その食べ方が心臓と血管の病気を引き起こす…最新の論文で報告された「死を招く生活習慣の男女差」
プレジデントオンライン / 2024年4月18日 6時15分
※本稿は、天野篤『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。
■「弁の病気」が多い女性、「血管の病気」が多い男性
2022年9月、男性と女性では血管と心臓の疾患発症リスク因子に、「いくつかの違い」があるという研究が世界的医学誌『ランセット』で報告されました。
カナダのマックマスター大学の医師らが、35~70歳の約15万6000例を対象にした大規模前向きコホート研究(統計上、同一の性質を持つ集団への調査研究)において、さまざまなリスク因子と主な心臓血管疾患(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全の複合)の関連を解析したところ、男性は女性に比べて「脂質=コレステロール」と「うつ症状」で心血管疾患リスクと関連が強く、いっぽう、女性は「食事」との関連が強かったといいます。
もともと、心臓疾患のなかには、男性と女性で発症数や症状にはっきりした差が表れているものがあります。たとえば、高齢女性では「大動脈弁狭窄症」が多く、男性は狭心症や心筋梗塞などの「冠動脈疾患」が多いことが知られています。
こうした男女差は、年齢に応じたホルモンの働きや日頃の生活習慣の違いが要因と考えられているので、今回の研究で報告されたリスク因子に男女差があっても不思議ではありません。
■高カロリーの外食が動脈硬化を招く
なぜ、男性は「脂質=コレステロール」と「うつ症状」が心臓や血管疾患との関連が強いのかについて、はっきりしたことはわかっていませんが、いくつか理由が考えられます。
男性は20~50代はもちろん、60歳を越えても外で働いているケースが多いため、生活習慣が偏る傾向があります。昼食は外食でパパッと済ませ、夜は会合や接待で外食したり、仕事終わりに同僚と居酒屋などに飲みに行ったりする機会も少なくないでしょう。
外食は、高カロリーかつ高脂肪のメニューが多く、野菜、豆類、海藻類などがどうしても不足気味になって栄養が偏ります。そのため、コレステロール値も上がってしまうのです。
コレステロールは体を正常に保つ働きがある重要な脂質ですが、悪玉といわれるLDLコレステロールが増えすぎると、血管の壁に蓄積して動脈硬化の原因になり、動脈硬化は心臓疾患や脳卒中を招く大きなリスク因子です。
■うつ症状が心臓の負担を増やす
また、現在は女性にもいえることですが、長期にわたって外で働く人たちは、仕事の成果を求められたり、夜遅くまでたくさんの仕事をこなしたり、職場での人間関係などで大きなプレッシャーを受ける機会も少なくありません。それだけ精神的な負担も増大し、うつ症状が表れやすい環境で生活しているともいえます。
かつて、「長時間、外で働く」という存在は男性でしたが、その男性の活力にはホルモンがかかわっていました。関与する「テストステロン」というホルモンの値も20代に比べて50代では3分の2以下、60代では急速に減じて2分の1以下になり、「加齢男性性腺機能低下症候群=LOH(ロー)症候群」という男性更年期障害の認識も高まっています。これも男性のメンタル面に影響します。
うつ症状はストレスと深いかかわりがあり、自律神経のバランスが崩れて副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモンの血中濃度が増加したり、神経伝達物質が増えたりします。いずれも、過剰になると血管や血流に悪影響を与えるので、心臓に負担がかかってしまうのです。
■家庭で過ごす時間が“病根”になる?
いっぽう、女性のリスク因子として「食事」との関連が強かったのは、家庭で生活する時間が長いためだと考えられます。
近年はずっと外で働く女性も増えていますが、結婚を機に専業主婦として家庭に入る場合もまだ多いといえますし、心臓疾患の発症リスクが上がる高齢世代の女性ではさらに多いといえるでしょう。
家庭にはあれこれ食品が備蓄されていて、思い立ったらすぐに何か食べることができるので、知らず知らずのうちに食べ物を口にしている回数が多くなりがちです。お菓子やケーキといった甘いものをちょこちょこ食べているケースもあるでしょう。そうした積み重ねが内臓脂肪を増やしたり、肥満につながったりします。
家庭で過ごす時間が多い女性は運動不足にもなりやすく、なおさら肥満を招きやすいといえます。肥満は、脂質異常症、高血圧、糖尿病のリスクを高めます。これらは重なれば重なるほど動脈硬化が進行し、心臓疾患が発症しやすくなってしまうのです。
また最近、フランス国立衛生医学研究所などの研究で、人工甘味料の総摂取量が多い人は、心血管疾患のリスクがアップすると報告されています。近年は、人工甘味料を使ったスナック菓子や飲料、低カロリーのインスタント食品などが増えているので、家庭で無意識に口にしている人は注意したほうがいいかもしれません。
■性差を意識して心臓疾患を防ぐ
冒頭でお話しした研究論文では、「男性と女性で同様の心血管疾患予防戦略をとることが重要」としています。もちろんそれは大前提としたうえで、男性と女性ではかかりやすい心臓疾患が異なるケースがあり、より注意すべき生活習慣もあると意識しておきましょう。
心臓と血管の治療は日々進歩しています。2年後、3年後には、さらに進歩した治療法が出てくるのも事実です。
ですが、心臓の不調があるのであれば、将来の進歩した治療法を待つのではなく、今現在行われているベストな治療をまず受けるのが肝要です。そのうえで、5年後、10年後に起こり得る体の変化に備えておきましょう。
万一のときは、新しい治療法が必ず役に立ってきます。心臓と血管の治療では、そうした「今日の備え」がいずれ生きてくるのです。
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心臓血管外科医
1955年、埼玉県蓮田市に生まれる。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)、新東京病院(千葉県松戸市)などで心臓手術に従事。1997年、新東京病院時代の年間手術症例数が493例となり、冠動脈バイパス手術の症例数も350例で日本一となる。2002年7月より順天堂大学医学部教授。2012年2月、東京大学医学部附属病院で行われた上皇陛下(当時の天皇陛下)の心臓手術(冠動脈バイパス手術)を執刀。心臓を動かした状態で行う「オフポンプ術」の第一人者で、これまでに執刀した心臓血管外科手術数は1万例を超える。主な著書に、『熱く生きる』『100年を生きる 心臓との付き合い方』(オンデマンド版、講談社ビーシー)、近著に『若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方』(講談社ビーシー/講談社)、『天職』(プレジデント社)がある。
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(心臓血管外科医 天野 篤)
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