「宇宙人」は存在するが、地球に攻めてはこない…天才物理学者がそう断言する「マルチバース」という最新理論
プレジデントオンライン / 2024年4月16日 10時15分
※本稿は、野村泰紀『多元宇宙論集中講義』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■「宇宙の果て」には一体何があるのか
「マルチバース」とは、単純に言えば、「我々が宇宙だと思っていたものが、宇宙のすべてではなかった」という話です。
ただ、その話をするには、そもそも我々が何を「宇宙だと思っていた」のかをはっきりさせなくてはいけません。このように言葉の意味をはっきりと定義するというのは、科学の話をするときにはとても大切なことです。
例えば宇宙をどんどん進んで行って、最後に「果て」みたいなものがあったとしましょう。そしてその先にはなにか緑色のゼリーみたいなものが広がっていたとします。これをもって、宇宙の果ての外側は「緑色のゼリーだった」と言うことはできるかもしれません。しかし、もしもその緑色のゼリーも含めて「宇宙」と呼ぶことにすれば、言葉の定義からして宇宙の「果て」も「外」もなくなってしまいます。
■地球は広大な宇宙の中のちっぽけな存在
また、宇宙が複数、例えば2つ、3つあります、という話にしたって、その2つあるもの、3つあるものをすべてひっくるめて「宇宙」と呼ぶのだとしたら、これまた言葉の定義からして宇宙は一つしかないということになります。だとすれば、宇宙がたくさんあるという意味のマルチバースという言葉自体、意味を成さなくなってしまうでしょう。
だから、何をもって「宇宙」とするのかを、まずは決めておく必要があるのです。
我々の住む地球という星が、太陽系にある数ある惑星のうちの一つにすぎないことは、コペルニクスやガリレイの時代から知られています。そして、その中心にある太陽も銀河系にある無数の恒星のうちの一つにすぎず、それどころか、その銀河系も数多く存在する銀河系の中の一つでしかなく、それがたくさん集まった銀河団さえも一つではないことも、20世紀の初頭にはわかっていました。
■宇宙の構造は平均化すれば「ほぼ一様」
さらにここ100年の劇的な物理科学の進歩は、宇宙が膨張していることや、どこまで行っても変わることなく同じ構造が繰り返され、観測的にはほぼ一様であることを明らかにしています。
この「構造が観測的に一様」というのは、宇宙を大雑把に見たときの話です。もちろん、星がたくさん集まっている銀河の中の物質の密度は総じて周りより高いですし、銀河と銀河の間にはほとんど何もないので、そっちの密度はぐっと低くなります。しかし宇宙はバカでかいですから、グーッと引いた遠目で見ればそういった細かな密度の違いは均(なら)されてしまいます。
この意味で、宇宙の全体の形とか、全般的な性質とか、その歴史などについて論じる場合には、「平均化すればどこでもほぼ同じ」、つまり一様であると言っても差し支えがないのです(図表1)。
■科学者がマルチバースを議論し始めた理由
また、このように観測的に確認された宇宙はどこでも同じ法則に従って動いているように見えます。例えば、私たちの周りの物質はみな原子核や、その周りに存在する電子などからできていますが、これはアンドロメダ銀河(地球から約250万光年の距離に位置する肉眼で見えるもっとも遠い天体)や、それよりもっと遠い領域でも同じです。また、これらの原子核や電子の性質、たとえば質量なども、この一様な宇宙のどこでも同じなのです。
いずれにしてもこれが、ここ100年くらいのサイエンスが作り上げてきた宇宙の描像です。言い換えるならこれが「我々が宇宙と呼んでいる領域」です。
ところが、宇宙についていろいろなことがわかってくるにつれ、ここまで見てきた構造がすべてだとしてしまうと、どうもしっくりこないというか、うまく説明できないことが出てきました。
そうした経緯があって「我々が宇宙と呼んでいる領域」、もっと言えば、「我々が全宇宙だと思っていた領域」以外にも世界はあるのではないか、つまり別の宇宙ともいうべき領域があるのではないかというマルチバース宇宙論が、サイエンスの世界で真剣に議論され始めることになったのです。
■「別の宇宙」にもなんらかの生命体がいる
よく講演などで受ける質問の一つに「宇宙人は存在しますか?」というものがありますが、これに対するマルチバース宇宙論の答えは「物理学的には」明快です。
「我々の宇宙」も空間的に無限で、しかも「我々の宇宙」の外にある別の泡にも「我々の宇宙」的なものがあるわけだから、そこになんらかの生命体がいるのは必然です。
ただ、それが「宇宙人」なのかと言われたら、ここでも何をもって「宇宙人」なのかという話になってきます。
「別の宇宙」に住む生命体を「宇宙人」と呼ぶのであれば、「別のオレ」であってもそれは宇宙人ですから、量子力学的効果で分岐していく並行宇宙には、その宇宙人とやらがあちこちに住んでいる可能性は高いです。
■別の宇宙から我々の宇宙に来るのはほぼ不可能
ただ、よく漫画などで描かれたりする、我々人間とは明らかに違う姿形の生命体を「宇宙人」とするのなら、それは生物の進化の問題であって、そのためには別の条件も大きく変わる必要がありますから、「別のオレ的宇宙人」よりは可能性は減るかもしれません。
ただし私たちの住む地球上でさえ、過去には僕らから見ると怪物的な意味不明な生物がいっぱい存在していたわけですから、私たちとは全然違う知的生命体がいたとしてもまったく驚きはありません。
あと、関連した質問でよくあるのは、我々よりずっと高い知能を持つ宇宙人が、自由にいろんな宇宙を旅することができるUFOを開発して、そのうち攻めてくることはあるのか、みたいな質問です。
本書で詳しく説明していますが、この宇宙人がもし「別の宇宙」にいるのであれば、その可能性はまずないでしょう。現在の物理理論によれば、別の泡宇宙や、膜宇宙から、なんらかの生命体が我々の宇宙にやってくるということは、ほぼ不可能です。
だからもしあるとしたら、我々よりIQの高い知的生命体が「我々の宇宙」のどこかにいて、彼らが私たちの住む地球に極めて性能の良い(しかし光速を超えることはできない)乗り物でやってくるという可能性だけです。
■UFOはあくまで「未確認飛行物体」
これはもちろん絶対にないとは言えません。
しかし、これまで宇宙人が訪ねてきたという証拠は一切見つかっていないことから考えれば、近い将来にそれが起こる可能性は低いと考えるのが常識的でしょう。
ちなみに、米航空宇宙局(NASA)はそういう証拠をすでに見つけているのだが隠している、というような言説は「トンデモ」説と言って構わないかと思います。
実際、NASAはUFOの目撃談に関する公式見解を発表したりしていますが、彼らの言うUFOとはあくまでも「未だに素性が確認できない飛行物体」のことであって、別に宇宙人の乗り物を意味するわけではありません。誰かが飛ばしたドローンかもしれないし、どっかの国が飛ばした何かかもしれない。
■「宇宙人の襲来」はあまり心配しなくて良い
いずれにしても、宇宙を持ち出すまでもなく地球上のどこかから飛んできたものだと考えている専門家のほうが圧倒的に多いですし、NASA自身もはっきりと、UAP(未確認空中現象/UFOと同義で使われる言葉)が地球外起源である証拠は見つかっていないと言っています。
いずれにしても、もしマルチバース理論が正しかったとしても、「宇宙人が攻めてくる」可能性がマルチバースでなかった場合にくらべて上がるわけではありません。
なので、そのようなことはあまり心配しなくて良いのではないかと思われます(個人的には、それよりも人間同士の争いのほうがよっぽど心配です)。
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カリフォルニア大学バークレー校教授
1974年、神奈川県生まれ。ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員、理化学研究所客員研究員を併任。主要な研究領域は素粒子物理学、量子重力理論、宇宙論。1996年、東京大学理学部物理学科卒業。2000年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。米国フェルミ国立加速器研究所、カリフォルニア大学バークレー校助教授、同准教授などを経て現職。バークレー理論物理学センター長。著書に『マルチバース宇宙論入門 私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか』(星海社)、『なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論』(講談社)など。
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(カリフォルニア大学バークレー校教授 野村 泰紀)
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