誰もが悩む「名前が出てこない問題」がみるみる解消…ChatGPTと「検索エンジン」の決定的な違い
プレジデントオンライン / 2024年4月28日 8時15分
※本稿は、野口悠紀雄『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■検索語が分からないと、検索エンジンで調べられない
ChatGPTは上手に活用すれば勉強するうえで理想的な手段になりうる。問題は、ChatGPTが出力する結果が常に正しいとは限らない点だ。ChatGPTの答えにハルシネーション(幻覚)があるかどうかを検証するため、検索エンジンでチェックすべきだ(*)。
*『ChatGPT「超」勉強法』第2章
これに対して、「それなら、最初から検索エンジンで調べればよいではないか。ChatGPTの出番はない」、あるいは、「いちいち検索エンジンで確かめるのは面倒だし、手間がかかる」という意見があるかもしれない。
しかし、そうではないのである。まず、検索語が分かれば、検索エンジンで調べるのは、たいした手間ではない。
それだけではない。検索エンジンには本質的な限界と問題があるのだ。第1に、検索語が分からないと検索できない。第2に、ヒットした記事に知りたい情報があるかどうか、分からない。
ChatGPTは、こうした状況を大きく変えるのである。
■検索語が分からない場合の「八艘飛び検索法」
調べたいものの名前が分かれば、検索エンジンで調べることができる。しかし、名前が分からない場合(あるいは、忘れた場合)、それを検索エンジンで調べるのは容易なことではない。
人名、会社名、地名などの固有名詞について、「名前を忘れた」という問題がしばしば生じる。また、道具や工具、部品などの名前、花の名前などが分からないことがある。「工具や部品をアマゾンで買いたいのだが、名前が分からないので買えない」こともある。
そこで、ウェブの検索技術が重要になる。「名前が分からない対象を検索するには、どうしたらよいか?」ということだ。
私は、この問題を解決するために、様々な方法を考えた。例えば、「八艘(はっそう)飛び検索法」だ。これは、何か1つのきっかけを掴み、そこを出発点として共通集合をつぎつぎに渡り歩くことによって、目的の名前が入っている集合を見出そうというものだ(*)。
*野口悠紀雄『超「超」整理法』第4章の3。
この方法はかなり有効だ。しかし、必ず検索語を見出せるとは限らない。
■検索しても、求める情報を得られるかどうか分からない
仮に検索語が分かっても、それで問題解決というわけではない。
なぜなら、その検索語を入力しても、知りたいことが含まれている適切な記事が表示されるとは限らないからだ。
検索語の候補としていろいろなものが考えられるが、それらのうちどれが適切な検索語かは、必ずしも明確ではない。本当に適切な検索語は別のものということもある。適切な検索語の選択は、決して容易ではないのだ。一般的な言葉や抽象的な言葉を検索語にしても、なかなかうまくいかない。
また、ヒットするサイトの数はかなり多く、それらをすべてチェックするのはたいへんだ。多くの人は上位に表示される数個のサイトを見るだけだが、それらの中に自分の知りたい情報があるとは限らない。
書籍やウェブ記事に書かれている内容は、筆者の問題意識に基づき、読者に向けてプッシュされて(押し出されて)くる。それが読者の要求に合ったものとは限らない。書かれている内容が自分の知りたいことである保証はないのだ。
■検索語が分からないものをどう検索するか?
こうした問題を、ChatGPTは解決してくれる。
まず、ChatGPTを使えば、検索語が分からなくても調べることができる。例えば、「ある企業について調べたいのだが、会社名を忘れてしまった」という場合、業種や所在地、歴史、規模などを説明すれば、たぶん、会社名が分かるだろう。
アマゾンで工具や部品などを買う場合、用途などを説明すれば、その名前が分かるだろう。「……のようなもの」と言ってもよいかもしれない。
この方法は、専門的な用語についても使うことができる。例えば、コンピュータ関係の言葉は専門用語が多いのだが、正確な名称を忘れてしまうことがある。そんな場合に、ChatGPTに説明すれば、たぶん、教えてくれる。
■ChatGPTが「名前が出てこない問題」を救う
こうした場合に限らず、「概要は説明できるのだが、名前が分からない」ということは、頻繁に生じる。ChatGPTに説明すれば、名前が分かることが多い。
ChatGPTでおおよその知識を得れば、何が適切な検索語なのかを明確にすることができる。それを用いて検索することによって、知りたいことが書いてある記事を効率的に見つけ出すことができるだろう。
検索語を教えてくれるという意味で、ChatGPTは非常に大きな役割を果たすのである。
いったん検索語が分かれば、詳細情報も写真も地図も得られる。ChatGPTを使えば、勉強する人が自分の知りたいことをプルする(引き出す)のが容易になるのだ。
■書籍のどこに何がどこに書いてあるか分からない問題
ChatGPTの役割は、もう1つある。それは、書籍や資料のどこを読んだらよいかが明らかになることだ。
書籍やウェブの記事は、書き手が考える体系に従って書かれている。それは、読み手が知りたいこととは、必ずしも一致しない。
書籍や資料の中に知りたいことが書かれていたとしても、長い文章の中のどこにその情報が書いてあるのかを探すのは、容易なことではない。読んでいるうちに興味を失ってしまう可能性もある。
とくに書籍については、どの書籍の、どこに知りたいことが書いてあるかを探し出すのは、かなり難しい。
■『ローマ帝国衰亡史』からピンポイントに探すには
例えば、E.ギボンの『ローマ帝国衰亡史』(ちくま学芸文庫、全10巻)を見てほしい。
この長大な書籍のどこに何が書いてあるのかを探し出すのは、容易なことではない。ましてや、自分の知りたいことがどこに書いてあるのかを探し出す、あるいは、そもそも書いてあるのかどうかを知るのは、至難の業(わざ)だ。
ローマ軍はなぜ強かったのか? それは軍事技術上の理由だけによるのではなく、退役後の兵士の処遇などの社会制度と関連していたのではないか? というような疑問に対する答えだ。
索引を用いて調べることが考えられるが、日本の書籍は索引のないものが多いので、これができない場合が多い。
教科書は、基本的には教師のガイドに従って使うことが前提にされているものだ。それに対して、ChatGPTを使うと、自分が知りたいことの答えを直接に得ることができるので、あとから書籍で確認する場合、どの書籍のどこを読めばよいかが分かる。
ウェブ記事で確認する場合もそうだ。全文を読むよりもずっと効率的に目的の情報を確認できる。
■ChatGPTは書籍や検索エンジンを使うためのガイド
以上を考えると、ChatGPTが書籍や検索エンジンに取って代わるという事態は考えられない。ChatGPTは、書籍や検索エンジンをうまく効率的に使うための手段なのだ。
例えば、ChatGPTは、書籍やウェブ記事の要約をしてくれる。それを読めば、知りたいことが特定の書籍やウェブ記事に書いてあるかどうかの判断がつく。そして、先に述べたように、書籍やウェブ記事のどこを読めばよいかが分かる。これこそが、ChatGPTの役割なのだ。
つまり、ChatGPTは、書籍を読んだり検索したりするのを助ける道具であり、ガイドであると考えるべきだ。知識を得るための最終手段と考えてはいけない。
多くの人は、ChatGPTが最終的な知識を与えてくれると期待している。しかし、最終的な知識はChatGPTによって提供されるのではなく、書籍や文献の中にある。ChatGPTは、そこに辿り着くための手段にすぎない。これまでなかった強力な方法なのだが、最終的な答えを与えてくれるものではないことを、認識する必要がある。
■「質問力」が結果を左右する
ChatGPTでは質問が必要だ。質問しなければ何も答えてくれない。
これまでの勉強は、そうではなかった。本を読むにしても、講義を聞くにしても、知識は押し出されてくる。つまり、「プッシュ」されてくる。
勉強するには、それらの知識を受動的に受け入れればよい。講義を受ける場合、座っていれば自動的に知識が得られる。それをノートに取るだけでよい。
これに対してChatGPTの場合には、勉強したい人がChatGPTに問いかけることによって知識を引き出す。
人間の家庭教師とは違って、ChatGPTは質問をしない限り答えてくれない。ただPCの前に座れば教えてくれる、というわけにはいかないのだ。
■多くの知識を持つ人は有用な質問ができる
ChatGPTが何でも答えてくれるのであれば、人間は勉強しなくてもよいと考える人がいるかもしれない。しかしそうではない。
なぜなら、述べたように、ChatGPTから答えを引き出すには質問をする必要があり、どのような質問をできるかは、その人がどの程度の知識を持っているかによるからだ。より多くの知識を持っている人が、ChatGPTからより多くの答えを引き出すことができ、それによって、能力をさらに高めていくことができる。
また、強い好奇心が勉強を進めることは事実だが、興味の赴(おもむ)くまま闇雲に進んでよいわけではない。方向づけを誤ってはならない。正しい方向づけを知るためにも、知識の蓄積が必要だ。
こうしたことがあるので、ChatGPTとの対話からどれだけの成果を得られるかは、人によって異なる。
もちろん、これは、従来の勉強についても当てはまることだった。ただ、ChatGPTの場合には、その差が非常に大きくなるのだ。
したがって、良い質問をするために、勉強することの必要性はこれまでより増したということができる。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院教授などを経て一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『日本が先進国から脱落する日』(プレジデント社)など多数。近著に『生成AI革命』(日経BP 日本経済新聞出版)、『ChatGPT「超」勉強法』(プレジデント社)、『日本の税は不公平』(PHP新書)、『83歳、いま何より勉強が楽しい』(サンマーク出版)などがある。
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)
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