリエイティブ つまらない人間こそおもしろいを生みだせる』(扶桑社)がある。
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(映像作家、クリエイティブディレクター 藤井 亮)
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