「カンニングは卑怯者がすることだ」という叱り方はNG…子供の過ちを叱るときに使ってはいけないフレーズ
プレジデントオンライン / 2024年4月12日 18時15分
■遺書には「卑怯者と思われるのが怖くなった」
中高一貫の私立男子校「清風高校」(大阪市天王寺区)の生徒(当時17歳)が、期末試験でのカンニング後に自殺をしたのは、教師の行き過ぎた指導が原因として、今年4月、両親が約1億円の賠償を大阪地裁に提訴しました。
報道などによると、生徒は2021年12月、期末試験でのカンニングを試験監督から指摘されました。その後、教師から「カンニングは卑怯者がすることだ」と叱責され、「全科目0点」「自宅謹慎8日」「写経80巻」「反省文作成」などの処分を受けました。そして2日後、自宅近くで命を絶ったのです。
遺族は、清風高校では日ごろから「カンニングは卑怯者のすることだ」と指導しており、今回もカンニングが見つかった後に、教師が生徒に「自分は卑怯者だ」と言わせたと主張しています。
生徒の遺書には「死ぬという恐怖よりも、このまま周りから卑怯者と思われながら生きていく方が怖くなってきました」と記されていたそうです。
このような指導が法的に違法なのか、自殺との間に因果関係があるのか、といった論点は、本稿では扱いません。そうではなく、教育の手段として、こうした指導のあり方を考察したいと思います。
■「人格否定」はやってはいけない叱り方の典型
人間は必ず過ちを犯します。子どもであればなおさらです。何度も同じ過ちを繰り返さないように、子どもを叱るのは必要なことです。
ただし、その際には正しい叱り方をすることが大切です。なぜなら、間違った叱り方をすれば、子どもの心を傷つけ、余計に問題行動が増えてしまったり、無気力になってしまったりするからです。なかには、深く傷ついた結果、今回のように自殺をしてしまう子が出てきてもおかしくはありません。
そして、そうした間違った叱り方の典型の1つが、今回の指導にあったような「卑怯者」というレッテルを貼る人格否定です。
人格を否定する叱り方をすると、子どもの自己肯定感が低下するおそれがあります。その結果、「どうせ自分は卑怯者なんだ」というセルフイメージを持つようになり、そのセルフイメージに沿って「卑怯者にふさわしい行動」を選択するようになっていきます。つまり、問題行動をかえって増やすことに繋がってしまうというわけです。
同時に自分の人格を否定した親や指導者への強い不信感を抱くようになり、人格を否定する親や指導者に対して反抗するようになっていってしまいます。子どもを良い行動に導いていくうえで、人格否定は絶対にやってはいけない叱り方なのです。
人格を否定する言葉には、ほかにも「意地悪な子だ」「落ち着きがない子だ」「不注意な子だ」などさまざまあります。こうした言葉は、子供の成長を妨げてしてしまい、発揮できるはずだった能力を潰してしまう危険性があります。わかりやすい基準として、性格や能力など一朝一夕では変えられないものに焦点を当てると人格否定になりやすいということを理解しておくといいでしょう。
■「行動」に着目した叱り方をするべき
では、どういう叱り方をすれば良いのでしょうか?
それは、人格ではなく、行動に焦点を当てた言い方にすれば良いのです。
「カンニングをするやつは卑怯者だ」は人格に焦点を当てた言い方です。それに対して、「カンニングは卑怯な行いだ」は行動に焦点を当てた言い方です。この2つは似て非なるもので、言われた側の受け取り方は大きく変わります。
子どもが悪い行動をしたときにまず伝えたいのは、「どんな時でもあなたは素晴らしい子である」ということです。子どもの人格や存在そのものをまずは丸ごと肯定してあげましょう。その上で、「どんな素晴らしい人でも、悪い行動をしてしまうことはある。悪い行動は変えていかなければいけない」と、伝えましょう。人格は肯定し、悪い行動を否定する。
これが子どもを叱るうえでの基本的な態度です。
■追い込まれているから、間違いを犯してしまう
もう一歩話を進めて、より良い叱り方をするための大事なポイントについてお話しします。
それは、なぜ子どもが大人から見ると悪い事だと見える行動をしてしまったのか、その背景に目を向けることです。仮に相手が小さな子どもであったとしても、その子の行動の裏には何かしらその子なりの考えがあります。なぜそういう考えに至ったのか、それを理解して変えていかなければ本当の解決にはなりません。
叱るというのは、相手の中に行動の判断基準を育てていくことです。小さな子であれば、悪気なく悪い行動をしてしまっている場合がたくさんあります。そういう場合には、理由を説明して良い行動と悪い行動の違いを教えてあげることが必要です。
では、今回の件における男子生徒の場合はどうだったのでしょうか? 判断基準を持っていなかった、つまりカンニングが悪い事だと知らなかったのでしょうか?
そうではないはずですね。常日頃から「カンニングをするやつは卑怯者だ」と指導されてきたのですから。
この生徒は、カンニングは悪い事だと知りながらやってしまった。それはつまり「ほかに方法が無い状況に追い込まれていた」のではないか、と考えてみるべきです。大きなストレスにさらされていたのではないか。学校や家庭から「良い成績を取らなければいけない」と過剰なプレッシャーをかけられる状況に置かれていなかったか。
そうした背景について考え、悪い事だと知りながらそれをせざるを得なかった生徒の気持ちに寄り添い、他のもっと良い行動を選択できるように支援をすることが、より良い教育の在り方だったのではないかと思います。
■宿題の答えを写すことをやめられなかった生徒
実際に私の教え子のなかでも、かつて、環境に追い込まれて不正行為をした子がいました。宿題で答えを写していたのです。その子は小4の途中で私の塾に転塾してきた子でした。転塾のきっかけが、正にその不正行為だったのです。
その子は卑怯者などではありませんでした。怠け者でもありませんでした。とても素直で勤勉な子でした。なぜそんな子が宿題で答えを写したのか?
実は、それ以前に通っていた塾で宿題を提出した際に、間違いが多いと講師から怒られたそうです。その子は自力で全問正解することはできませんでした。怒られないためには、悪い事だと知りながら、答えを写すしかなかったのです。
先生に答えを写したことがバレてこっぴどく叱られ、もう二度としないと約束をさせられました。しかし、間違いが多いと怒られる状況は変わりませんでした。そして、自力で正解できるようになるための支援もありませんでした。結果として、その子は追い込まれ、再び答えを写すことをしました。
そして、またそれが先生にバレて、親御さんに連絡が行きました。状況を把握した親御さんは、「ここにいても子どもの成長は無い」と判断し、その塾をやめて私の塾に来たそうです。
■学習環境を変えれば成績は伸びていく
素直で真面目な子だったので、間違えたときにはテキストを読んだり模範解答の解説を読んだりして理解し、もう一度解き直して確認をするという勉強の手順を教えたところ、そのことをしっかりと実践してくれました。もちろん、私も生徒が問題を間違えたからといって怒ったりはしません。こうした指導方法の影響もあってか、その生徒は成績がぐんぐん伸びていきました。
悪い行動を否定するだけでは、行動を改善できない場合が多いです。さらにいえば、悪い事だと知りながらやってしまった場合には、なおさら改善できない可能性は高いです。そうした場合には、悪い行動をせざるを得なかった環境を変えたり、良い行動をするための支援をしたりすることも必要です。
そうした部分まで含めて、子どもを良い行動に導くための子育ての在り方や、指導の在り方を考えていけると良いのではないでしょうか。
一般的に言って、子どもを叱らなければいけない場面は、子育てにおいて嫌な瞬間なのではないかと思います。ですが、子どもが間違った行動をしたときの適切な対処法を理解して実践すれば、良好な親子関係を維持しながら子どもの成長を後押しすることができます。
正しいアプローチを身に付けて、叱る場面をポジティブな成長の機会に変えていくことが重要です。
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中学受験「伸学会」代表
開成中学校・高等学校、慶應義塾大学法学部法律学科卒業。10年間の塾講師歴を経て、2014年に中学受験専門塾「伸学会」を自由が丘に開校し、現在は目黒・中野を合わせて3教室に加え、オンライン指導も展開。指導理念と指導法はメルマガ(登録者約8000人)とYouTube(登録者約46000人)でも配信。著書に『小学生の勉強は習慣が9割 自分から机に向かえる子になる科学的に正しいメソッド』(SBクリエイティブ)、『「やる気」を科学的に分析してわかった 小学生の子が勉強にハマる方法』(秦一生氏との共著、実務教育出版)、『「記憶」を科学的に分析してわかった 小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』(実務教育出版)などがある。
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(中学受験「伸学会」代表 菊池 洋匡)
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