高校の授業料無償化に便乗「ウチも中学受験を」と考える親子は痛い目を見る…中受のプロがそう断言するワケ
プレジデントオンライン / 2024年4月20日 7時15分
■中学受験は金銭面以外にも負担がある
2024年度から東京都の都立・私立高校の授業料が無償になった。東京に住んでいればどの家庭も、これまでよりはるかに少ない負担で私立高校に通わせられるようになったのだ。これは子育て中の家庭には朗報だろう。
昨今、首都圏では中学受験熱が高まっている。その背景にあるのが、改革途中の大学入試に対する不安や、公立のICT環境の遅れなどだ。しかし、中学受験をすると私立の中高一貫校に通うことになり、6年間の授業料が重くのしかかる。その負担が減るのは、ありがたいことこの上ない。そして今、「6年間はムリだけど、3年間ならなんとかなりそう」という家庭が、中学受験に注目し始めている。
しかし、私は「授業料が半分に抑えられるから、中学受験をさせてみるか」という安易な発想を危惧している。なぜなら、中学受験はそれほど甘い世界ではないからだ。
中学受験をすると、お金がかかりそうというイメージを持っている人は多いだろう。確かに受験をするとなると、それを専門に教える進学塾に約3年間通うことになるので塾代がかかるし、その先の学費もかかる。その学費の半分の負担がなくなるのだから、これまで「うちの収入ではムリ……」と諦めていた家庭にもチャンスが広がったと捉えてもいいだろう。しかし実のところ、中学受験全体で見ると、金銭面の負担はほんの一つの要素にすぎない。それ以上に覚悟が必要になるのは、親である自分が子どもの受験サポートをできるかどうかだ。
■親のサポートがなくては合格できない
わずか11~12歳の子どもが挑む中学入試は、親のサポートがなければ成り立たない受験だ。中学受験をするからには、毎日の家庭学習は不可欠だし、基礎学力はあって当たり前という前提で難しい内容の勉強をしていく。しかも、昨今の入試問題は、親たちがイメージする「暗記とパターン学習をくり返すことで鍛える」といった受験勉強のやり方が通用せず、自らの手と頭を使って考える思考型の問題へと変わってきている。
また、塾のテキストで習った内容(類似問題)がそのまま出ることはなく、今世の中で起きていることに絡めた問題や、小学生の子どもが知らない初見の内容の問題を出したりするなど、日頃からどれだけ世の中について親子で対話を重ね、身の回りのことに好奇心を持って生活をしてきたかを見る問題が増えている。
こうした問題に対応するには「何をやるか」よりも「どのように学習していくか」といったマインドのほうが重要になってくる。しかし、塾は「何をやるか」は教えてくれるけれど、「どのように学習するか」は家庭に丸投げだ。こうした事情を知らずに、ただ金銭面の負担が減るからと、中学受験に参戦してしまうと親子で痛い目に遭う可能性が高い。
■中学受験のイメージが見事に二極化している
長年中学受験の指導をしていて感じるのは、昨今の受験親は中学受験に対するイメージが見事に二極化していることだ。近年インターネットの発達によって、中学受験情報は飽和状態にある。昔は中学受験に詳しい専門家のアドバイスがある程度の道しるべになっていたが、今の時代は子供を難関校に合格させた先輩ママのブログや、現在進行中の受験パパの受験攻略インスタなど、さまざまな情報が飛び交っている。そして、それらの情報が親たちの不安を煽り、焦らせる。
こうした情報を追いかけている人は、一般的に中学受験のスタート地点と言われている4年生よりもずっと前の幼児期や低学年のうちから受験勉強らしき学習を熱心に行っている。しかし、こうした先取り学習が必ずしも受験に有利に働くとは限らない。
むしろ、早い時期から勉強をたくさんしてきた子は、遊びや家のお手伝いなど自分の体を通して体感した知識や経験が乏しく、ある時期まではアドバンテージでもその先で伸び悩むケースが多い。また、幼い頃から勉強ばかりさせられてきた子は、勉強のことになると親から口うるさく言われ、すでに勉強嫌いになっていることもある。
一方で、近年増えつつあるのが、中学受験をゆるく考えている親たちだ。
■「ほどほどの学校」でも入試レベルはかなり高い
近年、「ゆる受験」という言葉が流行っている。先に例を挙げたような、受験スタート地点より前からたくさんの勉強をやらせている家庭とは対極にある、のんびりスタート組だ。「うちは小学生の子供にそこまで勉強はさせたくない。別に難関校に入れたいわけではないし、ほどほどの学校に入れれば十分」と、4年生の後半~5年生の半ばくらいからのこのこと受験勉強を開始する。
しかしこの時期になると、大手進学塾のカリキュラムははるか先に進んでいて、入塾できないケースがあることを親たちは知らない。また、「ほどほどの学校に入れればいい」というが、その「ほどほどの学校」でも入試レベルがかなり高いということを知らない。中学受験の内容は小学校の授業で習う内容よりも難しいことは知っていても、「所詮小学生の子供が解く問題だし、たいしたことないでしょ」と高をくくっている。こうしたパターンで途中から中学受験を始めると、苦しむのは子供だ。
誇張された情報に振り回され先取り学習に走る親と、情報キャッチが薄いゆるい親。どちらにも共通して言えることは、自分が持つ「中学受験のイメージ」と、現実の中学受験が大きく乖離していることだ。
■中学受験のリアルを知る一番の方法は「入試問題を見ること」
現実の中学受験を知る一番の方法は、SNSなどの情報ではなく、実際の入試問題を見てみることだ。各学校の過去の入試問題は、何年間分かまとまったものが市販されているし、大手進学塾のホームページから無料でダウンロードもできる。
「中学受験なんて、数学じゃなくて算数だし簡単でしょ」と思っている親に多いのが、地方のトップ校出身で自分の努力によって難関大学に合格したというタイプの人。こういう人はたくさんの知識を暗記し、大量の演習をくり返し行うことで頭に叩き込むという受験勉強をしてきていることが多い。そんな人が今の中学受験の入試問題を見たら、きっと驚くだろう。「えっ? これって小学生が解く問題なの?」「どうやって答えを出すの???」と。
まずは今の時代の中学受験は、どのくらいの学力レベルが求められているかを知ってほしい。そのうえで、親である自分が子供の受験勉強を本当にサポートできるのだろうか、と冷静な目で判断してみてほしい。つまり、中学受験をするなら親の覚悟が必要だということだ。
■「正しい勉強のやり方」を促すのが大事な役割
だが、むやみに恐れる必要はない。中学受験に親のサポートは不可欠だが、親が勉強そのものを教える必要はない。でも、正しい勉強のやり方を促すことはやってほしい。正しい勉強のやり方とは「なぜそうなのか」納得感を伴った理解をさせることだ。「塾の先生がこの公式は覚えろと言ったから覚える」「問題文に時計の話が出てきたら時計算で解けばいい」といった丸暗記や受験テクニックに走るのではなく、「今何が分かっている?」「何を聞かれている?」「あと何が分かれば解けそう?」など親が問いかけをしてあげることで、子供は自分なりに考えて解く力を付けていく。
また、発達の途中段階にいる小学生に常に高いモチベーションを持って、頑張らせるのは不可能だ。やる気を見せてくれるときもあれば、まったく動かないときもあるだろう。そんな凸凹な日々でも、なんとか子供が気持ちよく勉強に向かえるように、言葉がけを工夫する必要がある。
■親子でとことん向き合う時間が財産になる
大人からすれば「受験生なんだから、勉強するのが当たり前」でも、小学生の子供にはそれが通用しない。「私が小学生のときはどうだっただろう?」「どんな言葉を親からかけられて嬉しかったかな?」「どんな言葉を投げられると嫌だったかな?」とはるか昔の自分を思い出し、子供の視点で見ることが大切だ。それはときに自分の溢れ出てくる感情をコントロールしなければならないという我慢も必要とするだろう。そうやって親子でとことん向き合った時間は、合否にかかわらず、家族にとって大きな財産になるだろう。
「中学受験はお金がかかる」「中学受験は親が頑張らなければいけない」「中学受験をする子供はかわいそう」など、中学受験に対するイメージは、人によって世界がまったく違う。だが、今の中学受験を正しく理解し、親が適切にサポートしていけば、中学受験をする価値は高いと信じている。それはお金がかかる・かからないといったことよりも、はるかに大切なことではないだろうか。
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中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由)
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