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安倍派幹部は処分しても、自分の責任は問わない…岸田首相が「国民に判断してもらう」と言い放った背景

プレジデントオンライン / 2024年4月10日 13時15分

記者団の取材に応じる岸田文雄首相=2024年4月4日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■安倍派の塩谷、世耕両氏に離党勧告

自民党は、派閥の政治資金規正法違反事件をめぐって、4月4日に党紀委員会を開き、安倍派元幹部の塩谷立元文部科学相、世耕弘成前参院幹事長を離党勧告などとする処分を決定した。

事前の予想よりも処分がやや重くなったのは、二階俊博元幹事長が3月25日に次期衆院選に出馬しないと表明し、自ら政治責任を取ったこと、各種世論調査で安倍派元幹部に厳しい処分を求める声が上がり、岸田文雄首相(自民党総裁)が党内の反発も限定的だと踏んだことによるのだろう。

首相は今回の処分決定で政治責任問題に幕を引きたい考えだが、処分の有無や軽重をめぐる駆け引きを通じ、9月の総裁選に向けた党内抗争が始まっている。首相は総裁再選を目指し、4月28日投票の衆院3補選で「1勝」をもぎ取りたい考えだが、情勢は明るくなく、政権浮揚の兆しはうかがえない。

■「自らの政治的責任を明らかにする」

二階氏が衆院選不出馬を表明した3月25日は、岸田首相が処分検討に向け、塩谷氏ら安倍派元幹部4氏に再聴取を開始する26日の前日というタイミングだった。

二階氏は党本部での記者会見で「派閥の政治資金問題が政治不信を招く要因となったことに、国民に深くおわび申し上げる。自らの政治的責任を明らかにするべく、岸田総裁に次期衆院選に出馬しないことを伝えた」と明らかにした。

重い決断だが、これで処分を免れるという計算も入っているだろう。結果的に誰一人自発的に責任を取ろうとしない安倍派元幹部への心理的圧力になったに違いない。

二階氏に関しては、秘書が資金管理団体の政治資金収支報告書に二階派からのパーティー収入3526万円(党内最高額)を記載しなかったとして略式起訴され、有罪が確定した。同派の元会計責任者はパーティー収入など計約2億6400万円の収入を派閥の収支報告書に記載しなかったとして在宅起訴されている。

これについて、二階氏は記者会見で「政治責任が全て監督責任者である私自身にあるのは当然だ」と述べたが、自身にかかわる政治資金問題の内容については説明を避けた。

■「その歳来るんだよ。ばかやろう」

二階氏は、区割り変更に伴う次期衆院選の和歌山2区の後継候補については「地元の判断に任せる」と述べるにとどめた。

毎日放送記者から自身の年齢(85歳)も不出馬の理由に入るかと問われ、「年齢に制限があるか? お前もその歳来るんだよ」といら立ち、横を向いて「ばかやろう」と囁いた場面は、テレビ報道などで伝えられた。

二階俊博(江崎事務所にて)
二階俊博元幹事長(写真=依田奏/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

衆院当選13回、経済産業相や総務会長を歴任し、2016年8月から歴代最長の5年2カ月も幹事長を務めた実績がある政治家が、政治責任を取るとの決断に対する質問としては粗雑かつ非礼というものだろう。

岸田首相は、25日の参院予算委員会で、二階氏から不出馬の意向をその日朝に伝えられたとし、「熟慮の上の判断だろうから、重く受け止めると申し上げた」と明かした。予算委終了後には二階氏を党本部に訪ね、「党の功労者として、今後もご指導ください」などとねぎらい、長きにわたった議員生活の思い出話に耳を傾けたという。

首相にとっては、これまでの党への貢献を考えれば、二階氏の処分が最大の難題だっただけに、不出馬表明に安堵したというのが本心だろう。首相はその後、記者団に「自民党の再起を強く促す出処進退であると、重く受け止めた」と高揚気味に語っている。

■「OBになってもっと自由に活動される」

実は、二階氏のような実力者なら、議席バッジを外しても、政治活動にそれほど影響が及ばない。森喜朗元首相、古賀誠元幹事長、故青木幹雄元官房長官らが議席を持たずとも、個人事務所に政治家や官僚、陳情客が訪れ、政局や政策に政治力を行使したように、二階氏も事実上、二階派を率い、国土強靭化などの政策に関与していくのだろう。

この点、二階派の事務総長を務めた武田良太元総務相は3月27日のBS日テレ番組で、二階氏について「365日政治を考えている」「卒業され、OBになってもっと自由に活動されるフィールドが広がると思う」と語っている。

二階氏は、今回の処分を免れることによって、次期衆院選まで議席を保ち、党和歌山県連会長として、衆院和歌山2区の後継者選びにも発言力を持つ可能性がある。二階氏は、参院和歌山選挙区選出で衆院への鞍替えを広言している世耕氏を警戒してきた。二階氏が三男で秘書の伸康氏を後継者にしたい思惑があるのに対し、世耕氏は二階氏が引退し、子息にバトンを渡すタイミングで衆院選に出馬する意向を示していたからだ。

今回の不出馬表明は、その時点で世耕氏に対して重い処分が予想されており、仮に次期衆院選に非公認で出馬すれば、反党行為だとして除名され、無所属で当選しても、復党まで長い道のりになることも、判断材料になったのではないか。

■下村、西村、高木3氏に党員資格停止

4月4日夕の党紀委員会では、政治資金収支報告書への不記載額が2018~22年の5年間で500万円以上だった安倍、二階両派議員ら39人が処分され、離党勧告(2人)、党員資格停止(3人)、党の役職停止(17人)、戒告(17人)の4段階で行われた。

離党勧告は、離党が必要で、拒めば除名になるが、将来の復党はあり得る。党員資格停止は、3カ月~2年の期間で実施され、その間は総裁選への出馬や投票ができない。選挙区支部長を解任され、政党助成金も受け取れない。選挙の公認を得られない。これに対し、党の役職禁止は、期間が3カ月~2年でも、総裁選へ参加でき、選挙で公認もされる。戒告は、文書か口頭で注意されるにとどまる。

党紀委は、塩谷、世耕両氏に離党勧告、同じ安倍派元幹部の下村博文元文部科学相、西村康稔前経済産業相、高木毅前国会対策委員長の3氏に党員資格停止の処分を下した。

下村、西村両氏は、安倍晋三元首相が不正還流を止めるよう指示した2022年4月の会合と、安倍氏死去後の対応を協議した同年8月5日の会合に出席し、不正還流を復活させない「立場」にあったために政治責任は免れず、資格停止は1年となった。高木氏は直近まで事務総長を務めていた責任を問われ、資格停止は半年とされたという。

自民党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■武田氏を重い処分にと麻生氏が主張

安倍派事務総長経験者の松野博一前官房長官と二階派事務総長だった武田氏は、党の役職停止1年とされた。安倍派5人衆の1人だった萩生田光一前政調会長は、不記載額が2000万円以上だったとして同じく党の役職停止1年となった。相対的には軽い処分で、今後の政治活動にもそれほど支障はない。

このほか、二階派元幹部の林幹雄元幹事長代理、平沢勝栄元復興相ら不記載額が2000万円以上の6人が党の役職停止1年、1000万円以上2000万円未満の8人が6カ月とされ、不記載額1000万円未満の17人は戒告とされた。党紀委員会の対象とならなかった500万円未満の45人は、幹事長の厳重注意となっている。

今回の処分に当たって、党執行部の協議が紛糾したのが、武田氏への処分内容だった。4月2日の協議で、麻生太郎副総裁が「派閥の事務総長は党員資格停止だ」と主張、高木氏と同じ処分を求めた。麻生氏は武田氏と敵対関係にあるが、二階氏に近い森山裕総務会長が「安倍派は二階派よりも悪質だ。二階さんは引退を表明している」と指摘し、武田氏については党の役職停止が妥当だと反論したとされる。最終的には、首相が4日の党紀委員会直前に党の役職停止と結論づけたという。

萩生田氏をめぐっては、麻生氏と茂木敏充幹事長が軽い処分を求め、首相の判断もあって、党の役職停止に落ち着いたが、近い将来の復権を見据え、次期総裁選に向けて「貸し」を作ったのではないか、との憶測も出ている。

協議に入る前日の4月1日には、茂木氏が処分対象者39人のリストを報道陣に配布した際、茂木派を離脱した関口昌一参院議員会長が参院11人を含むにもかかわらず、事前に知らされなかったとして反発し、茂木派「分裂」の余波を感じさせられる場面もあった。

■「還流再開の判断に森氏が関与した」

岸田首相は今回の処分をどう考えたのか。首相にとって、安倍派元幹部らの処分を軽くすれば、世論の反発を招き、4月の衆院3補選やその後の国政選挙に不利に働く。重くすれば、今後の政権運営や次期総裁選で安倍派や二階派からの協力や支持が得られなくなるなどの懸念があるとされた。

首相は3月26、27両日、茂木、森山両氏とともに、都内のホテルで塩谷、下村、西村、世耕4氏から相次いで再聴取した。4氏は不正還流が続いた経緯について「全く分からない」と答えるばかりで、政倫審での質疑の域を出なかったという。こうした態度には安倍派を含む党内からの不満も大きく、首相が塩谷氏らを重い処分にしても、党内に大きな亀裂は走らないとの判断につながっている。

これに関連し、日本テレビは27日、4氏の中から「還流再開の判断には森元首相が関与していた」との新たな証言があったと報じた。だが、首相が4月5日の衆院内閣委員会で「今週頭に電話で連絡を取り、話を聞いた」「具体的な森氏の関与を確認することは何もなかった」と説明したことで、真相は解明されていない。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/oasis2me
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首相の背中を押したのは、各種世論調査で安倍派元幹部に対し、厳しい処分を求める声が多かったことだ。例えば、3月の読売新聞世論調査(22~24日)で、岸田内閣の支持率は5カ月連続で「危険水域」といわれる2割台にとどまったが、不正還流に関係した安倍派元幹部らに対し、厳しい処分をするべきだと「思う」との回答が、自民党支持層で77%(全体で83%)に上り、前回2月調査から5ポイント上昇していた。

■「独裁的な党運営には断固抗議する」

処分対象者は、反発した。塩谷氏は4日の党紀委前に提出した弁明書でこう主張した。

「スケープゴートのように清和研(安倍派)の一部のみが、確たる基準や責任追及の対象となる行為も明確に示されず、不当に重すぎる処分は納得がいかず、到底受け入れることはできない。独裁的・専制的な党運営には断固抗議する」

塩谷氏は5日には記者会見を開き、「党全体の責任と言うなら、総裁の責任はあると思う」と述べ、岸田首相が処分対象とならなかったことに怒りを露わにしたうえ、党紀委の処分を不服とする再審査の請求を検討する意向を示したが、最終的に離党は避けられまい。

世耕氏は4日夜、離党届を提出し、受理された。記者団には「当時、参院清風会(参院安倍派)会長であった私が、政治的責任を取るべきであると考え、今回は弁明書を提出することもせず、決定に従って離党することを決断した」と述べたが、安倍派以外からは同情的な声はほとんど聞こえてこない。

世耕氏に関しては、関西テレビが5日、処分決定前に和歌山県内の自治体の首長に電話で「無所属で衆院の方に出る」と伝え、次期衆院選で和歌山2区に鞍替え出馬する意思を示したと報じたが、世耕事務所は「全く事実無根」とのコメントを出している。

■「政治改革の取り組みをご覧いただく」

首相は4日の党紀委後、記者団に対し、自らを処分の対象外にしたことについて「私自身は個人として不記載がなく、宏池会(岸田派)の不記載は事務疎漏によるものだ」と弁明するとともに、自らの政治責任については「政治改革に向けた取り組みをご覧いただいたうえで、最終的には国民、党員に判断してもらう立場にある」と述べ、最終的には解散・総選挙で国民に、総裁選で党員の審判を仰ぐ考えを明らかにした。

永田町に緊張感が走った。立憲民主党の安住淳国会対策委員長が6日、宮崎市内で記者団に「国民に判断してもらうと言ったんだから、解散・総選挙で信を問うてもらうしかない」と応じ、日本維新の会の馬場伸幸代表も同日、長崎市内の会合で「首相に意思表示するには選挙しかない」と述べるなど、「6月解散説」が取りざたされてきている。

だが、首相が解散の前提とする政治改革は、政治資金の透明性や議員の罰則強化を図る政治資金規正法改正をめぐる与野党調整が容易ではなく、近く設置される衆参両院の政治改革特別員会での議論は見通せない。

国民の判断をまず問う衆院3補選は、自民党の0勝3敗となれば、「岸田降ろし」が始まりかねない。自民党は長崎3区で不戦敗を選択し、島根1区でも擁立した元財務官僚の苦戦が伝えられている。東京15区は独自候補をあきらめ、小池百合子都知事が擁立する乙武洋匡氏(ファーストの会副代表)に相乗り推薦せざるを得ないが、過去の女性問題に対して党内に抵抗があるほか、公明党も自主投票に回る方向で、「1勝」をカウントできるかどうか、危うくなっている。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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